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霊感少年団  作者: 猫田
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霊体と肉体(0)

私が住んでいる街は、廃墟が多い。

栄えていた光景が虚しく思えるくらいすさんでしまっている。その栄えていた頃の記憶は持っていないけれど、面影はいつでも見える。

だが、その廃景は誰の手にも触れないまま、時だけが美しく過ぎてしまっていた。

街はそれを忘れ、新たな都市を作り、着々と栄えていっていた。

だが、周りの街からはその廃景を「灰の街」と呼び、新たな遊地として訪れる者が増えていった。

肝試しに訪れる者、誰も住んでいない場所に居座るホームレス、元住民で引っ越す気の無い者など様々な人がいる。

栄えている場所がズレただけであり、過ごすには問題は無い。

だが、その「灰の街」で起こっている問題が最近、注目されつつあるのだ。


何件もある廃墟の中で、私の家に一番近い廃墟は「川崎病院」という今は使われていない病院。

見晴らしの良い綺麗な病院だったのだが、数年前にぽつりと利用する人が途絶え、なんでも・・・院長が亡くなってしまった事が原因で閉業したそうだ。

誰も入れないように病院は閉鎖され、静かに時を流れるはずだった。

だが、肝試しで夜の廃墟を徘徊する者達が病院を出入りしているというのだ。

法律的に禁止なのだが、あちこちに廃墟がある街。そんな事をいちいち取り締まっていたらキリが無い、という事もあり見て見ぬふりをしている。

周りに家が無いので近所迷惑にもなっていないため、あまり気にしている人はいなかったのもあったせいで、病院は誰でも入れる状態になっていた。

だが、最近になってからその病院の噂が耳に入る。


「あの病院に入った人は、行方不明になる」という噂。


度々ニュースに行方不明者が続いて報道される事が多く、その中でもこの街に行くと言って行方不明になったというのが大半であった。

あそこの病院に限ってでは無いとは思うが、そう行方不明者が続くと街の住人も不安になる。

ましてやその問題の廃墟が私の家の近くにあるという事は目を背く事はできない状況であった。

好奇心旺盛の私、穂ノ河 あん。その病院に学校帰りに寄る事した。

きっと、遅かれ早かれ私はあそこに立ち寄る運命だった事はこの時、知らなかった。


「川崎病院」までは10分くらいあれば着くところにあった。

私は別の病院に通っていたので訪れた事は無かったが、評判は良かったらしい。

だが、ある日そのに通う患者が減り、そしていつ日か院長が亡くなってしまったという話を聞いた。

学校の荷物を家に置き、制服のまま自転車で「川崎病院」へ訪れる。

外装は古い感じはあまりなく、白く綺麗な病院であった。が、雰囲気はあまり良くない。

草は伸び放題、窓は割れ、簡単に誰でも中に入れる程の開放感に溢れる玄関、中の様子は暗いが、土汚れ、時の流れが感じられる雰囲気だった。

背中の方からゾクッと恐怖が溢れてきた。今日は帰った方が良いかな?別の日でも良いかな?と考えながら病院を見上げると人影が目に入る。

「あ!」と思わず声を上げ、さっきまでの恐怖を忘れ病院の中へ入っていった。

確か2階の・・・と考えながら階段を駆け上がり、人影を見た部屋に入ったつもりだったが、人影や人気も無かった。

気のせい?いや、確かカーテン越しに人が立っていたはずなのだが、見当たらない。

さらに見回してみると、ベットの上に何かあった。

「ビー玉?」のような球体があり、手にとってみるとそれはいきなり強い光を放った。

あまりの光に強く目をつぶる。そして誰かに突き飛ばされるような感覚に襲われ、その場に尻餅をついてしまう。

「いてて・・・」立ち上がり何が光ったのかを確認しようとするが、その光った物が無くなってしまっていた。

落としてしまったのかと思い床を調べてみるが、そんな感じの物は見当たらず、隅々見ても無かった。

窓から外の明かりが段々と薄れていっている事に気付き、急いで病院を後にした。

それにしても、なんだったのだろうか・・・あの光は。

気にかかるが、考えても分からない。

