お互いの切り札 決着
はっきり言おう。ミズハはゼツヤを甘く見ていた。
だが、その根本にあるのは、確かにミズハはゼツヤのことを多く知っているわけではないが、そもそもゼツヤが生産職だということにある。
ほとんどのゲームなら、戦闘職と生産職は別れるものであり、兼業することはない。ミズハはNWOをするのは数か月前からだが、それ以前には、様々なゲームをしていた。
共通項目があるとするなら、『スキル制』と言うことである。レベルが関係なく、本人のプレイヤースキルでどうにかできるからだ。選択した理由は時間がとれる日が少なかったからだ。今でも漠然と多いわけではないが。
今回、大きくレベルをあげることができたのは、バスターからモンスター大量発生するポイントがあり、その場所は、強さが低いわりにはもらえる経験値が高く、さらにかなり辺境なのでほとんどプレイヤーが来ないエリアという、所謂『経験値スポット』を教えてくれたからである。
ミズハは知らないことだが、そのポイントはバスターの差し金であり、トレインと呼ばれる『大量のモンスターを引き付けてプレイヤーに襲わせる』というPK方法を得意とするプレイヤーたちを大量に集めてミズハに近くに持っていかせたのだが、今言うのは野暮と言うものである。
話をもどすが、嘗めていたわけでもなく、警戒していなかったわけではない。だが、その精度が低すぎたのだ。
「どうした。俺の速度に追い付けなくなっているぞ」
それはミズハ自身も理解している。
だが、ゼツヤはすでに、『ネクスト・レベル』に入っていた。スイッチだけでは、ミズハには対抗できないのだ。
ゼツヤがアイテムにおいて『未知数』であるとするなら、ミズハのようなタイプの相手の場合は行動そのものが『初体験』であり『未知の領域』なのだ。スイッチだけでは、ゼツヤのキャリアでも対応しきれないのだ。
ミズハの直感に委ねた行動も、ゼツヤやエクストリームメンバーと同じくリアルでも使用可能であり、更に、ミズハは完全スキル制のゲームを多く経験している。そして、そのすべてにおいて武器は弓だった。
確かに『NWO初心者』ではあるが、『ゲーム初心者』ではないのだ。キャリアは存在するのである。
ミズハのこの戦闘スタイルは、『何か』を持っていなければ対応不可能である。
まず、『予測』ができないのだから、何かが起こってからしか対応できない。
エクストリームメンバーで例えるなら、
間違えても修正可能なレイフォス。目算が正確なシャリオ。動体視力の高いユフィ。多くの視点で考えることができるサーガとクラリス。
セルファは未来を理解する方法の問題で対応できない。
「なるほど。何となく、ミズハの切り札がわかってきた」
「ためしにいってみて」
「まあヒントがあるとするなら、『直感に委ねている』と言うことと『何も考えていない』と言うことは、同じではないと言うことだろう」
「そういうことよ。洞察力が高いのね」
「ああ」
ミズハは思考することを捨てた。
『マリオネット・ストリング』発動。
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ミズハの目から光が消えた。
「何かを考えている状態では完全に直感に委ねることはできない。それなら、切り札は『直感に完全に委ねる』ということになるのは当然か。思考することを捨てることが必要になるが、まさか達成するとはな」
ゼツヤ自身、疑問に思っていた。
ミズハの動きには、確かに規則性はほとんどない。だが、こちらが動いてから、反応し始めるのに僅かな時間が必要であった状況が少なからずあった。
思考しているため、直感に委ねているにも関わらず、0.5秒が必要だったのだ。
そして現在、完全に直感に委ねている。その僅かな時間すら存在しない。
急に攻撃してくる時が増えている。
「経験が長いな」
もうひとつ不思議に思っていた。
そもそも直感が働くには、多くの経験が必要である。
経験していないことを、とっさにすることは、不可能とは言わないが、実行は難しいだろう。偶然に事故に対する反応が遅いことから、ミズハの場合はほとんどないと言って良い。
それなら、それらのストックをいつ蓄えたのか。
答えは簡単で、NWOをプレイする以前にしていたゲームであり、ミズハ。桐谷桜の16年間の人生である。
「ミズハ。君は、ここに来る以前から、『強者の領域』に来ていたんだな」
ゼツヤも、出し惜しみは無しにした。
今ではブレスレットに封じ込めるに至った超級魔法。創造神になり、さらに、剣を産み出して作り上げることができる様々なアイテム。
それらはすべて回避。又は、迎撃された。
『強者の領域』別名『ハイエスト・エリア』は、一部のものが到達しているものだ。
ゼツヤを含め、エクストリームメンバーやバスターやゼノン。ルナードが到達しているが、これらのプレイヤーはすべて、『NWOのアイテムの効果』や『ジョブシステムによるアビリティ』をほとんど使用しない。
理由は簡単で、『頼る必要がないから』である。
確かに、そもそも速度的に追い付けなかったり、ステータスが足りないと前提として戦力が足りないため、そういった意味ではアイテムやジョブに頼ることはある。エクストリームメンバーの持つ武器や防具が、根本的な話、『ステータス強化』に特化したものである理由はこれだ。
頼らない理由はその必要がないからであるが、なぜ必要がないのかは『存在そのものがNWOの領域をほぼ越えている』からである。完全に越えているわけでや無論ないのだが。
「『ハイエスト・エリア』に到達しているものを相手に本気を出さないといたい目に遭うのは必然。しかも、タイプそのものがはじめてだ。まあ、仕方がないか」
『オーバーライド』起動。
ゼツヤもほぼ思考することを放棄した。
ゼツヤのネクスト・レベルは、ある意味で『本来の先天性集中力過剰症』である。
ゼツヤの切り札は、その先。
圧倒的な集中状態に『前提』を加える。と言うことが、『オーバーライド』の説明になる。
前提はなんでもいい。プラス的な思考が前提であれば、楽しい方向で考え続けることができる。
逆にマイナス思考をプラスすれば、圧倒的なほど『自虐状態』になる。
『自分好き』であれば、圧倒的なまでにナルシストになる。
『残虐』であれば、血も涙もない。本当の意味で鬼になる。
『隠蔽』であれば、常に視界から外れ続ける。
前提を変更するためのインターバルは、最低でも三分は必要。これは、戻るための最低限の処置である。そもそもネクスト・レベルの状態なので、本人の感覚的には10分を普通に越えるだろう。
この時、ゼツヤは『瞬速』を前提にした。
完全に直感と言う傀儡師の糸に体を預けた『マリオネット・ストリング』
最高の自己暗示を実現し、実行する『オーバーライド』
二つの切り札がぶつかり合った。
山頂。黒の長剣を構えた男が悠然と立ち、
黒の弓を構えた少女が、広い大地に横たわっていた。
自らの命を表すそれは、男はほとんど減っておらず、少女は全て尽きていた。
ミズハの切り札は前々から決まっていましたが、ゼツヤの切り札は、僕自身が『ネクスト・レベル』だと考えていたこともあり、新しく作成しました。
すでに放送が終了した『仮面ライダードライブ』を元にすれば、『ネクスト・レベル』は『タイプフォーミュラ』的、『オーバーライド』は『タイプトライドロン』的な立ち位置ですかね。オーバーライドがこれからしょっちゅう出てくるわけではありませんが。




