NWOに兵器はあるのか?
シャリオはゼツヤのホームを歩いていた。
なお、先導者として、前にはロイドがいる。
「ちょっと聞きたいんだが……」
「何でしょうか?」
ロイドが歩きながらこちらを見た。
「道案内って、したことあるのか?」
「ユフィ様がエクストリームに入ったばかりのころ、時々こちらに来ておられました。この場所はもとはフィールドであるがゆえに、町の中のようなマップは再現されておりませんので……」
「ああ、なるほど。よく迷子になるからな。NPCは全員覚えているのか?」
「これを期に覚えておくべきでしょうな。この世界のNPCはすべて、専用の記憶領域を与えられます故、すべて記憶しております」
まじか。
「さて、着きましたな。こちらが『総合実験室』でございます」
ドアは他と変わらないな。
そう、チャットで質問対象を選んだ相手はゼツヤだ。今回の場合はレベルも熟練度もかなり低めなので、アイテムが中心になると思ったからだ。
確かに基本的な頭脳はシャリオの方が圧倒的に上だが、この世界では魔法バカのシャリオには、知識量に限界がある。
「私はここでお待ちしていますので、どうぞ」
ロイドがドアを開けたので中に入った。
広い。一般的な高校の体育館くらいか。
壁はすべて真っ白であり、ホームボックスがいくつもおかれている。
「済まないな。ここまで用意してもらって」
「まあ本来ならチャットのままでもいいかなって思ったけど、弟子三人に関しての借りがあるからな」
「そういえばそういうこともあったな」
まあ、世間話はするたちではない。
「じゃあ、本題に入るか」
「そうだな。で、一日開けたけど、なにかわかった?」
「簡単にまとめたものでいいか?」
「一応はね」
シャリオはウィンドウを開いた。
まず、予想される戦力だが、会の人数は62人。そのうち、NWOをプレイしたものは3人。会長は、弟がプレイしている噂がある。
平均レベルは推測で20程度。初心者レベルだ。
一般的な頭のよさにおいては間違いなく全員がトップクラス。
なお、会長は大きな企業の御曹司である。
会長を除き、もっとも頭が良いものは、NWO以外のVRMMOをプレイしていたことがある。最も、そのゲームはガチの兵器系だった。
「まあ、簡単に言うならこんな感じか」
「ちょっと簡単にまとめすぎだと思うけどな。まあそれはいいとして、シャリオが気になっていることは?」
「統括とは言っているが、会長視点で考えるなら『占拠』と変わらんからな。こんな戦力で何をする気なのかなって思ったが、こっちでは魔法バカの俺にはわからん」
「で、レベルでもスキルでもないのならアイテムしかないと」
「そんな感じだ」
ゼツヤは考えている。
数秒後に口を開いた。
「可能性の話だけど、なめてかかると痛い目に会うかもな」
「どういう意味だ?」
「『会長の弟がプレイしている可能性がある』『会長は御曹司』ということをもとにすると、最も厄介な可能性がある」
シャリオにはわからない。
「少なくとも御曹司と言うことが確実なのなら、リアルマネーは豊富だと言うこと、あと、その弟のネームが『ヘリオス』だった場合」
「ああ、なるほど。確かに面倒だな」
しかも、可能性が十分にあるのだ。
「しかし、いったいどこの企業なんだろうな。ホームに攻めこんだことがあったけど、大学生ですらない子供に渡すような金額じゃないぞ?」
「まあ、そういう意見もあるな」
脱線したな。
「まあいいとして、可能性としてはどうなるんだ?」
「まあ仮にブリュゲールと繋がったとしても、ルナード辺りをぶっ混んでおけば問題ないと思うけど、まだ面倒な部分がある」
「何だ?」
「情報にあった『NWOをしたことがある人数は三人』というのは今さらどうでもいいけど、『兵器系のVRMMO』をしていたというのはなかなかに厄介かもな」
「NWOに兵器なんてないぞ?実装されてもないはずだが」
「実際にある訳じゃない。だけど、擬似的に産み出すことは可能だ」
ゼツヤは立ち上がると、ホームボックスの方に歩いていく。
ちょっと操作すると、今度は部屋の真ん中に移動してウィンドウを操作する。
大量に取り出したのは、所謂『トラップセット』と呼ばれるものだった。
