霊格と寺等院 奈那の秘密
「勇馬、どうしたの?」
家に帰ってぼけっとしていた俺に紗雪が質問してくる。
皆帰などの他の奴らに関して言えば、なんかあったのか?という表情のまま自分のことに勤しんでいる。
「いや、ちょっと自分の勘違いが嫌になって…」
紗雪はそれだけで分かったのか溜息をつく。
「勇馬、率直に言うと今のままだと邪魔だから外に出たら?」
紗雪は俺の手を引っ張り返事を聞かぬまま外に放り出す。
ガチャ
鍵まで掛けたご様子である。
紗雪は変なところで頑固で今の状態が直るまで入れてくれないだろう。
「全く…」
俺は仕方なく歩き始める。
この町には未練はもう無く行く場所なんて無い。
ふと、ある場所が思い浮かぶ。
俺はやれやれと思い方向を変えてそちらに向かう。
************
「ここは変わっていないな。」
俺は小学校の前に立っていた。
もう時間は遅く、先生以外の気配は全く無い。
正直言ってしまえばくる予定なんて無かった。
しかし、こうして足を運んだのは理由がある。
寺等院 奈那について思い出せると思ったからだ。
実際、俺のことを覚えているのはごく少数であり、なんらかの特殊な関係がない限り覚えている人はいない。
なのに、彼女は覚えていた。
それは何らかの印象に残る関係であった証拠である。
だから、ここに来れば分かると思ったのだが流石に思い出すことは無いようだった。
「全く、何か無いものか?」
不意に歩道を歩いている少女が目に入る。
背が小さく、小学生くらいの少女に何故か俺は忌避感を覚えた。
それは正しく、本能的な思考だった。
直後、俺は少女から距離をとる。
「そんなに警戒をしなくてもいいよ。
まぁ、と言っても無理があるか…。」
そう、この少女は二年前のあの時、俺の記憶を思い出すきっかけとなった少女だ。
あの時から成長しておらず、完璧に小学生って言っても突き通せるくらいだった。
「何の用だ。」
流石にこんな町中で得物を取り出すのは犯罪なので、剣は取り出さないが反撃の準備だけはしておいている。
別に格闘術が使えないから剣を使っている訳で無い。
「まぁ、今回はお話をね。
シャルロット様曰く、あなたは利用価値があるそうだから。
ただの勧誘だね」
俺は少女の言葉に耳を傾ける。
その言葉に嘘はない。
少女は堂々とした姿で立ち、俺を見る。
「断る」
「分かってる。
けどね、貴方達のような生き方をしてる限り自然と来ると思うよ。
同じ土俵に…。
貴方達も世界を憎む。
それはどんな経緯があれ、この場所にいる限り…。」
意味不明な言葉を残して彼女は去って行く。
本当に交戦する気は無いようだ。
「世界を…憎むか…」
あいつは何を言っているのだろう?
