暴走2
目の前に歩いているのは味方であるはず…しかし、俺はそれをみて味方だと思っていなかった。
「どうしちまったんだよ…皆帰」
明らかに正気を失った目と魔獣を倒してなお荒ぶる剣…。
そして、一瞬でこの場に舞い降りた機動力。
全てが皆帰と一致しない。
よく見ると眼は色が変わりほんの少しカラフルに見える。
「皆帰…お前は俺の敵か?」
答えは返ってこない。
しかし、答えとは言えないが言葉は聞こえた。
「約束を守る力を…」
瞬間、皆帰からとんでもない力が発せられる。
それを見て後ろの方で様子を伺っていた那奈は動き出そうとする。
「やめろ!」
俺は那奈に制止をかける。
「でも…」
那奈が何か言おうとするが俺は首を振る。
今の俺達じゃ犬死だ。
最初は皆帰の本来の目的がこれだと思ったのだが明らかに暴走している。
俺は身体を動かそうとするが力が入らない。
限界まで身体と能力を使った代償は思った以上に大きそうだ。
瞬間、炎の龍が飛んでくる。
俺は咄嗟に剣を前に構えていなすがその余波で俺は倒れてしまう。
「いてて…こりゃあ本当に正気を失ってるな…。
那奈はとりあえずこの場から離れろ」
「え?」
俺は集中する。
まさかこの場面で使うとは思っていなかったがやるしかない。
「『限界突破』少し寿命が削れるけど余裕はありそうだ!」
そう、俺は自らの寿命を削り戦う力を絞り出しているのだ。
しかし、戦えるだけの力は得ても能力は使うことができない。
故に防戦を強いられるのも当然のことだった。
攻撃一つ一つが重く硬い…砕くことはできなく、狙いを逸らすので精一杯だ。
俺は前に進もうと足を出す。
やはり、ここで防御に難が出て傷がいくつも出来る。
それでもまだ、かすり傷や擦り傷の類で済んでいるのは行幸だったと言えるだろう。
「皆帰!目を覚ましやがれ!」
俺はもう一歩…。
ドクンッ
瞬間、俺の動きは止まる。
しかし、それを見逃してくれるはずも無く俺に龍が飛んでくる。
真正面からなんとか受けて極力ダメージを少ない状態で俺は壁まで吹き飛ばされる。
いや、今はそのダメージよりもっと酷いものがあった。
「ガハッゴホッゴホッ」
俺は溜め込んだ血を吐き出す。
『限界突破』それは強力な固有能力と言えるだろう…。
しかし、これは己の身を滅ぼす諸刃の刃でもあった。
おそらく『限界突破』の実態を知れば大抵の人はこう言うだろう。
『禁忌の力であると』
「ハハハ…」
俺は自嘲気味な笑みを漏らす。
そんな禁忌の力を使っておいて勝てない自分の不甲斐なさに…。
禁忌の力であることを隠し続けている己の愚かさに…。
「それでも…諦めきれない」
俺は立ち上がる何度でも…。
俺は力が欲しかった。
もう誰も失わないために。
俺は力が欲しかった。
何者も救えない自分が嫌だから。
俺は力が欲しかった。
俺とは違い真の優しさを持つ人の為に…。
俺は力が欲しかった…
…
……
………
「あんな酷い結末はもう嫌だ!」
わがままだ、自分勝手だ、幼稚だと分かってる。
俺は言葉を知らない、人を知らない、正義を知らない、優しさを知らない、救いを知らない、自分を知らない…
………
(それでも…)
龍が荒ぶり、何体も俺に突撃してくる。
もう、指一本動かす力が無い。
俺は脳裏によぎることのある酷い結末を思い出していた。
不完全な記憶…
これでは思い出したというより、本当に過ぎった程度だ。
(それでも信じてくれた、助けてくれた、笑ってくれた、泣いてくれたあいつらを裏切りたくない)
瞬間力があふれてくる。
何故だろう立てる気がする。
キィィィン
音が聞こえる。
鳴り響いているのは宙に舞っている四本の剣だった。
そして、無数の龍が迫ってきていた。
轟音が鳴り響く。
***************
寺十院 那奈は走り続けた。
自分が足手まといだと分かっていた。
できることなど何もないことを知っていた。
それでも、勇馬を置いて行ったことだけは後悔している。
那奈は無理にでもいればよかったと考えるが、それでも逃げたことは正解ともいえよう。
結果的に見れば勇馬を見殺しにしたが、被害は今のところ一で済んでいる。
(何か…何かできることは…)
焦りが隠せない中で那奈は聞いた。
「これは…」
