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六話

「おはよう母さん。父さんは?」


僕は、いつの間にか恒例行事の様になっていた言葉を母さんに投げかける。


「仕事よ、やっと言ってくれたわ。最近ずっと家でゴロゴロしてばっかで....」


と、ため息をついては、長々と愚痴る僕の母さん。

別に父さんとの仲が悪いわけじゃない。ただ、最近村の雰囲気が全体的に暗い。

もしかしたらここ最近、数か月ぐらいずっと晴れてないからかもしれない。


とにかく全体的に活気が尽きている。


村が曇りだしたのと同時期に父さんや母さんを含めた村のみんなが家からあまり出たがらなくなった。

別に家にいてもすることと言えば、特にない。ずっとゴロゴロとしているだけだ。

理由を聞いても暗い口調で、聞くだけで鬱になりそうな理由を並べる。しかもそれがそれなりに筋が通った言葉だから反論もしづらい。


なのに僕だけは、この村で唯一僕だけが変わらない。

母さんや父さん、村のほかのみんなも自覚症状があるし、誰が見ても分かるぐらいため息ばかりついて、下を向いている。

けど、僕はそんなことは無い。

なぜなのか理由は分からないけど。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


それから約半年、相変わらず僕だけは全く変わらなかった。....僕だけは。


「「........」」


僕の家の中では誰も話さない。

これは僕の家どころか、村全体で。だ。

僕が話しかけても目線だけ合わせられ、すぐに離れていく。家族でさえも。


最期に他人と話したのはいつだっただろうか。

もう父さんは仕事に、いやもう家から出ることさえなくなった。

食べるものは家の畑で育てられている作物を僕か母さんが収穫して、それを食べているが、味が薄かったり、毎日同じものだったりとすぐに飽きる。

本当に何なんだろうか。


異常な事態、どうにかしないといけないのかもしれないが、誰も何もしようとしない。


子供の僕はどうすればいいのか分からない、大人に聞こうにも会話が成り立たない。


そして何よりこの状況を以上だと認識させる出来事があった。

僕は知らない人だったが。その人は、自室で首をつって、自殺していたらしい。

特に何か原因というものは見つからなかったようだ。この状況以外は。

この村の異常が始まった時から、その人は鬱の様になっていたらしい。


そして、これだけならまだ偶然、という可能性も捨てきれなかったのだが、

その自殺を皮切りに、次々と村のみんなが自殺を始めた。

自殺をした人はみんな、村でも特に変わってしまった人達だった。


....このままみんな死んじゃうのかな?


ふと頭をよぎる妄想を、振り払うように頭を振る。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「..な..んで....」


また一人、村の住人が自殺した。


「父さんっ....」


隣に気配を感じて、サッと横を見ると、母さんが父さんの遺体を眺め、立っていた。

が、その姿は、酷く頼りなく、弱弱しかった。


「母さん..」


そう口にして初めて僕がいたことに気づいたのか、僕に目の焦点を合わせると、母さんの目に若干、力が戻る。


「もう、私たちはダメなのよ。あの頃から変わってしまって、生きることに価値を見出せないの。

あなたは分からないかもしれなけど、でもね、だからこそあなたなら生きていられる。

私たちは....きっともう、生きていても幸せにはなれないの。

....ごめんなさい、あなただけは幸せになれるわ」


その『ごめんなさい』は何となく、いろんな意味が含まれている気がして、


「母さん?」


このまま会話を終えてしまうと、後悔する気がして、


「大丈夫よ、あなたも、私もね」


でも、そう言われて、その力強い姿にその言葉を信じてしまって。



「だから、あなただけでも幸せになりなさい。約束よ」



頷くことしか出来なくて。


―次の日、母さんは冷たくなっていた。


今思えば、母さんのあの最後の姿は、精一杯の虚勢だったのかもしれない。

僕に心配されないために、気を遣っていただけなのかもしれない。


眼からあふれ出す涙を無視し、母さんの遺体を見ながら思う。


「........」


母さん....僕も、母さんたちと同じように、生きる意味が、見当たらないんだ。


僕は何を失った?


自分に問う。


母さんや父さん....違う。そうじゃない。僕は幸せと生きる意味を失ったんだ。



幸せ....母さんとの最後の会話、約束を思い出す。


『だから、あなただけでも幸せになりなさい。約束よ』


あはは....なんだ、こんな近くにあったじゃないか。

母さんとの約束、これがあれば僕は、生きる意味を得る。

そして、その約束を果たしたとき、幸せも得ている。


ああ、母さん。今は亡き僕の母さん。もう一度約束するよ。

僕は....絶対に..幸せになるんだ。


..幸せって、なんなんだろうね........

少なくとも、こんなに悲しい今は、幸せなんかじゃ、無いんだよね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「チッ、夢か....」


ずいぶんと懐かしい夢を見たものだ。


「あ!起きた?」


僕が起きるのを待っていたのか、珍しく早起きしているキアを見る。

ああ、そういえば今日は遠くに出かける、って言ってたっけ。用事は神サマを殺すんだったね。

なぜか男の子脳を持っているキアはこれに興味津々だ。


「ああ、それじゃあ、早速行こうか」


ま、僕も興味津々、()る気満々だけどね。


神サマとやらがどれだけ強いのかは知らないけど、殺すことが可能なのは分かっている。

つまり生物なのだろう。どうせ遅かれ早かれ死ぬのなら僕がその背中を押してあげるだけだ。


それにしても、本当に懐かしい夢だった。

正直夢の中の父さんと母さんの顔はぼやけている。

もう覚えてすらいない。きっと、僕には必要ないからなんだろう。

母さんとの約束を果たせたら、その時は完全に忘れてしまうのかもしれない。

それでも別に僕は構いやしないが。


と、思考に結論付け、キアと王国を出るために、門の前に来た。


「あの、あなた達がスティスさんとキアちゃんですよね」


と、目を閉じている女性が僕たちに話しかけてくる。


なんでこいつは僕とキアの名前を知っている。

まさかキアの事を知っているんじゃないだろうな。


「そうですが、なんの用でしょう。僕たちこう見えて、それなりに急いでるんですよねぇ....

