エピローグ
「こっちだよ!」
薄暗い地下の廊下で四人ほど走っていた。
「えーと、那奈ちゃんだっけ?
本当に戦闘は終わったの?」
先頭に走る那奈に後ろの方で走っていた雪菜は問いかける。
「そこは安心、今回は勇馬特殊な能力を使ったからわかりやすい」
那奈のすぐ後ろで走る小さな体躯の少女、華が那奈が答えるよりも早く答える。
「そっか…ならいいんだけど…」
雪菜はどこか納得いかない様子でも割り切って考えるのをやめた。
「雪菜、そういえばあの龍の能力を使ったのは皆帰だったのは本当なのか?」
「うん、目の前で見たから間違いは無いと思う」
雪菜と同じように後続していた火鎚は確認を取る。
「皆帰…何やってんだか…」
火鎚としてもかなり悩ましいことだった。
元々、火鎚自身は周りを意外と見る癖があった。
そんな中で皆帰については見切れていないことは分かっていた。
しかし、皆帰の性格などもあり、考えることを放棄していた。
そのツケが今回ったようでどうしようもない感覚に囚われていた。
「二人とももうそろそろで着くよ」
那奈の言葉に二人は考えることを一度やめて前を向く。
すると、四人は一つの部屋にたどり着いた。
天井は砕けて…瓦礫の山が部屋の中央には建てられている。
壁も所々砕け散り、柱も跡形もなくなっている。
天井が砕けていなければこのは潰れていただろうと予想できるほどの惨状だった。
「これは…」
「思った以上に…」
「酷い有様だな…」
那奈に続き華、そして火鎚がこの部屋の様子を見て呟く。
「事後処理をする人は大変そうね」
雪菜は呑気にそう呟いて周りを見渡す。
「ん、あれは…人?」
火鎚が一番最初に動くものを見つけて呟く。
よく見ると動いている人影であり、そしてその下には二人の人が倒れているようだ。
人影はジッと四人を見つめている。
少し静寂が訪れて少しが経つ。
雪菜が目を見開いて口を数度開閉する。
そして、雪菜が言葉を口にする。
「あれは…明日美?」
その言葉を雪菜が言った瞬間、人影は後ろ向き去る。
それを見て華と那奈が一番早く我に帰り倒れた二人の方へと駆け寄る。
残った火鎚と雪菜は未だ呆然と立っていた。
「雪菜…いま、お前…明日美って言わなかったか?」
火鎚が雪菜の方に向いて聞く。
雪菜はそれに対してそっと顔を背けるだけだった。
それを見て火鎚は我に帰ったのか倒れた二人の方へと駆け寄る。
「勇馬と皆帰か…二人とも息はあるか?」
火鎚は倒れてる二人を確認して既に容態を確認している華と那奈に尋ねた。
「はい、勇馬は大丈夫よ。
ただ、問題は出血が多そうという点かな?
血は止まってるからこれ以上悪化はなさそう」
勇馬の方を見ていた那奈が一通り確認を終えた後にそう答える。
それに対して火鎚はそっと安堵の息を漏らす。
「皆帰は危険…骨は全体的に折れてるまたはヒビが入ってる。折れ方的に体の強化無しに無理やり動かした感じで折れてる。
神経とかそのほか諸々と似た感じ…」
「皆帰の方が危ないな…」
火鎚は眉間を抑えて脳の整理を行う。
「とりあえず雪菜!
正気に戻ってくれ!
