1 沖野宮高校文化祭
さて、11月中頃、高校(中学でもあると思う)ではあることが大体行われる。
そう、文化祭である。
それぞれのクラスが出せるものを出して、客数を競いあう(場合もある)のだ。
ちなみにだが、沖野宮高校ではクラス毎に出す感じである。
クラスないで予算を出しあうのだが(先生は出せない)、それによって稼ぎ合戦である。
ちなみに優勝すると、ちょっとした得点がつく。進路には影響しないが。
なお、この時の採用は『売り上げ金額-予算使用金額』で決まる。
校長曰く、『そうした方が燃えるから』だそうだ。
まあ、それが始まる前、全校生徒が体育館に集まって吹奏楽部の演奏を聴いたりとかするのだが、まあ今はいいとしよう。
一年二組が何にするのかは、何となく時間をかけた後に決まった。
それは喫茶店である。
というか、アイドルだのイケメン留学生だの、ルックス偏差値が高いのだ。これをいかそうとして、結果的にこうなったと言うわけである。
しかも、この際だから執事服とかメイド服とかも用意しよう。みたいな話になった。
というか、今日子先生が何に決まったのかを簡単に書類にしないといけなかったのに完璧に忘れていたものだから、思い付いてできそうだったらやるしかないのだ。
だが、これははっきりいってめんどいのが普通だ。
まず、服は買うか作るしかない。前者は高いし、後者はめんどくさい。これは誰にでもわかる。
最近では、現状としてデザイナーの急減少からデザイン費がバカみたいに高く、比例して服は高いのだ。安いものもあるが、喫茶店を作ろうなどと言う状況で使用されるものに安いものはない。
つぎ、内装である。出し物は教室で行う。狭くはないが、思い出してほしい。今の時代。システムデスクが主流である。これになれている客が多いわけで(学校外からだって客は呼ぶのだ。最近では)、それらがないと不便に思う人が多い。専用のものなんてレンタルでもアウトな領域である。当然だが、教室で使っているものをそのまま流用すると、明らかに不自然になる。
というか、そんな喫茶店なのだから、ピンクのカーテンとかテーブルクロスがほしいところだ。
しかも、喫茶店なのだから、接客とか、あと料理とかも出さないと無理だ。
接客マニュアルや、それを練習することができるVR教材があるので、接客はなんとかなる。
はっきりいって、決まった当初はこれしかどうにもならない感じだった。料理?教室、及び各クラスの準備室は、自動配膳機の設置は禁止されている上に、料理なんてする必要がないのではっきりいってカスレベルである。
デュリオが御曹司なのでどうにかなるのでは?と思ったが、優勝が前提なので(勝手に決めた)、確実にやり過ぎた後脱落する。下手すれば最下位だ。大きなペナルティはないが、金額がもしもマイナスになるとめんどくさい程度のペナルティはある。
なお、どれくらいの金額が出し物関連で使用されているのかを自動的に計算するアプリを強制アップデートされるので、絶対にごまかせない。
あらかじめ料理や服などを金で用意しようものなら、プラスにするには料理の金額をバカみたいな金額にせざるを得ない。客が来るはずがない。
さらに、デュリオは御曹司だが、メイドが一人しかおらず、お金を使わずに用意できる量が少なすぎる。
要は家事においてどうにもできないから本人たちが大きく困るのである。
ちなみに決まってからの会議が行われた日は、竜一は学校を休んでいた。父親方の祖父のお通夜である。
そして、竜一が登校した。
現状を理解してからの竜一の行動はトップギアだった。
まず、服。これは竜一が専門店にいった後、後は執事服やメイド服を着る担当になっている人の体格に会わせて自作。これで服は完璧。
次に内装。テーブルクロスもカーテンも、先程と同じ専門店からそれなりに安いもので仕上げた。システムデスクは、プログラムは竜一の専門ではないのでデュリオに完全に任せて、部品等で必要なものを、これまたそう言った金具関係のリサイクルショップでただでもらって、あとは使えるように流用。これで完璧。
さらに、竜一は料理ができる。というか喫茶店なので、そこまで気合いは入れなくても竜一にとっては問題ない。
服装は仕上げて、本人たちのシミュレーションも完璧になっているので問題はない。
内装も、これまた問題ないようにうまく整えた。
ゼツヤ一人がいるだけで、今まで問題な部分がほぼすべて解消されたのだ。ほぼ、といっている理由は、プログラムはデュリオが作ったからなのだが、それに突っ込む権利はクラスメイトにはない。
何はともあれ、特技の多い人間である。さすが、『何でもできる』とされているNWOで、どんな能力構成のプレイヤーであっても手助けできる存在のことはある。
