岩場でも 幼女がいれば 賑やかだ
グレイテストマウンテンは別名(通称ではない)、『攻略不可能区域』となっている。
別名というより、ある種のジャンルに属しているように聞こえるかもしれないが、この名は他のダンジョンやフィールドには一切つけられていない。
理由は様々だが、持ち運べる物資が全然足りないことが足りないことが主な理由である。
さらに、標高12000メートルというバカげた設定だというのに、モンスターが出現しない場所が6エリアしか存在せず、他でログアウトしようものなら、モンスターにアバターが倒されて町に戻されてしまう。
最初はいい。まわりが森であるためやや視界がわるいが、様々な状況における『材料』に困ることはない。さらに言うなら、ここでは食料は補給可能だ。
だが、その先は違う。
今度は岩しかない場所になる。まるで生物の気配がしない場所だが、モンスターは普通に出現する。
石材が豊富という意味では、『石工スキル』を持っているのなら喜ぶところだが、石を求めて来るにしては難易度が高すぎる。
モンスターはほとんどが鉄でできており、ほとんどの場合打撃攻撃で攻めるしかないのだが、設定された防御力は笑えるくらい高い。ドロップアイテムはその分いいのだが。
その先のエリアは、6000メートル続く雪山になっているのだが、それは先の話だ。
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「なあゼツヤ。『気配』っていう言葉を知っているか?」
シュラインが聞いてきた。
「言葉の意味なら知っているぞ」
ゼツヤとしてはそう返すしかなかった。
回りにあるのは岩だけなのだ。風景について語るにしても限度というものがある。
「まあ、作者が風景の表現へただからいつも風景に関しては乏しいんだけどな」
「シュライン。レルクスをあまり攻めるな」
シュラインは変わらないな。出てくるときいつもメタってるぞ。
まあいいが、本当に思う。
「あ、ゴーレムでた」
「うっしゃ。やるか」
ユフィが呟いてシャリオが反応する。
「俺嫌いなんだよね……本当に」
「頑張れ。STR全振りの大太刀使い」
レイフォスはSTR全振りというステータスだが、武器が大太刀なので、なんともいやらしい。
ちなみに他のメンバーだと。
ユフィ 関節を狙って毒(腐食毒)注入。
シャリオ そもそも気にする性格ではない。
セルファ 防御オンリーなので攻撃しない。
サーガ ただ打つだけ。
クラリス デスヒールなのでそもそも大概関係ない。
ゼツヤ 長剣は打撃属性と斬撃属性の両方を持つ矛盾武器であり、打撃があるのでストレスはたまらない。
リオ 普通に剣を振っても関節を狙えるくらいの技量がある。
シュライン ゼツヤとほぼ同じ。
といった感じなので、少なくともストレスはたまらない。
レイフォスの場合、パターンチェンジでどうにか関節に当てることはできるのだが、剣速の問題でうまく食い込まないのだ。決して遅いわけではないのだが。
とは言え、化け物が多いことに代わりはない。『多くのプレイヤーにとって面倒』であることは確かだが、だからと言ってこのメンバーで苦戦することはない。
モンスターが面倒なのは確かだが、それが該当しないメンバーなので、さくさく進める。
だが。
「もう夜だな。あと、遠くに雪が見える」
「もう半分辺りに来たのか。NWOならではだな」
当然である。リアルで標高12000メートルとか、そもそもないし、あったとしてもいくのはかなり無謀である。
そして、
「シュライン。回りは全部見えているから、探しにいくのは無理だからな」
「わかってら。でも、あのアイテムを使うには、ホームと認識される場所がないとだけなんだろ?」
シュラインが言うアイテムというのは『ホームフォース』というアイテムであり、ホームで使用することで、6時間だけモンスターが出現しなくなる。というものだ。是非ともほしいアイテムである。状況によるが。
「こんな場所でホーム作るの?」
「お前は内装だけでいい」
シュラインはそこら辺にあった岩を、剣で削りきった。
「豪快だな……」
シュラインはどんどん切っていって、どんどん石材を集めて、どんどん組み上げていく。
ゼツヤも内装を作る。まあ、先程の森で木材は調達しておいたので問題なかった。
「できたぞー」
「こっちもだ」
手っ取り早く『家ができる』というのはゼツヤとシュラインが合わさったときはよくあることである。
ただし、食料は持ってきたものを優先するべきではない。
「どこにあるんだ?食料。こんな岩場に」
「まあ、色々と秘密はあるものなのさ」
シュラインが岩を削っていた場所でまた堀り始めた。岩相手によくそんなことができるものである。
「な……岩で作った箱?」
サーガが驚愕するレベルであった。