早く治さないと皆帰が手遅れになる!」
とりあえず火鎚は未だに自分の思考に没頭している雪菜に声をかけて何とか皆帰の治療に当たらせた。
雪菜も傷が酷いと見て先程まであたふたしていたのが嘘のように真剣に皆帰の傷を治していく。
「勇馬は高速再生の方で多分治ってるから大丈夫…」
華は勇馬の容態を見て火鎚に伝える。
一瞬、火鎚は訝しげな目で見たがよくよく考えて勇馬の固有能力を思い出して得心いったと言った表情で周りの警戒に当たる。
(にしても、異常に濃密だな…)
手持ち無沙汰となっている火鎚はため息を吐きながら周りの状況を見て思う。
霊格と技法が濃密に周りに充満しており、少しそちら側の心得があっても下手したら発狂するほどである。
技法はともかく霊格が非常に厄介であり、いくら肉体には影響はし難くてもその前に魂の方が砕かれるであろう。
一つでも気を緩めれば火鎚ならば正気は保っていられるがかなりきつい状態になることは確かである。
雪菜は元より自分では気付いていないが固有能力の『守護の癒し』は霊格を少し流用した能力である。
そのことに関して薄々感づいている火鎚は雪菜が平気そうにしているのに納得している。
那奈も勿論、関係者であっても陰陽師でもある以上平気なのは納得いっている。
しかし、どうしても火鎚は華が平気なのが納得がいかなかった。
むしろ、関係者で今まで霊格持ちなんていなかった筈だ。
その証拠に勇馬は一度も使ったことがない…。
そのことに対して火鎚は気がかりで仕方なかった。
それを知ってか知らずか華はジッと火鎚を見つめる。
「それは私がそれに関する原初の記憶を持つから…」
小さい声だった。
それでも確かに火鎚には聞こえた。
火鎚は目を見開いて華を見るがもう既に興味が失せたのか華も火鎚とは逆方向の警戒に当たっていた。
その時だった。
火鎚達が入ってきたのとは別の通路から人の気配を火鎚と華は感じ取って剣を顕現させる。
ゆっくりと足音が通路から響く。
それと同時に何かを引きずる音も聞こえる。
二人はより警戒を強めて通路を見る。
そして、そこから出てきたのは一人の男だった。
細身で少し目つきが悪いことを除けばかなりの好青年風の印象が捉えられる顔つきと着痩せしているのかよく分からないがパッと見では全然わからない程引き締まった肉体をしていることは確かだ。
「二人とも剣を降ろしてくれないか?
特に火鎚、俺を忘れたとかいうんじゃねえぞ」
男の言葉に火鎚は一瞬、動きを止めた。
正直、火鎚の頭の中には『こいつ、誰だっけ?』で全てが埋まっていた。
それを察したのか男はため息をついてジト目を火鎚に送る。
ちゃっかりと警戒を解いて華の方もジト目を送っていたのは地味に誰も気がつかなかった。
那奈の方は治療に必死な雪菜に少し声をかけて確認を取っている。
雪菜は少し制止をかけて治療に専念する。
そして、ある程度命の危険性から皆帰が脱した辺りで『守護の癒し』の効果を少し弱めて改めて那奈から説明を受ける。
聞き終えた後に男を見た後、ため息をついて火鎚にジト目を送る。
「火鎚…なんでこうも変なことは覚えてるくせして、重要人物は忘れるかな…私の三つ子の姉とかの記憶は私よりあるし…(まぁ、私の場合は封印されてるのだけど…)…何でこの人は覚えてないの?」
雪菜は呆れ気味でそう言うと少し男に対して礼をする。
「この人は名字は変わってるかもしれないから言えないけど…名前は疾風、主にこういった戦いの後の被害を一晩で直したり、記憶操作や映像データ改竄などを担当してくれてる人だよ…実力は滅多に出さないけど場合によっては私以上の実力を有してる人だよ…」
火鎚含めて、ついでに初対面であろう二人に対して説明する。
「ああ、いたような気がするな…」
火鎚もそういえばと言わんばかりに頷く。
それを見て周りは苦笑いを少し浮かべる。
「雪菜…説明ありがとう…後で火鎚を取っちめていいか?」
「うん、いいと思うよ」
疾風は火鎚を睨みながら雪菜にお礼を述べると雪菜からの即答があった。
それに対して多少なり火鎚は売られたことに驚愕していた。
「って、そんな場合じゃなかったな…。
この二人も治してくれ、倒れてたから引っ張ってきたんだ」
そうして、先程から引きずっていたものを雪菜に投げる。
雪菜は急なことで驚きつつも障壁でうまく受け止めて投げられた二人を確認する。
雪虎とユンの二人であった。
傷の深さからして今すぐに直す必要性が無いとわかり軽い応急処置をしてから雪菜は疾風に向く。
「ほかには無いですか?」
雪菜はまだあるのかと聞くが疾風は一回首を振って止める。
