最『凶』の再来
ゼツヤが求めている素材は残り三つ。
そして、その必要な素材を手に入れるためには『アビス・カタストル』のボスから手に入る『深淵の極宝石』と、『ボルテックス・ゲート』のボスから手に入る『雷鳴の轟来石』と、『ポイゾナス・サンクチュアリ』のボスから手に入る『毒蛇王の大凶石』が必要だ。
アビス・カタストルは水中型ダンジョンで、恐ろしいほどもぐる必要がある上に、すべてのモンスターが異様に早い。酸素ゲージが普通に足りないのでエンチャントは必須だし、MPの回復もかなり必要なので、非常に困らせてくれる場所だ。
ボルテックス・ゲートは、木々のない山を上っていくダンジョンだが、その際に雷が降ってくる。
確かにリアルほど早いわけではないが(そこまで早かったら避けれない)、高確率で『麻痺』の状態にしてくるという嫌な効果がある。しかも、モンスターも雷関係ばかりで、『水分持ち込み禁止』といわれているダンジョンである。
ポイゾナス・サンクチュアリは、沼を進んでいくフィールドダンジョンだ。
スピードは出せないし、どれだけ耐性があっても『10分ごとにHP1%減少』という効果があるので、HP管理がかなり重要である。
ボスは蛇で、これが恐ろしくすばしっこい。直径3メートルはありそうなのに何であんなに早いのかわからん。
と言ったように、難関なダンジョンだった。しかし、
「まさか、ボスがいないなんてな」
そう、その三つは、ボスがいなかったのだ。
NWOにおけるダンジョンのボスは、倒されると、次の日の午前0時に再出現する。
今日に限って、三つんダンジョンにボスがいないというのは、偶然にしてはできすぎのような気がするが。
いや待て、数年前、これと同じような状況があったような気がする。
あの時は確か……。
「師匠~。これからどうするんですか~?」
やっぱり緊張感が抜けるな。ホルンは。
「へぇ。ついに弟子ができたか。さすがにこれだけの年月がたてば当然か」
数年前に聞いたことがある声が、ゼツヤたちがいる場所、『ポイゾナス・サンクチュアリ』に一番近い町『デリュオン』の広場に響いた。
ゼツヤは後ろを見た。
そこには、一人の青年がいた。アバターに年齢があるわけではないが、若い外見、髪は紫色で、服も同じく紫だ。
そして、右手には紫色の剣が握られていた。
「お前、ルナードじゃないか。この世界から去ったと思っていたぞ」
「俺がこの世界から消える訳ねえだろうが」
「まあ、確かにそうかもな」
「師匠。知り合いなんですか?」
「いや、知り合いと言うか、NWOを八年前からやっているやつなら大概知っているだろうな」
「そういや、俺の全盛期は八年前か。長いもんだねぇ」
こいつは厄介だな。
「何者なんですか~?」
「緊張感の抜けるやつだな……」
それに関しては同意しよう。
「アイツの名はルナード。八年前に全プレイヤー中、最『凶』と言われた『プレイヤーキラー』だ」
八年前の春、ルナードはNWOで始めて、集団を相手にした殲滅を達成した。
それだけなら、『それってどれくらい強いんだ?』と思って挑みにいくやつは多いだろう。ネットゲーマーと言うものは、当時はそういうものだった。
第一、NWOはデスペナルティがさほど大きいものではないからだ。
ゼツヤは当時、初めて二年とちょっと、要するに三年目だったが、どれくらい強いのか。ということは考えた。当時八歳で、小学二年生になる頃だったし、それが普通だろう。
だが、それだけではなかった。
ルナードは、ある種の呪いのアクセサリーを装備していた。
そのアクセサリーの名は『災禍の首飾り』
その効果は、『プレイヤーを倒したとき、そのプレイヤーの武器を自らのものにする。装備者はこの首飾りをはずすことはできず、装備者のHPが、プレイヤーの攻撃によって0になったとき、この首飾りの効果で手に入れた武器をすべて本来の所有者の元に送還し、自らが持つアイテムの内3つを、装備者を倒したプレイヤーが選択し、強制的に譲渡する』
と言うものだった。ほかにも、手に入れた武器は『破壊不可能』と『売却不可能』になったりと、隠し効果は色々あったのだが、狂っている。そんなアクセサリーだ。
因みに、ゼツヤにも作ることはできない。期間限定モンスターのレアドロップらしい。
「今から七年前に、精鋭プレイヤーが連合でお前を討伐し、始まりの町にほとんどのプレイヤーが終結して、プレイヤーを対象とする初の『完全粛清』が行われたはずだが……」
「まあ、そうだな。あれはなかなか燃えたぜ」
すでにおわかりだろうが、戦闘凶である。
