第五回戦 ミラルドVSテラリア 第六回戦 ピクルVSルナード
さて、第五回戦はミラルドとテラリアである。母娘対決だ。
どうなるのかよくわからないので、何となくでゼツヤは見ていた。
『まさかお母さんが来るなんて思ってもいなかった』
『いきなりひどくない?』
何だこの会話。
『特に深い意味はないよ。お父さん辺りに倒されていたかなって思っただけだから』
『愛は不滅だからその辺りは問題ないわよ』
『そういえば万年新婚だったね』
ゼツヤは何を言えばいいのかわからなかった。何かを言う必要はないのだが、それは今はいいとして。
『さて、そろそろ始まるわ。お母さんは手加減しないからね?』
『手加減なしは料理だけでいいのに……』
どんだけ旨いんだ?それ。
実は三ツ星レストランのオーナーシェフだったりする。黒曜石はもちろん無関係。
まあ細かいことはいい。なんというか、最も普通な戦いだった。
お互いにハイエストレベルに達しておらず、テラリアは人柄はまあいいし、海賊団の団長だが、ずば抜けてポテンシャルが高いわけではない。
ミラルドはルナードを父親に持つが(バスターから聞いた)、そもそも教えが護身術だけである以上、防御能力は多少高くても、それだけで終わってしまう。
なんというか、物凄く『NWO』らしさがあった。
攻撃し、守り、回避して、その攻防が続く。
それ以上語ることはない。
勝者はテラリアだった。母親と言うのはそういうものなのだろうか。ゼツヤにはまだわからない。
さて、今回から戻ってきたルナードと、ゼツヤの弟子であり暴走特急のピクルである。
『確かゼツヤの弟子だったか』
『そうだね。私、今スッゴクワクワクしているんだ。私は七年前はこの世界にいなかったからね』
『そりゃ光栄だ。さあ、俺の実力を見せてやるよ』
試合開始、ピクルは突進するが、この動き方はある動きかたににているのだ。
かなり難関のダンジョンに出てくるモンスター『デモンズクラッシャー』と同じ動きである。
『うげっ!』
ルナードはモンスターを相手にするとこれでもか!と思うほど弱いが、これはルナードの前提のせいである。
ルナードの一番のポテンシャルは、目の前の人間の様々な観察できる点を全て把握し、それをもとに自分の中で戦略や様々なルートを構築する。この方法に慣れすぎているのだ。
ルナードはSPとしての時代がかなり長く、NWOをプレイするまではどちらかと言えばPK専門のゲームをしていた。このため、対人戦においては圧倒的な実力を持つ。自分のポテンシャルを正確に理解しているので、その上で正確に物事をとらえることができるからだ。
だが、これがモンスターになるとどうなるのか。
まず、情報を組み立てていく上で、対人を得意としていた自分の取り柄は全て消え去る。
さらに、材料が消えるため、反応がかなり遅れやすい。
簡単に言えば、モンスターを相手にすると言う、ファンタジー系のゲームでは醍醐味であるそれが、一番の『苦手分野』なのだ。
トレインと言う、モンスターをおびき寄せてプレイヤーに当てて倒すと言うPKがあるが、実はルナードにはかなり有効だったりする。無論。ルナードがごり押しで勝てるくらいのモンスターであった場合、無意味なのだが。
兎に角、ルナードはモンスターと戦うのは苦手である。
対するピクルは、ハンマーを扱う超攻撃系だが、実は最初はかなり弱かったのだ。
ピクル自身のポテンシャルは、そう高いとは言えない。
だからこそ、ある工夫をした。
即ち、『みんなが強いと思うモンスターの動きをコピーする』と言うものである。
ある意味で、VRMMOだからこその戦術だ。画面のゲームでは基本的にコントロールを握ってするため、自由度が低く、その分、プレイヤーの動きを真似ることは頑張ればできないこともない。だが、人型モンスターの動きを真似ることは絶対にできない。
無論。真似をすることはある程度なら誰にでも可能だ。だが、コピーをするとなるとそうもいかない。
だが、リアルの人間に身体能力の差はあるが、仮想世界であるならそこまで気になるものではない。だからこそ。反復練習を繰り返せばコピーできる。
ハンマーと言う、単発攻撃がものを言う武器だからこそ、ある意味で有効と言える。
無論。真似るモンスター(最近ではプレイヤーでも可)が強くなければ結果的にピクルは弱いわけで、いろんな場所にいくことが必要だが、本人のフットワークは軽く、好奇心は強いのでそこは問題ない。
そしてピクルは、ルナードがモンスターを相手にすることが苦手だと言うことを知っている。
もしかしたら。と誰もが思った。
『なるほど。確かに俺はモンスターは苦手だ。まだそれがなおっている訳でもないしな。だが……』
ルナードは剣を構え直す。
『いくらコピーしたとしても、そもそもの前提として、お前は人間だ。残念だが、お前の手は全部通用しない。コピーしてくると言う状況を頭の中でうまく考えればいいだけの話だからだ』
ルナードは、ハイエストレベル到達者は、甘くはない。
『く……』
ピクルが押され始める。
コピーし、実行するのがピクルだが、そもそものポテンシャルが高くないため、かなりの反復練習が必要である。簡単に言うなら、自分で一回一回決めなければならない。反射的に行動することはできないのだ。
そもそも、ゼツヤはピクルが勝てないことを分かっていた。
七年前、ルナードを倒そうとして計画された案の中に、『ルナードが苦手とするモンスターの動きを真似て倒す』という案が存在していた。
ピクルほどではないとはいっても、その当時ではかなりの再現力を持ったプレイヤーが集まったが、ルナードには誰にも勝てなかった。
相手が人であれば、ルナードは強いのだ。
ピクルは弱くはない。努力も多い。
少なくとも、電脳という、他の人間とは自分は違うという部分を認めなければいけないという精神的負担を抱えていることを前提にすれば、強いと言えるだろう。ホルンはマイペースだし、ローズはあの性格なのでその部分は関係ないのだが、ピクルは違う。シャリオに、電脳としていきることは可能と言われたとき、一番迷っていたのはピクルだ。
「お前の苦労は、お前の師匠から聞いているさ。努力も認める。だがそれを入れても、俺に勝つには、まだまだ足りない。どこかで見たことがある動きって言うのは、対応がしやすいということでもある。よく覚えておけ」
ルナードの一閃で、決着はついた。




