それでも心にまでは届かない
「何か今朝、洗濯機に挨拶されちゃってさあ」
「はぁ?洗濯機に?」
「うん。されるなら賞味期限のこととかで口煩い冷蔵庫とかかなって思ったんだけど」
「あんたのとこの家電ってアンドロイドタイプだっけ?」
「ううん、何か家のシステムの方にウイルス入っちゃったみたいで、明日メンテに来てもらうんだ。有給使わないとだしもう最悪ー」
「ウイルスねぇ…それで何でアンドロイドでもない洗濯機が話す事になるの」
「うん?別に話しかけてきたわけじゃないのよ?流石のウイルスも、備わってない機能を増設することはできないから」
「じゃあ何なの」
「残り時間とか表示する電子パネルってあるでしょ?あそこにHELLO!とかHOUAREYOU?とか出てきてね、しかも音声認識できるタイプだから私の声に反応して表示変えたりもしてきたし」
「ガチじゃん」
「うん、だから態々表示できる文字とかが少ない洗濯機なのが不思議なんだよね。冷蔵庫の方が雄弁なのに」
「あんたのその冷蔵庫推しもなんなの…」
「うちで一番喋る家電ってやっぱり冷蔵庫かなって。合成音声で何が早く消費しなきゃならないとか切れかかってるのとかも教えてくれるからかなりバリエーションもあると思うんだよね」
「そういう問題?」
彼女は至極真面目な顔をして言う。
「洗濯機の表示ってアレだから誤表記というか、無理に読ませてくる感じの多くって、読み取るの大変だったんだもん。違うとぴーぴー音出して煩いし」
「…それに付き合ってあげるあんたも大概じゃない、しかも朝っぱらから」
「だって変な故障とか不具合とかでお洗濯できなくなったら困るじゃない。丁度保証期間も切れたところだし」
「律儀なんだか、ドライなんだか…」
「ガチの手洗いって本当面倒くさいんだよ?洗濯機ないと大変なんだってば」
「はいはい。コインランドリーじゃ駄目なの?」
「誰が何を洗ったか判らない場所で洗ったものが本当にちゃんと綺麗になってるか、判らないじゃない」
「(そういえば彼女潔癖症の気があるんだっけ…)ソウダネー」
「まあ、そもそも使った事ないんだけどね、コインランドリー」
「それにしても…一体どういうウイルスなの?それ。具体的な被害状況がよくわからないんだけど」
「そんなの私にはわからないわよ。専門外だし。今の所、時間取られた以外の実害はないけど、これから何か問題が起こらないとも限らないし」
「まあ確かにね。勝手に得体のしれないソフトがインストールされるとか何が起こっても不思議じゃないし」
「家電に愛を囁かせる事に何の意味があるかはわからないけどね」
「は?口説かれたの?」
「VとかKとか表示できなくてべそかいてたけどね。16bitあっても難しいんだから数字パネル使うなんてマゾい仕様で会話を試みないでほしいわ」
「あんたは頑張ったわよ…」
「あなたも家のシステムのセキュリティには気を付けた方が良いと思うわ。普通は簡単にウイルスの侵入を許すようなセキュリティにはなってないとは思うけど、私もそう思ってこれなわけだし」
「まあ実際被害にあってる人に言われるとねえ…」
「被害が小さい内になんとかなればいいんだけどね…まあ、被害に遭わないのが一番なのは当然だけど」
「ウイルスの侵入経路って心当たりあるの?」
「ううん…最近何か新しいプログラムを入れたわけでもないし、わかんないんだよねー…何かのアップデートプログラムについてきたとかだったらどうしようもないって言うか」
「誰か他の人がインストールしたプログラムについてたとか?ほら、あの彼氏さんとか」
「彼氏?……ああ、あいつ?あいつ私の彼氏じゃないから。っていうか、ただのストーカー?みたいな」
「えっ」
「私アイツの彼女になるって了承した覚えないし家に招いたことないし、勿論入室許可出してないし。勝手にプログラムインストールさせたりとか、ないから」
「えー…」
「こっちが迷惑って言ってるのに謎理論展開して余計なことしてくるのとか、ほんっとう、最悪」
「脈なし通り越して嫌いな感じ?」
「寧ろあなただったら好きになれるわけ?」
「えー、だってかっこよかったし」
「見目の良さなんて若い内だけでしょ。性格あわない人とか、本当無理」