ゼツヤの本気の全力
最初に踏み出したのはルナードだった。
紫色の剣で垂直で斬ってくる。
だが、それがフェイントであることは、すでにスイッチを入れているゼツヤにはわかっていた。
一瞬剣が止まった隙を逃さず、そのまま弾いて突きを放つが、ルナードは全身を下げて回避する。
と思ったら下段から斬撃が来ていたので、後方にとんだ。
「普通なら当たっていると思うんだが?」
「それはお互い様だ」
ゼツヤはウィンドウを見ずに操作して、本を取り出す。
「『ミリオンボルテックス』」
「それ超級魔法だよな!?」
本を掲げると魔方陣が発生し、雷がいくつも出現してルナードに迫る。
ルナードはそれを、武器をレイピアに変更し、アクションスキルですべて叩き落とした。
「アーネストのレイピアか」
「ああ、アクションスキル発動時に色々と特殊効果があるからな。さっきのはなんだ?」
「『魔導書』だ。マジカルスクロールを束ねたものだと思えばいい。これによって、マジカルスクロールでは使えない超級魔法を使用できる」
「創造神なら可能か」
「そこまで必要ではないがな」
「ふーん。まあいいさ。そういうものあるってこと。ただそれだけだ」
見ていて思うが、単に、純粋に楽しんでいるのだろう。
そして、それがルナードというやつだ。
「さあ、行くぜ!」
剣を双剣に変更した。武器までゼノンと同じだった。
次々と弾くが、手数が多い。少々押しきられてきている。
「む、『シークレット・ストーム』」
グリモアを使用する。
真っ白な光線がルナードを襲うが、二本の剣で両断された。
「ゼノンのやつ、いったいどんな剣を使っていたんだ?」
「俺もはじめて知ったときはビックリしたけどな」
ルナードが言い終わる前にゼツヤは追撃する。
「おっと」
ルナードは余裕をもって防いでくる。
「ちっ。なかなか通らないな」
「レイフォス以下だしな」
「それもそうか」
「これじゃ俺は倒せないぜ」
「だが負けることもなさそうだな」
「いうじゃん」
ルナードはユフィの双剣に切り替えて、スピード重視で攻撃してきた。
「ちっ。ユフィもやられてたのか」
めんどくさい武器があるものだ。作ったには自分だが。
「『クリエイト スペルゲート』」
「ん?」
ゼツヤ周辺に、直径三十センチくらいで半透明の赤いたまが出現した。それも、五個。
「『ドミニオン・サバイヴ』」
グリモアを使用すると、スペルゲートのなかにも、今使っているグリモアが浮かび上がった。
「マジで!?」
「大マジだ」
ゼツヤ本人も含めて範囲系が六回発動されたが、すべてにおいて範囲外に逃げられて回避された。
ちっ、知ってはいたが早い。
「結構面白いもんだな」
「なら避けるな」
「無茶言うな!」
その後も何回かやったが、見事に全部避けられた。
「ふう、まあ、準備運動はここまでにするか」
ルナードの雰囲気が変わる。
そして、
次の瞬間、ダガーはゼツヤの心臓の位置に刺さっていた。
「なっ……」
「油断したな。俺相手にはそれは禁物だぜ」
払い除けながら後方に跳躍する。
だが、こちらが跳躍した瞬間。ルナードはバスターの大剣に切り替えて、跳躍で追ってきた。
「く……」
構えるが、バスターの大剣を受け止める材料が今の自分には全くないこともわかっている。
直撃は避けたが、かなりの衝撃を追ってぶっとばされた。
「はぁ、はぁ。マジでビックリした。ていうか、レイフォスよりタチが悪い」
「だろうな。さあ、もっと踊ろうぜ!」
「得意ではないぜ。全く」
構え直すが、キャリアに違いがありすぎる。
そもそも、NWOプレイヤーと言うのは、基本的なプレイをしているのなら、誰かと戦う必要性と言うのはあまりないのだ。
そんななかで、プレイヤーキルを専門としていると言うのは、まさにプロのような存在になる。
「くそ、なんか武道でもやってたんじゃないのか?これ」
「武道はやったことはねえな。リアルじゃSPだからよ」
「人を守る職業だよな!?」
「それは事実だが、そんなモラルをこの世界まで持ってくる必要なんてないしな!」