だけど、本当にあそこで人が消えてしまうのだろうか。どう見ても普通の病院の廃墟。消えたとしたら、一体その人たちは何処へ行ってしまったのだろう。

私の頭の中はあの病院の事について溢れていった。


同日の夜中。ある若者達が廃墟病院へ訪れた。

街灯の明かりがついておらず、車のライトでやっと辺りが把握できる程度だった。

「ここが噂の「行方不明者の出る病院」雰囲気はちぃと足りないがな」と男が言う。

「本当にここで間違い無いの?現役の病院に見えるけど」と女。

「ニュースでもやってただろ?この街に行くって言って行方不明になったって。この街で廃墟病院はここしかないはずだ」懐中電灯のスイッチを入れ、病院内を照らす。

「うわー、以外と綺麗だわ」と笑う。

「ねー、入るならさっさと入ろ?寒くなってきた」

「ライトちゃんと持ってけよ、明かりが無いと歩きづらいからな」と言い、車のライトを消し、エンジンを止めた。


病院の中は荒らされた感じは無く、普通に病院として今でも営業できるくらいだった。

テレビもそのまま、新聞も、椅子も、資料も、そのまま人だけがいなくなったようだった。

「なんだよ、普通に夜の病院にいるみたいじゃねーか」

「十分それでも怖いわよ。で、どうするの?隅々まで見て終わる?」

「んー、それはそれで楽しく無く無いか?」

「じゃぁ、どうするの?」

「肝試しだから・・・なぁ・・・・」と男はニヤッと笑う。

女の耳打ちすると、女は驚いた。

「え!?霊安室に行くって!?」

「行くだけだろ?そんなに驚く事か?」

「やっだ!見えたらどうすんの!」

「は?お前霊感なんかあったっけ?」

「無いけど・・・」

「じゃぁ、大丈夫だな」と男が下に続く階段へ行く。

「場所、確認しなくても良いの?」

「大抵霊安室は下にあるって感じだろ?探すのも一興だよ!」と足早に駆け下りていく。

「ちょっと、待ってよ!」男の後を追おうと階段を下りようと足を出した瞬間、大きな影が女の背中に立ち、そしてそのまま何かを振りかざすと、女の意識は戻ってくる事は無かった。


地下は一本道で、扉が数枚しか無く、一番奥にエレベーターがあるぐらいだった。

「案外早く見つかりそうだな」と振り向くと女の姿は無かった。

怖じ気付いたと思い、階段を上らずにそのまま進む事にした。

最初の扉は病院に使う道具をしまう部屋、ボイラー室、従業員の更衣室、そして次が・・・。

「霊安室・・・あった」

霊安室の扉はスライド式になっており、鍵を掛けれるようになっていたが、あっさり開ける事が出来た。

中に入ろうと思っていなかったが、何故だか・・・体が勝手に中に入っていき、段々と奥へ奥へ入っていってしまう。

遺体を一時的に閉まっておく部屋まで来てしまっていた。思っていたよりも綺麗だった。

何箇所かはしっかりとしまっていた引き出しの中に、一つだけ少し空いている所に目がいった。

何故だろう、嫌な予感がする。見てはイケナイような感じがする。

なのにどうしてだろうか、体が勝手に動いてしまい、その空いている棚を見てしまう。

そこには見覚えのある姿の女性が眠っているように入っていた。

ははー・・・なるほど。俺を驚かせようと此処に先回りして入っていたんだな。

「おーい、いつまで寝てるんだ?さっさと・・・」と体を揺すってみる。

だが、その体は恐ろしい程に冷え切っていた。

顔を触ってみるが、冷たく、唇の色も青ざめていた。


死んでる。

息もしていない。


さっきまで話して、歩いていた奴がいつの間に此処で死んでしまっているのか。

男の頭の中の血の気が引き、背中から痺れるような寒気が走る。

に、逃げなきゃ・・・此処から早く出なければ!

足が出口へ向かおうとするといきなり扉が閉められる。

「!?」男は走り、扉を何度も力強くこじ開けようとするがビクともしなかった。

「嘘だろ!?うそだろ!?」

すると後ろから足音がする。男は瞬時に振り向き、足音の方へとライトを照らす。

足音の犯人はあの女だった。

「お、お前・・・!」死んだはずじゃ・・・と話そうとした瞬間、男は青ざめる。

死んだはずの女の顔は寝ているかのように死んでいたはずなのだが、その顔はにっこり笑っていたのだ。不気味な程に!

「うわぁああああああ!!!」

男は女から逃げるが、女はゆっくりと後を追ってくる。

死んだ人間が歩き、襲ってくる!まるでゾンビではないか!

