平穏の日常は今や幻想の中
エタなった作品を絶賛書き直し中のリハビリで書いたものです
お目汚しかもしれませんがよろしければご覧ください
※これはフィクションです
突然のこと悪いが物語とは簡潔かつ明確に言うのなら非日常だ
所謂日常物だとしても何かしら飛び抜けているものがあったりしているものだ
例えば廃部寸前の部活に強制入部させられたと思ったら何かしらの因果でそのスポーツに打ち込んだり、転校初日でトラブルが起きた挙句には出会い頭にライバルになるなんてこともエトセトラエトセトラ……
最初に起があって承が続いたら転んじることがあり結ぶ、実によくあることだ
人は皆劇的を望む、なぜなら心が揺れ動くからだ
とは言え、だ
いくら劇的を望んでいるからと言って当事者に成りたいなんて一言も言っていない
傍観者……この際世俗的に言うならば野次馬が一番ちょうどいいということだ
飽くまで関与はしないただしもっと内情的なものまで深く知りたい
なんとも下賤なこと、大いに結構 俺もそうだ
とどのつまりだ、物語至上主義者な俺でも朝心地よく目から覚めて支度をし穏やかに朝食を摂ることを至福としているのは何ら疑念もない
珍しく朝早くに予期せぬ来客が来る、是非問わず認めよう実に日常だ
しかしそれでもいきなり「魔術師協会に投降してください!」などと感嘆符をこれでもかと言わんぐらいの大声で叫ぶのは頂けない
場所が場所なら近所のおばさんらが奇異とした目で雑談の種を耳傍立てるところだ
「あらやだねぇ~」「こんな朝早くからぁ~」
そんな言葉が即座に頭によぎる
挙句人の部屋にずかずか土足で入り物色を始める、不愉快だ
このアマは誰だ?いきなり何をしている!?
せめて部屋ぐらいは片付けさせてくれ、徹夜で散らかっているんだ
その書類に触れないでくれ色々と危ないから
一先ずだ、そう一旦先にだ
「靴脱げや! 郷に従ってから出直せ!」
ビッチ、マザー何たら、クソアマその他諸々到底ピー音で片付けられる罵声を浴びせながら家から追い出す
暴れようが「条約違反だー!」と叫ぼうが関係ない
相手に好印象を与える、そんなマナーでありモラルを欠いてる状態で歩み寄りは出来ない
そもそもとしてそれすら無いのは置いとくとしよう
別にジーザス・クライストみたいなとびきりの聖人ではないとしてもだ
一般的に言う良識のあるだろう俺は一旦追い出し扉を締め鍵を締めてから登場をやり直させるぐらいの優しさは持ち合わせている
「鍵を閉めるな!」
「登場からやり直せ!靴を玄関で脱いでから入れ西洋人!」
十分くらいして落ち着いたのだろうか、それはもう満点と言いたくなるようなノック音の後に俺はようやく鍵を開け来客を出迎えた
今度は部屋もしっかり片付けてお客さんを出迎える支度をするのも、良識ある、大人の、努めだからだ
開けた先にはブロンドヘアの一見知的に見える、手を真っ赤にして引きつり笑顔な、綺麗な女性が居た
「これはこれは、どちら様で?」
「私は魔術師協会の者です」
「それはそれは協会の使い走りさんは何のご用件で」
「 はい、この度魔術師協会は貴方東上雅治に対してパリ本部へのご召喚をお伝えに来た次第です」
扉壊さなくてよかったな、警察に放り出してやろうか考えているところだからな
「では本部へこうお伝えてください”礼儀弁えてからおととい来やがれ”と」
「あはは、そう言われましてもこちらも仕事ですので」
「さよですか、帰れ」
言い終えぬ内に扉を締める、厄介事は大嫌いだ
しかしガチャンという小気味良い音はせず扉の隙間には真っ赤に腫れている両手が無理やりこじ開けようとしていた
「靴脱ぐから入れろ!」
「帰れつってんだろ! 近所迷惑だから失せろ!」
「入れてください!こちとらポカしたら首チョンパなんですって!?」
この後数十分にもわたる高度な弁論の末
俺が良識のある善良な一市民であることを考慮し入れることにした
