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七話

世界に身体を顕現させる。


身体が重力に縛られる感覚。

何千、いや、億?兆?

もう覚えてなんかいない。

あの人が生まれるまで、ただただ無駄な時間だけが過ぎて行った。

身体を捨て、世界、そして全ての神、全神となったあの日から止まっていた時間。

やっと私の中の時間が動き出した。

そして全て計画通りに動いていた。この女を除いて。


「あなたは何者?未来を知ってるの?」


だから私と同じ、もしくは似た存在なのかと私は考えた。


「未来を知っているわけでは無いですよ。ただ、私は未来にも過去にも生きています。

だから、あなたが私に会いに来ることも分かっていました。

キアさん。あなたの事も私はよく知っていますよ。すべて分かってます。

そこで提案なんですけど、私達、協力しませんか?あなたの目的に私という存在は必要になると思うんです。

あなたは彼らの前に姿を簡単には表せないし、思考を操作するのも怪しまれすぎる訳にはいかない。

でも私なら、さりげなく誘導できます。」


私が来るのを分かっていた?どういうこと?私とは違うのか?

そして何で私があの人の思考を操作していることまで知ってる?

私は知っているだけで、分かってはいない。この女の言うことが本当なら、この女は一体なんだ?


「ああ、言いたいことは分かりますよ。ただ、全て知っている。未来も過去も。とだけ。それだけです」


「それはさっきも聞いたから分かってる。私の名前を知っている時点でそれは確定だしね。

ただ、未来を知ってるんなら教えて。私とあの人はどうなるの?」


私にとって最も大事なことを聞くと、自称全てを知っている女は微笑みながら答える。


「それは、秘密です。ただ、私と協力すればあなたが有利に動けることに違いは無いと思いますよ」


......本当に未来が分かるのか?

もし本当に未来が分かるのなら協力しない手は無い。だがもしそれが嘘なら?......

いや、最悪今回失敗しても何度でも作り直せる。ならこの女に賭けてみてもいいか。


「分かった、けど、一つ教えて、私と協力してあなたに何の得があるの?」


私が聞くと、変わらず目を開けない女は儚げに微笑んで、


「私には、キアちゃんが幸せになってくれるだけでうれしい。

さっきから言ってるけど、過去、全て見てきたから」


ああ、なるほど。何となく、分かるような気がしないでもない。


「オッケー、協力しよう」


「はい。って、まあ分かってたんですけどね。こうなることは」


....何か負けた気がするけど、まあいいか。


「それで、私は観察以外に特にすること考えてないんだけど、何か作戦とかあるの?」


「ふふ、変わらないですね。

私も大きな事をする気は無いですよ。基本的にはキアさんと同じで観察です。

キアさんが干渉したいときは私が代わりに動きますけど」


私は知らないのに一方的に知られている感覚が恥ずかしいけど、まあいいか。

全てはあの人のため。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「着いたっ!」


両手を上げ、ばんざいの体勢で飛び跳ねるキアを尻目に脳みその回転速度を高める。

どの戦闘方法が最も効率的か、どの苦しめ方が最も効果的か、僕は分かっている。ここで冷静を欠くのが一番マズイ。

せっかく時間があるんだ。イメージトレーニングをして損は無い、とはいえクソ神サマ、イキの情報が不足しすぎてるせいでどうしても苦しませることのイメージトレーニングになってしまう。

う~ん、失敗したな。村に着くには着いたけどまさか夜に着くとは思わなかったな。

どうしようか、多少のリスクを冒してどこかで野宿、もしくは村の家を使うか。

どうせ誰もいやしない。死体は全部僕が燃やしたからいるはずが無い。

というか、居たら居たでなかなかスリルがありそうだ。


「キア、神サマと遊ぶのは明日にして、今日はとりあえず休もう。

適当な家を探してそこを借りれば寝れるよ」


「オッケー!楽しみだね!」


やっぱりキアはどこかズレてる。


結局僕は何となくで家を選んでそこで寝ることにした。

そういえば何となく見覚えのある家だったけど、何でだろう。


「おやすみ兄さん!」


「ん、ああ、おやすみ」


まあいいか。今はそんな事よりも大事なことがある。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


清々しい朝だ。

深い霧の中、寝たままの体勢で虚空へ手を伸ばす。


もういいや、めんどくせえ。

ああそうさ、これは復讐だ。

いちいち自分にまで誤魔化すのもダルい。

あのクソ神サマさえいなけりゃ僕の家族が死ぬことは無かったんだ。

知ってるさ、仮にも神サマだ。僕が勝てるかなんて分かりやしない。

恐らくまともに戦えば勝てる見込みは無い。

そして、僕は今からまともに戦うつもりだ。

生きて帰れるかすら分からない。

でもさぁ......もう疲れたんだ。

だって、さぁ....いもしない亡霊(母さん)との約束を理由に生きるほどの価値のある世界か?

