一話
前書きっていつも何書いていいか分からなくなるよね。
書くことが無くなりそうだから途中から前書きが無くなるかも。
「金目の物をよこしな」
ニタニタと僕を囲みながら気色の悪い笑みを浮かべながら、汚い身なりの四人のおっさんが話しかけてくる。
「....ああ、イヤだイヤだ、まさか人生でこんな汚いおじさんたちにナンパされる事があるなんて思った事も無かったなぁ」
眉を寄せ、笑いながら答えると、おっさん共は手に持つ大ぶりのナイフを見せつけるように構えながら
「『イヤだ』だってよ!ブハッ..てめえに拒否権なんかねえんだよ、恨むんなら護衛を付けなかった自分を恨むんだな!」と叫ぶ。
アレ?僕の挑発は無視なのかなぁ?悲しいね。
それに、なんだこいつら、武器なんて構えちゃって、ヤるのか?..ヤるってことは、ヤられても文句は言えねえよなぁ!?
「僕は遠慮したいところなんだけど、ねえ..なあ、ヒ..ヒヒ、ヒヒヒッ、なぁオイ、..てめえらザコ共が束になった程度でこの俺に勝てるとでも思ってんのかぁ?」
久しぶりだなぁこの感覚。気持ちいい、気分が高揚する。自然と口角が吊り上がる。
態度が急変した俺に動揺したようにおっさん共は硬直している。
「なに固まってんだぁ、敵は待ってくれやしねえぞ」
言いながら、一番近いおっさんのナイフを持つ手首をひねり、鳩尾を膝で蹴り上げる。
うめき、ナイフを落とすおっさんとハッとしたようなその他のおっさん共の中心でナイフを拾い上げる。
「チッ、なぁんかこいつじゃシックリこねえな。ま、チャンバラごっこ程度にゃあ十分すぎるぐらいだろうがよぉ。
....っとぉあぶねえなおっさん、きいつけな」
後ろから振りかぶられたナイフを避けながら、首だけ振り返る。
「敵は待ってくれないんじゃねえのか?」
「ヒヒ、そうだな、よく分かってんじゃねえか、死ね」
何が分かったのかも分からずに逝ったおっさんの胸からナイフを引き抜く。
....これじゃ失敗だぁ。もっと..
急に死んだ仲間に動揺しているおっさん共に、一人、二人とナイフを胸に突き立てていく。
どちらも即死....チッ、まあいいか、残った一人でも十分だ。
「や、やめてくれぇ!お、俺だけでも助けてくれ!!俺が悪かった。この通りだ!」
土下座しながら涙声で叫ぶおっさん。
「『やめて』だぁ?てめえに拒否権があると思ってんのかよ?ヒ..ッヒヒヒ、おい、家族はいるのか?」
「あ、ああ、いる、いるんだ。妻と娘が!俺が養わねえといけねえんだ、こんなことほんとはしたくなかったんだ!」
相当焦っているのか、目を見開いて、つばをまき散らしながら叫ぶ。
ああ、もう少し行けそうだなぁ....ヒヒ、ヒヒヒヒヒ
「ハッ、本当だろうなぁ?本当ならすぐ答えられるよなあ?どこに住んでやがる」
自分の命が助かると思ったのか、目を光らせて俺に場所を丁寧に細かく教えてくれる。
ヒッ、ヒヒヒヒ....
「そうか、なら....俺がお前の代わりにそいつらを殺してやるよ、その代わりにてめえの命だけは助けてやる、ほら喜べよ!」
一転、絶望的な顔をしたおっさんは取り乱して、約束が違う、だのほざきだす。
これだぁ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ、ヒャヒヒッ、この顔!この絶望した顔が見たかった。
「何言ってんだよおっさん、俺は..別にてめえと約束なんざしちゃあいねえぞ。てめえの方からご丁寧に家族の居場所を俺に教えてくれたんだろうが。気分はどうよ?家族を売ってまで生き延びる気分はよぉ」
「ふ、ふざけんな!おい、やめろ!なあ、やめてくれ!頼むからやめてくれよ!」
必死の形相で懇願してくる。コロコロとよく表情を変えるやつだ。
「ヒヒッ、残念だぁ、俺は優しいからなぁ..ヒ..そこまでして生きたいんなら助けてやるつってんだよ大人しくしときな、死体が増えんぞ。拒否権は無い..って、分かんだろ?」
呆然と固まるおっさんを尻目にナイフを投げ捨て、立ち去る。
ヒヒヒ、気持ち良すぎんだろぉ。あの絶望しきった不幸な面、見てるだけで俺は幸せを感じられるぅ。
アハハ、心地よかったなあ、さっきの絶望しきった不幸な顔、母さんとの約束だもん、幸せになるよ。
母さん、見ててね。
僕の脳裏をよぎるのは母さんの最後の言葉。
