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十一話

「......」


なんて声をかけていいのか分からないな。


カゴメカゴを壊し、現れたのは、以前、カゴメカゴに入ったとき同様、体育座りのまま、膝に顔をうずめたエマ。


多分、本人はカゴメカゴから解放されたことにすら気づけていないのだろう。

微動だにしない。


「エマ」


エマが肩を震わせ、ゆっくりと、緩慢な動作で首を上げる。


「え....何で..私は」


「今まで、悪かったね」


目を合わせたまま謝る。


「私は..もう自由になったの?」


頷く。


「..何度も夢見てたことです。もし出れたら、って。

あなたになんて言われるのか。とか、どう言い返してやろうか、とか。

......どうやって殺してやろうか。も考えてました....今はもう、呪術を使うための力も、スティスさんの血も、もうありませんからね。

それに、謝られることだけは、全く想像できてませんでした。

......この気持ちは、どこにぶつければいいんですか..

出られるだなんて、今まで本気で思ったことは一度もなかった!

私のこの気持ちは!さっきまで間違いなくあなたを殺したがってた!呪術が無くったって、歯があれば、腕があれば何が何でも殺すつもりだった!!

..でも....なんで..なんで許すんですか......

あなたに許されてしまったら..私のこの気持ちは何なんですか!?......いえ、いいです。

すいません、奴隷の身で」


エマの叫び、なんて返していいのか分からない。


「本当に、悪いことをしたと思ってる」


後悔はないけど。


「だから、もう自由にしてくれてもいい、前にした約束を破ることになるけど、奴隷から解放してもいい」


「....いえ、私は..もうあなた以外、何も無いですから..家族、地位、教養、財産、対人関係。生きていくのに、最低限どれか一つは必要でした。....私には、もうありません。

自由にしていい、って言いましたよね。ついて行きますよ。嫌がられても」


「そっか」


少しの間、無言の時間が流れ、それをキアの声が遮る。


「..ねえ兄さん、なにアレ」


キアが隣でエマを指さしながら....違う、エマの後ろ、黒い粒子が湧き出ている。


「え..な、なにこれっ」


そしてそれはエマを囲い....エマの瞳から光が消える。


マズイ、この黒い粒子、僕の予想が正しければ....


「..ねえ、兄さん。あなたまで私達を裏切るの?」


イキ..だよな。だがなぜこいつが僕を『兄さん』と呼ぶ?


「..兄さんもソイツと同罪。許さない。殺す。殺して....あなたも私に混ざって私になるの。

だからさっさと死んでよ、前みたいに....私の時みたいに!