正直自棄になっている部分もある。でも、むしろ殺してくれれば解放される気がするんだ。

でもでも、それでも母さんとの最後の約束なんだ。守らないといけないんだ。

って、思ってもいるんだ。


....ここで死ぬのか、それとも亡霊(母さん)との約束を守るために生きながらえるのか。

どのみち、今から決まることだ。


さすがにキアを戦力として期待はできないし、するつもりもない。

未だに寝ているキアを無視して寝床として使っていた家を出る。


クソ神サマが何処にいるか、はもう予想がついてる。


靄のかかっている記憶を頼りに墓場に向かう。


居た。

僕より少し低いぐらいの背、だが、細かい部分はその身を覆う黒い霧のせいで分からない。


「初めまして、だよなぁ?クソ疫病神」


呼びかける。


「......」


「チッ、少しはお話もしようぜ?つれねえな。

んじゃ、殺した後に間違ってたらダリィし、てめえが絶望の神、イキだよな」


高揚していく気分に合わせて自然に口角も吊り上がる。


「....ぅ..」


「ああ?声がちっせえな、聞こえないんですけどぉ?」


「..スティス....」


「否定は、しねえんだな?」


俺を見たまま静止しているイキに苛立ちながらも言葉を発する。


「仙術、起動。全典、展開」


胸の前に本が生成される。


「史典、切り裂きジャック」


両手に小ぶりのナイフが現れる。


「それじゃ、切り刻んでるよ。苦しんで死ねや!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


突き出した右手は一切の損害を出さないように逸らされる。


「チィ、うぜえんだよ!

受け流してばっかで、クソがぁ」


あれから数十回の攻撃を繰り返しているが、そのすべてがきれいに受け流されるだけ。

もともと勝てるとは思ってなかったが、まさか攻撃すらしてこないとは思わなかった。


「めんどくせえ!かかって来いよくそが!」


せめて攻撃して来れば隙もできると思うのだが。


「........っ」


イキの視点が大きく俺からズレ、息をのむ声が聞こえる。

疑問に思い、イキの視点の先を見れば、そこには。


「あ....ああ......」


硬直しているキアの姿。


「オイこの馬鹿野郎!なんでここ居やがる!」


そして何より一番驚いたのは、先ほどまで一切攻撃の素振りを見せなかったイキが狂ったように叫びながら手をキアに向け、攻撃のそぶりを見せている。


「..ああああああああ!!死ね死ね死ね死ね、一人だけハッピーエンドに向かうなんて許さない!!おまえも私とっ..」


マズイ、キアが攻撃を避けるのはまず無理、ならここで俺が取れる選択肢は二つ。

キアを助けるためにリスクを冒すか、キアを見捨てるか、そのどちらかだ。


まずキアを助けるとして、今更別の仙術は起動できない。僕の仙術は即時発動が出来ない、という欠陥を持っている。

ならこの手の内にある二振りのナイフで何とかするしかないが、何とかなるとは思えない。

なら当然俺が身体を張る必要が出てくる。

キアが耐えられなくても俺なら耐えられる可能性が....無いな。

仮にも神が我を忘れて放つ攻撃だ。俺が耐えられるわけが....

ふと頭をよぎるセリフ。


『もし何かがあれば、あなたがキアちゃんを守ってあげてくださいね』


..邪魔だ、その行動に何の『もし何かがあれば、あなたがキアちゃんを守ってあげてくださいね』


なぜか思考を遮って激しく自己主張をするセリフに引きずられるようにキアの前に立つ俺。

なんだ?今思考がおかしくなかったか?


いや、そんな場合じゃない。どうする?逃げるのは手遅れだ。


イキの手から伸びる黒い棘は凄まじい速さでキアの元に伸びている。

そして当然それは通り道にいる僕を貫通するコースで。


「はあああぁぁぁぁぁっ」


掛け声とともに、突然俺の目の前にイキの出す棘と全く同じ色の壁が出現する。

が、イキの出す棘はそれを貫通し、俺にカスり、浅く傷つける。


「..ああ、あああああああ!