『ごめんね、ごめんね、本当に..ごめんなさい。でも、せめてあなただけでも幸せになりなさい、私達の事を忘れるぐらいに。
"スティス"....ごめんね、私は....もう..』
大丈夫だよ、僕は幸せだ、でもまだたまに母さんの事をまだ思い出すんだ。
..きっと、足りないんだよね?幸せが。
アハハ..ならまだ集め続けるだけだよね。
聞いてよ母さん。前に寄った村でね、聞いたんだ。
奴隷国で人外と人の血を受け継いだ子供がいるんだって。
え?ああ、もちろん王国にはバレてないよ、何言ってるのさ、バレたらそんな子供は即死刑だよ。
うん、秘密の情報だってさ、それでね。僕、思ったんだ。
魔族ってバ..純粋じゃん?それに人の複雑な感情が混ざってるんだ。そいつをさぁ
....アメとムチってあるじゃん、あんな感じでそいつを天国から地獄まで突き落としてやったらさぁ。
どんな顔すんのかなぁ?どんな絶望を味わうんだろうなぁ?ヒヒ、ああ、想像するだけで興奮すんなぁ。
..ああ、間違いない。間違いなく今度こそ母さんとの約束を果たせるはずだよ。
うん、母さんもそう思うよね?まあ、そうでもないとわざわざ王国になんて行かないよ。
僕はあの村だけで十分だったのに....あのクソ神が..いや、何でもないよ、母さん。
復讐だなんて、そんな物騒なこと考える訳ないじゃないか。....アハハ
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僕らの住む大陸、『イフィロス大陸』にて最大の国が、『アトモソ王国』。
人の統治する国だ。人から人外に行くにつれて扱いが分かれる階級国家だ。
具体的にはこの国では至高の存在とされる『全神』を頂点として..まあ姿を見たことがある奴なんていないが。
そこから、生まれた際に特異能力を持って生まれた人、『仙人』と呼ばれる..まあ僕だな。
次に最も一般的な種である『人』
そして最後に、チスイ族、オヅノ族などの、意思疎通はできるが、人以外の種、いわゆる『人外』の順に低くなっている。
そしてその人外の扱いは、三段階に分かれる。
一番マトモな扱いで、王国で、人と同じ地域で生活できるが、あくまで人以下、命令は逆らっただけでも懲罰。
次の扱いは、『カコピオス国』、通称、奴隷国と呼ばれる、王国中心の湖に作られた人口島に完全に隔離..軟禁状態だ。
奴隷国自体が、搾取を目的として作られた、と噂されるほどひどい環境らしい。
当たり前だろう、下手に力をつけられてクーデターを起こされるのを防ぐための処置だ。
人らしいやり方だ。
一応奴隷国には人以上なら手続きさえすれば入国できるし、
高い税金さえ払えばそこで人を対象をした商売もできる。
だが、奴隷国から人外が出るには、人の奴隷となるしかない。
脱獄しようにも湖に囲まれている上に、常によく分からない機械で監視されているらしいから、現実的じゃあない。
そして、もっとも悪い扱いとの違いはただ一つ。権利があるかないか、だ。
つまり、この三段階の中でもっとも酷い扱いを受ける..チスイ族なんかは、人に何をされてもそこに違法性は無い。
物を奪われようが拷問をされようが殺されようが拒否権どころか全権利が無い。
だからそのほとんどが王国で奴隷になってる。
まあそんな感じかな。
『イフィロスの歴史』と書かれた本から顔を上げる。
何がイフィロスの歴史だ、ほとんど王国の事だけだったじゃないか。
それも、頻繁に入る人がいかにすごい種族であるか説明してくる。
子供のころからこの国の異常な現状を正常って認識させれば反対運動を抑制できるし、合理的だな。
大体は分かった。確か僕が探してるのはカゲ族と人のハーフだ。
だが、おかしい。この本によれば奴隷国は完全に管理されているはずだ。
ハーフなんて即処刑のはずなのにあの情報によればまだ生きているらしい。
....ん?なんで僕はそいつの情報を完璧に信用しているんだ?
あれれ?おかしいな。なんで疑わなかったんだ?意識を弄られた?いや、あいつはそんなことができる奴じゃない。
んー、分からないな。..よく考えればかなり怪し....
....あれ?なに考えてたんだっけ?..ああ、そのハーフが....ええと、人に監視用の機械を付けられてないんだっけ?
