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四話

「仙術、起動。全典、展開」


奴隷国の淵、奴隷国と王国を隔てる湖の前で僕は、数日前に発した、仙術の起動ワードを記憶をたどって、口にする。

手の上に現れた本にを一瞥し、エマに向きなおる。


「それじゃあ、説明したとおりに、ね。任せるよ」


「はい!..ええと....確か..」


エマが目をつむって集中する。

すると、僕らを怪しげな光が覆う。

エマが背負っているキアもしっかりと光っている。


へぇ、別に呪術が下手、って訳じゃあないのか。

ま、別にうまいわけでもないかな。経験不足を考慮したところで、平均程度、かなぁ。

うん、悪くないね。僕にとっては、だけど。


「これで僕らに認識阻害がついたの?」


「はい、ただ、よく見れば分かりますし、明るいところに出れば、

それだけで解けるほど弱いものですが....」


「十分だね」


そもそもエマになんて、最初から期待してない。

ここでエマに呪術を使ってもらった理由は二つ。

一つは、保険だ。

さっきの僕の『それらの対策のそのすべてがひっくり返る。たった一つの要素さえあれば、ね』って言う考えだけど、アレは当然、僕にも言えることだ。

何があるか分からない以上、保険は多いに越したことは無い。


そして、二つ目、どちらかと言うと、こちらの方が重要だ。

....エマの呪術の技術の確認だ。

これからすることを考えれば、もしエマが呪術が超一流の使い手で、僕が返り討ちに遭う。なんてことになったら目も当てられない。

が、この様子なら大丈夫だろう。


ヒヒヒ


「んじゃ、行くかぁ。

史典、ハーメルンの笛吹き男!」


仙術の起動ワードと同時に、あたりに響き渡る不気味な笛の音。

『史典、ハーメルンの笛吹き男』、要は『伝典、神隠し』の複数人バージョンのようなものだが、

発動が遅い、あたりに笛の音が広がる。夜のみ使用可能。などと、いろいろな制約がある。

そして、転移前にもう一つしなければならないことがある。


....ま、どっちかって言うと、こっちが本命だがなぁ....


「じゃ、打ち合わせ通り、いったんこいつに入ってもらうぜ」


「はい....出してくれるの、楽しみに待ってますよ!」


「ああ、任せなぁ....」


その言葉を最後に、エマ姿を消す。


俺が手に持っているのは、『カゴメカゴ』と呼ばれる術具だ。

まぁ、分かりやすく言うと、これがあの時俺が買った、このクソ奴隷との約束を守る手段だ。

つまり、物理的な拘束、形は手のひらサイズの鳥かご。

両者の同意で、片方がこの中の隔離空間に入ることになる。

そして、一度入れば、内側からの脱出は不可能。

俺が望まない限り出ることは出来ない。


さらに、内側から、外の様子は見えないわけだぁ。

何もない空間で、一人放り出され、いつかは俺が出してくれる。

..なんて、存在しない希望を抱いて、そしてやがて悟っていく。

信じていた俺に騙された。ってなぁ

クッヒヒ!

さぁて、いつ気づくかなぁ。

俺はぁ、その時が来るのぉ、ゆぅっくり、待っててやんよ。

ヒ..ヒヒッ....クヒッ..ヒ、ヒャハハハハ!

ヒヒ....ヒ......ヒ..あぁ、楽しすぎんだろ。

これで、俺の計画の味見ができる、って訳だぁ。


あ、いつの間にか転移が終わってるじゃん。

ん?なんで奴隷国からバレずに出れたのか、ああ、簡単なことだよ。

だって、あいつらに僕の能力が予想できる訳ないじゃないか。

つまり、たった一つ、例外、それさえあれば無抵抗で、バレることなく、相手の意表を付けるんだ。

完全な転移なんて、この世には存在しない。

..例外である僕の仙術を除いてね。


あれれ?僕の仙術って、もしかして強いのかなぁ。

今まで深く考えたことなんて無かったけど....いや、そんなことないね。

だって、こんな力があっても、僕は幸せになれなかった....幸せを失ってしまったんだ。

..母さん、僕は、取り戻す、なんて考えちゃあいないさ、ただ、もう一度、欲しいんだ。思い出したいんだ。

それに、それは母さんとの約束でもあるしね。アハハ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ん、んぅ」


起きたのかな?


