周辺プレイヤーのことも考えよう
あのあと、雨(矢)時々流星という訳のわからない天気予報に本気で付き合わざるを得ない状況になっていたゼツヤである。
しかし、なんというか、ミズハもそれなりに調べてはいたようだ。
いくら光の雨とはいっても、よほど集中させなければ地面は貫けない。要するに、地下に逃げ込めばいい話なのだが、これがなかなかうまくいかなかった。
答えは簡単。ミズハはその直感を合わせて脳内にマップを構成し、地下にいく道を封じるように矢を打ち続けてきたからだ。
あと、ミズハ自身がレクチャー中にやっていなかったのでゼツヤも気づかなかったのだが、ミリオンレインは文字通り100万発も発射する。
そんな数を発射していたら、収まる頃にはもうすでにクーリングタイムが終了しているのである。しかも、それは弓の能力なので、あまりMPをしようしない(それでも使用量は無視できるものではないが)ため、MPの補充が万全ならいくらでも撃てるのだ。
ちょっとデメリットや回数制限をつけるべきだったと今更後悔した。
「しかし、あそこまで俺を狙ってくるとは思わなかったな」
バトルロワイヤルと言うのは、回りのプレイヤーを倒すことは確かに重要だが、それ以上に、回りのプレイヤーと協力したり、または相手が知らないうちに利用していたりと、回りのプレイヤーをうまく使うことも醍醐味である。
仮に一人が別の誰かとてを組んだりして、二人とも生き残っても、どのみちトーナメントでは戦うことに(なる確率はあまりないが)なるかもしれないが、それはそれで仕方のないことなので納得するものである。
ミズハにとって一番いい手段は、自分よりも強者と組むことだ。たぶんあまりいないけど。
まあ別に組まなければいけないわけではない。実際、ゼツヤも誰かと組んでいるわけではない。
というか、ミズハという存在そのものが、バトルロワイヤルに適合しすぎているとゼツヤは思う。
ゼツヤも遠距離攻撃ができるが、ミズハの方が遠距離における総合火力は高いだろう。
しかも、直感があまりにも優れており、それが途切れることがほとんどないため、待ち伏せも奇襲も、隠蔽も逃走もすべて認識し、すぐさま精密射撃が可能だ。
「まあ、誰かと組むこともアリであるバトルロワイヤルで、もっとも他の人材を必要としないのがミズハだな。うおっ!スーパーノヴァ来た!」
すぐに回避する。実はまだ地下に行けていないのだ。
理由は色々あるが、一番の理由があるとすれば、行くためのみちを瓦礫で封鎖されてしまったのだ。で、魔法で瓦礫を吹き飛ばしても、ミズハ自身が遠距離射撃で瓦礫を補充するため、どのみちいけないのだ。
まさか、ここまでミズハが俺を狙うとは、何かしたかな。俺。
他の連中が聞いたら、『たくさんしていると思うぞ。俺たちも知らんけど』みたいなことを言われただろうが、それは本人が知るよしもない。リアルでもNWOでもバリバリに付き合ってはいるが、だからと言って鈍感がなおったわけではないのだから。
「しかし、この状況が続けば俺はいずれ袋の鼠になるだろうしな」
しかも、ミズハは恐らく、バトルロワイヤルにおけるゼツヤの弱点を知っているはずである。本気を出せないという弱点を。あのデュエルのあと、お互いに話し合ったのだ。互いの切り札を。
「はぁ、勘弁してくれ」
因みに、ここまでミズハがゼツヤを狙う理由は、積年(ではなく月)の恨みもあるが、回りにいるプレイヤーがゼツヤしかいないからである。要するに、暇潰しだ。ちょっとハードだけど。
弱点にも気づいているが、『まあ私の彼氏なら問題ないだろう』という前提である。
というか、万全であるという前提があるとすれば、ゼツヤは『ネクスト・レベル』で『マリオネット・ストリング』を攻略可能なのだ。慣れである。
とまあそんな感じの軽い思考で『的当てゲーム』をしているのだが、的の苦労を考えない辺り、十分鬼畜である。
「くそっ。セルファ辺りでも呼んでおくべきだったかな。あいつなら理解できるのに」
いや、ゼツヤはネクスト・レベルではない今は分かっていないのだが、セルファの『フューチャー・アイ』では、ミズハの直感を越えることはできない。
使っている本人も気づいていないが、セルファの『フューチャー・アイ』は未来を予測していると言うのがエクストリームメンバーの認識だが、実はそうではないのだ。
『フューチャー・アイ』の正体は、セルファ本人が持つ『洞察力』と『決断力』からくる、圧倒的な『逆算能力』である。