俺はもう既に世界を憎んでいる。
何処かでそう思っている。
しかし、心の奥の奥の奥の話でその感情が決して表に出ることは無い。
そして、俺の場合世界を憎んだ理由が自分でも分からない。
どこかずっと昔に憎んだような気がするが、思い当たらない。
記憶が無いからだけでは無く、本当に思い当たらないのだ。
しかし、あいつの言いたいことは分かった。
「不死者としての苦しみか…」
それは簡単なことで、少女達は死ねないわけでも無い筈だ。
しかし、自分の本能が死ぬことを拒む。
そして、自分の能力故に自分に頼らない死に方は出来ない。
知り合いに頼むことも出来ない。
それが彼ら不死者なのかもしれない。
そう考えると俺は本当の意味で不死者と呼べるのかもしれない。
死んでも転生し続けるこの魂は…。
唯一の救いは契約者を巻き込むことが出来るから寂しくない点だな。
しかし、彼らは時間が流れると共に死んで行く人を見てきた。
そして、別れを続けてきた。
それは俺の転生じゃ味わうことの出来ない辛さでもある。
「故に世界を憎むか…」
俺はそう呟き、ある場所に行きたくなった。
************
俺が足を運んだ先には古ぼけた神社が建っていた。
俺としては神なんて信じていないが、俺やシャルロット達がどうしてこんな生まれ方をしたのか知りたかったのだ。
まぁ、敵に対してこんなことを思うのはどうかと思うが…。
俺は賽銭を投げ入れお参りする。
俺はお参りを終えると、ふと桜の木を見る。
「ここ、まだあったんだな。
うん?」
俺は懐かしそうに呟くと人影が目に入る。
寺等院 奈那がいた。
巫女服のようなそうじゃないような服装で桜の木の下で立っている光景は絵になる。
ふと、彼女と目が合う。
俺は軽く手を上げて挨拶する。
しかし、それは相手に届かなかった。
彼女の目の前に角が生えた生物が現れたのだ。
人型で大きさも人の平均身長くらいだ。
ー鬼ー
直後、俺は記憶を刺激される。
時折起きることで理解できないことが起きパニクった時に自分の知る限りの情報を引き出す状態だ。
要するに俺はあの摩訶不思議存在と関わったことがあるということだ。
まぁ、俺達の存在自体が摩訶不思議存在ではあるのだが…。
鬼は正式名称は霊鬼と呼び、人の死霊の妄念などが起点となり、霊格を得たものまたは霊格を覚醒させたものである。
本能の赴くままに生命体を襲い、世界の敵として君臨しているといっても過言ではない。
俺は軽く霊鬼について思い出す。
しかし、こんなことどこで知ったんだと気になるが今はそれどころじゃない。
俺は全力で走り出す。
霊鬼は奈那に向かって武器を振り回す。
奈那に関しては予想外のことが起きて慌てていた。
俺は慌てている奈那を突き飛ばして、霊鬼の攻撃を避ける。
「大丈夫か?」
「北条君、すいません。
取り乱しました。
それで、北条君はあれが見えるのですか?」
俺は頷く。
彼女は諦めたような溜息を吐いて立ち上がる。
「少しだけ時間を稼げますか?
一撃で決めます。」
その瞬間、彼女からエネルギーが練られる。
俺は霊鬼に石を投げつけて避けながら、それを見て不思議に思う。
技法じゃないのだ。
全く違う法則の力がそこにはある。
彼女に俺は違和感を覚える。
よくよく見ると技法回路が綺麗に整われており、到底素人には見えない。
しかし、彼女が使っているのは全く別の法則の力である。
やはり、違和感しか無い。
「離れてください!」
彼女がそう言うと共に俺はバックステップを行い、霊鬼から距離をとる。
その瞬間、エネルギーの塊が霊鬼を飲み込む。
肉体を持たない霊鬼は謂わばエネルギー体である。
自分より大きなエネルギーに当てられれば飲み込まれるのは自然であり、霊鬼は消え失せる。
「ハァハァ、北条君ありがとう。」
「あぁ、いいけど今のは?」
その質問をすると、奈那の顔がピシリと止まる。
俺は自然と彼女を心の中で自然と名前で呼んでいたのを今気が付いた。
あまりに自然に思ってしまったからこそやはり思う。
彼女本当に何の関わりが無かったのか?