特筆するほどのことでもないが英仏日露の言葉が入り乱れた近年まれに見る弁論であった
更にもう一つ付け加えるのなら、彼女は靴を脱ぐ郷に従う良き女性であった
ローマの血を引いているのだろう
「ごちゃごちゃとした部屋ですね」
「昨晩は忙しくてねブラウニーの手も借りたいほどでしたよ」
「そうですか、ところで魔術師協会のことですが」
「先程も言ったが断る、こっちもこっちで忙しい」
無論お客様にお茶を出すのは当然のマナーだ
つい先程淹れたての珈琲を一杯、なんとも素晴らしい
休日の朝はこれを飲んで始まるというもの
そんな至極の一杯を来客のために出す何と贅沢なことか
「うげ、珈琲ですか 紅茶はないんですか?」
「ご生憎お客さんにお出しするような茶葉は持ち合わせていませんので」
「貴方が持っているそれは紅茶でしょ!? しかも香りからしていい茶葉の」
実にお目が高い方だ、これは下の階に住むご婦人がお裾分けということで貰ったものだ
香りもよく味も豊かなブレンド、これもまた中々……
だがしかしだ、彼女が今片手に持つ珈琲もまた良し
お隣さんの喫茶店を開いているマスターから貰ったものだ
どちらも甲乙つけがたい良い一品だ
「いえいえ、これは粗茶ですのでお客様に出すようなものではないんですよ」
どうやら納得いかなかったようで渋々口にし、間髪入れずに頬が緩みガブガブと飲み干していく
いい飲みっぷりだが些か品が、おっとこれ以上は野暮というもの
はてさておもてなしが済んだ所で本題に移るか
「まず貴方の字を教えてもらってもいいですか?」
「エルザです、もう一杯貰っても?」
「気に入っていただけて結構、マスターにはあとでお礼をしなければ それと流石に図々しい弁えろ」
「アハハハ……」
「コホン、ではエルザさん 本当の目的はなんだ?」
大前提として伝えておくべき事柄がある
俺こと字 東上雅治は協会連中と中立的な非協力体制をとっている
仲は決して良いとはいえず片方は組織であるが故もう片方が個人であるが故に手出しがほぼ出来ないでいる Don't be able toだ
理由はこの際置いとくとしてそんな関係でいきなり投降しろとどストレートに敵対するとは考えにくい
更に言うとだこんなパシリなんか使うまでもなく強制召喚すればいい話だしな
つか俺は魔術師じゃないし
「作業ながら失礼する、ここに来たということは俺が呪術師と知っているということでいいんだな?」
「口にしてない紅茶貰っていいんですね!?」
「……構わないが知っているという回答で解釈するぞ?」
「え、ええ よく聞き及んでいますよ」
「ならいいが、その上で再度聞くがもう一度聞くが目的は?」
「これも美味しいですね!」
「簀巻にしてドラゴンの口に放り込むぞ」
「冗談です、いえ本当に美味しいですが 本当の要件は間層の賢者についてです、相当数の流れ者たちも喚ばれていますので是非貴方にもと」
ええと、この術式構成にするなら必要なコピー用紙は600前後か
結構消費するな買い出しに行かないと
消費と言えば隠蔽の魔法陣も摩耗してきているなこの一回が限度か
「ああ彼ね、弟子を取ったそうじゃないか だが干渉しないと宣言していなかったか?」
「それとは別件です 彼がまた何か研究しているそうです」
「ハーブにスパイスーっとこんなもんか 研究って協会連中も同じことしているじゃないか」
「彼が為したことは耳にしているでしょう!今度も……」
「1ペンス硬貨ある? ちょうど切らしてしまったんだ」
顰め面ながらも財布から取り出してくれたまあ基本的には良い娘じゃないか
「今度も大きなことをしでかすに違いないという見解です」
「そりゃしでかすだろう、それが追求するものたちにとっての夢じゃないのかい?」
「ものには限度があります、これ以上の発見は害にしかならない」
「そうシフト爺が言ったのかい? これはこんなもんでいいか」