霊王が共鳴しているのだ。
「わかった、お願い…これしかできないから」
那奈は何かに願い立ち止まる。
その瞬間、天井が崩れる。
「え?」
****************
森の中、二つの影が駆け抜ける。
華と火鎚は真っ直ぐと勇馬のいると思われる場所に向かっていた。
「火鎚…ここで合ってるの?」
「って、いきなり呼び捨てかよ。
まぁ、いいかこっちで合ってるはずだ。
ん、どうした?」
華が突然立ち止まるのを見て火鎚も止まり問いかける。
それを無視して華は忙しなく何かを探すかのように周りを見渡す。
そして、すぐに自分の剣に目を落とす。
「少し備えて」
華はそう言うと共に剣を地面に払う。
ズドンッ
と大きな音を立てて地面が崩れ落ちる。
「って、ちょっ待てなんだ!」
火鎚は慌てて跳ぼうとするが足場がしっかりとしてなく、落ちていく。
「大丈夫、下は意外と浅い」
すぐに底が見えて二人は地面に降りる。
火鎚はひたすら慌ていたためか腰の辺りから地面に思いっきり打ち付ける。
「いてて、いきなり…」
火鎚は華に文句を言い付けようとしたところで言葉を失う。
「ここは…」
火鎚は周りを見ると見知った顔を見つけた。
「って火鎚さん?」
「お前は寺十院!」
そう、そこには那奈がいた。
そこでやっと火鎚は華の行動などに納得する。
要するに華はここに空間があることと那奈がいることに気付いていたのだろう。
故に地面を砕いて那奈のいる場所に直通で来た。
大方、そう言うことだろう。
「あれ、華も何でここに?」
「ついさっき、日本に着いた那奈も元気そう」
華と那奈が仲よさそうに話していることに火鎚は少し戸惑っていた。
「えっと、二人は知り合いなのか?」
「はい、前世で…」
「那奈、今はそれどころじゃない…。
火鎚、周りの警戒をよろしく」
「そうだね、後でした方がよさそう…。
とりあえず、華はもう行ってる?」
二人はコクリと頷いて剣に霊格と技法を込める。
一人置いてきぼりを食らった火鎚は頭を掻いてため息を吐く。
「とりあえず、警戒すればいいいいんだろう?」
「よろしく」
華の返事により深く火鎚はため息を吐くと剣を顕現して警戒をし始める。
*************
「あれ?」
幸凱 千那はニヤリと笑う。
「タツミさん、いいことがあったよ」
「あぁ?ってこれは…」
タツミは千那を見て目を見開く。
「千那、どうかしたのかな?」
近くにいた刃月と戦っていた黒髪の少女は呆れたように聞く。
「またまた〜、椿も供給してるじゃん」
「君には関係ないことだろう?」
「それは…どうかな?」
千那と黒髪の少女、椿はため息を吐く。
「それより、これは何だ?」
タツミは二人の会話なんて気にせず自分の興味のある目の前のことに集中していた。
「ふふ、どうやら俊王に組み込まれた補助機能が働いたみたいだね。
どう?タツミさんがこの世で唯一、再現も解析も何もかも出来なかった剣の能力の一端を見るのは?」
「でも…これじゃ…」
「残念ながらそれが能力ではない。
俊王の能力はもっと別だ。
正確にはこれは周りにある剣などの能力の一部だよ」
「まさか…」
千那と椿の言葉にタツミは目を見開く。
「まさか、俊王はまだ能力の片鱗すら見せていないと言うのか?」
「そこは僕達には分からないよ」
千那はふふと笑うと自分の剣を眺める。
「さてさてと…こんなところで死んでもらっては困るんだよねぇ〜、せめて僕ともう一度切り結んでもらわないと…」
千那はうっとりした表情で思い馳せていた。
「この二人は本当に欲が強いものだ。
さて、これでどう動くかな、勇馬は…」
椿は誰よりもこの先を見据えてそう言っていた。
******勇馬*******
轟音が俺の耳に残る。
龍が舞い何度も俺のいるところに突っ込んでくる。
そして、それは止んだ。
そんな中、俺は立っていた。
再び、龍が飛んでくる。
「なんか分からないが、力が溢れてくるな…」
そう、先程までの攻撃は全て避け切っていたのだ。
今の皆帰と俺の差はかなりあり、この状態だと暴走をして、正気を失った皆帰には勝てない。
だから…再び俺は全力で戦う。
「『限界突破』」
技法能力に余裕がある、霊格にも余裕がある今、禁忌とはなり得ないこの能力で決着をつける。