そろそろ朝日が昇りそう、なんて時間にキアがお目覚めだ。


「早いね、初めての王国が楽しみなのかなぁ?」


目をこすりながら、キアはぼんやりと僕を眺めている。


見ている分にはなかなか面白いな。

..なんというか、小動物の子供を連想させる挙動だ。

徐々に下がって、完全に閉じる直前に再度開く瞼が面白い。


「まだ寝足りないなら、また寝てもいいんだよ?」


「だいじょーぶ」


声が完全に寝ぼけているせいで、言葉と声が一致していない。


「そう?まあ、それならいいや、僕は朝ごはんを作ってくるから、ここでゆっくりしててね」


台所に戻り、続きをしようとして、何気なく外の様子が目に入る。

楽しそうな父親とその子供。


そういえば僕も母さんといた時は幸せだったな。

子供は親と一緒に居る時が幸せなのかな....

フム、僕もあの娘の親になってみるかな。

人外はどいつもこいつも純粋だ、言い換えれば単純なバカ。

簡単に騙せるだろう。それも子供となれば疑うことさえ知らないやつが気づくわけない。

奴隷ちゃんもあんなに簡単に信用してくれたんだし

....ああ、そういえば奴隷ちゃん、元気にしてるかなぁ?

ま、僕が閉じ込めたんだけどね....いや、違うな。閉じ込めただと、なんだか僕が一方的に監禁してるみたいだね。

ちゃんと双方の同意のもとの結果だし、そういえば僕は奴隷ちゃん本人と捨てないって約束をしてるんだ。

約束を守ってる、とも言えるよね。アハハ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


さあて、どうやって騙ろ..説明しようかな。


「ねえキア、まだ眠たい?」


とりあえず話すタイミングを探して、会話を始める。


「んー、眠くないよ」


「そう?ならちょっと大事な話があるから、よく聞いてくれるかな」


「うん、なぁに?」


『大事な話』と言う言葉を聞いて、若干背筋が伸びたキアを見て、できるだけマジメに見えるように話す。


「実はね、僕が君のお父さんなんだ」


僕のその言葉を聞いても、よく理解できてないのか、キアは首をかしげ、パチパチと瞬きをしている。


「本当?」


「うん、本当だよ」


少し考えるしぐさを見せるキア。

考えないでほしいな。嘘がバレちゃう。


「なら、強いの?」


うん?


「強いよ」


「ほんとに?」


「ほんとに」


....強い、と父親、何の関係があるのだろうか。


「なら、ドラゴンにも勝てるの?」


ドラゴン....確か、空想上の生き物じゃなかったか?

羽の生えた蛇みたいな感じだったよな。


「ドラゴン..は無理じゃないかな、だってそもそも、ドラゴンなんていないよね」


と、僕が当たり前のことを言うと、キアは半泣きのような表情になりながら。


「違う!ドラゴンはいるもん!だって、私のお父さんはドラゴンだって簡単に倒せる、ってみんな言ってたもん!」


は?オイオイ、冗談じゃねえぞめんどくせぇなぁ。

さすがにこのクソガキ、単純すぎねえか?

いねぇもんはいねぇんだよ。

と、言いたくなったけど、我慢だよね。

うん。人生に我慢はつきものだ。そう、ちょうど今の僕みたいにね。


「....やっぱり、嘘なの?..うん、そんな弱そうな人が私のお父さんなわけないよね。

あなたと違って、私のお父さんは、もっと強くて、かっこいいんだもん」


........このクソガキ、喧嘩売ってんのか?


「僕が弱い?言うじゃないか。君のお父さんはドラゴンが殺せるから強い?

上等だね。僕なら軽く神サマをぶっ殺して見せようか?

ドラゴンと神、どっちが強いかなんて、分かるよね」


と、そこまで一息に言って、キアの顔を見て嫌な予感を覚える。

僕は生物の表情がここまでキラキラと輝いているところを見たことが無い。


―嗚呼、やってしまった。


....はあ、どうしようか。もう既に口に出した後だしなぁ....

