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十話

日が昇ろうという時間、急に目が覚めた。

昨日は遅かった、というか寝たのは今日、つまり12時は優に越していたはずだ。

にもかかわらずなぜかこんなにも朝早くに目が覚めた。

そして、目が覚めたと同時に飛び起きる。

なぜか部屋の中に僕とキア以外の第三者がいた。


「......」


誰だ?

口には出さない。

顔は、深くかぶられたフードと、あたりが暗くてよく見えない。


「久しぶりだね....私からすれば、もう数億年かな..」


独り言のように、ポツリ、と呟きだす。女性の声。

....僕に言っているのか?


「誰?」


聞くと、少し嬉しそうに、その言葉を待っていたかのように、フードを外す。

現れたのは......誰だ?

深いクマ、濁り切った瞳、灰色と白が混じった地面に付きそうなほど長い髪、身長は僕の肩ぐらいだろうか。


「すいません、全く覚えてないんですけど....人違いじゃないですか?」


女の一挙一動に警戒しながら慎重に返す。


「はえ....じょ、冗談だよね....は..はは、分かるよね?

ほら、私だよ、誰かに似てない?」


言われてみれば、誰かに似ている気もする、が、分からない。


「いえ、全く。やっぱり人違いだと思いますがね。帰ってくれませんか?」


「..なに?これでも足りないの?ねえ、教えてよ、私、もうどれだけ待ったの?こんな事のために?

ねえ、ねえねえねえ、どうすればよかったの?ねえ、私..は....もう、再開もできないの?

は........は......も、もう、いいや....はは......」


涙声で、涙は出さずにその女はフラフラになりながら部屋から出て行った。


部屋から出ていくとき、だんだん黒い粒子になって崩れて行ってたのは気のせいかな。


ああ眠い、さっさと寝直そう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


....ついに、始まりましたね。

やっと、と言うべきでしょうか。ずっと待ち続けていた時がやっと来たんですし。


ここからはもう間違えることは出来ない。私は全てのあの娘を救い、世界を救うこと。

それこそが私の使命だと、私は思う。......いや、あの娘だけは私が救うことは出来ないかな。

でもそこまでつなぐのは....ちがうかな。私の行動理由は世界のためなんてお手本みたいなものじゃない。

ただ救いたいだけだ。これまで救われてこなかったすべてのあの娘を。


決意を胸に、開かない目に手を当てる。


待っててくださいね、キアさん。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


予定通り、目が覚めてもキアはまだ寝ていた。

完璧のタイミングだね。と自画自賛をする。


「仙術、起動。全典、展開」


いろいろ考えたんだ。キアを一気に絶望に落とす方法。多分、僕がキアの目の前で死ぬことが今のキアにとって、一番つらい事なんだと思う。でもまだだ、まだ死ぬわけにはいかない。

せめて、最後まで母さんとの約束に全力を尽くしたいしね。

ならどうするか。実際にあった事の様に感じ、でも実際にはないことが起こる、そんな空間。

あるじゃないか、僕の知る限り一つだけ。


幻典(げんてん)、不思議の国のアリス」


幻を操る仙術だ。

これを応用すれば、キアの夢に干渉できる。ついでにキアの夢にも入れる。


「さ、いざキアの夢の中へ、トゥルーエンドを見に行こうか」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あれだな、精神体だけの感覚。カゴメカゴを思い出すかな。


っと、これでここは僕の夢でもある。というか僕がキアの夢を乗っ取ってるから自由に操作できる訳だ。

....ついでに一つ疑問もあるし、それも消化してしまおうか。死んでも気になってたら成仏できないしね。

幽霊になんてなるつもりはないけど。


さて、まだ何もない空間だけど....ここにキアの両親を生成する。

ここで生成するキアの両親は、キアにとってのキアの両親だ。僕にとってのキアの両親じゃない。

つまり、母親は僕が殺したあの女、これはどっちも同じだ。

そして父親、キアにとっての、の場合、父親として生成されるのは僕のはずだ。

僕にとってのキアの両親の場合、生成されるのは....なんだろうな、藁人形とかそんな感じかな。

僕の疑問、キアは本当に僕の事を父親だと思い込んだままなのか。という事だ。

理由はこれと言ってないが、好奇心だ。


生成されたのは、それぞれ膨らみを持つ二つの血まみれの布団と、その間に立つ一人の少女、キアだ。

ちなみにこのキアは本物のキアの意識と直結している。


キアは何が起こったのか分からない、という表情をしていたが、夢特有のなぜか現状に違和感を覚えず、

血まみれの二つの布団を見下ろして、口元を抑える。


さて、その布団の中身は何だろうね。


キアが片方をめくれば光を映さない目をした女性、あの女だ。


それを見たキアは、少し顔を青ざめて、目を逸らすように布団から目線を外し、もう一つの布団に向かい、

それをめくる。中には....は?

