アイテムを揃えよう。あと正体ばれてた。
月曜夕方、ゼツヤはややグロッキーな雰囲気をまといながらチャネルのワープエリアに転移してきた。
さて、どうなっているのやら。
案の定というかなんと言うか、ミズハは囲まれていた。
ものすごく多くのプレイヤーに。
何人いるんだろうな。
「548人だ」
「うわっ!シャリオ来てたの?」
「ああ、レイフォスに言われてな。暇だったし」
あっそ。としか思えなかった。
「まあそれはいいとして、俺はもういくから」
「そうなのか?」
「長居するなと言われているからな」
言うが早いか、さっさとワープしていった。
さて、俺はこれをどうすればいいのだろうか。
まあ、普通にいくしかないな。こう言うときは、正面突破が一番早い。
ということなので、方針変更して襲いかかってくるプレイヤーたちを全員ぶちのめして、ミズハと合流。
「ふう、やっと収まったな」
「ありがとうございます」
まあそれはいいので移動する。
「今日はどうするんですか?」
「調合器具を揃える。ミズハの弓には必要だからな」
「分かりました」
移動中。
「そういえばゼツヤさん」
「なんだ?」
「あの、私の書き込みのところに、ゼツヤさんが私のクラスメイトだという情報があったんですけど。本当なんですか?」
「誰の情報だ?」
「本名ではなかったですよ。『ミスターD』となっていました」
デュリオーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
あ、あいつ、やりおった。
「あの、本当なんです…いえ、すみません。一目瞭然でした」
「ちょっと待っててね」
ちょっと離れてチャットを展開し、バスターに繋げる。
繋がった。コール一回で。
『オイコラバスター!いったいどういうことだ!』
『いやー。こんなに早くばらすとはね。俺も予想外だよ』
『どうでもいいんだよそんなことは。何してるんだテメェ』
『別にいいじゃないか。減るもんじゃなし』
『お前本当にイタリア人か?』
『純血だよ。まあ、日本語の勉強中に覚えただけだしね』
どんな脳みそをしているんだ?
『まあ、何はともあれ、ちゃんと伝わったようで何よりだ』
『ふざけんなゴルァ!』
『チャットなのに感情表現が豊かだね』
『サーガはすごいぞ。ってそうじゃない!』
『自分でそらしたんじゃないか。俺は種をまいただけだよ』
『やかましいわ!』
『まあまあいいじゃないか。現役アイドルに大きく繋がりを作るチャンスだよ。それにどのみちばれるって。遅いか早いかの違いだよ』
『早すぎるわ!』
『君って結構子供だね』
『お前に言われたくないわ!』
『紛れもなくその通りだ。まあ俺も、はっきりと誰なのかを言うつもりはないからさ』
『言ったら精神ぶっ壊れるまでHPを散らしてやるからな』
『本当にできそうな君が言うと少々怖いものがあるね。それじゃ、頑張ってね~』
次の瞬間にブツッときれた。
ミズハが心配そうな目でこちらを見ている。
「クラスメイトというのは事実だ。俺が誰なのかは言わないけどね」
「竜一くんだよね」
なんか即答された!なんで!?
「なぜ分かった?」
「勘」
素晴らしい。素晴らしいぞミズハ。俺はかなり悲しいぞ。
「はぁ、もういいや。そうだよ。俺は君のとなりの席に座っている糸瀬竜一だ」
「フフン。凄いでしょ。私の勘」
「嫌もう本当に。……ん?まさか。今まで命中率が高かったのって……」
「うん。私、残弾数以外はなにも考えていないからね」
なにこれ。才能?