「今はどれだけ奪ったんだ?」
「数えてねえな。まあいいんじゃねえか?別に売りさばくことも誰かに渡すこともできず、俺を倒すだけですべて解決するんだしよ。まあ、オラシオンシリーズが思ったより集まったから、気分いいけどな」
ルナードに強さは、圧倒的なまでに強力な武器をいくつも手に入れて、ウィンドウ操作一発で武器を変更できるスキル『ソニックリリース』を使用することによる豊富さだ。
本来なら、そこまで大量の武器を所持していればストレージの収まりきらないが、『災禍の首飾り』には、特殊ストレージを所有する権利を得ることができるため、この戦法が可能であった。
「まあいいさ。俺は話をするためにここに来た訳じゃないしな」
「お前はそういうやつだったからな。だが、今俺がお前と戦う理由がどこにある?俺たちの方が、ワープエリアに近いんだぞ?」
「それもそうだな。だが、これを見ればその意見も変わると思うぜ?」
ルナードが武器を変更して、別の武器を新たに取り出した。
「それは……アンフィニッシュドレギオンのギルド武器じゃないか。まさか、ゼノンが負けたのか?」
「そう言うことさ。とてつもなく強くなっていたが、まあ俺の敵じゃねえわ。忘れた訳じゃねえはずだぜ?俺は、完全粛清が行われた七年前まで、ずっと年末のデュエルカップは優勝だったんだからな」
そうだ。しかも、まだ全盛期であった時代ですら、狙われていると言うのに、イベントには参加するやつだった。真っ先に狙われると言うのに、それすらも完璧に撃退するほどの強さ、いや、センスを持つ。
「まあ一番危なかったのは……」
さらに武器を変更した。
自らが持っていないことを前提にすれば、もっとも見慣れた武器だった。
「この大太刀の持ち主だったよ」
その大太刀は、刀身が真っ黒であり、さらに、赤い桜が刻まれていた。
「お前もわかるんじゃないか?この大太刀の持ち主をよ」
紛れもなく『純斬大太刀・冥光血桜』だった。
「レイフォスが、負けたのか」
「ああ、本当にやばかった。斬撃がいつまでも追ってくるからな。あと……」
さらに武器を変更する。
今度は、バスターの大剣だった。
「こいつの持ち主はこう言っていたぜ。『お前では俺に勝てても、ゼツヤに勝つことはできない』ってな。まあそれはそれで面白そうだからいいけどよ」
バスターのやつ、どこまで気づいているんだか。
「まあ、話はここで終わりにしようぜ。ついでに言うなら、俺は『深淵の極宝石』と『雷鳴の轟来石』と『毒蛇王の大凶石』を持っている。戦う理由は十分にあるんじゃないか」
なるほど、確かにそうだな。
「どうやっても俺と戦いたいらしいな」
「当然だ。甘い戦いはもうしたくはないんでな。派手にやりたいんだわ。ま、少なくとも、対人戦においては俺は最強だ。それに、お前の職業。ちょっと気になるしな」
「俺の職業か?『創造神』だが」
「職業って言うより称号だよな。それ」
「お前はどうなんだ?」
「俺か?『武帝神』だぜ」
……確かに称号だな。とゼツヤは思った。
「『殺戮者』じゃないのか?」
「俺のポリシーは真っ向勝負だぜ?まあ否定はしないけどよ」
確かに、こいつは卑怯なことは絶対にしない。まあ武器を奪っている時点でどうなんだという話になるが、それはおいておくとしても、こいつは真っ向勝負以外にしたことはない。
しかも、奪ったアイテム以外にもレアアイテムを必ず三つ以上入手してから現れるので、根は悪いやつではない。納得できるかどうかは別だが。
「さあ、話は終わりにしようぜ。戦う理由はあるんだからな」
ルナードは最初に持っていた紫色の剣に変更して握りしめると、切っ先をこちらに向けた。
「仕方がない。やるか。お前たちは出てくるな。アイツは、連携を崩すのがあまりにも上手いから、はっきりいって邪魔にしかならん」
NPC三人は一度頭を下げたあと、ゼツヤに後ろにいった。
「まあ、師匠がそこまで言うのなら、私としても下がるしなかいな」
「師匠が負けたら今度は私が戦いますね」
「頑張ってくださいなのだ~」
お前ら本当に状況わかっているのか?
そういう風に、強く思うゼツヤだった。
上には上がいるってことですかね。
作中で書くつもりはないのでこちらに記入しますが、八年間身を隠していたのは、ルナードのモンスターを相手にした場合のセンスは壊滅的であり、レベルを100まであげるのに八年かかっただけです(一年間でレベル50に到達したミラルドと比べるとよくわかります)。ボスの討伐は、入手した武器のごり押しです。数はかなり揃えてから行くタイプなので。




