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三話

夜の闇に包まれた監獄内に響き渡る悲鳴。

..ああ、ゾクゾクすんなぁ....ヒヒ


俺は足元の看守の死体を蹴り飛ばしながら問いかける。


「てめえがあの大悪党サマってやつかぁ?」


「あ..ああ..血....血が....」


「ああ?ぁんだよ、血がどうしたってんだぁ?てめえのじゃねえだろぉがよ。

いいから質問に答えな、ヒヒ..ヒヒヒ

それとも、てめえのガキにでも聞いてみるかぁ?ックヒヒ」


俺の放った最後の一言で、牢屋の中のクソ女の目に正気が戻る。


ったく、手間掛けさせやがって、めんどくせえ奴だ。


「私の..私の娘の事を知ってるんですか!?」


「ああ?当たり前だろ?じゃねえとわざわざこんな辛気臭いとこ来る訳ねえだろ。

ヒヒ、安心しなぁ、別にぶっ殺したわけでもねえ。

今頃俺がとった宿でクソ奴隷と寝てんじゃねえの?」


俺がせっかく無事だと伝えてやったのにまだ不安そうな顔をするクソ女。


「ヒヒッ、安心しな、別に誰にも言っちゃあいねえ......今のところは、だがなぁ」


ここまで教えてやったのに、安心するどころか、余計緊張感を高めるクソ女。

ヒヒヒヒ、分かる、分かるぜぇ、その気持ち。

心配だろぉ?心配なんだよなぁ?

こんな平気で人を殺すような奴に娘の生殺与奪を握られてるってのがよぉ。


「や、約束してください。

絶対に誰にも娘の事を言わないって....お願いします!」


お?そう来る?

意外だなぁ、顔を真っ赤にして怒るか、泣くか、だと思ってたんだが、まさか冷静、だとはなぁ..


「ああ、秘密にしといてやるよ、あのガキには俺も用がある。

んな事より、あのガキについて質問があんだよ、答えな」


強い口調だが、どこか小馬鹿にした調子で話す。

数舜迷った様子の牢屋の中の女も戸惑っている様子で頷く。


「んじゃ、まずは確認だが、あのガキはてめえとカゲ族のハーフ、で合ってんだよな?」


小さく頷いたのを確認して、再度口を開く。


「ならそのガキと人の違いはなんだ」


「..カゲ族は短命で、歳が二桁ほどになると、急成長するので、

あの娘もそろそろ急成長が始まると思います」


急成長..カゲ族にそんな特性があるのか。


「急成長..ねぇ....おし、とりあえずこんなもんだな。

ヒヒ、約束だぁ、あのガキの事は黙っててやるし、

その命もこの俺がちゃぁぁんと保護してやんよ、感謝しな」


笑いをこらえながらも、変わらず小馬鹿にしたように言う。

看守の持っていた短剣を拾い上げながら....


「ありがとう..ござい、ます」


ヒヒヒ、ああ、不安だよなぁ、なにせ俺が言ってるのは、命は保証するが、俺と過ごす。

ってことだ、ックヒヒ、安心しろよ、あのガキの前じゃあ抑えてやっからよぉ。


....だから..安心して逝けやぁ......ヒヒヒッ


牢屋の格子の隙間から高速で飛んで行った短剣は目の前で起こっている現象に対し、恐怖を浮かべる女の眉間に突き刺さる。


..クク....クッヒッヒ....ヒヒャハハハ!!


....ああ、たまんねえなぁ。

あの最後の絶望の色。


クヒヒ..これで残りの不安因子は取り除いてやった。

ックヒ....ヒヒ..ヒ..ハハ......アハハ

やってやったよ、母さん。

あの日の約束は違えないからね。

僕は..絶対にぃ..幸せになるんだぁ

ハ..ハハ....アハハハハ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


スティスの朝は早い。

何故なら、生まれてからずっと奴隷生活だったエマは家事が出来ない。

そして、火や包丁を扱わせる年齢ではないキアは論外。


当然、家事は僕がすべてすることになる。

エマは家事をやりたそうにしていたが、朝に弱いチスイ族のため、起きる様子はない。

おそらく今も布団の中で小さくなっているのだろう。


使えない奴隷ちゃんだなぁ。

まあいいや、今は気分が良い。

なにせあの女の最後の顔、ヒヒ、思い出すだけで....ああ、顔がニヤけるなぁ。

でも、アレじゃない。

いうなればアレは前菜、オードブル、つまり、料理とも呼べない存在だ。

ハハ..っと、そろそろ市場が開かれるかな。

一応、置手紙を残して....うーん、めんどくさいし、完成品でも買うか。

うん、そうしよう。

わざわざ金をケチる必要は無いんだし。

あれれ?もしかして、早く起きる必要なかった?


はあ、まあ、過ぎたことだ。

さぁて、朝食は何にしようかなぁ....


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


んん~?

人の..これは警察か?..多いね、奴隷国にしては。

何かあったんだろうか....って、ああ、あったなぁ..そういえば。

いやぁ?僕は知らないよぉ?監獄に侵入してぇ、数週間後に裁判を控えた女が何者かに殺されたぁ、なんて。

びっくりだよぉ。としか言いようがないね、まったく、物騒な世の中なもんだね....アハハ

ん?そういえばあの時、妙に人気が少なかったなぁ..まるで....ま、いっか。

はぁ、証拠は残してないと思ったんだけどなぁ..失敗?いや、そんなことは無いさ、計画を少しだけ前倒しにして、次の段階に進めるだけだ。

ま、『善は急げ』ってね。


「おいアンタ」


うわぁ、びっくりしたなぁもう。


後ろからする低い声に首だけで振り返って答える。


「何です?」


予想通り、人の警察か。

僕が犯人だとバレ..ては無いかな。

もし僕が犯人だとバレてたらそんな人殺しに一人で話しかけてくるなんて馬鹿なことはしないだろう。


警察のおっさんは懐から、頭蓋骨の上に、皮を無理やり張り付けて、その比率を縦2、横1に無理やり引き延ばした様にしか見えない絵が描かれた紙を取り出す。

何だこれ?...って、このタイミングで出す紙なんて一つしかないよなぁ....


