このシチュエーションは登場が遅い気がする
「……なんだ?」
始業式二日前、竜一は目を覚ました。
見ると普通に自宅なのだが、何か雰囲気的に違うものがある。
そうだ、回りからの音が極端に少ない。
「何かがおかしいな」
竜一はリビングにいく。
これといって変わったようには見えない。
冷蔵庫は、何故だ?外観と中の構造は今までと全く同じなのに、中が空だ。
「どう言うことだ?……あれ」
竜一はもうひとつの異変に気づいた。
冷蔵庫を確認している、自分の手にである。制服の袖なのだが、それは今はいい。
この腕は。
竜一は洗面所にいって、鏡を見る。
「何で、ゼツヤなんだ?」
竜一はキャンプイベントだったりといったことがない限り、ログインして寝ることはない。
というか、NWOには、自宅そっくりの場所など存在せず、行ったこともない。
「なんかゲートっぽいものが見えるし、なんかオーラ的な壁があるからあそこから外には出られないんだろうけど、それ以外は普通だな」
竜一。いや、ゼツヤはウィンドウを開く動作をした。
「開いたか。……ステータスはあのときと同じか。でも、アイテムとレイクがすべて消滅している」
熟練度やレベルは同じなのだが、アイテム類がなかった。しかも一門無し宣告である。
「学校にいってみるか。たぶん困ったときは来るだろう」
確証など何もないが、それで大丈夫だと思う。
家を出て(電子的な要素が抜けていてエレベーターが使用不可能だった)、まっすぐ高校に向かう。
校門にはバスターがいた。
「バスター!」
「……ゼツヤか。……制服似合っているな」
「それはどうも。で。何から話す?」
「俺としては話していたら今日が終わりそうだけどね」
バスターが自分のことを『俺』と言っている。あくまでゲームないだと認識しているわけか。この癖って役に立つな。周りにとって。
「何て言うかさ。似たようなシチュエーションが想像できるんだが……」
「俺も同じことを考えているよ。この世界はゲームの中の世界だ。と言いたいわけだ」
「正しくな。だが、妙なニューゲームだ」
「ああ、アイテム類が全て無くなっているからな」
まあ話しながらも校舎内にはいる。
高いところに上った。
辺りを見渡す。
「うーん。ちらほら人が見えるけど、なんかアバターっぽいな」
「そうだな。だが、大人も幼児もいない。いるのはいかにも高校生くらいの身長のアバターだ。度胸の問題とか色々あると思うけど、それにしたってこの統一性はなぁ」
なんだこの状況。
「もしかして、沖野宮高校の生徒だけがいるんじゃ……」
「それしかないだろう。判断材料的に」
暫くすると校舎内に集まり始めた。鈍い人は、校舎内にはいってクラスメイトに会うまで気づかなかったようだが、それは関係ない。
「え、ゼツヤ君って沖野宮高校の生徒だったの?」
「ミラルド。ああ。まあそうだよ」
「バスター君と仲が良さそうだなって思ってたけど、そう言うことだったんだ」
「ああ、まあな」
そういえば話していなかったな。すっかり忘れていた。
「ゼツヤ君」
「ミズハか。どう思う?この状況」
「たぶん考えていることはゼツヤ君と同じだよ」
「いい回答だ。さて、どうするかな」
だが、ひとつだけ確認しておきたいことがある。
ゼツヤはネクスト・レベルを起動する。
だが、体感時間の変化が全くわからなかった。
要するに、この空間では、デュエルカップの時のような思考加速がすでに行われているという意味になる。
「これからどうするかな」
「……取り敢えず。今は待つとしよう。この学校の生徒だけがここにいるとしても、俺たちは高校の身分では一年生だからね」
「この状況でそれ守るの?」
「いや、ゲームでの年功序列を推奨するわけではないよ」
「あ、そう」
あと、見渡してはいるが、なんかNWOっぽくないアバターも時々ある。
まあ、仮に自分がプレイしていたゲームのアバターが使用されているとしたら、NWO以外になるのも不思議ではないが。
あと、元々生徒会役員だという人からの伝令で、体育館に集まることになった。
その後、生徒会長から話があった。
今日一日のみ、何かしらの外からの連絡がないか待つ。という結論だった。
そして、その台詞を言い終わる前に、頭上に妙な裂け目が発生した。
……なんて間の悪い。
『沖野宮高校の生徒たちよ。私の世界にようこそ。……いや、ゲートの向こうはNWOをほぼ丸パクリしているから私の世界ではないかもしれないか』
ずいぶんと細かいな。
『私の名前は言うつもりはない。適当に愛称をつけてくれ。ってなんか。誰かが呟くように贋作王っていっているけど、完璧にコピったわけではないからそれは違うぞ』
なんだこいつ。
『さて、皆さんの中には気づいているものもいると思うが、君たちが今いるのは、私が設定したスタートフィールドだ。ああ、最近は監視カメラまみれだから、ちょっとハッキングすればすぐに内部の構造なんてわかるから、そこは気にしないようにね。西側にゲートが見えただろう。その向こうには、君たちで言うNWOの世界。それに私が少々アレンジしたものを設定している』
ふむ。
『君たちの中には私が何を考えているのか全く理解できないものもいるだろう。一応心配はいらない。君たちは『思考加速』というものを知っているかな?それが今現在、君たちに適用されている。倍率は、10000倍だ。リアルでの一日が、こちらでは30年になる。そして、今日は皆さんの始業式の二日前。たぶん問題ないだろう。ちなみに、プレイ中にリアルの誰かが君たちのギアを取り除いた場合、現実に帰還するよ。まあ、それが起こらないように色々と予定変更させたりしているけどね。結構しんどかった』
だろうな。
『ちなみに、デスゲーム要素は全く存在しない。というか、ギアのセーフティが強すぎてやろうと思ってもできないしね。この世界でなんかい死んでも問題ないよ』
ふむ。
『クリア方法はある。この世界であることを達成することだ。それがなんなのかは、君たちで見つけ出してくれ。まずはそこから始めよう』
軽いな。性格。
『全員のステータスは、全員がプレイしているゲームの中で一番強いアバターをそれぞれ選んで、NWOのステータスに当てはまるように調節してある。スキルやその熟練度も、NWOに存在するものに置き換えているよ。該当しなかったスキルがあった場合もあるけど、その場合は、そのスキルは消去しているが、新しく入手するスキルに、その熟練度を反映できるから、そこら辺の文句は言わないでくれ』
ふむ。
『さて、時間は僕個人としてはたくさんある。だが、この世界は、全てがNWOと同じと言うわけではない。まあ生産に関しては調節するの面倒だったからそのまま流用しているんだけど、それはまあ君たちにとって都合のいいもののはずだからいいかなって感じだよ』
色々テキトーだ。
『さて、頑張ってくれ。あまりにもこちらと時間の経過スピードが違いすぎて、こっちでは一秒でもそちらでは二時間半くらい差があるから応援してもこっちが悲しいだけだからしないけど。検討は祈っているよ。ちなみに、ログアウトは不可能だよ。それじゃ!』
まあ色々言いたいことはあったが、簡単にまとめよう。
「あっそ」
である。
ネクストレベルは使用できないが、生産が同じでデスゲームではないと言うのなら何も問題はない。
そしてそれは、ミズハとリトルブレイブズもおなじだった。