マジカルスクロールと、起動スイッチの役目を果たすアイテムをマジカルパウダーで繋いで、遠隔起動するものだ。
「まさか、擬似的な兵器って……」
「マジカルストーンの汎用性だよ」
床にスクロールを大量に並べていき、長さを変えながらパウダーをひとつの場所に集合させた。
そして集合させた場所に、レバーをおく。
「スクロールはすべて『ウロボロス・ガイスト』だ」
ランク10の無属性の『追跡弾丸』の魔法だ。
ていうか、ゼツヤクラスになると、ランク10であっても実験のために用意できるんだな。
ゼツヤは的をいくつも設置したあと、レバーを倒した。
真っ白い光がパウダーを通っていく。
長さが違うので、光が到達するまでに時間差があるんだな。
と、そう思った次の瞬間。
白い弾丸が魔方陣から垂直に放たれて、すぐに向きを変えて、的を目掛けて突進していく。
まるで、ミサイルのように。
暴力的なまでに的は弾丸に撃ち抜かれ、ボロボロになり、破壊される。
収まった頃には、的の残骸しか残らなかった。
「的の素材はすべて『レシュイア・インゴット』だ」
それなりにランクが高い、魔法耐性がある防具を生産しやすいインゴットだ。確かに、防具としての本来の形をしていないので、その耐性は完全なものではなかっただろう。
だがしかし、これは……。
「たぶん運営も、こんなことができると思って設定したわけではないだろうし、まあ逆に気づいたものだけがこれを行う権利があるって言うメッセージの可能性もあるけどな」
「質問いいか?」
「どうぞ」
「MPはどうなるんだ?これらを使ったことがないからわからないんだが」
実際に魔法を使用しても、スクロールで使用しても、どのみち、MPが必要なことに代わりはない。
『ウロボロス・ガイスト』の消費MPは『113』だ。決して無視できるものではない。
さっきのは、シャリオが見た限りでは85発あった。
実際に使用するとなれば、『9605』という、膨大なものになる。
シャリオのMPは『14000』であり、確かに膨大なのは事実だが、こんなことをすれば六割以上が吹っ飛んでしまう。
というか、シャリオも一人のプレイヤーだ。クーリングタイムが発生し、連発はできても、連射はできないのである。
「シャリオなら知らないか。この装置はな。MPが不要なんだよ」
「そんな馬鹿な」
これは実験だ。本番となれば、もっと多くのスクロールが使用されるだろう。
これに対抗できるものがいないと言うことではないが、もしもこれが改良されたとしたら……。
「この方法は、俺でも気づいたのは最近だから、まあ知らない人も多いし、これの主な使用方法は、主にトラップとして使うだけだった。遠隔で発動はできるが、まずパウダーを通じて光を届けなければならないし、その間に光の進行を邪魔されたら魔法は当然発動しない。でも、うまく使えば、こんな兵器になる。まあシャリオも、これを見れば、どれ程危険かわかると思うよ」
ゼツヤはスクロールがあった場所に新しいものを並べた。
それは『魔導書』だった。
さすがに数は少ない。数えたが、20だ。だがそれでも多いだろう。さすがは創造神である。
「魔法はすべて『アノマリー・ブラスター』だ」
火・水・風・地の混合で、『光線魔法』だ。
レバーを倒す。
光が通っていく。
そして、グリモアに当たった。
美しい閃光が、新しく並べれた的を、最初からなかったかのように貫いていく。
絶句するしかなかった。
「因みに、『技術者』という上位職業を持っていれば、一体のマジカルメリーから、本来の5体分の毛を入手できる。俺はすでに越えたけどな。入手量5倍。少なくとも、無視はできない」
シャリオは、なにも言えなかった。
兵器は、あるのだ。この世界にも。
だれも、知らなかっただけで、知ろうとも知なかっただけで。
抜け道とか、そういう話ではない。
今あるものを最大限使うことで、それは、無慈悲な兵器になる。
揃えるのは簡単ではありません。ゼツヤが『オラシオン』であり、『創造神』だからこそ可能な部分も多いです。
しかし、時間をかければ、達成することも不可能ではないのです。もっとも、瞬間火力が高いだけで、持久力はありませんが。