違う違う違う!スティスを傷つけたいわけじゃない!!あああ.....」


と、狂ったように叫び、霧散し、姿を消すイキ。逃げたのか。


姿を消したイキにつられるように黒い壁も消える。


「あなたがこの壁を?っていうか、目、開くんなら常に開けとけばいいのに」


いつぞや僕にキアを守るように言っていた女に顔を向けながら警戒しつつ口を開く。


「いえ、目は開きませんよ。今だけは特別でした。それから..ええと、その壁は私では無いですよ。

って、ああ、そういえばまだ名前を言ってなかったですね。私は..何にしよっかな....うん、ライリンでいいか、私の名前はライリンです。今決めましたが、立派な私の名前です」


と、よく分からない返し方をして、目を閉じたライリンと名乗る盲目の女は、そのまま僕の後ろで気を失っているキアに近づこうとする。


「キアに何か用?お節介な奴に護れって言われてるんだ、近づかないで欲しいんだけど」


せっかく守ったんだ、ここで何かされてさっきの苦労が無駄になるのは許せない。


「ああ、ごめんなさい」


「..そういえば......あなたが僕の思考を弄った、ってことでいいのか?」


両手でナイフを弄びながら聞く。


「えっと....私じゃないですよ私にそんな力はありません」


「僕の思考が弄られたのは否定しないんだね」


「え?..あ..ごめんなさい、やらかしちゃいました」


申し訳なさそうに誰かに謝るライリンを思考から外し、地面に横たわり気絶しているキアを起こす。


「あ!キアちゃん、大丈夫そうですか?さっきの、ナイス防御でしたよ」


思考が操作され、望んでもいないのに身体を張って守らされた僕への皮肉だろうか。

と、一瞬思ったが、真っ直ぐな笑みを浮かべ、キアを眺めているライリンにそんなつもりはないんだろう。

それが余計に腹が立つ。


「ん..ん~、ふっか~つ....あ!兄さん、あの黒い神様は!?

....もしかして、もう倒したの?」


何か勘違いしている、イキは逃げただけだが、ここはキアの勘違いに乗ろう。


「うん、もう終わったよ。それにしても危ないことをするね。なかなか焦ったよ」


「..ごめんなさい。でも、私、兄さんなら守ってくれるって信じてたから、実際に護ってくれたでしょ?」


自分がするわけでもないのに大した自身だ。その結果下手したら僕は死んでたんだけどね。


「はぁ、まあいいや、過ぎたことだ。とりあえず今日は休んで明日から帰ろうか」


「オッケー!」


と、家に向かいながら、ライリンに『後で話がある』と耳打ちする。


ああ疲れた。精神的にも肉体的にも疲れた。

今回の行動の一番の目的は結局のところ復讐だ。これは....まあ、あんまり期待してなかったから良しとしよう。

その次に重要な事、キアの信用を得ることだ。


「さてキア。これで僕が神を殺せるのは分かったよね?

ということは、だけど、僕がキアの父親にあたる人間なのも分かる....よね?」


と、聞くと、キアはまるであらかじめ答えを考えていたかのようにすぐに答える。


「うん!兄さんが私のお父さんなんだよね!分かってるよ!」


なんだこれ。

これならもう少し頑張って説得すればキアも納得したのか?

いやでも、あの時のキアの拒絶具合は納得しそうになかった。

ならあれ以降に何かキアの心変わりでもしたのかな?


うん、もう考えるのもメンドクサイ。

やめだ、キアの事は考えたって理解できない。所詮は人外だ。僕の理解の範疇をこえてる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それで、話ってなんですか?スティスさん」


夜の闇が辺りを包み込む中、あれから一度も目を開けないライリンと向き合う。


「何であの時僕を助けたのか、それが気になるんだ。あなたに僕を助ける理由は無いはずだからね」


「それは、ですね。前にも言ったと思いますが、あなたには守ってくれる人が居る。

それだけですよ、あなたを大切に思ってくれている人が居る。私はその人の手助けをしているだけです。

私自身に何かを変える力はありませんけど、私自身に何かを変えたいと願う気持ちはあります」


「つまり、その僕を守りたい誰かが居て、そいつの力で僕を守ってる、ってことでいいのかな?」


「そうなりますね。正しくは、私自身もあなたとキアちゃんを守りたいと思っていますが、残念ながら私にその力はありませんでした。ただただ....見ているだけしか......」


そう悲しげにつぶやき、唇を噛むライリン。


「ま、余計なことをキアに吹き込まないなら勝手に守ってくれていいや、僕は僕のやり方があるからね」


と、僕の要件を言うと、ライリンは軽く笑いながら。


「余計..かはともかく、怪しいことを吹き込んでいるのはあなたですよ?」


「余計なお世話、だね。それじゃ、僕は行くよ、明日はまた帰らないといけないから忙しいんだ」


ライリンの言葉に肩を竦めて返し、ズボンのポケットに手を突っ込み、寝床に向かう。


「また、会えますから、その時もよろしくお願いしますね」


....やっぱりまだ何か隠してるね。


首だけ振り返り、その真意を探ろうとも、既にライリンの表情は闇の中。

鼻を鳴らし、再度寝床に向かう。


さて、次はどうしようかね。

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