ゼツヤの過労死が不思議ではない現状
さて、約一ヶ月経過した。
大きなことがあったとするなら、生徒全員のプレイヤーネームとリアルネームの一覧表が出されたことか。
現状としては、慣れているものがほとんどだった。
というより、全員は高校生。しかも、学校で勉強する必要がないとなれば、この世界にいてもいいんじゃないか?と考え始めるものがいるのは、悲しい話だが事実だった。
その辺りに関して生徒会長に聞いた。
返答は『土日休みを消して強制勉強期間にするだけだ』というありがたくない言葉をいただいた。
まあそれはいい。
「ああ、やること多すぎるだろ」
「ゼツヤ君は何でも作れるからね」
ゼツヤの生産数は圧倒的である。
「まさか、普段着まで要求してくるとは思わなかった」
「まあ、ほしいと思うときはあるよね」
特に女子。三年生の連中め。年功序列なんぞ出しやがって。
「他にもいるだろ。普段着作れる人」
「いるとは思うけど、ゼツヤ君は完成度が高いからね」
「別にさ。ミズハはいいんだよ。彼女だし、怒らせると怖いし……」
「なにかいった?」
「そういう部分の話をしているんだよ……」
女は強いよ。うん。
「ゼツヤくーん。新しい服あるー?」
「新作なんぞあるか!完全オーダーメイドだって何度もいってるだろ!」
最近は二年生までこの始末。くそぅ。
「服は時には選びたいって思うときもあるんだよ」
「あのな。俺ポーションを一日に五万本くらい作ってるんだぞ。時間あるわけないだろ」
この学校は魔法職が多いんだよ。四月にブリュゲールのところに攻めこんだ時には近接職が多かったから油断していた。
ていうか。校内ゲームプレイ率100%って、今の時代はこんなもんなのかね。知らんけど。
ちなみに、莫大な規模の畑やらなんやらをゼツヤが一人で全部管理している。で、耕している。確かに、ゼツヤは栽培スキルをマスターしているので、ゼツヤがやるのが一番アイテムを多く入手できるし、採取スキルもマスターしているから、ゼツヤがやる方が一番よくとれる。
だからってなぁ。これはひどいよ。マジで。
「ゼツヤ君は生産能力が高いんだから問題ないでしょ」
「速度の問題だ!」
過剰評価しすぎである。
「む、騒がしいぞ」
「お、生徒会長。昨日ぶりです」
「そうだな。武器のメンテをお願いしたいのだが」
「五時間後に来てください」
「U○J以上に待つのだな」
「ここにいても分かりにくいと思いますけど、今現在、軽く10個くらい同時進行していますので、ところでメンテのための素材はあるんですか?」
「ないな」
「出直してきてください」
「彼女に比べて扱いが雑すぎないか?」
「忙しいんですよ。会長の10倍くらい」
「それもそうだな。出直すとしよう」
出ていった。
「はっきり言うなら、『メンテくらい自分でやれ』って言いたい」
「気持ちはわかるよ」
「ゼツヤ君。服は……」
「あんたはまだその話終わってなかったのかよ!」
「私は裁縫スキルはマスターしているけど、道具と技術がね」
「自分で磨け!」
何回騒いでいるんだろう。本当に。
まあ、帰っていった。
「大丈夫には見えないね」
「まさしくその通りだ。はあ、いっそ逃亡したい」
「でも逃亡したら後々ひどいだろうね」
「だよなぁ」
「ていうか、私と会話するときは叫ばないよね」
「疲れました」
「ちなみに今15時だけど、今日の日程は?」
ゼツヤはチャットで見せた。
「何人分やっているの?」
「こっちが聞きたい。ていうか、沖野宮高校の生徒は一々装備を変更したいといってくるもんだから普通に疲れる。ブラック企業でもたぶんこんなにひどくないぞ」
逆に言うならクリアに向かって動き出していると言えるのだが、だからと言って一人に色々押し付けるのはよくないと思う。本当に。
「しかもさ。素材集めや皿洗いまで俺一人でやっているんだぜ?重労働にも程があるんじゃないか?」
「ゲームだから身体的な体力は関係ないと言うのがみんなの意見だね」
「事実だけどなぁ。はあ、今作っているこの剣たちも、数日後にはごみ扱いになるんだろうなぁ。いや、装備を更新したいと言う気持ちはいいんだけどさ、インターバルが短すぎるんだよ」
「悲しい現実だね」
「くうぅ。何でこんなことに……」
だがこれでも、本当に全員分を作っているわけではないのだ。それは多分。ゼツヤのことを『オラシオン』だと知らないプレイヤーが多いためである。
ゼツヤはこの空間に来るまではいろんなやつとバトルをしていたが、みんながみんなハイエスト・レベルなものだからアイテムとか使っている暇がないので、最近作っていなかったし、ブランクがないように作っていたが、ここまで作り続けているのははじめてである。
「ゼツヤ君っていつ寝てるの?」
「いや、一睡もしてないんだよ。アバターだからわからないと思うけどさ」
「それもそうか。頑張ってね。私、ちょっと狩にいってくる」
「いってらっさーい」
「うわ、ずいぶん適当だね」
「やってみればわかるよ……逃げたか。ミズハが調合スキルを持っていることを俺が知っているからな」
剣を作り終わった。
「はぁ、もうちょっと……いや、かなり人の苦労を考えてほしいものだな」
今日もゼツヤは、ため息を漏らす。