「いや、そういえばそろそろ事後処理の方を始めないといけないから全員家に戻ってくれ」
疾風がそう言うと華は勇馬と皆帰を背負い、火鎚はユンと雪虎を背負う。
「わかりました。
すぐに退きます…それで手伝いの方は?」
「そこは心配するな、俺の能力ならそれくらいできる」
そう言って雪菜の提案を断って『少し被害状況を見る』とだけ言ってどこかへ行ってしまった。
それを見送った後、四人はこっちに向かっていた他の仲間と合流して家に戻ることにした。
途中、大量の死体を避けたり那奈をこっちで泊まらせる旨を那奈の両親に伝えるなどとあったがそこはまた別の話…。
********勇馬********
そして、皆帰との戦いが終えた翌日だった。
俺はひどい熱に浮かされていた。
こればかりは技法などの枯渇状態などによる必要措置なので雪菜に治療を頼んでも無理だ。
「…そうか…俺が…倒れた…あ…と………はそんな…こと…あった…のか」
俺は話すのも精一杯の状態で俺が倒れた後の事後処理について聞いていた。
雪菜と那奈、火鎚が主にみんなから情報を纏めて教えてもらった。
唯一気がかりなのは未だに目を覚まさない皆帰と雪虎、ユンのことだろう。
仲間の裏切りや『四剣の女神』、原初について気にならないと言ったら嘘になるがそこまで気にしていない。
まず裏切りは何らかの意図があるのだろう。
まぁ、俺と敵対する意図の可能性の方が高そうだが、まぁ俺が悪い、または考え方が違ったと割り切るしか無い。
後もう二つは正直俺には分からない。
俺には原初の記憶が無い。
いや、存在はしていた…原初の頃に存在が無かったわけではない…。
原初の頃にはいない人間も少なくないというか多い…大半の人間がそんなものだ。
それは俺とは違ってしっかりとした魂の循環が行われているからだと俺は予想してる。
おっと、脇道に逸れていた。
俺には原初の記憶が無い…でも、存在していたという記憶ならある。
それの裏付けとして仲間の大半が俺の原初の頃の関わりが関係してるらしい。
とは言っても記憶が無い以上、情報が制限されていて正直、その話題を持ち出されてもどうすることもできない。
やばい…頭がぼうっとしてきた。
「悪い……寝る……」
俺は雪菜達を見てそう言うと意識が離れていく。
最後見えた中で声は聞こえなかったが三人ともおやすみと言っていたような気がする。
****************
ある場所にて一人の男が立っていた。
「シャルロット、お前の考えていることは間違いじゃ無い…お前の好きなようにしろ」
男は目の前にいるシャルロットに対してそう言う。
それに対してシャルロットは頷く。
「どうした?
なんか悩みでもあるのか?」
男はシャルロットは少し悩んでいる表情を読み取れたのか、不思議そうに尋ねる。
シャルロットは一瞬戸惑うが、今更と言う感じでため息を吐いて口を開く。
「今回、仲間としてきた奴は信用できるんですか?
陰陽師達などは分かります…でも、九人は信用できません」
シャルロットは明らかに不満気にそう言うと男は首を振る。
「大丈夫だ…あいつら信用できる」
そう言ってシャルロットを言いくるめる。
それでも納得いかなそうだがシャルロットは渋々と引いて一礼してからその場を去った。
シャルロットの背中が見えなくなるまで男は見送ってから溜息をつく。
「相変わらずお前のやり方は好きになれないな…」
その瞬間、男の後ろから声が聞こえた。
男は慌てずゆっくりと振り返る。
「なんだ、明日美か…何の用だ?」
「用というほどでも無いよ…ただ、わざとあれだけの裏切る前提を仲間にさせといて何が安心だ?」
明日美は呆れながらも男にそう言うと男はバツの悪そうに目をそらす。
「これしか無いんだよ…誰でもいいからあいつを救える力を持ってもらいたいんだよ…最悪…あいつを殺す力でもいい」
「それは償いか?それともただ自己満か?」
「自己満だ…ただ、前世いや、もっと昔とはいえあいつの弟だったあいつには関わって欲しくは無いとは思うが…これしか思いつかないんだ…」
明日美はそれを見て何も言わなかった。
そして、そのまま明日美が去ろうとした時だった。
「なぁ、明日美…」
明日美は立ち止まり振り返らずに耳を傾けていた。
「俺とあいつはどこから間違えたんだろう…」
「さぁな…でも罪の意識があるのはお前だけでは無い…」
そう言って明日美は去っていく。
そして、残った男は一人涙を流していた…。
それは何に対してかは本人でも知るところでは無かった。
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