まず自分が何をするのかをしっかりと決め、それを実行するために何をすべきなのかを一瞬で判断する。
相手の狙いに関しては、相手をよく見て、それプラス、セルファ自身の人生経験。特に、いろんな生徒を見てきた経験をいかして推測する。その精度が高いだけに過ぎないのだ。
そのため、何をするのかを基本的に決めないミズハの直感や、常に自分にとって優位な状況を瞬時に選び続ける『パターンチェンジ』を越えることはできないのだ。
「ふう、疲れる。不公平だろ。こっちは相手がどこにいるのかわからないのに、向こうはこっちがどこにいるのか把握しているなんてさ」
まあ確かにそれだけ聞けば不公平にも見えるが、ゼツヤ個人のポテンシャルを考えれば完全にそうとも言い切れないのだが。
バトルロワイヤルでは、回りの人間をどう動かすのかがかなり重要になってくる。だがしかし、たった二人しかおらず、しかも片方は、倒す気が無いにせよ攻撃し続けるのであれば、それは関係ない。
さらに言うなら、誰であっても、『危険地帯』に自ら飛び込むものもいない以上、助けが来ることはない。というか、ゼツヤは優勝候補ではなかったとしても、トーナメント参加候補なので、どちらかと言えば狙われる身である。
さらに、もうひとつ。ゼツヤは危惧していることがあった。
「回りにプレイヤーの気配がない。今いる場所は、それなりに端の方だからそれは不思議ではないが、もうそろそろエリアが小さくなるかもしれないな」
いくら北海道並みの広さがあると入っても、参加人数は億単位で、しかも、遠距離攻撃手段も全く持っていないプレイヤーは少ないだろう。プレイヤーの減少スピードは、遅くはない。
さらに、この場所にずっといても、人数変動によるエリア制限に引っ掛かる恐れがある。
簡単に言うなら『そろそろ移動するべき』なのだが、どうやらゼツヤの彼女は、知っていて続けているだろう。ミズハは最近かなり用意周到だ。ルールくらいは完璧に覚えているだろう。
直感で今の状況を頭の中で構成した可能性もあるが、どうであっても、ゼツヤが移動しなければいけないことに代わりはない。
ゼツヤ自身『おかまい無し』という言葉はよく使うが、使われるとなかなか厄介だ。
持たせるチート武器も、それなりに考えて作るべきだな。
ゼツヤの苦労は絶えないが、それでも移動するべきである。
だが、移動しようとすれば、ミズハの直感センサー(ゼツヤ命名)に引っ掛かるので、移動経路をちゃんと考えるべきである。
「仕方がない。一気にいくか」
ウィンドウを開いてアイテムを取り出す。小さな砂時計のようなアイテムだった。
それをためらいもなく壊す。すると、ゼツヤのアバターが一瞬光った。
これで、一分間だけ、かなりの速度強化が施されたはずである。
次の瞬間。ゼツヤは高速移動を開始した。
だが、ネクスト・レベルもオーバーライドもうまく起動しない今現在においては、単純な行動は避けるべきなのだ。だが、あえて実行する。ミズハの直感を相手に、策はほとんど効かないからだ。
なるべく建物に隠れるように進む。地下にいくことができればいいのだが、地下にいっている間にエリア制限が来れば、地下の詳細マップがない現状では、それは避けるべきだ。
10分毎の配布マップには確かにプレイヤーの場所は表示されるが、町の形を同時に表示してくれるわけではなく、さらに、いったことのある場所しかマッピングされない。地下に入った最後。その先に道がなければそのままゲームエンドだ。よって、地下にいくという手段はない。
ゼツヤはこのとき、大丈夫だと思っていた。スーパーノヴァは貫通性能が高く、建物の破壊そのものには向いていないので、大丈夫だと。要するに、瓦礫に埋もれることはないと。
そして、自分は今高速移動中。サーガですらとらえることは難しいだろうと。
ミズハの直感の精度に高さを、少しだけみくびってしまったのだ。
「なっ!」
建物を貫通して、スーパーノヴァが来たのだ。
しかも、ゼツヤは配置されていた柵をこえるために跳躍中。しかも、ネクスト・レベルの時のような反応力の高さはなく、剣は届かない。しかも、空中では足腰が効く筈がない。
しかも、完全にクリティカルで必中コースだった。
マップ端のフィールド。テーマ『市街地』の一角で、爆音がとどろいた。
あーだこーだいいますが、100万発を実現させるゼツヤの自業自得です。多分ね。




