占拠についてどう思うか
現代における高校以下の学校で一番必要とされた教科はなにか。
それは、『体育』である。
VR技術が主体な世代になった現代では、『リアルで体を動かす』ということを主にする人間が激減した。
特に、VR技術が急成長し、ゲームそのものが安価になった時は、その傾向はもっとも強く、いわゆる『生活習慣病』になる人間が急増した。
無論。スポーツが無くなったわけではない。というか、行う者達が激減している今、スポーツ選手はある意味高収入な職業でもある。
従来のルールをそのまま流用したものもあれば、VR技術を取り入れた特殊ルールがあるものも存在し、ルールが確定され、正式なスポーツになっているものも出始めている。
閑話休題。
沖野宮高校でも、体育の時間が一日に一時間分は必ずもうけられるようになった。
現在行われているのは『バスケットボール』だ。
VR投入型のスポーツは授業では行われない。従来のものである。
「そりゃ!」
竜一がシュートを放つ。
見事に届かなかった。
「チッ!」
大袈裟にしたうちしてはいるものの、運動量が元々少ないことは自分で理解しているので、悔しさは少ない。というか、今の世代ではほとんどそうだろう。
実はスポーツができるVRゲームもちゃんと存在し、プレイしているものも少なくはないが、だからといって現実でどうにかできるわけではない。体は少々鍛え方が弱いし、イメージ通りに体を動かしやすい仮想世界(VRの一つの呼び名である。深い意味はない)とは違い、現実における肉体が、イメージに従うことはなかなかないからだ。自分で動かしてはいるが、そういう問題ではない。
話を戻すが、竜一は体育は嫌いではないが、運動能力が低いと言われても悔しいとは思わない。回りも一緒だからだ
今までは。
そう、この高校に通うようになってちょっとたった頃に来た留学生。こいつは化け物だったのだ。
「それっ!」
デュリオがジャンプして、ゴールにダンクを叩き込む。身長が170ちょっとだというのに信じられないバネだ。
そう、ゲームでは本気を出せば勝てそうなこいつが、とんでもないほどの運動神経を持っていたのだ。
しかも、ゲームとは違い、ここはリアルだ。好き嫌い、得意不得意に関係なく、クラスメイト全員と、一年一組全員が体育館にいる。女性から黄色い声援が集まるのは、こいつしかいない。
仕方がない(謎)。本気を出させてもらおうじゃないか。
竜一は『ネクスト・レベル』にはいる。『先天性集中力過剰症』のスイッチだけではたぶん足りない。全開である。
因みに補足すると、エクストリームメンバーや竜一のプレイヤースキルは『リアルでも使用可能』という部分がある。これが強みだ。どういうときに使うのかは別として。
デュリオに渡されるパスをスティール(カット)して、そのままハーフラインから全身のバネを利用してシュートを放つ。見事に入った。こちらのスコアが三点追加された。ちなみに、得点や残り時間は、視界端のウィンドウに表示されている。
デュリオだけではなく、ほぼ全員が驚愕したが、竜一のチームのモチベーションはやや上がった。ここからやり返してやる。
まあ結局、もとからあった点数を縮めることはできず、あっけなく負けたがな。
しかも、『ネクスト・レベル』で全力で動いたので、全身が悲鳴をあげている。要するに、ものすごく疲れたのだ。
今日も、体育のメインキャラがデュリオになったのは変わらなかった。
竜一が『ネクスト・レベル』を使用してもどうにもならない状況は、こんなしょうもないところにあったりする。
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「今日はすごかったね。いったい何をしたんだい?」
当然というかなんと言うか、竜一はデュリオに聞かれていた。
「秘密だ」
まあ、竜一が聞かれたらすぐ答えるタイプではないのも事実だが。
「まあそうだろうね。それにしても、ここ最近出てきた新設ギルド『スカイグローリー』が『ブリュゲール』と繋がったのは知っていると思うけど、どう思う?」
「別に繋がりの否定はしないよ俺は。評価は別にして」
「そう言えば、占拠するって感じらしいけど、それに関してはどう思う?」
「まあ、トップ連中からすれば、『やれるもんならやってみろ』って感じだと思うがな。レイフォスはそう言っていたぞ」
NWOの根本にあるのは『自由』であり、何をしてもいいのだ。可能なのか不可能なのか、納得されるかされないかは別にして。
「ルナードはどういってた?」
「『最近リアルが暇だから殺るときは参加する』らしいよ」
まあ、好戦的なルナードらしい言い分である。
「ゼノンはどうだったんだ?」
「『知識で占拠できるほどこの世界は甘くない』だとさ。彼らしいね」
ゼノンはクールだからな。
「竜一自信はどう思うんだい?」
「ブリュゲールと組んだのは厄介だとは思うが、別に特別視する必要はないと思うがな。NWOでは、どんなことにも対処法は存在する。できないと思っていたことでも、抜け道を発見したり、今までにあったもので擬似的に再現したり出来るし、『やろうと思えば全部できる』っていうのが、今のNWOだ。ジョブシステムが出てきてからはこういうのが強まったよ」
「そうだね。そういう意見もあるか」
「デュリオはどう思う?」
「敵や邪魔になるんなら相手はするが、それ以外ならなにもしないね。占拠とはいっても、色々あると思うし」
「敵や邪魔にならない限り手は出さないって言う風に解釈できるけど、なんか虫を相手にしているような言い分だな……」
デュリオって時々なんかスイッチが入る。
「トップ4と戦闘凶の意見をうまくまとめると、『今現在は放置』って感じかな」
「まあ俺たちはばかだから、あいつらがどんなことをしてくるのかが知りたいって言うのもあるんだろうけどな」
「否定できないね」
「いざとなればどうにかできそうだもんな。実質」
「NWOは攻略サイトを見ただけでは図れないからね」
むしろ、攻略サイトを見ただけで全部どうにかできるようなゲームなんて今の時代。そんなにない。
何をしてくるのかが知りたいと言う理由があるのは確かだし、それは竜一も変わらない。
「ちなみに、竜一はNWOの『兵器』という存在にたいして、どういう感情がある?」
「っていうかさ。デュリオからすればさ。『俺』って兵器だろ」
「そう来るとは思わなかったよ」
デュリオは苦い顔をした。
文字数が減少していく。