俺は踏み込む。
そして、宙に舞っている四本の剣のうちの一本を俊王を持っていない左手で握る。
握った瞬間に今まで分からなかったこの剣の名前がわかる。
『懐王』
俺は左手の剣を振るう。
迫り来る龍を砕いていく。
俺は走り、皆帰に迫る。
防衛のためか無限の剣線と龍が皆帰の周りを駆け巡る。
地上から向かうすべは無さそうだ。
その分、空中なら穴がある訳でもないがマシである。
俺は跳ぶ。
空中でくる剣線や龍による攻撃を二本の剣で防ぎ、いなし、砕きつつ迫る。
しかし、左手に握られている『懐王』が砕かれる。
残り三十メートル
すぐさま、残った3本の剣のうち一つを手に取る。
これは『翼王』
左手の『翼王』を何もない場所に振るう。
そして、その場所を剣線や龍が通った瞬間、弾き返されていく。
あと、二十メートル…そして、『翼王』が砕かれる。
そして、また次の剣を握る。
これは『心王』
一振り一振りで龍を斬る。
スッパリと斬れていく龍や剣線に驚きながらも俺は突き進む。
しかし、また砕かれる。
残り十メートル
「次!」
そして、最後の一本…『霊王』を握る。
しかし、俺はその瞬間に連接剣に捉えられる。
ガリガリガリガリ!
と『霊王』を削っていき、砕かれる。
「まだ最後に!」
俊王を振るい、連接剣の猛威から逃れる。
残り九メートル
無限の剣線を防いで距離を縮めていく。
残り八メートル
龍も混じり始めて俺は全力で切り裂くが龍の方が硬く、逸らすことしかできない。
残り七メートル
左腕を持っていかれる。
それでも吹き飛ばされずに耐えてより距離を縮めていく。
残り六メートル
俊王が砕かれる。
が、俺は構わずにすぐに残骸を消す。
そして、残り五メートル
そこで着地をして全力で走る。
足に大量の傷が出来るが気にしている場合ではない。
残り四メートル
体中に傷が増えて深くなっていく。
残り三メートル
俺は地面を全力で蹴る。
それが終えた瞬間に両足を切り落とされたが気にしてる場合じゃない。
残り二メートル
俺は腕を振りかぶる。
もう、傷だらけで痛みとか麻痺し始めている。
残り一メートル
拳をゆっくりと前に突き出していく。
腕に大量の傷ができていくのが見えている。
残り…ゼロ!
「目を覚ましやがれ!」
思いっきり皆帰の顔に拳がめり込む。
その瞬間、今までの集中を解き放って体の再生を行う。
皆帰は殴られて飛んでいく。
「はぁはぁ、まだ足りないか…」
これでも皆帰にはそこまでのショックは無く暴走は止まらないまま立ち上がっていた。
俺は再び俊王を取り出して走り出す。
先程までの甘さなどない。
皆帰からくる攻撃は巨大な龍を模したエネルギー波…。
全ての属性が入り混じったブレスが飛んでくる。
俺は真正面から向かう。
策がないとかじゃない。
策なんて作りようがない。
回避不可、逃走不可、なら真正面から叩き潰す以外手段は無い。
力が足りないなら、力を絞り出せ。
相手が強いなら俺は相手より強くなれ。
そう願い俺は剣を振りかぶり再び飛ぶ。
その瞬間、俺は死にそうなほどの痛みが駆け巡る。
肌は焼かれ、顔を凍りつき、足は砕かれていく。
「まだ…」
腕は歪み、内臓は潰れていく。
それでも俺は剣を手から離さない。
瞬間、俺の中で何かが弾けるように湧き出す。
ブレスが弱まったように感じる。
そして、俺はより大きなエネルギーが満ち溢れる。
そきて、俺はブレスを切断して皆帰に向かって剣を振るう。
「皆帰!ちょっとは手加減しやがれ!」
霊格による攻撃を皆帰にぶつける。
一瞬の沈黙が支配する。
そして、皆帰が纏っていた強力なエネルギーが砕け散る。
「勇馬…すまないどうやら正気を…」
皆帰俺の方を一瞬向いて倒れた。
「たく…苦労させやがってよ…」
それと共に俺は全エネルギーを使いきり倒れ込む。
成功…したか…。
賭けだった。
魂を砕いて皆帰を殺さなくて済んだようだ…。
俺はゆっくりと意識を手放していった。
この小説を読んでいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたなら幸いです。
よろしかったら、ブクマと評価感想の方をよろしくお願いします!