三途の滝!」


「なっ....何でその呪術を..クソ、エマの身体だからか?」


ふと、頭を女性の声がよぎる。

『大丈夫ですよ。エマさんはまだ呪術は使えませんし、スティスさんの血を持ってはいません。

私の友人..というか協力者が没収しました』


「すいません、スティスさん、キアちゃん」


隣で地面に何かが落ちた音。

反射的に振り返る。

キアが地面に倒れている。


「..ライリン、何のつもりかな?」


僕とエマ..中身はイキだが..の間に、まるでイキを守るかのように立つライリンに問う。


「騙してた、のか?」


「すいません。でも嘘はついていませんよ。実際にエマさんはさっきまで使えないはずです。

私の協力者が力を没収していましたから。

でも、その協力者が、絶望して、諦めて、今ここで、エマさんに取り付いてますから、

没収していたスティスさんの血も、呪術を行使する能力も、結果的にはエマさんの中に戻っています」


「ハッ、知った事じゃないね、僕は今騙されたと感じてる。あなたに言われたようにね、感じたままに生きてるんだ。

......これ以上邪魔をするんなら、関係ナシでいいよね」


最終勧告のつもりだ、なんだかんだライリンには助けられたこともある。

が、僕の命となら天秤にすら乗らない。


「諦めてください、私は全力であなたの邪魔をしますよ。

これでも予測は得意なんですよ。それはもう、実際に観たかのように分かるので」


これがキアが何処に誘拐されたか、場所を把握していた理由か。


「知った事じゃないね、なら僕がそんなくだらない未来を変えるだけだ」


未来は変えられる、と僕が言うと、ライリンは自嘲気味に笑う。


「違いますよ、未来は..変わりません。

私が見ることが出来るのは私が死ぬ時まで。それまで、ただの一度変わったことはありません。

あなた達からすれば、全て運かもしれませんが、私からすれば、すべて予定調和。

主観によって、こんなにも世界は変わるんですよ。

知らない人たちからしたら奇跡。ですがすべてわかる私からすれば、必然、そこに希望も夢も、可能性もありません。

ふざけたものですよね、全ての未来が分かる私が、希望という意味を持って生まれた神様なんですよ?」


「なら、僕の主観からすれば未来は変わるね。何の問題もない。僕の世界は可能性の世界、可能性を生きるって言ったのはあなただ。

さて、お話はもう終わりでいいよね、時間ももうあんまり残されてなさそうだし」


少しずつだるくなっていく身体に内心イラつきながらも、余裕の笑みを浮かべる。


ライリンの話が本当なら、僕が負ける道理はない。


....希望の神サマなら、ちょっとぐらい僕の希望叶えてくれよ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱりね」


地面に倒れるライリンを見て思う。


「..結構、思いっきり来ましたね。地味に痛いんですけど....

それで、何がやっぱり、何ですか?」


「あなた..嘘、一度も付いてないんでしょ?多分、それは本当なんだと思った。

だって、実際に全力で僕の邪魔をしてるし、僕の攻撃を読めてた。

でも、未来を完全に読めてるくせに、僕が負ける、なんて一度も言ってないだろ。

分かってたんじゃないの?僕に勝てない事、僕の邪魔をしたところで間に合わない事」


ライリンは軽くほおを緩めてほほ笑む。


「はい、私のささやかな自慢です。嘘はついてません。

ただ、一つだけ間違いがありますよ。


......私の邪魔で、呪文はしっかりとあなたを蝕んでいるんですよ」


「....ま、そうだろうな、とは。思ってたさ。

やってくれるじゃねえか..くそ....ハハ、だな、もう足の感覚が怪しいね。

....ま、最後までがんばったし、約束は守れなかったけど、母さんも許してくれるさ。

ははは、せっかくここまで来たってのに..悔しいね」


不思議と、死の接近を自覚しながらも、僕の頭の中に未練はなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


スティスさんが地面に倒れる。


それを確認すると、即座に演技を止め、起き上がる。


「今のは嘘じゃないですよ、演技なんで、セーフです。まだ、正直者は私の自慢です。

私のたった一つの自慢、冥土の土産に持っていくことにします。

それではスティスさん、最後のピース、託しますよ。あとは任せます。

さよう..なら。

......キアちゃん..も....ね。ばいばい」


気を失っている二人にサヨナラの、最期の挨拶を済ませると、こみ上げてくる感情を抑えるため、

一つ深いため息。

そして、イキに向き合う。


「さて、イキ、なんて呼ばれてはいますが、どっちの名前で呼ばれたいですか?

......キアさん」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


う、ここは....どこだ.......


辺りは暗い、夜か。

町並みは..見覚えがあるね。奴隷国だ。

なんでこんなところに......


なんだ?身体が動かない..いや、動いてるけど、それに僕の意志は関係ない。というか、以上に視点が低い。


(イタッ!)


頭の中に少女の声が響く。

何かにぶつかった様だ。


これは..あれか?僕の精神だけ他の奴の身体に乗り移ったのか?


「ん、大丈夫?走ったら危ないよ」


身体が上を向く。


「は~い。ごめんなさい。

あ、お兄さん、私のお母さん知らない?」


....既視感。このセリフ、何となく聞き覚えがある。


そして身体の正面にいる男。


訳が分からない。何が起こっている?

確か僕は、イキが乗り移ったエマに呪術で殺されかけて..意識を失って....それで目が覚めたらこれ。

イキのせいか?


くそ、分からないな。


(変な声のお兄さんだな~)


そして頭の中にこだまするように聞こえる少女の声。おそらく少女が思っていることだろう。


分からない。

なんでこいつが..なんで僕がこの身体の目の前にいるんだ......

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