「まあいいか。とにかく調合器具を揃えにいこう」
「ゼツヤ君は持ってないの?」
「持ってるに決まってんだろ」
「ちょっと機嫌悪そうだね」
「思いっきり斜めだ」
まあそんなことも話ながら店に入る。
「まあ、『細工』スキルが高いのなら道具を自作した方が性能はいいんだけどな」
「そうなんですか?」
「ああ。まあ、どのみち地道にやるしかないんだけどな」
ガラスケースの前にたつ。
鉱石を加工するためのナイフがあった。
「えーと。……100レイク。初期だとこんなものなんですか?」
「俺だとこのナイフでもこれを作れる」
そう言って首飾りを出した。
鑑定スキルを持っていないのは明白なので、ウィンドウを可視化する。
【ブレイジングソウル
製作者 ゼツヤ
・常時発動効果
『AGI強化(高)』】
「なんですかこれ」
「……作品だ。見た目重視の」
確かにきれいだと思ったミズハである。
「まあスキルを鍛えればここまで行ける。因みに、なんの工夫もないプレイヤーだと、これが限界だ」
なかなかシビアなのである。
「いいものが必要なのもたしかだが、道具はいちいち新調していたらキリがないからな」
「タイミングってどう見極めるんですか?」
「その辺りは完璧に本人次第だな。どのみち、いい道具を手に入れることに悪いことはない」
ゼツヤの場合はいちいち取り替えていた。レイクが恐ろしいペースで減っていくし、かさばるおまけに売るにしてもたいした金額にはならず、本当に困ったのを覚えている。
「大丈夫ですか?そんな遠い目をして」
「まあ大丈夫だといっておこう」
まあ、ホームボックスを購入したあとは、多くのプレイヤーが悩むストレージ云々をある程度改善出来たので、そこに限ってはいいのだが。
「ホームを手に入れることができれば楽ですよね。調合も」
「農家形式のホームを手に入れることができたのなら『栽培』が可能になるからな。『錬金』スキルを使って植物を種にして数を増やすと楽だぞ。回りが素材を取り合っているなか、自分は農場で誰にも盗られずに出来るからな。しかもいちいちフィールドにでなくていいし」
これはある意味当然である。なお、農家形式のホームを購入しなければ農場は手に入らず、さらに、農場そのものも別料金である。ハードだ。
ちなみに、ゼツヤにホームはどうなのか。
ゼツヤや一般的なプレイヤーの視点から見れば『家』なのだが、システム上は『ただのフィールド』なのである。土だって自作だ。
「弓使いって苦労するんですね」
「バラエティー番組でも言ってただろ」
「見たの?」
「うん」
なんか変な空気になった。
「まあそれはいいとして、ホームの入手は圧倒的に時間がかかるからな。しかも、多くの女性プレイヤーは内装にもこだわるから、その分金がさらにかかる。あと、一個しかもてないからな」
ブリュゲールが多くのホームを持っている理由。恐ろしく簡単だ。ギルドボーナスである。以上。
「じゃあ、ゼツヤ君のホームはどうなっているの?」
この質問にたいして、実はゼツヤには二つの答え方がある。
まず、オラシオンだ。これや誰にでもわかるだろう。
もうひとつは、『町で購入したホーム』だ。オラシオンは『工房』としてはシステム上存在するが、ホームとしては存在しないのである。こういう方法がある理由は、ダンジョンの安全エリア(モンスターは出てこないけど普通にHPは減る)で営業する物好きがいるためである。不便なことこの上ないと思うが。
まあ、どちらを答えるかなんて決まっている。
「まあ、作ったものを記録する書庫みたいになっているかな。生産道具ももちろんあるけど」
それなりに大きいホームなので、現在は弟子三人が使用中である。
まあ、見られても問題ないものしかおいていないはずなので、あまりいくことはないが。
「どこにあるの?」
「トッププレイヤーがいくようなフィールドの抜けたところにある町だといっておこう」
要するに難易度が高いのである。
「まあ今はレベル上げですね。手っ取り早くする方法ってないんですか?」
「パワーレベリングだね。断然」
弱いプレイヤーが強い装備や仲間と一緒に適正以上の狩り場にいくことである。
「でもそれってシステム上できませんよね。オラシオンシリーズの『エクスライト・リング』があれば問題はないですけど。有るんですか?」
「今はないよ。ギルドに渡した」
「そうですか」
そういえばすっかり忘れていたな。
ギルドなら関係ないが、今現在のような状況下では重宝する。
思えば、あの指輪の一番怖いところは、こうしたパワーレベリングを可能にするところか。
使わずにいくことも可能だが、それでもあの指輪があった方は得なのは当然である。
自分で作ったものではあるが。案外自分でも気づいていないものである。
その後も色々揃えた。それだけで一日使うとは思ってもいなかったが。




