表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

八話

永遠の命、そしてそれに近い物たち。

人の大半はそれを望み、そして手に入ることなくその生を遂げるのだろう。


不老不死、不死身、不死、不滅。どれも細かな違いはあれど、人の大半が望み、手に入らない、という点は共通している。

この世界でこれらのどれかに当てはまると言われている存在はただ一つ、全神だけだ。

どこから広がり、発信された情報化は分からないが、この世界の常識の一つだ。


不老不死、どれだけ重傷を負っても死ぬことは無く、瞬時に元通りに再生し、その身体は歳を取らなず、病気にもかからない。四つの中で最も至高とされている。

不滅、基本的には不老不死と同じく身体的なけがは即座に再生、身体は歳をとらないが。病気にはかかる。これは単純に不老不死の下位互換だが、まだマシな方だ。

不死身、不老不死や、不滅と違い、身体が年を取り、寿命という概念を持っているため、通常通りある程度の年齢になれば死ぬ。そしてそれ以外の条件では決して死ぬことは無い。たとえ身体をバラバラにされようとも、どれだけの劇薬を飲まされたとしても、食べるものが無く、どれだけ空腹で苦しもうとも寿命以外では死なない。

そして不死、たまに、不死身と比べ、上位互換と言われることもあるが、僕はそうは思えない、相当思慮が浅い人でもない限りこれは拷問の類でしかない。

まず基本的には一般人と一切変わりはしない。

ただその存在から『死』という概念が消える。

すると、呪われた身体と、それにへばりつく抜け殻のような心だけがただ無駄にポツンと残るだけ。

死が消えた人間に欲は生まれることは無く、目標ができる訳でもない。

身体が自由に動く間は無駄に時間を浪費し続け、そしてその身体がついに年齢とともに動かなくなった時、身体(生ゴミ)に残った心は生きたまま思考停止する(死ぬ)


ただ、それでも人はこれを望む。それは好奇心か、人類最初という称号が欲しいのか、分からないが。


だが僕はこれらを望めない少数派のようだ。

そしてさらに僕は仙人、世界の例外と呼ばれる術を扱う種だ。

....僕はここでも例外になれる。

僕の仙術の中には不死に近い存在になるものもある。が、よくよく考えてみよう。

まず不死になってどうする?いや、この際不老不死でもいい、不老不死になってどうする?価値のない世界で価値のない人生、終わらない人生を続けるのか?

よくよく考えれば誰にだって分かるはずだ。

永遠の命に価値なんてない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「兄さん。私、スーパーヒーローになる!」


停止しそうな思考を全力で回しながら全力で考える。


こいつは何を言ってるんだ?


「あー!こいつ何言ってんだ?って顔してるー。こっちはまじめに言ってるのに....ひどい」


「あーえっと、うん。そうだね。何言ってるの?ていうかそもそもスーパーヒーローをスーパーヒーローって決めるモノって何?何をすれば、何が出来ればスーパーヒーローなの?」


と聞くと、キアが考え込みだした。分かってなかったのか。いや僕も分からないけどさ。


「あ!えっと、人を助ける!!あとは、敵がいっぱいいても全員ぶっ殺して勝つとか?」


えらく物騒なスーパーヒーローもいるもんだ。絵本でも読んだのかな?

きっとその絵本の敵役はキアの本当の父親であるカゲ族とか、エマと同じチスイ族とかの人外なんだろう。

そうして馬鹿な子供に差別意識を植え付ける。なかなか徹底したやり方だ。


「そっか、なら僕はキアが突然『スーパーヒーローになる』って言いだして困ってるから助けて」


「むー、こっちは超まじめで本気なのに....いいもん」

と、頬を膨らませ、いじけるように続ける

「私が誰かを困らせてそれを助ければ私はスーパーヒーローだもん。

あー、娘が不良になるなー、誰か道が外れそうな娘を止めてあげられるかっこいいお父さんはいないのかなー」


「....一応聞いておくけど、人を困らせるって、僕意外の人だよね?例えばどんなことをするの?」


聞くと、再度考え込みだしたキアを見てため息を漏らす。

やっぱり考えてないのか。


「..子....人質..殺....爆....毒..散布......」


「冗談だよね?」


口を引きつらせながら聞き返すが、キアは考え事(犯罪計画)に夢中で返事が無い。これマジな奴だ。


「あのーキアさん?僕も手伝うんで計画は僕に任せてもらえませんかね、キアがやるといろいろとマズイことになるし」


具体的にキアの存在がバレたら非常にマズい。

....思ったより急いで計画を実行したほうがいいかもしれないかな、何が起こるか分からないし

下手したらキアから僕への評価がマイナスに変動するかもしれないし。


「おお!本当ですか兄さん、さっそく行きましょうよ。人助けに」

と、元気良く立ち上がるキア。


ああ、またメンドクサイことになったなぁ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なあキアさんや、見てくださいよこの世界、素晴らしく平和だと思いませんかぁ?」


