十三話
「さて、イキ、なんて呼ばれてはいますが、どっちの名前で呼ばれたいですか?
......キアさん」
目の前の、姿はスティスさんの奴隷にはなってはいるけど、間違いなく、その雰囲気は無限に等しいであろう時間、観てきた『キア』さんだ。
恐らく、経験からいつも通りならこの後は何もしなくても、望むとおりに流れることを知っているのだろう。
死んだかのように、魂が抜けたかのように、ただひたすらにスティスさんを殺すための呪術を使っている。
この時のために遠い遠い、はるか昔から行動してきた。
今更こんなところで。凡ミスでは認められない。
....私が観れる未来は、もうすぐ終わりを迎え、そこからは誰も知らない完全なる可能性の世界になる。
そしてそれは、くだらない世界に付き合わされ続けた、全ての『キアちゃん、さん』を救うことと同じだ。
......そこに私がいないのは、すこし寂しいけれど。
「キアちゃんさん。助けに来ましたよ。やっと、になりましたが」
「....................」
無反応で呪術を使い続ける。
予想はしていたけど、ちょっとショック。
まあいいかな。私にも、というより、呪術をかけられているスティスさんに時間が無い。
もっといろいろ話していたいけど、仕方ないかな。
来世があるのか。なんて分からない。
死後の世界も、来世と同じで、きっと存在しないんだろう。
何となくだけど、私が観える未来は、私が死ぬまで。
ということは、きっとそこで終わるのだろう。
でも、私も彼女も、十分すぎるほど。
この世界を知った。
特に彼女は、無から始まって、純粋なまま、騙され、それでも自分で考えた末、信じて、助けられ、
そして過去に巻き込まれ。
歪んで、それでも考え、手を伸ばして、でも誰にもとられることのなかった手は届かず、そのうち伸ばしていた手は自身を抱いて、
それまでの世界まるごと犠牲に、ただ一つの目標を叶える為だけに、でもそれでも足りなくて、いつしか目標は....
でも、だからこそ知っている。
「意味と器。あなたも私も、どちらかがかけた存在。仮初でも重なれば........」
汚い言葉だ。
重なれば?違う。私が彼女を取り込むんだ。
強引に。
そしてその後、自己崩壊。勝手に彼女を巻き込んで自殺。
でも、これは私の道だ。
汚くたっていい。他人の視線を気にする程度で変わる道なんて、所詮自分の道じゃない。
それに、言い訳かもしれないけれど、彼女を救う唯一の方法だと、少なくとも私は、そう思ってる。
そしてなにより、私は知っている。
彼女は、私が取り込もうとしても、決して抵抗はしない。
だって彼女は、寂しいから。
本物のスティスさんに会えない気持ちを、誤魔化すために、目的がいつの間にか変わってしまっているから。
―ごめんなさい。
心の中でそう謝って。
これでこっちのできることはすべてやった。あとは任せた。
と、自身の恐怖を誤魔化して、再度決意して。
自身の消滅へ
未来から、可能性へ
廻り続けるだけの世界から、一歩外れた世界へ
―サヨナラ