ゼツヤが鑑定してみたが、これはなんと言うか、凄いな。中の食料を安全に保管できるように設計されている。しかも。
「これ、プレイヤーメイドだぞ」
「誰かが作ったってことか」
いったい誰が。
「あ、パパ~」
右の方向から幼女の声が。
とても小さいアバターだ。隣には、明らかに母親のプレイヤーがいる。
ちなみに、パパと言うのは、セルファのことである。
「レム。ミナト。いったいどうしてこんなところに?」
幼女がレム。母親がミナトである。
「レムがここにいきたいって言い出してね~」
「おとうさんのにおいがしたからね~」
「セルファって臭いのか?」
「サーガ。ことば選べ」
さて、どうなることやら。
「それにしても、よく来たもんだ。リアルでもレムはパワフルだがな」
ミナトは天然である。
「みんなーおえかきおえかき」
レムはまあこういう性格である。六歳になったばかりなのにスゴいのだ。
というか、ギャグ補正がすごいのである。
「ちょっと広げるか」
「シュライン。ちょっとじゃダメだ。思いっきり広げるぞ」
「え?」
「レムはかなりパワフルだからな」
リオとシュラインはミナトとレムに会うのは初めてである。
まあ、早速入った。
「ん~ごつごつ~」
レムが入ったとたんにそんなことをいった。
まあ、最低年齢が13歳だからそれでもいいと思っていたんだ。
絨毯作った。
「ん~。まんぞく~」
そのままテーブルに座った。
「おえかきおえかき~」
「わかったわかった」
俺たちも座る。
「セルファって娘いたんだな」
「意外か?」
「嫌。別に。見た感じ普通だけどな」
「親である私が言うのは少々おかしいのだが、頑張れ」
「ん。ああ」
「パパ~。おえかき~」
「ああ」
セルファとシュラインも座る。
そのときすでにレムはペンを握っていた。
ぴゅーっとなんか書いた。
「まる~」
全員(ミナト以外)が思った。
レムが書いたのは丸だ。だが、『キレイすぎる』と。
人の手で書いたとは思えないほど正確な曲線であったのだ。
レムがリオのところにいった。
「いぬ~」
「を、書けばいいのか?」
「ああ」
一応というか、リオは確認した。
リオは書いた。
「思ったよりうまくいかないな……」
「いや、写真が泣くレベルだぞ」
凄いな。リオは。
今度はサーガのところだ。
「ぶた~」
サラサラ
「うし~」
サラサラ
「とり~」
サラサラ
サーガは特に何事もなく書いている。
「おいしそ~」
全員(ミナト以外)は『えっ?』と思った。
ゼツヤが見てみた。
そこには『トンカツ』と『ステーキ』と『唐揚げ』が書かれていた。
「調理後かよ!」
「かけるわけないだろ」
まあそれはそうである。
そういっている間に、レムはシャリオのところにいった。
「こぶた~」
サラサラ
「こぶた~」
サラサラ
その後、合計でこぶたと七回いった。
シャリオは狼を書く用意をしていた。
「まんもす~」
「何で!?」
激しく同意しよう。
次はユフィだ。
「うさぎ~」
サラサラ
「ねこ~」
サラサラ
「はむすた~」
サラサラ
ゼツヤは見てみた。
ハムスターだけ異様にリアルだった。
「好みに対象が一発でわかるな」
次はレイフォス。
「パパ~」
「……お前のことを動物だと思っている訳じゃないよな」
「そうであってほしいな」
レイフォスが書いた。
ひどい有り様だった。普段の戦闘中の姿なのだが、バランスがぐちゃぐちゃ。しかも、位置的に腰から腕がのびているレベルである。
「パパへん~」
「理不尽な誤解が生まれた気がするな」
同意しよう。
次はクラリス。
「さそり~」
サラ……サラ。
「へび~」
サラ……サラ。
「たらんちゅら~」
「ごめん。分からない」
「む~」
レムはロックハウスの隅の方にいった。
「くもくも~」
実物を握っていた。
「キャーーーーーー!」
ユフィが絶叫。クラリスはまだ大丈夫だった。ミナトは天然なので問題ない。
男性陣はご存じの通りである。全員驚愕。
「てか、何でいるんだ?」
「モンスターではないよ。町でよく蝶とかが飛んでいるだろ。あれと同じような扱い」
まあいいか。
次はシュライン。
「ごき~」
「なんでよりによって……」
哀れ。シュライン。あと、下手だな。
次、セルファ。
ゼツヤはてっきり最後にいくものだと思っていたが、そうでもないらしい。
「れむ~」
セルファは書いた。
リオですら称賛するほどリアルだった。
「お前もお前でかなり親バカだな」
「誉め言葉だと思っておこう」
ラスト、ゼツヤ。
何を書かせる気だ?
「わたしがかよってるしょうがっこう~」
知るかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
とにかく。こんな感じかなって思う通りに書いた。
「へた~」
……なにも言えない。
言わばと言うのはなにもない場所だ。だがしかし、パワフルな子がいるとそれだけで賑やかになるのである。




