ゲーム内ならクリスマスにサンタは必須のはずだ
デュエルカップが盛り上がる理由は数えきれないほど存在する。
それにランキングがあるとするなら、一位は『イブだから』でほぼ確定である。
「いやー、すげえな。花火」
ものすごい勢いで花火が上がっている。
様々なものがあるなか花火に注目している理由は、『努力の結晶度』というゼツヤ命名のものがすさまじいからだ。
デュエルカップ前日のことである。
デュエルカップを最大限に盛り上げようと思ったら花火が必要!と発言するプレイヤーはかなり多い。
と言うことなので、会場は分かっているのでそこに大量の花火を用意することになる。
コロシアムでスタジアムでもそうだが、特にデュエルカップの会場に選ばれるような場所であるなら確実に『花火台』は存在する。
それを利用するにはクエストが必要になる場合があり、今回はそうだった。
「ん?お前ら。この花火台を使いたいのか?それなら、打ち上げ花火を○○本持ってこい」
とドヤ顔で言われたのだ。あまりにも多かったので情報規制させてもらった。
デュエルカップでは億単位のレイクが動くとどこかで説明したはずだが、その大半はこの花火の用意になると大体予測はされていた。
だが、今年のそのクエストでの必要本数は、例年の数倍だった。
ものすごいパニックになったのち、立ち上がったのは……。
「○○本がなんぼのもんだ!俺たちの職人魂に喧嘩売ったことを後悔させてやろうぜ!」
ゼツヤ(俺)である。
もうそこからは果てしないほどの素材とプレイヤーが動くことになる。
指定された花火を生産するには、細工スキルをマスターしておく必要があった。
だがそれは一般的視点からみた意見であり、ゼツヤの知識から察するに熟練度230があれば可能であった。だが、それなりに道具が必要だったので、道具作りからしなければならなかった。
ゼツヤはその道具の簡単な作り方を無償で公開し、次に、バスタードマーケットの全商人が、素材集めに勢力をつくし、膨大なレイクが使用されて、花火や素材の運搬が行われる。あまりに数が多すぎて、リアルで交通関係の仕事をしているものが、騎乗用モンスターの動きを整理する必要すらあった。
最終的に、指定量の100倍の量の花火をNPCの前にドヤ顔しながら出して、顔面真っ青にしてやった。
久々に働きまくった。剣で生産をショートカットできなかったからだ。
「綺麗だね」
横にはミズハがいる。
「あそこまで動きまくったのは本当に久しぶりだったからな。何本作ったのか覚えてねぇよ」
「ははは。見ればよくわかるよ。頑張ったね」
「ああ、それにしても、初優勝か。こんな気分になるんだな」
「どんな気分になるの?」
「楽しかった。それだけ」
ミズハは静かに笑った。
「色々とあったな」
今年、高校生になって、四月にいきなりブリュゲールの本拠地にダガーを取り返すために、今のリトルブレイブスのメンバーを引っ張った。
大規模進行イベントで、異世界の可能性を知った。
ブリュゲールの金策、それに繋がる占領に対抗するために頭を振り絞った。ゼツヤも知らなかった生産方法を知ることができた。
ジョブシステムがアップデートされ、夏休み全部使って『創造神』になって、戦闘凶とバトルしてチート級の剣を産み出した。
天恵大学の生徒たちが実行していた『NWO式軍事兵器』を用いた占領作戦を粉々にした。
桜が引っ越してきて、思いっきりレクチャーして、恋人になった。
そして、デュエルカップでは、初優勝を達成。
「何だか不思議だね。ゼツヤ君が、本当に動き回っている感じがする」
「普段から忙しいのは変わらないさ。でも、今年は本当に色々あった。ここまで動いたのは今までの年ではなかったぞ」
「お疲れ様」
「素直に受け取っておくよ」
その時、鐘の音が響いた。
「クリスマスか」
「そうだね。ん?あれってなんだろう」
ミズハが空を見上げたので、ゼツヤも空を見る。
それは、空を走るトナカイが引くソリに、赤い服装の白い髭のおじさんが、真っ白の大きな袋を担いでいた。
紛れもなく『サンタクロース』である。
「でるんだね。サンタさん」
「中身はNPCじゃなくて運営の人があのアバターを動かしている。ゲームないで唯一、運営がアバターを動かす瞬間でもあるんだ」
「へぇ、ってサンタさん。プレゼントばらまいてるよ!?」
「さあ、行くぞ。あれ、早い者勝ちだからな!」
「それを早く言ってよ!」
「知らんな。さあ、行くぞ!箱に数はプレイヤー数の五倍くらいあるけど、全員が猛獣だからな。しかも、今の間は、全プレイヤーがHPが最大値で固定されている。しかもこの日は全プレイヤーがこの町にワープ可能だ。デュエルカップ後の最大イベント、プログラムファイナル『全プレイヤーによるプレゼントボックス争奪戦』は、もうすでに始まっているぞ。あと、あの箱、耐久値無限だからな。急げーーーーー!!」
青とアイボリーの少年と、青の少女は走り出す。
今年で最高の、思い出のために。
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「いやー、終わったな。リオ」
「ああ、そうだな」
エンシェントアグリスの高台にて、リオとシュラインが話し合っていた。
ちなみに、リオは全く動いていないが、たくさんのプレゼントボックスが、リオの手の届く範囲に落ちてきている。さすがの豪運である。
「大晦日もあるが、あれは今日以上に盛り上がる訳じゃないしな」
「それもある意味当然だろう。あれはそういう日ではない」
ちょうどいい感じに雪も降っている。高台にいると景色もいい。
「ユフィが転んだ。あ、箱全部落とした」
「見ろ、あそこではシャリオが風属性魔法でプレゼントボックスをかき集めているぞ」
「ゼノンはここぞとばかりに集めているな……」
「ルナードはこんな状況でプレイヤーを切りまくってるぞ。長年、僕の前からも姿をくらませていたのに、変わらんやつだな」
「アーネストはバイオリンで回りのテンションをあげまくっているな。プレゼントボックスに興味ないのかね?」
「……先ほど、物凄く息のあったブリュゲールの二人組がいた」
高みの見物。と言うのだろうか。こういうのは見るのも楽しいのである。
「しかし、俺たちもそれなりに楽しめたかな」
「リアルでやることが多かったからな。まあそれはいいのだが」
「俺は、なんか今年に限って建設事務所に依頼が殺到していたんだよ。もう捌くのが大変で大変で」
何気にシュラインは一級建築士だったりする。
「そうか、今年は本当にいいものだったな」
「そうだな。それには同意しておくぜ。あ、ちょっと重要なこと思い出した」
「なんだ?」
「レルクスの方ではさ、まだクリスマスじゃねえよな」
「まあ、そうだな。お前もぶれないな……」
リオはため息をはいた。
そんな視線の先に、ひとつに建物があり、その上にゼツヤがたっていた。
ゼツヤは何かに気づいたかのようにこちらを向いた。そして、右手で、拳銃で撃つかのようなジェスチャーをする。
リオは苦笑し、そのままやり返しておいた。
NWOのクリスマスは、いつでも長い。