ああ、すいません。あなた、目が見えないんですよねぇ?そりゃあ僕たちに話しかけてくるわけだ」


と、わざと不快になるような発言で距離を取ろうと思ったのだが、盲目の女性は軽く微笑んで、僕に話しかけてくる。


「あなたには守ってくれる人が居ます。ですが、この娘、キアちゃんにはいません。

ですから、もし何かがあれば、あなたがキアちゃんを守ってあげてくださいね。

大丈夫です、あなたに危険が迫ったとしてもきっとあの娘が守ってくれますから、安心して守ってあげて下さい」


何だこいつ。初対面....だよな。

よく分からないやつだが、この態度を見る限り、敵意はなさそうだ。

特に反応はせずに、そのままキアを連れて、王国を出る。


なぜか彼女の発言が耳に残っていた。


『もし何かがあれば、あなたがキアちゃんを守ってあげてくださいね』


当然だ。僕の命に危険が無い程度なら全力で護る。

これが僕が幸せになれる最後のチャンスなのかもしれないんだし。


当然、人外と人のハーフなんざ、キア以外にもいる可能性はあるけど、あくまで可能性だ。

100%かもしれないし、0%かもしれない。

なら僕はこの可能性に全力をかけていく。だから僕が死なない程度ならいくらでも守ってやるさ。

だって、僕は、幸せにならないといけないんだから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うえぇ、頭痛い~」


赤い顔で頭を押さえたままゴロゴロと転がるキア。

風邪を引いてるくせに元気な奴だな。


「大丈夫?」


まあ、風邪を引いたのが夜でよかった。

丁度宿をとるところだったから、そのまま部屋にきて、後は寝るだけだ。そしてキアが快復次第出発。

この様子ならそこまで酷くはならないだろうし、ね。


と、思っていたんだけど....

朝、苦しそうに毛布にくるまり、うなされているキアを見て考えが変わる。


「大丈夫?思ったより酷そうだけど」


こりゃあ一日中看病かなぁ。

別に急ぐ用事でもないし、一日ぐらい遅れて神サマを殺したって問題は無いでしょ。殺すのは確定事項なんだし。


「うー....ギモジワルイ゛」


「まあ、頑張ってこらえてもらうしかないかな。

とりあえず今日はこのまま寝てて。

キアの体調が良くなったらまた出発しようか」


「うん....ごめんなさい」


「いやいや、キアが謝る必要はないと思うよ?別に遅れたって問題ないし、キアが最優先だしね」


「..うん」


さすがに昨日のような元気は無く、どこか小さくなって見えるキアは毛布に深く潜る。

その隣に腰かけて、ぼんやりとしていると、キアの咳が聞こえる。


「....大丈夫?」


と聞くと、キアは僕を見ながら頷き、「お腹空いた」と辛そうに言う。


「そう?食欲はあるみたいだね。それじゃあ僕は何か適当に食べれそうなもの探してくるよ」


何か言いたげなキア、だけど気にせず食事の準備に向かう。


普段よりキアが大人しいおかげで疲れないな。

楽でいいね。


で、作ったはいいけど持って行ってみたらキアは寝てた。

お腹空いたのに寝れるんだね。僕は苦手だ。

空腹で苦痛を感じているといろんなことを思い出しそうになるからね。


キアの隣に食事を置いて、僕も寝に行く。

ああ眠い。最近は時間が過ぎるのが早いな。やらないといけないことが多いからかな?




....朝か..ん、昼か。寝過ごしたな。疲れでも溜まってるのかな。

さて、キアの調子はどうかな、っと。


「うええええん」


何で泣いてるんだこいつ。


「キア?どうかしたの?」


内心ため息をつきながら聞く。


「うえ....あ、兄さん....」


赤い目を僕に向けるキア。

僕が居ることを確認するとキアは、安心したような表情になり、泣き止む。


まさか一人が怖かったとか、そんな感じか?

意外だな、怖いもの知らずかと思ってたけど。

いや、実際に怖いもの知らずでもあるんだろうけど。

だって、神サマを殺すことを楽しみにしてるぐらいだからね。


「調子は?もう大丈夫?」


涙をぬぐいながらキアは頷く。

さあ、後は向かうだけだな。懐かしき僕の生まれ故郷。


まだ、そこにいるんだろ?クソカミサマ。

目標ついでに僕にぶっ殺されてくれよ。爪とぎながら向かうから。


ヒヒヒ、てめぇも運がねえなぁ。キアの信用を得るのがこんな物騒な話じゃなかったら死ぬことは無かっただろうけどなぁ......あ?俺が信用を得る手段として神サマを殺す。って言ったんだっけ?

......ま、どっちも変わりゃしねえな。


それにしても、神サマって強いのかね。

いやそりゃあ神サマってぐらいだしさぞかし強いんだろうけど、他に全神って言う最も力を持つ神サマがいる以上最強じゃあないはずなんだけど....


....特技は集団自殺をさせることです。ってか?

ハッ、クソ陰険な神サマじゃねえか。

いいね、世界で最初の神殺し、成し遂げてやろうじゃねえか。

せいぜい苦しませてから逝かせてやるよ。

覚悟してな、絶望の神、イキ、てめえののたうち回る姿が楽しみだなぁ。ヒヒヒ

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