矢の説明と爆弾直下
その日は周辺モンスターを調査して終わった。
ちなみに、ゼツヤは一回も戦闘に参加しなかった。
と言うより、する必要がなかった。
ミズハの戦闘センスはかなり高いものだった。ゼツヤの認識では、いくら情報を持つことができるにしても、苦労するのが弓使いなのだと思っていたが、なんというか、プレイヤースキルでなんとかなるものだ。
ミズハは実物の矢の弓を使用し続ける予定らしい。
まあそれに関して反論はない。止める必要もないからだ。
だが、ひとつだけ注意があるとするなら。
「一応いっておくと、弓の攻撃力は基本的に弓そのものにもあるが、矢によって色々変わるからな」
「それはそうですよね」
サーガがエネルギータイプなので最近気にしていなかったが、弓使いにとって必要なのは、その辺りの弓矢の供給である。
今使っているのは、先端が石で作られたもので、木で作られただけのものよりは性能はいい。
無論。鉄だってあるし、ミスリルだってあるが、いずれにせよ、矢というのは全て消耗品なのだと言うことに代わりはない。一本使ったら、もうその一本は手に入らないのである。
エネルギータイプを使用しているサーガいわく、
『一発の破壊力を求めるのなら、断然実物の方がいい。基本的に弓使いは残弾数を気にしなければいけないし、それは、どちらのタイプでも変わらない。調合で作った追加アイテムをしようすることで威力を上げて短期決戦でいくか、それなりに用意しやすいMPポーションを大量に用意してエネルギータイプで持久戦でいくか。基本的にはそのどちらかだ。バスタードマーケットに行けるのなら、どちらでもそれなりに稼ぐことができれば問題はないから、まずはそこを目指すべきだ。『調合』をとるかどうかはプレイスタイル次第だが、ソロならとっておいた方がいい』
とのこと。
あと。
『実物の弓矢は重くはないが数が大量に必要だし、それは調合して作った追加アイテムも同じだ。しかも、フィールドでモンスターを倒しながらも素材入手が必要だから、ストレージの容量はこまめに確認することだね。というか、ストレージ容量をちゃんと考えなかった場合の悲惨さはゼツヤの方が知っているだろう』
とも言われた。全くもってその通りである。
「調合スキルで強化できるのは分かりましたが、特殊な鉱石を使って、矢そのものに魔法効果をつけることはできないんですか?」
「普通にできるよ。でも、その場合は鉱石の重さ200グラムにたいして一本分しか作れないんだ。調合スキルを使用して、鉱石を崩して粉にして、薬品に変えると、普通に100本分くらい作れるからね」
矢に直接付与することのメリットは、付与される属性値が高いことだ。
そのため、弱点を攻めたら簡単に倒せる。といった感じのモンスターであれば、それを利用して大量生産できればいいが、逆に汎用性はない。
あまり調べていないので詳細はしらないが、例えば炎を付加した矢を最大限に生産して森で猛威を振るい、それによって二つ名を得ることができたプレイヤーもいたらしいが、状況によって全く活躍できないこともある。『適材適所』が重要だと言うことだ。
ゼツヤ個人の意見を言うなら、矢そのものに付与されたものを生産するなら、『毒』や『麻痺』など、状態異常関連の矢にするべきだと思う。そう言ったものは、属性値が高ければ、状態異常にできる確率が増えるからだ。たまに効かないやつもいるけど。
というところまで説明して、解散となった。
明日はリアルが忙しいらしい。まあ頑張ってくれ。
次は月曜日である。だが、明日もミズハ一人で色々やるんだろうな。と言うことくらいはすぐにわかった。
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「ん?桜さんがでてる」
ものすごく久しぶりにバラエティー番組を見ていると、桜が出ていた。
ちなみに番組名は『ちょっと気になる!?NWO』である。
毎週放送されていて、ゼツヤは3年に一回くらいの割合で見ているものだ。(誤字はない)
なお、今の時代、VRMMOがたくさんあり、こうした専門の番組があるのはよほどでなければ無理だ。