ん?これは逆にチャンスともいえる状況じゃないか?

『神を殺す』これさえ達成すればキアは僕の事を父親だと勘違いする。

なかなか悪くない状況だ..が。

そもそも神サマって殺せるのかなぁ。


神サマ....神サマ、神サマ、神サマ神サマ神サマ


頭の中で重く反響する音。

懐かしいなぁ、アハハ、分かってたよ。

どうせ殺すんだ。

殺したときのメリットが一つ増えただけだ。

僕は別に許したわけじゃない。

ただ、執行猶予を与えてあげていただけだ。

さあ、いざ神殺しの準備をしよう。

正義の鉄槌、なんてもの必要ない。

冥界の触腕で引きずり込んでやるよ。

理由なんて、気に入らない。で十分。

御大層な理由も、壮大な夢も、必要ない。

ただ一つの目標で僕は動く。


......僕は、幸せが欲しいんだ。


だからてめえら全員地獄に落ちろ。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


幸せ、って何だろう。


僕があの日、僕の幸せを母さんと約束してからずっと考え続けていたことだ。

考えて考えて、そして考え続けたけど、答えは当分出なかった。


やがて、幸せを失い、十数年経って、僕の幸せだった記憶が薄れ、既に地に還った両親の顔もぼやけてきたころ、ようやく知った。


始まりは近くを走っていた子供が地面につまづいて転び、大泣きをしていたのを見てからだ。


その時の感覚は、何とも言えないぐらい僕の脳みそに新しい..いや、懐かしい刺激を与えた。


―ああ、この子供は、きっと今、ものすごく『不幸』なんだろうなぁ―


これが答えだった。

僕が僕を幸せだと感じれるとき、それは僕の周りの奴らが僕より不幸な時だ。


そりゃあ、全く分からなかったわけだ。

なにせ幸せだった時の記憶が鮮明だった時は、周りののんきな顔した奴ら全員に殺意を抱くほどの嫉妬に駆られてたんだ。

まあ、今は幸せの条件が分かってるんだし、

どうすればそれが強い幸せになるのか、も分かってる。


最上級の幸せを、最上級の不幸から貰うんだ。


アハハハハ....


「ねえ兄さん、明日から出かける、ってどこに出かけるの?」


足元からキア(不幸の元)が間延びした口調で聞いてくる。


「知りたい?....え~と、そうだねぇ、僕の故郷の村。だよ」


質問には答えたが、まだ納得して無いようで、再度質問してくる。


「兄さんの生まれた村?そこで何するの?」


予想通りの質問に、口角が吊り上がるのを感じる。


「何をするのか、ねぇ。決まってんだろ?

ぶっ殺すんだよ。あのクソ陰険クソ神サマを、よぉ。

....ヒヒヒ」


なぁ、そうだろ?決まってたんだよ。だからさぁ、大人しく俺に殺されてくれやぁ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


カミサマのレポート


神様、と呼ばれる種族。

一般的には全ての神様の頂点であるとされる全神もここに入る、とされているが、これは間違い。

全神は、神様の頂点であるため、他の神と同レベルの存在ではない。

文字通り次元が違う、とされている。

全身は先述の通り神様ではないので、ここでは全神については触れない。


そもそも神様とは何か。

これは一般的な定説とあまり変わらず、『意味を持った概念』と呼ばれることが多い。

この場合の『意味』とは、目標、生きがい、心等、多岐にわたる。

そして、意味を持つと同時に、神様には自我も生まれる。

だが、『意味』を持つ条件などは不明、近年の学者は、思念が概念に宿っている。と言う説が唱えられている。

思念が概念に宿る。まるで霊のようだ。


だが、そもそもこの説自体、個体名『イキ』と呼ばれる、絶望の神様が黒い霧状の個体、と言うことを見て思いついた。と言われているため、信憑性はあまり無いのかもしれない。

そもそもはっきりと個体を確認、記録できている神様がイキしかいないため、神様が種族なのかも怪しまれている。

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