オークション『エクスライト・リング』
『始まりの街』と言う場所がある。
まさにその名の通り、全NWOプレイヤーがこの町からスタートする。ロミュナスに比べてやや建物が低く、さらにシンボルのようなものもないのでなかなかに過疎だ。
そんな街の北東のやや大きな建物。ここがオークション会場である。もともとこのゲームに設置されていた建物であり、システムも充実している。
ゼツヤがよく利用しているオークション会場だ。
「ここに来たのは何回目だろうなぁ」
赤い装備の槍使いが言う。まあ、来るくらいなら普通にするだろう。
「ま、どんなアイテムが売られるのかは、『指輪』と言うこと以外は分からないがな。まあ少なくとも、何らかの効果があるだろう」
……無論。ゼツヤは全て知っている。だが、この部屋そのものに来たのはゼツヤ自身。回数はそう多くはない。
「結構人がいるな」
満席、とは言わないが、かなりの人数で埋まっている。
「さすがオラシオンシリーズのオークション。巨大ギルドの人もたくさんいますね……ブリュゲールも」
ミラルドが目を光らせている。が、途中で暗くなった。
「まあ、そうだな」
というか、まだ時間が少々ある。しかも、発表させたのはほんの数分前だったはずだ。ギルド内で掲示板の確認をする担当のプレイヤーがいるんだな。暇人ばかりである。
数十分後。
シフルが出てきた。いつも通りのメイド服である。
「皆さん。お待たせしました。本日のオークションを始めます。さて、今回は指輪と言うことになっておりますが、いつも通り、前座を行います」
さすがにオークションとは言え、アイテム一つを与えて帰るというのはネタがなさ過ぎて仕方がないので、こういった前座を行うのだ。ほとんどが消費アイテムだが。
「それではまずは……」
シフルが順々に商品を掲示。開始金額を発表し、そこから次々と競争が始まる。
「あの、ゼツヤさんは参加しないんですか?」
「このオークションに出て来るものは、そのアイテムの効果が全て発表されるようになっているからな。必要だと思ったら参加するさ」
そうするようにシフルにいつも命令している。
とはいえ、作った本人がゼツヤである。買ったとしても、何の得にもならない。『ゼツヤと言うプレイヤーが指輪をオークション会場で購入した』と言う事実がほしいだけなのだ。少なくとも、ゼツヤ本人が従業員だという認識は無くなるだろう。多額のレイクを用意できるプレイヤーだと思われるだろうが、それはまあどうにかできる。稼ぐ方法など、いろいろあるのだ。
様々な非売品の高性能ポーションや、MPを消費するだけでその魔法を使用することが出来る『マジックスクロール』など、ほかにもたくさんの消費アイテムが掲示されていく。そして、かなりの金額で競り落とされていく。消費アイテムであろうと、バカにはできないのだ。オラシオンシリーズのアイテムは、それほどのものなのである。
と言うのが、ミラルドの弁だ。
しかし、こうして席に座って見るとなかなか予想以上だ。雰囲気と言うものがある。
「さあ、本日最後になりました。今回は指輪となっております」
舞台そでから滑り出てきた台がステージの中央で止まる。縦に長い直方体であり、天辺は布で隠されている。
「それでは、メインであるアイテム『エクスライト・リング』です」
シフルが指を振ると、布がシフルのもとに収まる。
そこにあったのは、美しい指輪だ。
クリスタルで作られた枠に、ダイヤモンドがはめ込まれ、芸術作品のように輝いている。デザインはゼツヤだ。
ちなみにゼツヤは知らないことだが、近年では、VRMMOの人気はとんでもなく、今でも新しいゲームが生み出されている。一番人気はNWOであるが、大小様々なものが存在するのだ。
それはいいとして、オークション会場には、ただ見に来る人も多い。
中には、リアルでVRMMOアイテムデザイナーの仕事をしているものもいる。
そんなもの達の意見では、『仮にオラシオンシリーズのデザイン担当プレイヤーのリアルが判明すれば、その者はデザイン会社にすぐに就職出来る』と断言するものもいる。それほど、オラシオンシリーズは美しいのだ。
誰もが見とれている。
「『エクスライト・リング』その効果は、『自らにレベル20アップ相当のステータスの上昇』『パーティーメンバーにレベル15アップ相当のステータスの上昇』『装備者が行ったことのある町限定で、パーティーメンバー全員が転移可能になる』と言うものです。最後に関してはギルドにおいては不必要なものでありますが、その3つが、『エクスライト・リング』の効果となります」
そこにいた全員が驚愕した。
NWOと言うゲームは、『圧倒的なまでにレベルが上がりにくい』と言うことと、『経験値を消費して行うものがある。その際に、一定以下になった場合はレベルが下がる』と言うゲームなのだ。そんな中で、装備者をレベル20相当、パーティーメンバーですら15レベル相当のステータスが手に入るのだ。圧倒的である。
さらにもっと驚くべきところは、NWOにおける『生産』というのは、熟練度によって性能が高くなるのも確かなのだが、実は使用する鉱石やインゴットの質量によって生産されるものが特定できる。それ以外にも、『エンチャント』をかけたスミスハンマーで生産したり、さらに、特別な素材を使って強化(武器や防具の強化には何かしらの素材が必要である)することで追加効果が生まれる。
何がいいたいのかと言うと、熟練度と言う数値は確かに必要だが、そのアイテムを作れるということは、『そのアイテムの生産方法を知っている』と言うことなのである。もっと分かりやすく言おう。『目の前にある化け物級のアイテムを、オラシオンの従業員は素材さえあれば作成可能』と言うことなのだ。
驚愕には様々な意味があるだろう。だが、行きつく先は一つだ。
答えは簡単で『この指輪がほしい』と言うものである。
「それでは、始めます。開始金額は、『5万レイク』から始めたいと思います」
次々と加算され、数秒後に100万を超える。
「す……すごい」
ミラルドが唖然としている。
「ぜ……ゼツヤさん。あの指輪があれば、今回の目的の達成に大きくつながるんじゃ……」
当然である。まあ、ぶっちゃけて言うなら、この指輪以上の性能を持つ指輪も、ホームの保管庫には存在するし、今出ている指輪以上にもっとレアなアイテムもものすごく存在する。
まあそれはいいとして、今回の目的にあうようにオークションのアイテムを選んだのだから、あわないはずがないのだ。
ちなみに、1000万とか言いだしたやつがいたから、そのあたりで止めておくことにした。
「1憶レイク」
ゼツヤは手を上げると同時にそう言った。
全プレイヤーが驚愕した。それはそうだろう。1億レイクと言うのは、『トップクラスのギルドが半年間頑張りまくって稼ぐことが出来る金額』なのだから。
結局、それ以上のものはおらず、1億レイクで落札である。
ただ、あらかじめ命令していたことではあるが、シフルがあまりにも事務的な表情(笑顔だが)すぎて、逆にゼツヤの頬が引きつっていたが、仕方のないことだということにしておこう。
ミラルドたちにちょっと時間を空けてから出てくるようにメッセージを出しておいて、ゼツヤはオークションハウスを後にした。
やはり3000字か。あと、自分で言うのもなんだが、ゼツヤってチート……。