それだけ有名なのである。
なので、NWOではないが『オラシオン』の名前を知っているという状況も、珍しくはない。
『さて、今回からの出演となっています。桐谷桜さんです』
『桐谷桜です。よろしくお願いします!』
慣れてるよなぁ。当然か。
『さて、最近始めたとのことですが。どうですか?NWOは』
『とても楽しいです。現在は弓を特訓中です』
『あれはかなり苦労する武器だったと思いますが……』
『レクチャーしてくれるプレイヤーがいたので、アドバイスをもらいまくっています』
竜一としては苦笑するしかなかった。
『その方も弓使いで?』
『あ、いえ。万能型ですね。弓については、知識は多い感じだと思います』
ゼツヤそのものを調べているな。あとで見ておこう。
デュリオがこの番組を見たらどんな顔をするんだろうな。
正解は『爆笑』である。リアルタイムで笑っているので間違いない。
『珍しくはありませんが、なかなか運がよかったですね』
『そうですね。私もなんでその人が始まりの町にいたのか分かりませんから。でも、多分皆さんも知っているプレイヤーですよ』
知らなかったらおかしいだろう。あと嫌な予感がするから変なことは言わないでくれよ。
『桜さんから見てどうですか?そのプレイヤーは』
『とっても優しいです。でもものすごく強いんですよ。しかも料理スキルを持っていて、空腹度にも全く困りませんでしたから』
『はぁ、かなりレベルが高いんですねぇ』
『というか100です』
『ひょっとして、ゼツヤでは?』
『実はその通りなんですよね』
この司会者すごいな。レベル100で万能型なんてたくさんいるだろうに。
竜一は知らないことだが、実際はあまりいない。高レベルのモンスターを倒す際、万能型では決め手にかけるため、ステータスを後々片寄らせていくものが多いのだ。
ちなみにだが、ゼノンはステータスが完全に均等になっているので、ある意味『完全万能型』である。
『それはすごいですね。デュエルカップ三位のゼツヤのレクチャーとは』
『でも、何となくですけど、年が近い感じもするんですよね』
同年代です。女の勘は素晴らしい。ていうか、女の勘はいいとか言い出したのって誰なんだろうな。
『そうですか。それではもしも、ゼツヤがリアルでこの番組を見ているとして、何かメッセージがあればどうぞ』
『そうですね……。それでは一言。いつか絶対にレベル100になりますので、その時は最高の弓を作ってくださいね♪』
ブチッとウィンドウを消した。
そのまま自室のベッドで、ドサリと倒れた。
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「ふ、ふふ、ふはははははははは!」
「だ、大丈夫ですか?デュリオ様。そんな順調にことを進ませている悪役のような笑いをして」
デュリオはリビングで大爆笑中だった。
それをメイドである『アルテア・ベルナルディ』が心配そうに訪ねる。やや言葉にとげがある、というより、全くオブラートに包まれていなかったが。
「なかなか面白いことになったなって思っただけだよ。あのクラスは本当に面白い」
「ところで、ゼツヤというのは……」
「僕のクラスメイトだよ」
「なるほど。世間は狭いですね」
それは誰もが思うことだ。
「しかし、本当に退屈なことがないな」
「まあそれはいいのですが、デュリオ様」
「なんだ?」
「デュリオ様宛にメールが来ているのですが……」
「誰からだ?」
「名前には、『糸瀬竜一』とあります」
デュリオは自分で開いた。
『まさかここまで大胆だとは思わなかったよ……。ちょっと調べたけど、桜さんって、スキャンダルすら怖くない性格だったな。しかも、待ち合わせしていることくらい予測されているだろうから、待ち伏せの可能性もあるし……。どうしてこうなった?』
一言『頑張れ』と送っておいた。
というより、デュリオの思考ではそれしかうてなかった。
歯車は、まだ回る。
それも、ゆっくりと時間をかけて。
デュリオも御曹司です。ヘリオス以上に。