俺は再び、答えの出ない自問自答をしていた。
「あの…言っても笑わないと約束して下さい。」
奈那はおずおずとそう切り出す。
「そもそも、あんなもの見た後だとある程度の突拍子も無いことが来ても大丈夫だよ。」
「それもそうですね。」
奈那はそう言うと意を決したかのように深呼吸を始める。
「実は私の家系は陰陽師なんです。
それと同時に今では少ない力を有する巫女なんです。」
この話、何処かで…。
俺は悩む。
「先程の怪物は霊鬼と言い、人の魂からなる化け物です。」
俺が聞いてもいないのに彼女は勝手に話し出す。
俺としては知識が間違っていないのか確認できるので助かる。
「それも最近はあることにより最近はいなかったので油断しました。」
「あることとは?」
「はい、私達陰陽師が使う力を霊格というのですが、霊鬼はその霊格を取り込む、または覚醒させることによってなるものです。
人魂は鬼に狐は妖狐にみたいに所謂妖怪になるのです。
その際の原因として外に充満した霊格が主たる原因です。
その霊格を私のお祖母様が神器と呼ばれる扱えるものはいないとされる武器『桜霊樹の弓』に外の霊格を吸収させたので、あの神器に働かせている力かあれそのものを破壊しない限り二度と妖怪は出ないはずなのですが…」
「なるほど、たしかに原理上は可能だけど無尽蔵に吸収って、できるものなのか?」
俺が聞くと奈那は首を振る。
「いいえ、できません。
ですので、私達は人工的に妖怪を作り発散させています。
しかし、私達の実力では一月の周期でやっています。
もし、これ以上溜めると問題が起きた時に対処ができなくなります。
実際、神器だけでも千年は持ちこたえるそうなので、私達に実力があれば千年の周期で発散させるので充分なんですよね。」
なるほど、リスク回避もしっかりと行われているわけか。
だからこそ、今回の霊鬼が生まれたのが異常で対処できなかったのか…。
「因みにそれは何年前から?」
「大体、百年前には出来たそうです。
お祖母様は霊格の力で寿命が長いですから、その時の状況まで分かりますよ。」
「そうか、ならお前は今回の意外に戦ったことがあるのか?」
「あまり無かったと思います。
発散の時に弱い霊鬼などを数回相手した程度です。
こう見えても才能があるらしくてお祖母様に直接指導も貰いました。」
なるほど、奈那が弱い訳では無いようだ。
しかし、才能があるか…。
「なぁ、それって霊格っていう名前の力なんだよな?」
俺はこの力についておそらく知っている。
先程の奈那の戦い方を見て思った。
それに、怪しいのはお祖母様、もしくは才能に嫉妬した他の陰陽師が筆頭かな?
後は本当の異常くらいか…。
「はい、そうですけど。
どうしたんですか?」
「いや、俺にも使えるのかなって?
それにここまで知った以上、少し調べたくならないか?」
奈那はキョトンとする。
しかし、すぐに笑う。
「昔から変わりませんね。
勇君は…。
大丈夫です。
少し修行すれば誰でも使える力ですよ。」
「それは良かった。
それで、昔からって、いつからだ?」
すぐに使えるのは本当に良かったが、昔からって何だ?
「忘れたんですか?
昔はよく遊んだじゃ無いですか。
あなたがいじめられているところを庇った恩まで忘れたとは言わせませんよ。」
その一言で俺は思い出す。
あぁ、奈那はあの時、唯一の俺の味方だった人なんだ…。
それは忘れてちゃいけないな。
そういえば、その頃の俺はこいつを奈那と呼んでいた。
そう考えると、通りでしっくりきた訳だ。
俺は全ての問題がスッキリ解消されて、また会う約束をして今日は別れた。
俺はすっかり暗くなった道で呟く。
「何だか、馬鹿みたいだな。
ある意味では勘違いでは無かったとは…」
俺がそこまで関わる人なんてそんなにいなかったから、勘違いしただけでも恥ずかしいが、さっきより幾分かマシになった。
何とか更新が出来た。
違和感などは無いでしょうか?
ありましたら話の大筋は変えずに何とかします。
出来なかったらマシになる程度になると思います。
ご勘弁を…。
にしても、共同戦線?みたいなものを張りました。
ある意味『陰陽師編』的な感じで括りたい自分がいたりいなかったり…。
読んで頂きありがとうございます。
面白いと思って頂けなら幸いです。




