クラスメイト(向こうは知らない)と会う。
放課後。まっすぐ家に戻る。
その間も、いろいろと竜一は考えていた。
「さて、みんなは知っているのかな。『ブリュゲールの本拠地』を」
基本的にギルドはホームを一つしか持たない。理由はいろいろあるかもしれないが、簡潔に言うと、2つ以上も必要ないのである。
だが、ブリュゲールは違う。ダミーの拠点が多く存在し、その数は20に及ぶ。そして、その中で、リーダーがいるのは、現在、行くことすら難関とされているエリア。『ハートストリート』にある町『セリュオス』である。必要最低レベル85だ。
何があるのか想像しにくいエリア名だが、実は、そのエリアは常闇であり、普通に『アンデッド』や『ゾンビ』と言った、いわゆる『死霊系』のモンスターが数多く出現する。
様々な種類のモンスターが存在するうえ、その能力値は高い。曲がりなりにも、トッププレイヤーを名乗れるだけの実力を有しているということである。
と思われがちだが、実はギルドのリーダーが街についた時、全てのギルドメンバーが転移可能になるのだ。因みに、ギルドを脱退すると、一回でも自分の足で、自分の行ったことのある町から行けば問題はないのだが、転移のみで来ていた場合はそのカウントが消える。脱退することのデメリットの一つである。
何が言いたいのかと言うと、例えば護衛を雇い、マスター1人を護衛すれば、ギルメン全員がそこに行くことが出来ると言うわけなのである。あまりいないが、そう言った護衛を生業とするプレイヤーも少なからず存在する。
そんなハードエリアだが、そんなエリアだからこそ、貴重なアイテムを保管するのだ。因みに、それならこちらも護衛を雇えばいいんじゃないかと言うことになるのだが、難易度に比例して報酬金が増加する。それはいいのだが、その金額が大きいのだ。さらに、ハートストリートを進もうと思ったら、かなりの実力者が多数必要になるため、護衛の人数を増やさなくてはならない。と言うかゼツヤは行ったことがある。
「さて、彼らはどういうふうに駒を進めるつもりなのかね……」
まだパーティーの全体的な強さが分からないので同とも言えないが、区長とその時の表情から推測するに、上級はいてもトッププレイヤーはいなさそうである。
そんなことを考えていると家についたので、デバイスをかぶる。
「『ダイブイン』」
さて、またあの部屋である。即ち『自室』
部屋の隅にロイドがいた。
「ロイド。今日も僕は出る。いつも通りに……いや、シフルを呼べ」
「畏まりました。ゼツヤ様」
頭を下げたのち、ロイドが出ていく。
その間にチャット画面を出して、羊皮紙アイテムに文字を入力していく。
ほんの数秒後に本人が来た。
メイド服ではあるのだが、コスプレと言うわけでもなく、戦闘でもこなせそうである。デザインしたのはゼツヤだ。
「私をお呼びと言うことは、オークションでしょうか。ゼツヤ様」
メイド。シフルの大概の役割は『オークションにおける担当NPC』である。
オークションではよくあることなのだが、本人ではなく、こうしてNPCを代わりに出す場合もある。
NPCは例外なく高額であり、少なくとも、中級でもまあある程度のランクのものが買えるか買えないか、といった感じである。
ある程度のランクとは言うが、NPCは、ランクが上がるにつれて、容姿もそうだが、AIの機能も上昇する。ゼツヤの所有するNPC25人はすべて最高ランクであり、ほぼ人間に近い。
「ああ、確かにオークションなんだが……少々複雑でな。これの通りに従ってくれ」
そう言って羊皮紙アイテムと、あと、新しく取り出したカギ状のアイテムを渡す。
「拝見します……ふふ、なんともこれは……」
「それ以上は言わなくていい。頼むぞ」
「お任せください」
ゼツヤは部屋を出ていった。
ワープポイントルームに向かい、迷うことなくロミュナスに転移する。
「ふう、ん?」
昨日見た2人を中心に人だかりができている。なるほど、もうすでに集まっている訳か。
何人かは見たことがある服をしているものがいる。まあ合うのは初めてだが。
「あ、みんな。あのプレイヤーだよ」
冬香そっくりの声をしたプレイヤーがこっちを指さした。
2人を含めた11人が来た。男子6女子5である。うむ。
「2人は昨日ぶりだな」
「あ、はい。昨日はありがとうございました。あ、私はミラルドと言います」
冬香=ミラルドだな。
冬香が紹介していった。
11人いるのだが、それぞれ内約は……。
アタッカー(ミラルド含む)7人……と言うより、男子全員とミラルドである。
ウィザード2人。
プリースト2人。
と言ったものだ。防御職がいない。一体どうなっているんだ?
ちなみにゼツヤはどの分類に入るのか。
見た感じはアタッカーに見えるが、万能型である。
あとまあ、ゼツヤも名乗っておいた。
「見事なまでにタンク(防御役)がいないな」
「すみません。クラスメイトで組んだもので……」
ミラルドが謝って来るが、まあそんなことはいい。
「ところで、どこかに行くのか?」
実質、こちらの俺はまだ何処に行くかを聞いていないのだ。紹介だけされたのである。
「あ、はい。実は……」
まあ、ブリュゲールのところに行って取り返しに行くと……簡潔に言うならそんな感じだ。
「……聞くけど、レベル85を超えているプレイヤーっているか?」
全員が首を横に振った。
ちょっと頭が痛くなってきた。
「あの、そんなに必要なんですか?」
ミラルドが聞いて来る。
「ああ、ブリュゲールの『本拠地』は、必要最低レベルが85と言われているエリア『ハートストリート』にある町『セリュオス』だからな」
と言うか、ほんの数週間前にアップデートされて出現したエリアなので、そもそも攻略自体がそこまで進んでいない。良く護衛が務まったな。ギルマスを護衛したプレイヤーには敬意を表すぞ。真面目に。
ていうか、11人中7人が知らなかった。あとの4人は、まあ見たことのあるギルドの制服を着ているので簡単な情報は持っていると思ったが……それもどれほどなのかは不明だ。少なくとも、行ったことはないだろう。
「あの、ブリュゲールって、初期の街に近いところに拠点があるって聞いたことがあるんですけど」
「それ多分、どうでもいいアイテムの荷物おきだろうな。ブリュゲールの基地は他と比べてややランクが低い感じだが、その分数が多いんだよ。まあ実際、ギルメンも多いんだけどな」
そうだな、たぶん5000人はいるだろう。あ、問題ないよ。殲滅できる。……まあ、ゼツヤが所持しているNPC25人に完全装備して攻める必要があるが……。
「そんなギルドが……」
「まああるんだよ。で、行くことが出来るのか?」
全員が顔を見合わせている。
「ぜ……ゼツヤさんも一緒に行けば大丈夫だと思います」
そこまで判断できるとは思えないので、まあ何か言いたかっただけだろう。
「まあ、行かないと言うわけでもないな。だが、その前に、ちょっと行っておきたいところがある」
「どこですか?」
「掲示板の『オラシオン』の欄見てみな」
全員が確認した。
そして、おそらくこう書かれているはずだ。
『午後5時半にて、『指輪』のオークションを開催する。 オラシオン従業員』
まぎれもなく書き込んだのはゼツヤである。
「行きましょう!」
ミラルドが声を上げた。
「と言うことだ。さっさと行くぞ」
全員がある町に転移した。
1話あたり3000字くらいになっているな……。