第四回戦 ソレイユVSバスター
第四回戦はソレイユVSバスターである。
バスターはスタジアムに上がった。
「そう言えば、俺ってあまりあなたの戦い方は知りませんね」
「私は知っているけどね」
バスターに基本的に書類整理が日課のようなものなので、そこまで戦闘に出ることはない。無いわけではないが、それでも一般的なプレイヤーと比較すると少ないだろう。ゼノンと話すようになって色々とコツはつかんだのでそれなりに増えてはいるものの、元々がソロだったこともあって、上達はそこまで極端ではなかった。
ソレイユは行動のコンセプトが全く違うギルドであるリトルブレイブスに来てもその運営能力に衰えのない優秀さである。
全然知られていないが、ソレイユ。成神今日子は天恵大学・VR法律科という、いわば現代において重要視されてきたVR技術が法律にどう関係してくるか。その判断や修正及び改善を目的としたものを卒業しており(バスターは知らないがシャリオとセルファは知っている)、更にその現役時代、様々なゲームにおいても運営に携わっているため、基本知識もVRが影響するプレイヤーの精神的な部分もかなり理解している。
要するに、心理的な誘導や観察眼はすさまじいのだ。だが、優秀な成績ではあったが、シャリオを越えることはない。やっぱりリアルでの化け物はシャリオである。
ソレイユの武器は『刀』であり、今も抜いている。
ちなみにオラシオンシリーズであり、名前は『邪氷龍撃丸・轟』というものだが、まあ勘のいい人なら素材のモンスターがなんなのかはわかるだろう。
それはいいとして、バスターはソレイユの運営能力はよく知っているが、戦闘能力はあまり知らないのだ。
ただ、ブリュゲールの幹部だった時代もあるし、その際、当時のゼツヤの最高戦力が暴れていた狭い部屋であっても生き残っていたことから、少なくともしぶとさは高いだろう。
「カウントが始まったか……」
60秒のカウントがスタート。
さて、どう攻めるか。バスターはセンスはあるが、大剣や様々な動きを混ぜた単発火力が基本戦術だ。
タイミングはかなり重要であり、かわされて反撃されたらもともこもないのだ。大剣はある意味、そのリーチから外れることはないので、あとは精度の問題である。
カウントゼロ。ソレイユが走ってくる。
それと同時に、バスターも跳躍した。大剣を持っているとは思えないほどのスピードで行く。
ソレイユはつきを放ってくる。
バスターは大剣で刀ごとソレイユを凪ぎ払おうとした。
……何かが不自然だった。つきにはいるタイミングが、あまりにも早い気がした。
そしてその嫌な予感は当たった。
ソレイユがつきで腕を伸ばしきった瞬間、刀が発光したのだ。
「それははじめてだな」
まさか。本来なら『攻撃』であるはずの突きが『起動モーション』だとは、バスターも初体験である。
ソレイユはそのアクションスキルで一旦下がり、バスターに大剣をかわす。そして、そのまま切り上げを放ってきた。
「うおっ!」
バスターは絶賛跳躍中である。そういったことは心底望まないのだ。
大剣を地面に叩きつけて強制的に止まったあと、その大剣を蹴って後方に飛ぶ。その後、あからじめつけていた糸を引っ張って大剣を回収する。
「なかなか個性的な動きね」
「そちらもなかなか個性的な発想ですね」
お互いに笑みを浮かべる。変な意味で。
まあ、お互いにトリッキーである。
ソレイユはもとからそんな感じだが、バスターはその戦闘スタイルであるがゆえに、小細工が多いだけである。それが進化(謎)して、今のような感じになっている。
「さて、どうするかな。戦闘スタイル的にどうもやりにくい……」
「そうでしょうね」
まさかの確信犯だった。おいおい。それでいいのか国家公務員。
「結構色々と小細工が多いですね」
「教え子が三人もこのトーナメントに参加しているからね。私もそれなりに頑張ろうと思うわけよ」
成る程。それについて異論はない。
「まあ、想定外ではありませんがね」
バスターは跳躍する。だが、嫌なほど低空跳躍だ。
「え……」
ソレイユは急な状況に対応できなかった。
まあ、こんな飛び方をしてくるものなど、スカートを見ようとする変態くらいのものである。今現在ソレイユはズボンなので全く関係ないのだが。
そしてバスターは、思いっきり切り上げる。
「く……」
ちなみにいっておこう。バスターの単発火力は、セルファでも止められない。
スピード型のソレイユが、刀一本でどうにかなる話ではなかった。
ソレイユは、飛んだ。冗談抜きで。
……観客席方面に。
「ふう、終わった」
場外。達成。
……しなかった。
「えっ?」
そう、たりなかったのだ。飛距離。
なぜだ。なぜそんなことが起こったのだ。
ん?ソレイユのHPが予想以上に減っている。
ソレイユが戻ってきた。
「まさかあんな方法で来るとは思わなかったわ」
「まさか帰ってくるとは思いませんでした。あと質問なんですけど、なぜ?」
「簡単よ。風属性魔法を自分に当てて戻ってきたのよ」
魔法は熟練土が高いと、発動地点をちょっとくらいなら遠くにすることができるのだ。完璧に忘れていた。
「さあ、もうあんな手は通じないわよってなんで大剣を二本持っているの?」
「振れるからです。なんというか、お互いにこざかしい性格だと言うことがよくわかりましたので、これで決着をつけることにしました」
無論。ソレイユがこうなったバスターに勝つことはできなかった。
バスター。以外とかなりめんどくさがりやである。
まあとにかく、試合は終了。
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会場では変なテンションになっていた。
まさか、バスターがあんな簡単に手の内をばらす性格だったとは。と。
多くの観客が何かしらの食べ物を持ってそんなことを思っていた。
ちなみにだが、リアルでオリンピックなどがあるとその場所に大きな経済効果が発生するが、それはこちらでも同じで、多くの商人プレイヤーが屋台を並べている。
その経済効果は凄まじい。
普通に億単位のレイクがこの日は動くのだ。考えただけで色々ヤバイのはある意味当然である。
そんな観客たちは、バスターの行動に驚愕していたが、手練れのものたちは、そのバスターの行動は演技だと言うこと、さらに、まだ何かあることくらいはわかっている。カードが一枚しかないトッププレイヤーなど、いるはずもないからだ。
とあるバーの席にも、それと同じことを考えているプレイヤーがいた。
「バスター。君はその単発攻撃力というカードだけで、どこまで行けるかな?」
抜群の容姿を持つ青年は、呟いた。
その服装はなかなか豪華なものだった。装飾においてはかなりのものである。
「おいリオ。お前うさんくさい表情だが、なんか予想外なことでもあったのか?」
少々不良っぽい男性が、青年。リオに質問した。
「僕にそんなものは滅多にないよ。ただ、少々気になることがあっただけだ」
「そうかい。まあいいんだがな」
リオはモニターを見る。
「まあ元々、今年の参加者は誰もが全力を出す予定のようだし、何が起こるのかはわからないけどね」
青年たちがいるのは、NWOないに存在する、プレイヤー経営のカジノだ。
今もいろんなかけが行われているが、もっとも大きなかけは、『誰が優勝するか』という部分である。
「さて、次の試合は僕には関係ないか。座っているのも飽きてきたな」
リオは立ち上がると、ポーカーテーブルに向かってあるいた。
その座っていた机には、ひとつの紙があった。
【優勝予想プレイヤー決定用紙。リオ。選択プレイヤー名『ゼツヤ』】