作り笑顔をキアに向けながら問いかけてみる。


「むー、大体兄さんが計画立てるって言ったのに....ちゃんとやってよ!」


ははは、街のパトロールだって立派な平和維持活動だろ、ならスーパーヒーローっぽいじゃないか。

なんて理屈がキアに通じる訳が無いので適当になだめる。


「まあまあ、そう怒らないで。何か買ってあげるからさ」


「ほら!そうやってすぐ話を逸らそうと....」


「アイスクリーム」


「う..」


「ドーナッツ」


「うあー....」


「ショートケーキ」


「うぅ....兄さんの意地悪」


堕ちたな。


ってか、割と簡単だったな。


「それで....どうするの?キアの望み通りこのまま町を歩き回るのか、店を回るのか」

確認と憂さ晴らしの意を込めて聞く。


「いいもん、今日はお休みだもん。明日からまた頑張ればいいもん」


「そう?ならそれでいいよ。じゃ、僕は店とか知らないからキアに任せるよ」


「ええ、私も知らないってば....どうするの?」


ふむ、どうしようか。


「う~ん、適当に歩き回って探す?」


「え~私もう既にちょっと足痛いんだけど、兄さん何とかしてよ~」


そういえばキアぐらいの年齢を考えればすでに疲れててもおかしくないのか、それなりに歩いたしな。

それより本当にどうしようか、特に何も思いつかない。


「よしキア、ここは分かりやすく選択肢に分けよう。

一、歩き回って探す。

二、当初の予定通りパトロール。

三、今日は僕が一人で探しておくから明日行く。

どれがいい?」


「四、私が案内しましょうか?」


「あ!目が開かない人だ。久しぶり!」


「....いっつも疑問なんだけど、なんで目が見えてないのに平然と僕らに話しかけれるの?魔法?」


いつの間にか後ろに立っているライリンに聞く。

なんでこいつはいつも一切の足音無しに僕の後ろにいるんだ。暗殺者か何か?


「秘密です。ああいえ、別にどうしても聞きたいんなら言ってもいいですよ、別に隠すほどの事じゃないですし」


「ふーん、まあいいや、それで?案内できるの?」


結局重要なのはこれだ。


「出来ますよ。キアちゃんのためです、私頑張りますよ!」


手にガッツポーズを作りながら楽しそうに話すライリン。


「そう、なら後でいくら使ったか教えて、僕は帰るから、後は任せたよ」


「わ..ちょ、ちょっと待ってください!」


「えと、そ、そうだ!私に何か聞きたい事とかあるんじゃないですか?いまなら話すかもしれませんよ?」


....この言い方なら話すとは言ってない、とか言って逃げられるかもしれないしな....


「本当だよね?嘘だったら目玉を抉り取って片方を鼻にねじ込んで、もう片方は耳にねじ込んで音を立てて潰すよ?

どんな音が鳴るんだろうね、常に自分の目玉の腐った臭いがして、耳の中でぐっちゃぐっちゃ鳴って..へばりついて取れなくなってぇ....ヒヒ」


「ほ、本当です!本当ですからぁ、そんな怖いこと想像させないでください!」


「ごめんごめん、いやぁ、これでももともと見えない目を潰すあたり手加減してるつもりなんだけどね」


「....手加減って....冗談じゃないんですね。キアちゃんには絶対にやらないでくださいよ?」


キアに?やる訳がないだろ、.........まだキアに苦しい思いをしてもらっちゃあ困るんだ。

最後の最後まで取っておいて..そこですべてひっくり返す。そこまでが僕の計画なんだから。


「それこそ冗談でしょう?っと、そんな話は今はいいや、キアも聞いててつまらないだろうしね」


「分かりました。....実は私も意気揚々と出てきたはいいんですけど、あんまり詳しくないんですよね。

ああいえ、多少は知ってますよ?多少ですが....」


「..まあいい、かな。別に。キアとライリンが店にいる間に僕が次の店でも探せばいいし」


「ん、オッケー!そうしよ!元と言えばスティスの計画性の無さが悪いんだし」


....このクソガキ..一切の計画なしにスーパーヒーローがどうのこうの言ってたやつに言われたくない..が、僕はこんなクソガキのクソウザい戯言に付き合ってあげるほどの子供じゃない。ははは、落ち着け僕。


「は..ははは、そうだね、じゃあライリン、任せるよ」


「はい、任されました!」


キアのよく分からない行動に巻き込まれるのは回避できたと思うけど....これはこれで、なぁ....

はぁ..