ドラゴン?だよなあれ。

なんでそんな奴がここに.....違う、キアはそう思ってるんだ。自身の父親がドラゴンだと。


やっぱりか....僕が父親だ、なんて思ってなかったのか。


クソ、計画が狂ったな。まあドラゴンはともかく、僕が父親だと思われていないことは想定内だ。

というか普通に僕の偽物出して適当に死なせればいいだけだ。


―だが、キアが最初から気づいていたのか、途中で気づいたのか。途中で気づいたのならいつ気づいたのか。

気になる。


自身を実体化し、キアの夢の世界に降り立つ。


「あ、兄さん!」


と同時に僕を見つけたキアが駆け寄ってくる。


....こいつ仮にも両親の死体を見つけた後なんだよな?

だが、よく見ればキアは僕の服の裾を掴んでいる。


自身の両親の死体を見た時の反応ではないが、一応死体を見たことにはそれなりに恐怖感は覚えてはいるらしい。


「キア、いつから僕が父親じゃない、って気づいてたの?最初から?」


聞くと、キアは僕を見上げて驚愕の表情を浮かべる。


「何で分かったの?......えっと、いつから、って訳じゃないんだけど、ちょっとずつ違うのかな、って思ってて、ほら、よくよく考えれば年齢とか、ね?」


はいそうですね。時と共に物事を深く考えられるようになれば当然気づくことですね。


だって、明らかに親子の年齢差じゃなくて、兄妹とかそんな感じだもん。

思ったよりキアの事を馬鹿だと思ってたけど、実際はいろいろ考えてるんだな。


「じゃあ、何でその嘘をついたか、知ってる?」


「んー、分かんないけど、それでも兄さんが私に酷い事なんかしたこと無いもんね。

別になんでもいいかな、私は兄さんと一緒に居られる理由になるならそれでいい」


....ふーん........


というか、話してたら僕が死ぬ夢を見せるタイミングを逃しそうだな。

....もう面倒だしちょっと不自然だけどここから僕が死ぬところを見せようか。


身体はそのままもう一度精神体に戻る。


要は幽体離脱だ。


そしてそのまま、単純に分かりやすく........全身を棘で串刺しにする。

辺りが血まみれになり、当然キアの顔にも血が飛散する。


....が、キアはそんなこと気にしない、想像通り、両親の死なんかより、僕の死のほうが堪えるようだ。

眼を見開いて、膝から崩れ落ち、膝立ちのまま、震える手を僕の死体に向けて伸ばす。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


初めて聞くキアの金切り声。

そのままの体勢で首から力が抜けたかのように俯く。

そしてその細い肩はガクガクと震えている。

数秒間そうしていると、キアは突然立ち上がり、僕の死体の手を取る。


その顔は、帰るべき道も、頼りにしている人も失った、まるで迷子になった子供の様だった。


....直感が、僕の第六感のようなものが全力で叫んでる。

このままだとマズイ。

と、ただ、ここでやめればもう二度と次のチャンスはこないだろう。

これが失敗に終わったとしてもそこで僕は終わるつもりだ。

昔は....次のチャンスを探すつもりだったけど、もう今の僕にそこまでのやる気は無い。


そしてここで直感に従わないと、おそらく後悔する羽目になるのだろう。

だが、ここで直感に従えば、当然これまでの僕の苦労は全て水の泡、後悔するのは目に見えている、


クソッ、どうする....どっちを選んでも後悔しそう....ならいっそのこと僕の計画が成功しそうな方......おかしいな、今のキアを見ても....吐き気と胸糞悪さしか覚えない。

キアの両親が死んだときまではまだよかった、あのタイミングまでなら僕はまだ幸せを感じられた。

だが今は....一時的なモノだろうか..このまま続行するべきなのか?


「スティスさん」


ライリンの声、馬鹿な。

顔を跳ね上げる。


「何でお前がここにいる」


ここはライリンが入れる場所じゃない。

夢を見ている張本人であるキア、そして仙術で入っている僕だけの空間のはずだ。


「今は時間がありません。次の準備もありますし....手短に話しましょう。

スティスさん、あなたはこれで..いいんですか?

キアちゃんを見てください、目に穴が開くほど見てください、これがあなたの望むものですか?」


キアに目を向ける。

僕の、望みか。その視点で見れば確かに違うな....でもこのままいけば望むものになるかもしれないんだ。


「..........」


「私は、何かを変えることは出来ません。

何かを変えるのは、変えられるのはスティスさん、あなたなんです。

あなたは私と違って、可能性を生きる人です。あなたの思うように、感じたように行動してください。

昔の考え方に沿って生きる必要なんてありません。あなたが存在しているのは間違いなく、今、この瞬間です」


ライリンの言葉、字面だけ見れば中立に見えなくもないが、本人の態度、口調は明らかに偏っている。


ライリンの言葉..まるで幽霊みたいだな。幽霊ではないんだろうけど。

ライリンの言葉を聞いているとよく思うのが希望的観測が多いよね。ライリンは器を無くした神、なんだっけ?

