第三回戦 ミズハVSサーガ
ミズハは控え室からスタジアムの会場にいった。
さて、ミズハは当然この場所に来るのははじめてなのだが、見たことがないわけではない。他のゲームにいたときに毎年見ていたのだ。
反対側には、サーガがいる。
髪はボサボサだが、容姿は整っている。NWO『最強』のギルドである『エクストリーム』のメンバーで『弓使い』だ。
「始めまして。ミズハです」
「サーガだ。ゼツヤの教えがどこまでのものなのか、ちょっと見せてもらうぞ」
「存分に見せますよ」
カウントが始まる。
サーガはゆっくりと弓を構える。ミズハはエネルギータイプで構えた。
カウントゼロ。
「ミリオンレイン」
ミズハが弓を引くと、ゼツヤですらさばけなかった量の弓が出現する。そして、すべてがサーガめがけて飛んでいく。
対するサーガは……後ろに半歩、下がっただけだった。
なにがしたいのか全くわからなかった。
だが、ミズハの弓は、すべてサーガを避けて飛翔し、すべて当たらなかった。
「そんな。いったいどうやって」
「あれだけゼツヤに向かって同じ技をしようしていたんだ。嫌でも覚えるぞ」
ミズハにはいっていることはわかったが、納得はできなかった。
サーガがいっていることが本当なら、百万の矢の軌道を覚えることができる。といっているようなものだからだ。
「こっちからもいくぞ」
サーガが連続で弓を引く。
虹が別れて、ミズハに迫ってくる。
ミズハは直感で避ける。
だが、ほとんどが危ないものだった。
なぜ、直感で避けているミズハを追尾出来るのか、さっぱりわからない。
「なんで、直感で動いている私をとらえることができるの?」
「とらえることができているわけではないがな。簡単な話だ。直感がすべて正解を実現するというのなら、その正解を狙えばいい。経験的に、僕の弓にようなものははじめてだろう」
「でも、それだけで……」
「出来るんだよ。問題には答えがある。直感であっても答えを見つけることができるのはいいさ。だが、その問題の答えを決めているのは僕だ。なら、決めた場所に当てればいい。まあ、当たる当たらないは最終的に君次第だから今は危ない程度ですんでいるというだけの話だ」
これがエクストリームメンバーの実力なのか。
「僕に勝ちたいのなら、問題をよく読んで、僕が見いだせなかった答えを選ぶことだな」
「あまり好きじゃないんだけどね」
「だがそれでは防戦一方になるぞ」
サーガはまた弓を構える。
ミズハも構えた。
そもそも、弓使い同士が戦った場合、本来ならどんな勝負になるのか。
弓の一番の利点は、『遠距離攻撃手段』に属することである。要するに遠くから攻撃できるのだ。
となると、弓の射程範囲外にいけばいいだけの話だが、直径一キロのドーム状では、すべての場所が射程範囲だ。
次に正確さ。これはかなりプレイヤーに依存する。武器のジャンルは色々あるが、弓以上に練習が必要なものはない。
うまくできるようになったらその動きを『アクションスキル』として登録することで、とっさの正確さをごまかすことはできるが、技名を言う必要はないにしても、かなり弾道を予測される。
結果的に、自らの正確さを上げるしかない。
ミズハは経験と直感から精度はたかい。
サーガは経験とその膨大なDEXと、サーガとクラリスだけが持つスキル『無限分割思考』による、膨大な『発案』と『整理』に、たったひとつの『決断』を同時進行させることで最善の一手を打つ『マスターコマンド』によって精密射撃が可能になる。
少なくとも、よほどのことがなければ、双方がむやみにはずすことはない。
では、なにが勝敗を決めるのか。
色々あるだろうが、この二人に関して言うなら『冷静さ』である。
誰でもそうだが、パニックになった状態で最高のパフォーマンスができるはずがない。
サーガは滅多に感情が動かないので(ゼツヤクラスの鈍感でもある)普段から冷静であり、その分『無限分割思考』をしっかりと起動できる。クラリスでさえ、冷静さを保っていないと『無限分割思考』はしっかりと起動しない。
ミズハの直感は、視点を変えるなら『ひらめき』に近いので、それをうまく実現させるには冷静でなければそのひらめきを瞬間的に実現できない。
この二人は確かに弓に向いている方だと言えるが、あくまでも、二人の強さは自らの最大の長所の延長線上であるがゆえに、絶対に必要な『冷静さ』が欠けているとうまく動くことはできない。
サーガもミズハも経験は長いので、冷静さが必要なのは気づいているが、一度パニックを起こすと、冷静さが欠け、さらに戻りにくいのは同じである。
ちなみに、万全であったならどちらの方が上なのか。それはミズハだ。サーガはその意見をまとめるため、精度を優先しタイムラグが発生する。だが、ひらめきをそのまま流用するミズハはタイムラグが極端に短い。これによって、ミズハの方が早いのだ。
だが今現在。ミズハはサーガの言葉と現状によってパニック状態であった。
万全であればミズハの方が上なのはサーガも理解している。だからこそ、崩す必要があった。だからこそ、喋った。それだけのことだ。
しかし、ミズハにも切り札はある。『マリオネット・ストリング』だ。
ある意味で『開き直る』ための手段でもあるこれは、一気に冷静さマックスの状態にすることができる。
第三回戦。勝者はミズハであった。しかし、その決定は、サーガの降参であった。
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「ああ、サーガが降参しちゃった」
「ゼツヤのレクチャーもあるが、ミズハか。かなりの実力だな」
「そうですよね~」
クラリスがしょぼんとなって、セルファが認め。ホルンが同意した。
因みに、敗北したプレイヤーは観客席行きである。
「む~。サーガはもう。しっかりあれをしていたら勝てたかもしれないのに」
「一体なんだ?」
「私が腕によりをかけて作ったカツカレーだよ」
セルファは、食べていたら食中毒で出場できなかった可能性があるな。と思った。
「因みにこんな感じ」
写真を見せてきた。リアルの写真はこっちに持ってくることができるのだ。
見た目は以前よりましになったな(ニンジンが生っぽい感じでまるごと投入されていたが)とおもう。
ふむ、まあ、うまそうには見えないな。
「味見はしたのか?」
「してないよ」
セルファは、料理が下手なやつは味見をしないと言う法則があるな。と思った。
「酷いんだよ。スプーンもって、ご飯とカレーを一緒にすくって、口に入れるかと思った瞬間、全身を一瞬震わせて硬直して、そのまま食べずにさらに戻したんだよ。これってどう思う?」
正しい判断だとセルファは思う。
「ふむ。まあその話はあとで話し合っておいてくれ。私は少々席をはずすとしよう」
セルファが向かったのはサーガの場所である。
すぐに発見した。
「サーガ、ひとつだけ聞きたいことがあるのだが」
「セルファか。なんだ」
「カツカレーにいったい何を見たのだ」
「……」
サーガの言い分によると、
『背後から死神が現れてケタケタ笑って釜をサーガに首にかけてきて』『左右からスナイパーに狙われているような重い視線も何万個も感じて』『目の前に一瞬花畑が見え、その先で長い川が流れ、その向こうに死んだおばあちゃんが手をふっていた』という。
「それって料理なのか?」
「僕に聞くな」
サーガは何も言わずに早足で歩いていった。