「なんでそれを!? 一言も口にしていないのに」
後は神社から交換した御札としめ縄の切れ端を周囲において
中心にちょっとした祝詞を書き加えれば完成っと
「詳しい話は後、薬も直に効いてくるからここに立って」
「くす……!?貴方まさか」
「さっさと中心点に乗れ効果が切れちまう」
良識ある身としては無理やり押して移動するのは些か引けるのだがまあ気にしないでおこう
例外はいかなる時でもある、そういうものだ 間層の賢者もそう言ってたのだから間違いない
どうやら間に合ったらしく、呪文が発動し淡い光の玉が魔法陣の縁においた色んなものから出てきて彼女を包む
「えーと、応え給え応え給え我呪い書くもの、移ろいゆくもの褪せゆくものの導に従い彼の者を癒やし給え、クロッカスの導きの下妖精の祝福を」
俺は呪術師だ、特に文字によるもののほうが得意だ
詠唱も苦手というわけではないが時折大惨事を起こすから特に慎重に行う
今回は特に慎重に行ったおかげで運命の女神が笑わなくてすんだ
光の玉はやがて身体の中に入り込み消えていった
その数秒後にピシリという音と共に部屋一面に描いた魔法陣も砕け散る
想定されている回数よりも少なかったがもう少し改良すればもっと保つな
後でお向かいさんのお屋敷の坊っちゃんと相談するか
「これで粗方怪我も治ったし、下手に妖怪に手を出したせいで受けた呪いも解けた、腰痛眼精疲労もなくなってるだろうストレス性のものは流石に付与できなかったがまあお代としては十分だろう」
「え? あ、何を!?」
「俺は呪術師だ、古今東西ありとあらゆる呪いを合わせるぐらいなら出来るさ」
「なんて罰当たりな!? じゃなくてどうして!?」
「扉に書いてあった文章は読んだだろう?」
「ラテン語でしたけど一応?」
「それで部屋に入った後紙漁って色々と書き殴っただろう」
「え、ええ? あれ?」
「それに書いてあることは読んだだけだ」
扉にはごく一般的な人には見えずこういった幻想に片足突っ込んだ人に見える塗料を塗ることで認識したものだけに効果が現れる
こうでもしないと色々と大惨事が起きるしサバトでも協会でもあちこちから仰々しい文書が送られるからもう片方のお隣さんの吸血好きな紳士からいつものお礼ということで貰い受けた特別貴重な塗料で小さく文字が潰れないように書いたんだ
良識あるが故の義務だ、ためらうことがあるだろうかいや無い
更にラテン語で書くことで読めない人達に対する効果は激減する
読めるやつは大抵魔術師協会共だからな、効果覿面というわけだ
さて扉に書いてある言葉だが
”ミスラ神の下にその字と師を明かし来たる要件を、玄関手前の棚においてある紙とペンで書いてちょ”
だ、おかしいな 部屋の方まで取りに来たということは文が途中かすれたのかもしれない
まだあまりはあるから書き直さなくては
幸い書かれたのが白紙だったおかげでキッチンに行ったときに処理できた
そのことを話すと真っ赤な顔をして起こり始めた
「怒るのは勝手だが、見てくれこそ悪いし工房というほどでもないが俺の拠点だ防衛ぐらいするのは寧ろ義務というべきだろう」
「ぐぐ……」
「シフト爺め手に負えなくなったからとは言え弟子を押し付けるなと言ってるのに」
「そうそれです! 師匠と知り合いだったんですか!?」
「それではないと思うが、インタビューも兼ねて色々とね」
罠を仕掛けたりトラップ返しにあったり、文字迷宮に捉えたり視界潰されたり
基本的に俺行動派じゃないんだが仕事が大切だからな、仕方ない
頭が固いだけの老害なんて邪魔でしか無いとはこの事
「インタビューって……呪術師じゃなかったんですか?」
「当然俺は至ってごく普通の一般人に溶け込んでいる善良な呪術師だぞ」
「善良な呪術師なんて聞いたことないですけれど、というか正確には呪術師ですらないですよね」
「俺を知っているなら俺の職業ぐらい聞き及んでいるだろう?」