そして現状。
竜一は一年二組の準備室にもうけられた簡易調理セットの前に立っていた。そして、現在作業中である。
「ヤバイぞ竜一。さっき買ってきたばかりのケチャップがもう足りなくなってる!頼まれているメニュー的に結構使うぜ!急いで買ってくる!」
急に叫んできた。
竜一はリストをチラッと見る。
「急がなくていい」
「えっ」
竜一はトマトにフォークを刺してガスコンロで炙ったあと、皮をパパッとむいで種をとり、フライパンに投入、その後、様々な調味料を随時投入。そして煮込んだ。完成。
「即席で作りやがった」
「買いにはいってくれよ。あくまで即席だからな。あと卵もよろしく」
「了解」
走っていった。
「竜一!大概のものならメニュー外でもオーケーですって言う表示をみて、『松阪牛ステーキ』とか言い出した太った背の低い中年客が来たぞ!」
いったい誰だよ。
あとで知ったことだが、今日子先生の同級生だった。
「断れなかったのか?」
「断ろうと思ったんだけど、一人の客のオーダーも聞けないのか?ここの生徒は。みたいなこと言われた」
「ちょっと裏技使うか」
こんなこともあろうかと、特性調味料を作っておいたのだ。
それをステーキに振りかける。
「たぶん松阪牛よりうまくなっているからこれを出せ。嘘は言うなよ。何を言うかはチャットで確認しろ」
「ていうか。俺としてはお前の方が敵にまわしたくないな」
「よく言われる」
出しにいった。
「竜一くん!」
「今度はなんだ……」
「それはそれはもう大量の集団客が来て、メンチカツを全員が頼んじゃった!しかも特上を申請された」
「メンチカツなら問題ない。一番得意だ」
あっという間に仕上げる。
「持っていけ」
「手慣れているね」
竜一の好物なのだから当然である。
「竜一!」
「ちょっと殴り込みにいってもいいかな。たぶんバチは当たらないと思うんだけど」
「冗談はいいとして、分かりやすいくらいの不良二人が来て、桜ちゃんがヤバイ」
「どんな風にだ?」
「料理をおこうとした時に腕を攻撃して料理が落下。結果的に不良たちの服について不良がギャーギャーいってる」
「そいつら。教室にはいってきたときに天井をキョロキョロ見渡していたか?」
「ん、ああ。まあそんな感じだったと思うぜ」
「情報どうも」
準備室から教室にはいった。桜がさっきから謝り続けている。
俺の教え子(NWOでのはなし)に手を出したことを公開させてやろう。屈辱でお返ししてやる。
「おい、どうするつもりなんだ?」
デュリオが聞いてきた。
「なに、あのバカ不良二人のシナリオにアドリブをぶちこむだけだ」
「ほどほどにしろよ」
「それは俺のさじ加減だな。ぶっちゃけ逆恨みしてきてあとで喧嘩売ってきてもたぶん問題ないし」
「まあ、任せるとしよう」
竜一はその不良たちのところにいった。が、その前にウィンドウである操作をする。
「どうかしましたか?」
「ん。なんだお前は」
「この喫茶店においては重役ですね」
「そうか。よく見ろよ。このクラスの生徒にえらい目に遭わされた」
「それは申し訳ございませんでした。失礼ながら、質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「すでにあなたたちが絶壁にたっているのだと言うことを、ご存じですか?」
「何だと?」
「実はここに……」
俺はウィンドウ操作で画像を引っ張り出した。
「この場で起こったことの原因はあなたたちにあると言う証拠がバッチリと残っているんですよ。みんなにはいっていなかったけど、実はあらかじめセンサーを服のなかに仕込んでおいたんです。画像で残せるようにね。さらに、あなたたち、去年もどこかの高校でこういったことをしていますね。それをふまえて、少数ながら、現役の警察官が、この文化祭中のみ、警備員として派遣されているのはご存じですか?」
不良のかおが青くなる。
「おい、行くぞ」
「無駄ですよ。先程呼びましたから。あと数秒できますよ」
次の瞬間にドアが開いて、そのまま不良たちはつれていかれた。
竜一はお客の方を向いた。
「お騒がせした上、子供や女性の方々には怖い思いまでさせてしまいました。誠に申し訳ございません。そのお詫びといってはなんですが、お飲み物のサービスをさせていただきます。ただし、今この部屋にいるお客様だけです。理由は文化祭で喫茶店を開いたことがある人はよくお分かりだと思いますが、ぶっちゃけます。予算的に苦しいからです!」
拍手と爆笑があった。
いろんなトラブルがあった後、一年二組は優勝した。
ちなみに、その日の夜。不良二人が、まるで待っていたかにように公園にいた男子生徒にぼこぼこにされたのは、余談である。




