決勝戦 レイフォスVSゼツヤ
本来行われるはずの三位決定戦は、ミズハの棄権によってルナードの勝利となった。
理由は推測できるので聞いていない。
ということで、決勝戦である。
「いつもは俺の前にバスターがいるんだがな」
「今回は俺の彼女に倒されてしまったからな」
「正直予想外だった」
「それは俺もだ」
「それをお前が言うか、お、カウントが始まったな」
ゼツヤは長剣を、レイフォスは大太刀を構える。
「最高の勝負にしよう」
「もとからそのつもりだ」
カウントゼロ。
お互いに突撃する。
ネクスト・レベル。起動。
レイフォスの大太刀が迫るが、落ち着いて対処する。
かわして次が重要だ。
そしてレイフォスの突きは、軌道が変化しなかった。
「うおっ!」
「ゼツヤ。お前バカになったな。俺の斬撃は、変化することが前提ではあるが、必要ないときまで変化するわけないだろ」
おっしゃる通りです。
「いやな、慣れすぎてちょっとくらい動くかなって思ったんだよね。俺」
「まあ気持ちがわからないわけではないがな」
思えば当然で、障害物にない普通のつきでわざわざ回避させる必要はないのだ。
「しかし、万能だな」
「だな。しかし、へんかさせてもお前のようにすべて避けることができるのなら問題はないからな」
レイフォスだって普通のプレイヤーだし、幻術系の魔法を使用することはない。レイフォスが起こした行動はすべて、その場で起こっている。
試合は進まなかった。ゼツヤがなかなか攻撃できないのも事実だが、レイフォスが攻撃を当てることはまだできていないのだ。
いくらSTRに全振りしているからといって、レイフォスが遅いと言うことはない。逆に、大太刀を軽く振ることができるのだから、漠然とではないが早いほうだ。
だが、ゼツヤは今回あの剣を装備しているため、『AGI超絶増加(極高)』がある。これによって、対応が可能。
結果的に速度はゼツヤが上なのだが、一撃で大量にHPを持っていくレイフォスの攻撃を無視することはできないので、対応するしかない。
ゼツヤの予定のひとつでは、この勝負は集中力の持続時間によるとなっている。
「はぁ、らちが明かないな」
レイフォスは距離をとった。
そして、その目に今までにないほど真剣が宿る。
ゼツヤも構え直す。
レイフォスが突撃してくる。
レイフォスにしては珍しく垂直斬りだった。
そしてその垂直斬りは、『消えた』
「な……」
次の瞬間に大太刀で切り上げられていた。
いったい何が起こったのかわからなかった。
斬撃が、消えた。しかも、ゼツヤがネクスト・レベルを起動しているなかで。
「まさか……」
「お、もうわかったか」
「今までのパターンチェンジは、相手の動きに会わせていた。だが、今の攻撃は、俺の集中している範囲から一瞬で大太刀を大きくはずした。しかも、俺にもとらえきれない速度で。STRが高く、大太刀を軽く振ることができるから、それはそのまま、手首だけで高速で振れるということになる」
「そうだ。これが俺の切り札。俺の大太刀を、相手の集中範囲から一瞬で消して、その範囲外から叩き込む。パターンチェンジの先『ファントムアウト』だ」
ファントムアウト。これは最大限に厄介だ。
相手が何をするか、何ができるかと言うことは関係ないのだ。
ただ単に、攻撃する。それしかない。
仮に相手が、レイフォスの攻撃を防御できたり回避できたりしたとしても、それに関係なく攻撃する。
しかも、攻撃される際も集中している範囲外からなのだから、反応速度に関係なく、というより、そもそも反応できないのだ。ルナードの反応速度はおそらく0.1秒だろう。だが、そもそも反応できないのでは、切られるしかない。
だが、今までこれを隠していたと言うことは、これ以上の手段は今のところ存在しないと言うことであり、さらに、このスキルはかなりの集中力が必要のはずである。
高速戦闘のなかで、相手の視線から集中できる範囲を完璧に把握しなければならない。しかも、人に集中力と言うのは個人個人で異なるため、それすらも考慮しないといけないのだから、その苦労はとてつもないだろう。
「どうやら、長い時間使うことはできないのだと言うことは分かったようだな」
「まあそうだな」
仕方がない。戻るのにかなり苦労するが、やるしかないか。
『ネクスト・レベル ディープスイッチ』起動。
『オーバーライド 前提・完全集中・レイフォス』起動。
レイフォスが大太刀を構え直す。
ゼツヤも長剣を構え直した。
そして、お互いに突撃する。
次の瞬間。お互いの斬撃が、お互いの集中範囲から消滅した。
この大会で、はじめてレイフォスが驚愕する。
お互いの剣は、お互いにダメージを与えた。
「まさか、『ファントムアウト』をコピーしてくるなんてな。完璧に予想外だった」
「俺も、まさかしっかり攻撃してくるなんて思わなかった」
「まあそれもそうだな。なるほど、今俺は、そんな目をしているんだな」
「たぶんそうだと思うぞ」
だがこれで、確信してしまった。
レイフォス自身、ファントムアウトを越えることはできないと言うこと。
もうひとつ。ファントムアウトは、少なくともまだ防御には使えないのだと言うこと。
「仕方ない。耐久力勝負といこうじゃないか」
「まさか、相手を完全に真似たのに、結果的に耐久力勝負になるとは思っていなかったぞ」
「最後に聞いていいか?」
「ああ」
「なぜ、俺をコピーできる」
「まず、俺が今の状況にたいして完全に集中している状態なのだと言うことだ」
「ディープスイッチか」
「ああ、もうひとつ。オーバーライド。俺も切り札を発動していた。その効果は、圧倒的な集中状態に、前提を作ると言うこと。いまは、レイフォスを設定している」
「なるほど。ゼツヤのセンスもあれば、俺のファントムアウトを再現できると言うことか。まいったな」
「だが、あくまでこれはレイフォスの技術だ。勝ったとしても、勝負には負けていると、俺は思うよ」
「それは今はいいさ。さあ、始めよう」
二人はぶつかり合う。
だが、二人とも、始まった時点で、何となくわかってしまっていた。
様々なアイテムで自らを強化しまくることができるゼツヤの方が、断然有利なのだと言うことに。
当然だが、デュエルカップはリアルの喧嘩ではない。ステータスによってさまざまなことをきめられてしまう。そんな場所だ。
そんななかで、お互いに完全必中の手段があり、片方が、様々な分野の強化ができる場合、どちらが有利なのかは、誰が見ても明らかである。
デュエルと言うのは、勝者は見下ろし、敗者は空を見上げる。
異常存在の七年間の王座は、創造神に譲ることとなった。
デュエルカップ優勝者。ゼツヤ。
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少年たちは知らない。
隠れた何かがおこっていて、それを止めたものたちがいることを。
語られることのない激戦は、起こり、既に、その終止符は打たれていた。




