第一回戦 アーネストVSローズ
さて、トーナメント一回戦という記念舞台を飾るのは、旋律騎士団団長。アーネストと、ゼツヤの弟子(という情報はあまり知られていない)のローズである。
「トーナメント出場者のなかで一、二位を争う変人二人がいきなりぶつかるとはな」
ゼツヤはかなり苦笑していた。控え室のモニターには、まさにベストポイントから写っている。
アーネストは旋律騎士団団長にして、NWO最大の指揮者である。数ある音楽ギルドのなかで、旋律騎士団は、イベントにおける需要がもっとも大きいのだ。
そして、本人にはかなりこだわりというか、実力は本物なのだが少々めんどくさい部分がある。
対するローズは、登場する際に自分でバックの薔薇を用意するような人間である。書くことはそれくらいしかないが、まあ価値観によって評価がかなり変化する印象だ。
NWOは何でもできるということが大きな特徴でもある。
戦闘に関する美学や掟を持つことも自由であり、実行し続けようと思うのならそれはそれで本人の自由だ。
ルナードの場合、『面白ければいい』といえば言いのだろうか。要するに、相手が誰でも関係なく、とにかく戦うといった感じである。シャリオの場合、『完全殲滅』であり、どちらかというと集団戦闘に向いている思考である。
「はっきりいってどっちが勝つのかさっぱりわからん。まあ、この二人だ。おそらくアクションスキルが中心になるだろうな」
アーネストのレイピア『頂の旋律剣 フルスコア』は、かなりアクションスキルに関して特殊効果が出やすい。技によって変わってくるので、どう使うかが重要だ。しっかりと見極めれば大きく活躍できるが、レイピアそのもののパラメータは高くないので、持ち主をかなり選ぶ剣である。
ローズのレイピア『レインボーガーデン』は、アクションスキルを使うと薔薇の花びらが出現する。無論、ただの演出なので、花びらに当たろうとなんの影響もない。
作ったのはゼツヤだが、オーダーはローズ本人である。『バラの花びらを出せるものをつくってほしい』と言われたときは、目が点になったものだ。本当に。
まあそんな個性と個性のぶつかり合いなのだが、服装もこの二人は他とは違う。
アーネストは『そんな格好で戦闘なんてできんの?』と言いたくなるようなスーツ姿。動きやすさではなく、見た目重視にしているように見える。
ローズは、『いつの時代の貴族だそれ』と言いたくなるような装飾まみれの服である。無論というかなんと言うか、薔薇が中心だ。
さて、そんな二人がいきなり登場するというトーナメント。はっきり言おう。よくわからん。
まあ、それはいい。二人が指定の位置についた。
『それでは、第一回戦。アーネスト選手VSローズ選手のデュエルを始めます』
やっとか。
このデュエルではいきなりカウントが始まる。
カウントはどのデュエルであっても一分と決まっている。今回もそうだ。
カウントが始まる前に動いてもいいが、それそのものに特に意味はない。
だがこの二人の場合、剣ではなく、まず口から勝負が始まる。まあ、剣を降りながらでもしゃべるのだがな。コイツらは。
『相変わらずスーツ姿だな』
『そちらこそ。そこまで薔薇が好きかい?』
『無論だとも。そちらも音楽が好きなのだろう』
『確かに好きでもあるが、それ以前に僕自信の構成要素だ』
何言ってんのか理解できん。
『音楽はいい。ありとあらゆる感情を、その限られた時間に凝縮し、すべてに届けることができる。凡人であればただの音の羅列に過ぎないそれも、僕の手によってそれは最高のハーモニーになるのだからな』
『あまりにも一瞬過ぎるだろう。薔薇は、誰もがその存在を目にし、その美しさを目で、その香り、そこから溢れる空気、ありとあらゆる美しさの幻想なのだ。その命続く限り、薔薇は全ての者に幸福を与えることができる。素晴らしいだろう』
君たちは言っていて恥ずかしくはないのか?まあ恥ずかしくないから、全国放送ともとれるこの大会でそんなことが言えるのだろうが……価値観の差。と言うものなのだろうか。
ゼツヤ個人の意見を言うなら、花には寿命があるし、どんな音楽であろうといつかは終了する。どちらも等しく終わりがあるものだと思うのだが。
『まあいい。語るのはここまでにしよう』
『ああ、今度は剣でするとしよう』
お前らは剣を持っていてもベラベラしゃべるだろ。とゼツヤは思った。
お互いに突撃し、それはそれはもう相手に隙を与えることをお構いなしでアクションスキルの連発。きらびやかなエフェクトと薔薇が混ざりあい、確かにある意味幻想的ではある。
……無論。全てのものが理解できるのかどうかは別にして。
『どうした。剣速が落ちてきているぞ』
ローズ。それは違う。アーネストの剣速が落ちているのではない。単にお前のテンションが無駄に高いだけだ。というか全然変わらないな。
この二人は『強さこそ最高の美学』という前提が全く存在しない。そのため、純粋に戦うよりも、見せる戦いを望む。そのため、派手さの少ない通常攻撃の回数がかなり少ないのだ。
しかも、この二人はまあ変な意味でライバルだ。隙を狙って通常攻撃で勝つ。ということは狙わず、あくまでアクションスキルで押しきることが前提になる。他のものたちとデュエルする際は流石にこんな『アーネストとローズにのみ適用されているルール』みたいな戦法にはならないが、まあ、価値観の違いだ。
ゲームでよかったな。とゼツヤは思う。『ゲームじゃなかったらこんな剣で語るなんてことがあるはずないだろう』というツッコミは無しだ。何せ、音楽だってバラだって現実にあるからな。
ちなみに、こう言う、『アクションスキルに委ねた戦術』同士がぶつかった場合、どういった決着になるのか。
そもそもアクションスキルなので、自分で事前に決めた動きになる。さらに、二人はこれでもレベル100であり、決して弱くはない。一度アクションスキルを見れば、精度は抜きにしても大体覚えてしまう。よって同じ技は使えない。
よって『ストック数』が重要になる。
因みに、ローズの未使用のアクションスキルは、大体500個くらいあるらしい。あくまで花であるため、『ちょっと思ったこと』を反映させやすいからだろう。川柳を作る腕前は最悪だが。
アーネストは『曲』だ。技を見て分かったが、ローズよりも確かに一つ一つが重く、そして、情報が多い。だがその分、数は少ないだろう。
美しさの上下関係が『情報の多さ』によるのなら、アーネストの方が上。
美しさの上下関係が『そこから考えることができることの多さ』によるなら、たぶんローズの方が上だ。
結果的に言うなら、『勝手にしてくれ』である。
ちなみに、試合そのものはローズが勝った。
よくわからない戦いは、とりあえず終わったと言っていいだろう。
……ふう。
 




