第二の町は山の上
NWOには恐ろしいほどの町がある。
確かに、ひとつの世界なので多いのは当然だ。だが、ゲームである以上、プレイヤー数によって過疎なのかどうかが一発でわかる。
以前説明したが、NWOには、空にも海のなかにも、ダンジョンは存在する。
それなら、空中や海にも町があるのは不思議ではない。
さすがに初級ではそんなことはないが、何が言いたいのかというと、平原にしか町がないわけではない。ということである。
第二の町『チャネラ』があるのは、標高800メートルという、リアルなら頑張れば行けそうな高さの山だった。
「こんなところに町があるんですね」
ミズハは辺りを見回している。
第二の町とはいっても、始まりの町から逆方向にいってもちゃんと存在する。二番目と言われているのは、モンスターのレベル順に過ぎない。
まあ、ファンタジー系のゲームで、二番目の町が山を上ったところにあるというのもかなり珍しいが、あるのだから仕方がない。
山とは言っても、すべてが木々で生い茂っている。
自然的な場所に修学旅行にいったような感じである。
まあ、最近では遭難を防ぐために、そういった自然環境においてもウィンドウが使用可能になっているのだが、まあそれは、それが今の時代の傾向なのだというだけの話である。
ちなみに、山のてっぺんに来たら、集団であれば何人かすることがあるが、NWOでも可能だ。
「ちょっと景色がいいところにいくぞ」
そのままミズハを先導する。
いった場所は、この町の展望台だった。町の中心と隅の方に、たくさんあるのである。
屋上に来た。
「いい眺めですねー」
リアルでは高所にいく場合がないわけではない。だがしかし、都市と農村がほぼ完璧に分けられている現在では、自然が多い場所には高所というものがほとんどなく、また、山を上るくらいしか方法がないため、それをしている暇があったら別のことをする。と言うのが現代人思考だ。
「まあ、こう言った場所があるから、VRオンラインゲームで『登山プレイヤー』が多くなるんだけどな」
もっとも自然の多いゲームが人気になっている年代も存在するが、それは、リアルではあまり見れない『自然が豊かな絶景』を見たいという需要からである。
「で、こう言ったことも可能だ」
縁にたつ。そして、必要はないがなんとなくで大きく空気を吸い込んだ。
「やっほ~!」
その後何回か、ゼツヤの『やっほ~!』が響く。
「こんなシステムもあるんですね」
「実装されたのは結構早いんだけどね」
VRゲーム登場から数年ですでに完成している。
「それなら私も、やっほ~!」
ミズハの声もよく響く。
「あ、ちなみにだけどこれ、したにいるプレイヤーには聞こえないからな」
「そうなんですか?」
「インドア系の女の子に多いんだけど、聞かれるのが恥ずかしいからって言う意見があったからな。まあ、聞こえるように設定することもできるんだがな。今はしてないけど」
「へぇ~」
「あ、あと、こんなネタもある」
また大きく息を吸い込む。
「いちたすいちは~!」
『に~!』
ミズハが思いっきり吹いた。
「なんですかそれ」
「こう言ったことは、物理法則が働いているんじゃなくて、あくまでシステムが声の認証を行っているからな。『これは完璧にネタだな』的なことを言うとシステムがそれにあった『返答』をしてくれる。予想だけど、多分高性能のAIが使用されているんだと思うよ」
「面白いですね。私もやってみます」
ミズハが息を吸い込んだ
「ろっぴゃくにじゅうさんかけるななひゃくはちじゅうごは~!(623×785)」
『よんじゅうはちまんきゅうせんごじゅうご~!(489055)』
マジか。んなこと誰も考えなかったぞ。
「電卓みたいですね」
「電卓のためにここに来る人はいないだろうな」
二人とも苦笑する。
「でも結構面白いですよね」
「ネタ集をみればこんなのが一杯のっているぞ。というか、そもそものはなし、『やっほ~』以外だと全部ネタ扱いされるんじゃないかって思われるくらいAIは優秀(謎)だ」
「どんなのがあるんですか?」
「ふむ、こんなのだな。人気女優と結婚した~い!」
『そのかおでなにをいうか~!』
ミズハ、爆笑。しかも、俺の顔を指差しながら。
ちなみにこの『返答』は、全てが『自分が出した声』で返されるため、場合によっては自分の心の声を聞いているかのように錯覚するときがある。
「フフッ。ゼツヤさんが一番のネタだって言うものはありますか。フフッ」
まだ爆笑から回復できていないようだ。
「ん?一番のネタねぇ。どれだろ。……これだな」
大きく息を吸い込んだ。
「宇宙飛行士になりた~い!」
『だれでもうちゅうくらいいけるわ~!』
事実である。今の時代、民間人でも月に行ける。俺はその辺りを調べたことあんまりないからそれ以上はしらんけど。
しかも、この場合の返答はちょっと変わっている。
『だれでもうちゅうくらいいけるわ~』の後からは、また『だれでもうちゅうくらいいけるわ~』が続くのではなく、『ば~か』『ば~か』『ば~か』と続いていくのだ。