逃げても逃げても女は追ってくる。こうなったら・・・と男はテーブルにあったパソコンのキーボードを手に取り、襲ってくる女の頭に思いっきり叩きつける。

鈍い音がし、女はその場に倒れこんだ。

「はぁ、はぁ・・・」

しばらく放心状態になり、女が起き上がるかどうかを見ていたが、ピクリとも動かなくなった。

手に持っていたキーボードを捨て、その場にへたり込む。

一体何がどうなってるんだ。どうして女は死んでしまって、そして死んだはずの人間が動いて襲ってきたのだ?訳が分からない。

冷静に考えている暇は無い、早く此処から出なければ。

男は再び扉を開けようとする。だが、誰かに足を力強く掴まれてしまう。

足元を見ると、動かなくなったはずの女が男の足を掴んでいるではないか!

本当にゾンビそのものだったのだ。男はとっさに掴まれてい無い足を女の顔を踏みつける。

何度も、何度も、何度。だが、女は離そうとしない。

「なんで、なんで・・・・!!」男は恐怖のあまり涙目になっていた。

「離せ・・・!離せよぉおおおお!!」

女の顔は、頭は見るも無残に変形し、元の顔が分からないくらいまでになっている。

鼻はへし曲がり、口の歯はボロボロで、血が更に痛みを増幅するようだった。

目も肥大し、今にも飛び出てしまいそうな程腫れ、見ている方が嫌になる。

それでも尚、女は動き続け、男に襲いかかる。死んでいるはずなのに。

すると部屋の奥から足音が聞こえて来る。まさか、またゾンビが・・・。と思っていたが、姿を見ると普通の人間の男。

歩き方も普通で、口角が上がっていて笑っているかのように見えるが、奇妙な笑みではない。

「た、頼む!この女を引き剥がしてくれ!!」すると男が指を鳴らした瞬間、女はしがみついていた手を緩め、再び死体のように動かなくなった。

「た、助かった・・・」

男は胸を撫で下ろし、唾を飲み込んだ。まだ緊張は取れてはいないが、一息ついた。

だがこの男、この部屋に入る時は誰もいなかったはずなのだが、どこから入ってきたのだ?

「折角、手に入れた人形だったのに。こんなにぐちゃぐちゃにして・・・!」と女の顔をまじまじと見て話し始める。

「女の人形は価値が高いんだ。男は沢山あるから良いんだが・・・」

もしかして、さっきのは死体では無くて、女に似ていた人形だったのか?

「す、すみません。その人形、俺の連れの女に似ていて、そいつが俺を襲ってきたと思って・・・。そんなに高いんですか?その人形」

「もちろんだ。だって、生きていた人間を使っているんだからな」

その言葉を聞いた瞬間、全身の血の気が引いていくのが分かった。

「いき・・・て・・・いた?」

男の言葉が、一瞬、何を言っているのか理解出来なかった。

「少し前まで生きていた人間が、生命活動を終え、魂が無くなった後の肉体を僕達は人形と呼んでいるだ。普通の人はその人形を火葬、埋葬してしまうけれど・・・なんて勿体無い事をするんだろうね?」

こいつ、普通の人ではない!少し考え方がずれてしまっているのだ!かなり!

関わるのは危険だと思った男は扉に手を掛け開けようとすると、誰かに手を掴まれてしまう。

そこには見知らぬ別の男が歪んだ笑みでこちらを見ながら、男の手を力強く握っていた。

「うわああああああ!!」

「人が話している途中で行ってしまうなんて、親と先生とかに言われなかったか?人の話しは最後まで聞きなさいと・・・」

男は話しを聞ける状態では無くなってしまった。女だけだと思っていたら、男の死体まで動いてしまう始末。もう、何がなんだか分からなくなった。

叫び、必死で男の手を払う事だけしか、今の男には出来ない。

男の叫び声だけが響く中、男は鋭い何かを手に取った。

「人の話しを聞かない奴は僕は嫌いだよ。そして・・・」

叫び続けている男に向け、鋭い何かを切りつける。すると、さっきまで叫んでいた男が嘘のように静かになる。

「うるさいのが一番嫌いだ」

男は鋭いナイフを布で拭い、取り出した物を懐にしまい込んだ。

「この人形は少し堅いが良いから、使えそうか・・・」というと、人形になったばかりの男の手を握っていた男は、その人形を引きずりながら部屋の奥へ奥へ消えていってしまった。


そしてその二人はニュースの行方不明者として知らされるのであった。


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