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


数時間後、暗くなっても僕たちは店を渡り歩いていた。


「あらら、キアちゃん、そろそろ寝ちゃいそうだな、とは思ってましたが....」


「寝たね、完全に。これ僕が背負って帰るやつだよね....」


机に突っ伏すキアを見て頭痛を少しでも抑えようと額をつねる。


「まあそれぐらい頑張ってくださいよ、それでも一応、お父さんなんでしょう?」


どこか含みを持たせた言い方に確信する。


「んで?何をどこまで知ってるの?ようやくキアが寝たんだ、いろいろと聞かせてもらうよ」


最近背が伸びてきたキアは出会った当初に比べてさぞかし重くなっていることだろう。憂鬱だ。


「全部、としか言いようがないんですが..それでもいいですか?」


「....質問を変えるよ、まず第一にあなたの事、何で僕らに構うのか、だね」


「キアちゃんが心配だからですよ。あ、一応あなたの事も気には掛けていますけど、私の仕事じゃないので」


「ふ~ん、で?ならそれは誰の仕事なのかな?」


ずっと気になってたことだ。

イキを殺しに行く前、この女は僕がイキから誰かに守られることをまるで予測、いや、知っている言い方だった。

そしてその誰か、も知っているかのような言い方だ。


「ふふふ、秘密ですよ....きっと、遠くないうちに分かりますよ......」


ライリンがよくする表情だ、遠くを見ながら儚げに微笑む。


「目玉、耳、鼻」


「い、いや、そ、それだけはやめてください!他の質問は答えるので!」


「ふ~ん、聞いたよ?今、他の質問に答える。って言ったよね?」


「う..ま、まぁ、はい、あなたの言う拷問に比べればマシです」


「ならあなたは何?人なの?」


「人では、無いですね。じゃあ何なのか、はちょっと....」


スプーンを食器に打ち付け、金属音を鳴らす。


「知ってる?スプーンをね、眼窩に入れるじゃん。んで、ちょっと押し込んだらね....どうなると思う?」


「あー、もう分かりました!言いますよ..誰にも言わないでくださいよ?

....えっとですね、私は一応..『神』に分類されるはずです」


「神....ねぇ。まあ嘘、じゃないよね?」


再度金属音を立てながら聞く。


「本当ですよ!信じてくださいよぉ」


ちょっと半泣きになってる。本当っぽいかな。


「それじゃあ聞くけど、何の神なの?ほら、イキなら絶望の神じゃん」


「あー、実はですね、イキって、絶望の神じゃないんですよ....まあそれは今はいいです。

私は....今は無くしちゃってます。昔は....一番最初は持ってたはずなんですけどね、壊れちゃいました」


「は?神って一回生まれたら元の物が無くなっても残るの?」


「はい、残りますよ....残酷なことにですが」


「じゃあ、どうやったら死ぬの?」


「いつでも死ねますよ。ただ、正気を失ってしまった神には無理です。やり方が分からないみたいで..」


正気?....イキを思い出すな、キアを見たとたん狂ったように叫んだりしてたし....


「それで?最初の、全部知ってる、ってのはどういうこと?神ならプライバシーとか無視できるの?」


「普通の神なら無理です。私の知る限りでは、そんなことが出来るのは全神さんと私だけです。

私は神の中でも力を持ってるほうのはずなので」


「はず、って言うのは?」


「ええと、私、自由に力を使えないというか、前にも言ったと思いますが、私が何かを変えることは出来ないって言うのは、神としての力を使って何かを変えることは出来ない、って事なんですよ。

何というか、今の私は幽霊みたいな、っていうか。

多分、さっき言った無くしちゃった事が原因なんでしょうけど」


「......それじゃ最後に、何でキアにそこまで執着するの?

....多分、あなたが僕らに関わってくるのはキアが目的だよね」


「それはですね、それが私の生きる意味で、目的だからですよ」


「答えになってない。言い方を変えよう。あなたがキアに接触する理由を僕が納得できるように話してみて」


これも重要なことだ。

....無いとは思うがキアに害意がある可能性もあるし。まああったとしても言わないとは思うけど、僕が納得できる理由があるのなら多少は安心できるものだ。


「言ってもいいですけど、スティスさん、多分理解できませんよ?」


「ああいいさ、言ってみてよ」


「いわゆる親子愛みたいなものですよ、私がキアちゃんに一方的に持ってるだけですが」


「..あなた、キアの親と何か関りでも?」


「あ!違いますよ!?えっと....私、知り合い以上の関係の人なんて、

あなたとキアちゃんしかいませんから」


スプーンを再度鳴らそうとして、やめる。

僕がスプーンを持った途端にすでに涙目で首を振っている。


本当かな....まあいいさ。たとえ何だろうと、もしも僕の障害になるのなら、

それなりの対応をさせてもらうだけだ。

ようやく終わりが見えてきたのに、今更誰にも邪魔はさせない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