ミズハは鼻で笑った。悪かったな。選択センスなくて。
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さて、ネタ話はそれくらいでいいとして、ニュービーレクチャーに戻るとしよう。
「でも、山の上と言う情報だけで来たので、てっきり鍛治プレイヤーに向いている町なのかと思っていました」
まあそういう意見もあるか。
「NWOでは生産でも経験値はもらえるけど、だからといってすぐに強くなれる訳じゃないからな。だからこんな感じなんだよ」
元々レベルが上がりにくく、さらに、基本的に初期はスキルスロットに余裕がない。
スキルスロットは最初は2個だけで、レベルが、5、8、12、16、20。その後は10毎に。といった感じに増えていく。レベル100なら15個だ。
武器スキルは熟練度が上がるとダメージにボーナスがつく。生産職は基本的にその加護が無いので、はじめは地道に武器をつくってレベル上げ、その後、誰かに依頼して一緒に次にいく。といった順序が黎明期のものだ。少なくとも、ゼツヤが始めた頃はそうである。
「新しい町に来たときに必要なことってなんですか?」
「一番と言うのはないな。プレイスタイルによってそれは変わってくる。全プレイヤー共通なら、周辺モンスターの簡単な調査。NPC経営の店で消費アイテムの在庫と入荷日の確認。まああとは、今自分がどれくらいのアイテムを所有しているか。ということだな。初期はほぼたまるのは素材ばかりで容量はそう多くは使わないが、だからといって無視していいわけではない」
実際に体験したことだが、ゼツヤはゲーム初期。『採取』と『鍛治』を取得した。
簡単に言うなら、集めて作る。それを効率化するための一番のスキル構成だ。
だが、集めやすいと言うことは、その分多くのアイテムを所有することになる。特に、鉱石やインゴットは重い。しかも、STRを上げていなかったので、手で運ぶことはできないわけではないが、限界点が小さいのだ。結果的に、必要なもの以外は捨てるしかなくなってくる。
黎明期、しかも、ゼツヤが始めた頃は新規プレイヤーの増加がもっとも激しい時期だったので、そもそも素材は奪い合いになる。だが、そんな簡単に『プレイヤーが多くなりがちであることが誰にでもわかる始まりの町』周辺では、運営が莫大な量の素材アイテムが配置するように設定されていたので(現在は少々下方修正されている)、捨てるか無理して持っていくかを迷うプレイヤーが急増。
これによって、ゼツヤたちよりも先にプレイを始めていたものたち(ゼツヤは一応VR使用可能になる最低年齢の6歳から始めたので、それ以上の年齢になる)が、そういったニュービーから素材アイテムを文句を言われない程度のレイクで買って知り合いの生産職に渡す。そして、そのプレイヤーも生産職から何らかのメリットを貰う。
要するに『先輩プレイヤーが行う行商的な感じのもの』が稼げる時代だったのだ。
「自業自得とずる賢さの両方があった時代なんですね」
「拾わずにいくと言う手もあったけど、採取スキルを成長させるには拾うしかないからね。まあ、回りのやつらを引き離したいという欲望があって、結局拾う。しかも、採取スキルはアイテムを拾ってから、一定時間以内にそのアイテムをウィンドウを介してのトレード以外の方法で失ってしまうと、そのアイテムはカウントされなくなる。だから、要らないアイテムでも拾ってしまうと、なかなかてばなすことができない」
厄介だった。本当に厄介だった。
「で、トレードでは大丈夫になるし、まあある意味『レイクはこちらがある程度納得する金額で増える』『ストレージに空きを作ることができる』『要らないカテゴリの素材が手持ちからなくなる』といったメリットがあるものだから、それにホイホイのって結局先輩生産職との差が開いていくという循環ができる。宿屋には一応ボックスがあるとはいえ、そこまで入らないしね」
多分、500キロくらいか。
「まあ、今となっては過ぎ去った時代だ」
「あの、ちょっと質問いいですか?」
「なんだ?」
「ゼツヤさんは今私にレクチャーしている感じですけど、ゴールってあるんですか?」
「一先ずは『ロードキャッスル』に到達することだ。あそこはなんでも揃っているからな。迷子が普通にいるくらい商人が集まっている」
そこまでいくことができればかなり大きい。ロードキャッスルにワープができるようになれば、困ることはほとんどないだろう。『レイクさえあれば何でも揃う』というキャッチフレーズは真実だ。
ちなみにこの時ミズハは、ゼツヤが『到達するまで』ではなく『到達すること』と言ったので、いつまで一緒なのかよくわからないが、少なくともすぐではないだろう。と信じたい。ということを考えていた。
「まあ、この町で必要なのは、そう多くはない。というか基本的にレベル上げが重要だからな。本当に」
ゼツヤが苦笑して言った。
まだまだ、先は長い。
NWOは広いです。僕が思っている以上に。