「いえ、全く」
「……ではひよっこなエルザ君のために教えてあげよう」
「部屋ぶっ壊しますよ」
「出来ないことを言うな さて俺の本業は」
「なんですか?」
「小説家さ!」
「は?」
どうやらあまりにも衝撃的過ぎる真実らしく彼女には到底理解が及ばなかったようだ
それもそうだろう、俺の魔法の大本は文字媒体による言霊だ
言霊というのは実に特殊な魔法でありとあらゆる基礎にもなる
極々普通の一般人でも扱うことが出来る代物でもある
そして以外に知られていないがコンピューターなどの電子媒体が一番効力が発揮するのだ
というよりも感情のない共通の文字のほうが原義に近い効力を持つ
オカルトで電子機器に纏わるものが多い理由がここにある
扱い難いとよく耳にするが原義に近ければ近いほど調整が簡単だということをサバトやアカデミーでの特別講義で主張しても誰にも伝わらない、難儀なことだ
さて書き始めた当初はこっち側に突っ込んでいなかったおかげで何も起きていなかったが
資料集めのときにうっかりのめり込んだのが災いしたのか、一時大炎上したことがある
それ以来あらすじと話の頭と最後に”これはフィクションです”と書き加えるようにしている
それにも篭っているせいかほとんど人が来ないのは手痛い誤算だ
つまりだ、ミイラ取りがミイラになったというわけだ
そういうわけで俺は魔法使いでも魔術師でもないわけで明確な呼び名もないせいで一先ず呪術師を甘んじている
しかしそうか、協会連中もそこまで知らないというわけか
一回話し合いをするべきか?
「とそれより脱線しすぎましたが、間層の賢者についてです!」
「ちっ、忘れてなかった」
「協力してくれますよね?」
「断る俺には関係ないことだ」
「前回は一層と二層の間にできるだけで済みましたが」
「くどいぞ、どいつもこいつも私欲しか考えてないくせにご高説を垂れるな お前も本当の意図を理解してないくせに熱弁するな」
「本当の?」
「彼が弟子を取ったのならもう干渉はするな、パリ本部に5回日本支部に16回今回合わせて22回だ、これ以上は本格的に敵対するほかない」
どうやらやはり理解していないようだ、仕方ないか
どうせシフト爺がスケベ心で取っただけにちがいない
間層の賢者がでかいことをするだって?
そんなもの当然に決まっているだろう
それしか出来ないんだから
全く折角の休日が台無しだ、昼にしておきたいこともあったが中止だ
だがまあ一番重要なことは知れた
彼女には悪いが出てもらうことにしよう
「急に悪いがこの文読めるか?」
「ええ……ってしまっ!?」
警戒薄すぎやしませんかこの娘
書いたのは手紙を魔術協会パリ本部に提出すること
内容は間層の賢者に対する干渉の中止
警告の無視は個人ではなくこの世ならざるものたちによる敵対を意味する旨を記した
とはいえ余程の高位の魔術師かそれこそ間層の賢者でもない限り抗うことは難しいだろうけどな
術自体は弱かろうと、古今東西の呪いが詰まってるんだそうそう耐えれるものじゃない
しかもちょっとした細工で読んだ人の言葉による情報でも伝播する仕組みにしてある
限りなく黒に近いグレーゾーンだが仕方ない
止めるほうが厄介だからな
「どうせ彼は長くは保たないだろうが、次がある目もある なら俺は彼との約束を果たすまで」
はてさて優雅に過ごすつもりの休日の午後を潰されてしまったがこれで終いなら十二分
続くなら魔法使いと魔術師の大戦争
俺はその野次馬
損はない、実に楽しめる余興だ
願わくばこの日常が物語に成りませんように
最後は煮え切らない終わりですがまあもしも続きを書く気力が出来たら続きを書きたいです
よろしければ評価や感想をいただけたら幸いです
追記としましては主人公の家はマンションで俗に言う調合場はキッチンです
それと何度も申し訳ありませんが
これはフィクションです