瑠(りゅう)
それから私達は鏡越しに色んな話をした。
貴方の言う事はとても難しい。まるで大人が使う言葉だ。だけど『なんで?』『それなに?』と聞くと貴方は色々教えてくれた。
ある日は、月と太陽のお話。またある日は枯れた花のお話。世界のお話。人間のお話。私には、どれも難しかった。それでも楽しかった。
『私の名前はるり。あなたは?』
しばしの沈黙が流れた。『名前…ないの?』そう聞くと貴方は静かに頷いた。私は国語辞典を持って走った。
あの時はどうしても貴方に名前をあげたかったのが本音なんだ。
『瑠璃ってむずかしいでしょう?何年生になったらならうんだろうね?』その質問に、少し考え込む様な貴方を見て、私は提案をした。『名前をはんぶんこしない?ちょっとまって!』私の突拍子も無い思い付きに、貴方は少し笑った。『あっ!はじめてわらった!うれしい?』そう聞くと貴方はまた無表情になってしまった。
『瑠璃の瑠のほかのよみかたは瑠!瑠璃の璃のほかのよみかたは璃!人の名前だね!!すごいね!!』
『じゃああなたはとてもつよいから瑠ね!にあってる!私は璃か…みんなの前ではるりだけど瑠とお話しするときだけは璃!これは二人だけのヒミツね!!』
燥ぐ私を、璃はずっと見ていた。
ねえ?本当の仲良しってどんなの?
私達はね、なれなかったの…名前を分け合っても、同じ体でも。
全く違う人格の体の貸し借りはとても難しかった。私は作りたいのに、貴方は壊してしまうから。
ある日の放課後、皆んなの朝顔の芽を摘んでは踏み捨てていく瑠を見た。私は理解が出来ずに瑠を責めた。そしたら貴方はアッサリこう言ったの。
『こんなものが何の役に立つのか、誰も答える事が出来ない。誰も伝える事が出来ない。こんな無意味な命のお遊びには朝顔も疲れるんじゃない?』と。
私は『でもみほちゃんが!ゆうかちゃんが!みわちゃんが…いっしょうけんめいお水あげてるのに…』そう言うと、瑠は続けた。
『じゃあ何で美穂ちゃん達は、お水あげてるのかな?育ったらどうするのかな?咲いたら何を思うのかな?次またその種を蒔くのかな? 蒔かないよ…。多分二度と朝顔を咲かすことは無い。』
悔しくて悔しくて、私は感情をぶつけた。『わからないじゃない!どうしてそんなことゆうの?うれしいとおもうのに…どうして…?』
それから数日が過ぎた頃、犯人探しに没頭していた教師が私を捕まえた。
『貴女だったのね?どうしてこんな事するの?朝顔が可哀想でしょ?咲かなかった子達が可哀想でしょ?』
そう言われた時、震える私を押し切って、瑠が口を開いた。
『やれって言ったの、美穂ちゃん達ですよ?私は仲間外れが怖くてやらされていただけです。』
私は絶句した。
『謝れって言うなら謝ります。何か間違ってますか?』
先生達も私も、圧倒されて何も言えなかった。瑠は冷たい人。私には理解が出来なかった。