確か、もともと神ってのは『器』とそこに宿った『意味』の二つで構成されているはずだ。

ならライリンの失われた器に宿った意味。

.....希望、なのかね。ま、後で聞けばいいか


それじゃあ僕も、生まれて初めて神様を信じてみようかね。


「だから、あなたにとっ「ああ、分かった分かった、神様の説教は長いね」


と、ライリンの話に割り込むと、彼女は安心したような表情で


「では、キアちゃんを任せますよ。また会いましょう」


と言い、消えていった。


そして、キアの夢にもう一度姿を現す。


「........キア」


ぼんやりと立ち尽くすキアに呼びかける。が、反応はない。

近づいて、その頬に手を当て、ようやく反応を見せる。


「え....あれ?..夢?......あ..あああ、兄さ..ん....うあああああああああああ」


予想はしていたけど、泣き出したな。

まあ、キアが泣き虫なのは知っていた。というか、今回は全面的に僕が悪いんだし、仕方ないね。


「............」


キアが泣き止むまで待とうか。一応、全て話そうとは思ってる、だから一度落ち着いた状態で話し合いたい。


「........兄さん、これは..兄さんがやったの?」


はあ、思いのほかキアがよく考える子になってるね。普段はスーパーヒーローだとか、猪突猛進なのに。


「そうだよ。悪かった、とは思ってる」


「私、怖かった、世界を恨んだ。兄さんがいない世界を恨んだ。

もう二度と、絶対に私を一人にしないで」


「うん、約束しようか」


....嘘だ。寿命に差があるし、僕も長生きするつもりはない。適当なところで終わらせたいし。


「....うん。......ねえ、何でこんな事、したの?」


当然の疑問か。


「昔話になるけど..いい?」


「うん、私も兄さんの過去、知りたい」


「そっか。

僕の生まれた村、前に一緒に行ったよね。あの村さ、誰もいなかったよね。

でも僕はあそこで育ったんだ。僕が小さい頃はあそこにも人が居た。

当然僕も両親に育てられてたよ。

でも、ある日を境に村の様子がおかしくなった。

それからは簡単だ。時が経てば、村の人が自殺していって、人口と共に村は衰退。結局廃村になったよ」


「集団自殺?兄さんはどうしたの?」


「集団自殺..まあそんな感じなんだけど、原因があったんだよ。こうなった原因が。

....イキ、覚えてるよね。アイツ、絶望の神なんだ....ああでもライリンは違うって言ってたっけ?

まあいいや、とにかくイキは他人に絶望を植え付けることが出来る。

まあ要は精神的に攻撃できるんだね。それで、集団自殺..って言うか、ちょっとずつ自殺者が増えて行った。僕は..なぜかイキになにもされなかったけど」


イキのしていた精神攻撃..僕がイキの事を悪く言うこともできないな。

隣のキアを見て思う。


「それで、母さんとの約束なんだ。幸せになるって。

それで、僕が幸せを感じられるのは....まあ、なんというか、人の不幸を見た時なんだよ」


「それで..あんなことしたの?....どうだった?」


妙に鋭いね。

軽くため息をつく。


「気分悪くなっただけだよ。それに、ライリンに説得されないと、まだやめて無かったかもしれない」


そして、僕の言うことはもうない。

これについてキアがどう反応するか、だね。


「私は、もういい。さっきさ、約束してくれたでしょ?私を一人にしない、って。

あれだけで十分..........ここからどうやって出るの?」


「ああ、ちょっとまってね....よし、夢はもう終わりだね」


辺りの景色が変わる。僕はキアの夢に入る前と同様、キアが寝ている隣に座っている。

キアも意識が戻ったようで、あたりを見渡している。


「覚えてる?エマ、あの奴隷の事」


「覚えてるよ。そういえばあのお姉さんって....」


「いろいろあってね、僕が隔離してた....ああ、当然僕が悪いんだけどね」


「そっか、えっと..じゃあ、出してあげようよ」


やっぱりそういうよな、いや、でも殺されそうだよな。


「大丈夫ですよ。エマさんはまだ呪術は使えませんし、スティスさんの血を持ってはいません。

私の友人..というか協力者が没収しました」


ライリンの声。

ほんと神出鬼没だな。


「そう、なら出しても大丈夫か」


カゴメカゴを叩き割る。

強引な方法に見えるが、これでも一応正式な解放方法だ。エマと契約した僕にしか叩き割ることは出来ない。


ちょっとだけ手が痛い。

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