なら探して..アメでもあげればついてくるかな?人外の血が混ざってんならどうせバカだろうし。
よし、とりあえずそのハーフを探そうか。人外の事は人外が一番詳しいだろうし、奴隷国の奴らに聞けばいいか。
奴隷国には..手続きか、面倒だな。ズルしよう。
仙人ってこんなときに便利だなぁ。
王国と奴隷国の境界線である湖に立ち、うっすらと目に映る奴隷国を眺め、
右の手の平を上に向け、胸の前に浮かべる。
「仙術、起動。全典、展開....だっけ?....お、でたでた、懐かしいなぁ」
僕は、手の上に浮かぶ大きめの辞書のような本を見てつぶやく。
仙人、特異能力を持って生まれた人の総称。
この世界に存在する4つの力、『魔術』『呪術』『陰陽術』そして僕を含めた仙人が扱える『仙術』だ。
厳密には全ての人が魔術を使えるから僕も魔術は使えるはずだが、試したことは無い。
魔術は物理法則に従った範囲、水蒸気を集めて水を作る、空気をこすって摩擦で火花を起こす、空気を動かして風を起こす。などと言った感じだ。
呪術、これはこの五つの中で最も攻撃的かつ、陰湿なものが多い。例えば『呪いの藁人形』なんかは、術者の能力も効果に影響するが、基本的に、何もない道で転ぶ、ぐらいの不幸な目に合わせる。
陰陽術、例外である仙術を除き、最強と呼ばれている。効果は創造だ。物を創り出すことが出来る。
そして術者によっては大体何でも創りだせるらしい。....理論上の話だが、極めれば世界すらも想像することが出来るらしい。
あくまで理論上、現実ではほぼありえないが。
そして最後に例外である仙術だ。仙人のみが使える力で、他の能力と違い、傾向に偏りが無く、人によって全く違う能力が発現したりもするらしい。
例えば、僕の場合。本を使った能力だが、僕自身でさえあまり詳しくない。
僕は戦闘は基本的にはナイフや、本を使ったインファイトが基本だ。
慣れない力を使って下手を打つよりは慣れ親しんだ戦い方のほうがいいだろう。
なぜかどんな大きさの本でも手にシックリくる上、角で殴ればかなりの強さを誇る本はなかなか有能だ。
そして、僕が分かっている数少ない能力の内一つ。
「伝典、神隠し」
仙術の能力の起動ワードを唱えると、本から霧が上がり、僕の周りを囲う。
霧が僕を覆い、外の景色が何も見えなくなり、やがて、いつの間にか霧が晴れる。
「やっぱり変な術だなぁ」
神隠し、人が突然姿を消す現象..いや、今はもう伝承か、視認している範囲に転移できる仙術だ。
周りの景色を眺めながら溜息を吐く。
予想通り王国に比べたらボロっちい町だなぁ、大方予想通りだけど。
さて、まずは情報を探すところからだね。..うーん、子供の事とか分かんないし、
子供と一緒に居るとストレスたまるし、相談役兼ストレス発散用に奴隷でも買おうか..うんそうしよう。
さあてどこかで奴隷の売買でも..っとあれかな?
「奴隷売ってる?安いのが欲しいんだけど」
適当な店員っぽい奴に聞いてみる。
というか、この聞き方で正直に安い奴隷を教えてくれるのかな?
まあいいや、別に金ぐらい稼ごうと思えば簡単だ。
具体的にはちょっと呪文を唱えるだけで金が出てくる。
『神典、打ち出の小槌』
出てくる量に制限はあるが、それでも十分すぎるほど出てくる。
なんでも、昔の神様の持ち物だとか。
....まあ、そんなことはどうだっていい、必要なのは結果だ。金が出てくる。それが重要だ。
「これなんかどうです?顔色が悪いのはチスイ族だからで別に病気持ち、って訳じゃあないですよ」
店員っぽいおっさんの声で現実に戻される。
どれどれ、って言うほど悩むつもりはない、一目見て若くて不幸そうなら誰でもいい。
さて、この条件にはぴったりだ。店員に紹介された奴隷はチスイ族だから顔が若干青白いのを除いても、
不幸を体現してそうな顔をしている。
こいつなら簡単そうかな。..うん、こいつでいいや。
そろそろ夜も更けてきたから眠くなってきたし、
おそらく、奴隷用の首輪に登録する用の主従契約書にサインをしてさっさと買って、
宿を探すべく、奴隷国を歩き回る。
「..あ~、そういえば僕、君の名前を見忘れてたから名前を知らないんだよね。
教えてくれたら助かるんだけど」
奴隷ちゃん..年齢は..僕とあまり変わらず二十歳ぐらいだろうし、奴隷さん?
まあどっちでもいいかぁ..ヒヒ
ま、人生経験だったら、僕の方が濃いいだろうし、ちゃん付けでいいや。
奴隷ちゃんは物腰の低い僕を見て少し驚いたみたいだけど、すぐに目を逸らして、「エマ」と小声でつぶやく。
「へー、エマ..って言うのか。お腹空いた?なにか食べたいものはある?」
「え..っと、何でもいい....です」
奴隷である自身に対する扱いに、戸惑ったように答えるエマ。
..ヒヒヒ
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―ある奴隷の日記―
―月―日
今日、変な奴に買われた。
奴隷である私にやたらと親切で、ちゃんと宿で寝させてもらえた。
..もしかしたら良い人?....いや、そんなわけない。
騙されるな、何か裏があるんだ。
気を許したらダメだ、絶対何かあるはずだ。
人は必ず裏切るし、自分の得になる事しかしないんだ。
....それでも久しぶりに食べたまともなごはん、美味しかったな。
それに、気持ちよく寝たのも....うん、騙されたふりをしておこう。
..この生活を手放したくない。
―????の日記―
ああ、スティス......本当に長かった。
でも、私の知るスティスとはまだ少しだけ違う。
..大丈夫だよ。私がちゃんと導いてあげるからね。