それは確かに、リアルがどんな人間であろうと、この世界はこの世界であり、様々なロールプレイがあって当然である。
「どうした!動きが鈍ってるぞ!」
「お前のリアルがSPだってしったら誰でも一瞬くらい思考停止するわ!」
これは譲れない。
「だからって手は抜かねえぞ!」
「お前が抜くようなやつだとは最初から思っていない!」
しゃべっていますが超速戦闘が行われています。
ゼツヤは腹に一発もらって吹っ飛んだ。
「ぐ……」
「ふう、確かに地味にキツいわ。でも、まだバスターの方が強いぜ」
それはそうだろう。年末のデュエルカップの戦績からかんがえるなら、ゼツヤは三位なのだから。
はあ、仕方がないか。今ここでメインの剣を失ったら後々面倒だしな。
本当ならこの戦いでも使う予定はなかった。
だが、出し惜しみはなしだ。
ゼツヤは納剣する。そして、大きく深呼吸した。
「お、全力か」
「ああ……」
「雰囲気がちょっと重くなったな」
「そういう効果が出てくるだけだ。続けるぞ」
「ああ、ん?構えねえのか?」
「剣の勝負がしたいんなら抜剣させてみろ」
「おもしれえ。後悔すんなよ!」
ダガーで攻めてきた。
ゼツヤはそのダガーを『持っている手首をつかんだ』。
「何!」
ルナードがはじめて動揺した。
そのまま後方に投げ飛ばした。
ルナードは着地したあと、構え直す。
「なんだ?今の反応速度は」
「いや、ちょっと段階をあげただけだ」
「ワケわからん」
「それが普通だ」
「だが、なかなか面白いじゃないか」
ルナードは大降りにせずに細かく攻撃してくるが、ゼツヤはそれを、素人のナイフをあしらうかのようにさばき続ける。
「ど、どうなってんだ?ここまで違いが出せるもんなのか?」
「答える義理はない」
ゼツヤに発生しているのは、ゼツヤ本人が命名したものだが『ネクスト・レベル』と言うものだ。
何度も言うが、ゼツヤは『先天性集中力過剰症』である。
これは生まれつきなので、ゼツヤ、いや、竜一がこの世に生まれた瞬間から備わったものだ。
コントロールができないうちは、あまりにもひとつのことに没頭することが多くなり、その没頭したことの精度は高いのだが、回りから見ればとろい人間に思えるのだ。
あまりにも集中するあまり、他のことを全く認識できないからだ。
そのぶん、没頭したものであれば圧倒的な集中力から絶大な処理能力を発揮することができるので、コントロールできれば大きなものになる。
時間はかなりかかったが、ゼツヤはコントロールには、やや不完全だが成功はした。
その方法は、『常にひとつのことを考えない』というものだ。
更にあるとするなら、『時間が短くてすむことばかりをする』と言うものもある。
例を言うとするなら、『長編の小説を読まず。必ず短編にする』というのが一番分かりやすいだろうか。
集中してしまえば読むスピードは早いので、短編が終了すると同時に集中力はうまく切れる。
そういったことを常に連続で行っているので、ゼツヤはやや雑念が多い。
だが今現在は、『ルナードを倒すこと』に全集中力を注いでいる。
やっていることは今までとほとんど変わらない。その精度が圧倒的なのだ。
ルナードは強者だし、攻撃一つ一つの完成度は高い。
だが、『ネクスト・レベル』に入ったゼツヤには、とても及ぶものではなかった。
そもそも、こうなったゼツヤを相手にして、時間をかければかけるほど自らが不利になるのだ。
ほとんどが戦闘に切り替わるのは事実だが、すべてが一気に切り替わるわけではない。ちょっとずつ精度をあげていくことで、後で戻りやすくする。
結果は、見るまでもなく、ゼツヤの勝利だった。
そしてその剣は、鞘に納められたままであった。
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ルナードを倒して鉱石三つを選択したゼツヤである。
「戻るか」
その言葉に反論はなかった。
難しいですね。戦闘。




