九と二分の一話
「クソ蛆虫共が!俺が来てやったぞ、泣いて土下座しな!!」
言葉とともに出入り口のドアを思いっきり蹴り破る。
「な、なんだアンタ!?今更豚の犬が動いたってのか!」
豚の犬?ああ、国のお偉いサンが豚でその飼い犬、国家警察の事か。
「オイオイオイ俺の話が聞こえなかったのかぁ!?頭が高ぇんだよなぁ」
近くの体格のいい男を蹴り飛ばす。
「たっくよぉ、スーパーヒーロー様のご登場だぜ?ほら、泣いて喜べよ!」
近くの二人が掛け声と共に俺に向かって走る。
片方は足をかけ、転ばせ、その上に足を置く。
もう片方は適当に近くの椅子を投げて対処する。
「次に地を這いずりたいのは、どいつだぁ?」
笑みと共にあたりを見渡すが、既に残りの腰抜け共はしりもちをついている。
「さて、俺がわざわざ来てやった理由だが、ちょいとうちの娘がここに迷い込んだらしくてな....知らねえか?」
「は、はいっ、どういった奴隷がお望みでしょうか!」
....こいつ、僕が奴隷をタダで貰いに来たと勘違いしてんな。
「違う違う、本当に、ここに迷い込んだんだよ、悪いおじさんたちに連れられてね。知らない?」
少しだけ声のトーンを落として言う。
「これぐらいの背の高さでね、灰色の髪の女の子なんだけど」
胸のあたりに手を置いてキアの身長を表す。
「あ、あなた様のお子様でしたか、そうとは知らずに....誠に申し訳ございません!
そ、そちらの部屋にいるはずです!鍵は外側からなら自由に開けられるはずです」
「ふーん、まあ僕はキアにしか用無いし、他の事は忘れるよ」
ドアを開けながら後ろの奴隷商に言う。
「さあキア、散歩は終わりだ、帰ろうか」
ドアの真ん前で待ち構えていたキアに声をかける。
「うん!!」
よく見れば目元が少しだけ赤い。泣いていたのか。
....よくよく考えればこの奴隷商共にキアの面倒を見てもらった代金を払ってないね。
ちょうどいいや、アレの見せしめになる。
「やあ、キアを見てもらったお礼をまだしてなかったね」
キアの場所を教えてくれた奴隷商に話しかける。
奴隷商はお礼が少なくともプラスな事ではないと理解しているのか、口の端から細い悲鳴を上げる。
「ほーら、スプーンだよ。きれいに光を反射してるね」
さすがに裏社会にも関係のある人間なのだろう。スプーンを見ただけでナニをされるのか、何となく予想がついたようだ。
顔がみるみる青くなっていく。
スプーンを奴隷商の右目に、ゆっくりと差し込んでいく。
奴隷商の汚い悲鳴を無視してスプーンが眼窩の奥にぶつかった感触と共に、少しずつ目玉を抉っていく。
何かが切れる感触と共に、ゴロン、と目玉が眼窩から落ちる。
零れ落ちた右目をつまみ、奴隷商の口にねじ込む。
「噛め、俺がいいって言うまで噛み続けろ」
奴隷商は力なく首を左右に振る。
「いいのか?左目ともサヨナラしたいってことで」
スプーンを左目に近づけると、少しづつ、自身の目玉を噛み始めた。
ゆっくり噛むんじゃなくてさっさと噛めよ、終わらねえぞ?
何度顎が上下しただろうか。だんだん飽きてきた。
「もういいぞ、飲み込め。吐くなよ?」
空っぽになった右目と、スプーンを押し当てられている左目から涙をボロボロとこぼしながら、
奴隷商の喉が音を立てて動く。
「ここ、これでいいんですか?」
「クッヒヒヒ、ダメだ。
さ、左目も、パクっと行ってみるか」
と、僕が告げると放心したようにだらりと口を開け、身体を震わせ始めた。
チッ、つまんねえな。
こうなってしまってはどう遊んだってつまらない。
ま、自分の目玉を咀嚼中は十分いいものがあった。
最近不足していた幸せ成分を補給できたし、満足だ。
それに、空腹は最高のスパイス、って言うしね。
部屋の外のキアへ眼を向けながら思う。
いつの間にかライリンがキアを連れて部屋を出ていた。
「終わったよ、遅くなったね、帰ろうか」
「あの、スティスさん、私が言うのもなんだとは思いますが、今はまだいいです、ただ、これからは出来るだけ控えてくださいよ」
「ま、僕もそう長生きするつもりもないし、大丈夫でしょ」
肩を竦めて、暗に控えるつもりはない。と返す。
「私眠い!早く帰ろうよ」
キアからのブーイング。
「ああ、そうだね。僕もさすがにちょいと眠いかな」
さっさと帰って僕が幸せになるための計画の実行をしないといけないしね。
もう手を伸ばせば届く距離にまで来た。これが成功しようが失敗しようが、そこで僕の道は終わりだ。
思えばやはり無駄な時間を過ごしてきたものだな。
自嘲気味に鼻を鳴らし、キアと宿への道を行く。
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予定より少し早い?
でも構わない。どうせ大差ないし、ね。
もう我慢できない。どんどん私の記憶の中の姿に近づいて行くあの人を見ていると、こみ上げてくる様々な感情をこらえきれない。
....もういいよね、会いに行っても......
..兄さん。