「こんな感じの奴を見なかったか?」


まて、僕はこんな顔してない....はずだぞ?

さすがにここまで人間はやめてないし、もうちょっと若々しい。はずなのに

なんだこのまるで、捜査を妨害する目的で作られたのか、って絵は。


「見て..無いですねぇ、ええ、知りませんねぇ」


うん、嘘じゃないな。こんな謎生物見たことない。

ちょっとでも似てたら即犯人扱いでいいと思うなぁ。

こんな顔の奴、絶対に二人といないだろう。

むしろ僕が見つけたら博物館にでも送ってやろうか。


..冗談はこれぐらいにして、このまま小さな奴隷国で逃げ隠れするのは無理がありそうだなぁ。

さっさと王国に逃げようか。

この調子なら僕は見つからないだろうが、キアがもし何かの拍子に人と人外のハーフってバレたら終わる。


さて、この状態なら、通常の手段で奴隷国から逃げるのは無理だ。

検問が敷かれてるのは間違いない。

その時に、キアの存在がバレる。

..今更ながら奴隷国に入るときに手続しなくて良かったな。

一応、もし手続きをしていたとしても、一度、正規の手段で奴隷国から僕一人で出て、また仙術で戻ればいいだけだ。

でも、めんどくさいし、無駄な行動はバレるリスクを高めるだけだ。

さぁて、どうやって奴隷国から出ようかなぁ....


なぁんて、方法ぐらいはもう思いついてるんだけどね。難しい話じゃない。

いくら、奴隷国からの脱走する数多くの手段を検討して、王国が一つ一つ対策していても、

それらの対策のそのすべてがひっくり返る。


たった一つの要素さえあれば、ね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ねえキア、外の国に行きたい?」


「外の国?」


予想通り興味をしますキアに、あらかじめ選んで置いた言葉から、面白そうに思えるように伝える。


「......って感じかなぁ」


話し終えたころにはもう目をキラキラと輝かせるキアに、満足していると、エマが横から耳打ちしてくる。


「大丈夫なんですか?この国から出る方法。

忘れては無いと思いますが、キアは....」


「大丈夫、忘れてなんかないさ。

それに、手段も考えてあるからね。

..もちろん正規の方法じゃあ出ないよ」


そもそもキアは王国にすらその存在すら知られていないの、いわゆるあの女の隠し子だ。

これはもうエマには話してある。


「今夜にでも王国に行こうと思ってるんだ。

エマも初めてだよね?王国に行くの」


..ヒ..クヒヒ


「は、はい。私、奴隷として育てられたので、この国しか知らないので、ちょっとだけ楽しみです!」


自身の未来に強い希望を持った表情。

....もう、今日でいいかなぁ。

多分、実際に王国に行って、クソみたいな現実を見たら、質が落ちるし。

うん、実行は王国に着いた時でいいか。

それまでは奴隷ちゃんももう一つだけ仕事があるし。


母さん、僕、やっと一歩進めそうだよ。

アハハ、うん。そうだよ、さすが母さん。

僕の事をよく分かってるんだね。え?ああ、そうだね、当たり前だね。

僕ね、もう楽しみでしょうがないんだ。

あのオードブルが僕の欲を掻き立てるんだ。

奴隷ちゃんも僕と同じで、楽しみでしょうがないのかなぁ。


もし、本当に同じ気持ちだったらよぉ....

サイッコウの味見になりそうじゃねえかぁ!

ヒヒ..ヒヒ..ヒ..ヒ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―ある奴隷の日記―


―月―日


楽しみだなぁ、今この日記を書いてるのは夜、そろそろ出発するんだ。

王国に!


楽しみだなぁ....って、また同じこと書いちゃった。

でも、本当に楽しみなんだ、仕方ない。

奴隷として今までいろんな人を見てきた。

当然、その中には王国の人もいる。

美味しそうなものを食べてて、可愛い服を着てて、みんなすっごく楽しそうだった。

私も、その仲間入りなのかなぁ。

それに、私のご主人様..本人にそう言ったら、スティスでいい、って言われちゃったけど。

あの人はきっと、特別だ。

だって、奴隷の私にこんなにやさしくしてくれるなんて、きっと何かが特別としか思えない。

本当に私は....『幸せ』者だなぁ。


―ある少女の??―


私をお世話してくれるにいさんと、今夜、おうこくに行くんだって。

起きてられるかなぁ。

もし寝ちゃってたら....あの怖いお姉さんに怒られちゃうのかなぁ。

..だ、大丈夫。ちゃんとゴメンナサイしたら、分かってくれる。

あのお姉さんは、たまに優しいし、それに、もし怖かったらにいさんに助けてもらおう。

―にいさん、普段はとっても優しいのに、たまに雰囲気が怖くなる。


あれ?私は何でこんなにもにいさんの事を信用してるのかな?

もうちょっと前までは『にいさん』じゃなくって『お兄さん』って呼んでた気がする....まいっか。


これが私のお母さんが言ってた『純粋』って言うことなのかなぁ。

お母さん、もう顔も思い出せなくなっちゃった。

....お母さん、逢いたいよ、今どこにいるの?


私は今、寂しいです。

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