虚しい鬼ごっこは遠距離でKO
ゲームでは、様々なことが起こる。
VRMMOではそのパターンがものすごく多くなる。
そんな中には、まあリアルだとかなり厄介な災害だって、ゲームでは発生する。
トラウマを持つものには少々きついが、それは耐えてもらうしかない。
だが、ゲームで最も実装されていない災害とは何か。
いや、そもそも災害なんてゲームでは発生せず、発生するにしても、それは運営がわざと設定しているだけ。と思う人もいるだろうが、それは、液晶型のゲームの時代である。
話を戻すが、最も実装されていない災害とは何か。
それは。
「おととととととと!」
ゼツヤは目的のボスとの戦闘中。思いっきり転びそうになった。
地面が揺れるのである。
そう。『地震』だ。
VRMMOにおいて、地震はもっとも発生しない。
それによって発生し、しなければならない計算がはてしなく多いからだ。
なぜなら、ちょっと調べれば分かるが、地震が発生した際に起こることは『地面が揺れる』だけではないのだ。
木々は揺れ、場合によっては倒れるし、海が近ければ津波が来る。
モンスターが原因であるならば、しょっちゅうされてはまともに近づくことはできない。遠距離は照準が定まらないし、近接なんて震源地ではあることすらできないだろう。
NWOに飛行するというシステムはないが、『跳躍』は存在する。
だがそれも、タイミングよく地震が来れば踏み込むことはできない。
最も厄介である。水中ほどではないが『足腰が効かない』と言うのは、それほど不自由なのだ。
そして、そんな地震を何回も発生させるボス。『アース・リベリオン』と言うモンスター。
見た目はちっちゃくてかわいいハムスター型のモンスターだが、その名前とステータスは凶悪である。
何回も地震を発生させる(いや、実際にはずっと発生している)。しかも物理攻撃力トップクラス。しかもすばしっこい。
しかも、近づくと目をうるうるさせて『魅了』の状態異常にしてくるという洗脳系まで所持している。
小動物恐怖症。と言う言葉があるとするなら、たぶんこいつが原因だ。
「ちょっとまてぇぇぇぇ!」
もう本当に、攻撃が当たらない。何より、小さすぎるのだ。現実のハムスターと同じ大きさである。
あと、なんでか知らないが、ピョンピョン飛び跳ねる。リスじゃないんだから。
もうかれこれ30分くらい漫才かのように戦闘しているが、一行に状況が進まない。
アース・リベリオンは、理不尽攻撃力。貧弱体力。紙装甲。超速度。この4つがステータスなので、当たれば勝てる。だがその分。あたらない。
NWOに、『必中』という要素のあるスキルは存在しないのである。
シャリオやサーガはそんなことは関係なく普通に攻撃できるほどだが、連れて来ればよかったな。
だが、無いものねだりしてもしょうがないので、とにかく追う。
当たれば勝てる。本当に当たれば勝てるのだ。事前情報なら、本当にそうなのである。
集中力を乱したすきに、ジャンピングパンチを顔面にしてきた。
全然痛くはないが(鈍痛くらいはこの世界でも普通にある)HPが半分くらいズガッと減る。
NWOは、HPが増える際にはゆっくりと回復するが、減る際には一気にガクッと減るので、見た目以上に減っているように見えるのだ。怖い。
しかし、何と言うか、ストレスがたまる。
当たらない。それがどれだけ理不尽なことなのか。とか考えている間も、しっかりとバランスをとらなければならない。
と言うかやばいな。震度7がずっと続いているぞ。本当にずっと続いている。
「あたらない」
こっちは精鋭ばかりだというのに当たらない。
チラッとハムスターを見る。目があった。
ハムスターは『バーカバーカ』と言いたそうな笑みを浮かべた。
ちなみに、この状況は『先天性集中力過剰症』でどうにかできないのか。できないのである。
あれはあくまで目の前のことに最大限集中するものである。第三者や、完全に予測していなかったものは防御できない。
今使ったとしても、ハムスターを完全に目でとらえて転ぶか、完璧にバランスをとって直立不動になるか。そのどちらかである。弱点があるのだ。
だが、このまま黙って戦闘するわけにもいかない。
あまり使いたくはなかった。
その手段は……。
ゼツヤはスイッチを入れ、先天性集中力過剰症を起動する。
すぐさま、完璧にバランスが取れるようになった。
そして、垂直にジャンプする。
次に、拳銃を構えた。
ハムスターはびっくり仰天。それはそうだろう。いきなり見たこともない飛び道具が出てきたのだから。
引き金を引くと、小さな矢が射出された。ハムスターが驚いていたということもあって、命中した。
そのまま、HPを散らした。
……ゼツヤが地面に墜落したのは、言うまでもない。
まあ無事、『アースメモリー』は手に入った。
さあ、全員に囲まれた。
「師匠。さっきのあれは何ですか?」
ピクルが聞いてきた。
「さっきのあれか、一応、『ボウガン』に属している武器だよ」
事実だ。射出されたものが弾ではなく矢であったことから分かるが、分類上はボウガンである。
なお、この世界で拳銃。というか、FPSの武器はそもそも『存在できない』のだ。
と言うか、弾丸の形をしているものはすべて、システムに感知されて自動消滅する。
拳銃の形をしているものは存在はできないが、これはボウガンなので、それをうまく利用して『うまくごまかした』と言った感じである。
「そんなことが可能なんですね」
「まあ、今回みたいな状況じゃなかったら役には立たんがな」
リアルにおいて拳銃のメリットと言うのは、圧倒的な携帯性である。
このボウガンもリアルの拳銃と同じくらいの大きさなので、確かに携帯性には優れているが、発射するために使っている機能部分がかなり小さく、速度は圧倒的ではない。
さらに、ボウガンであるため、一発ずつしか装填できないので、威力はリアルの火縄銃以下、射程はこの世界では弓矢以下、というものだ。
しかも今回の場合であれば、立って照準するさせることは困難なので、どうしても跳躍してから撃つしかない。
跳躍しながら当てるというのは、先天性集中力過剰症を起動していても、相手がほぼ停止していなければ当てることなどできない。オマケに威力があまりにも低い。
使用用途は、このボウガンに関していうなら、あまりにもなさ過ぎるのである。
ゼツヤであっても、連射機能など付けることは不可能だ。
まあ要するに、銃を撃ちたいなら、それが専門のゲームをやれ。ということだ。
ちなみに、剣も銃も魔法も戦車も一緒に出現するゲームもあるのは事実だが。
「ちなみに、そう言うネタ的な遠距離武器で一番いいのって何ですか?」
「射程距離10キロのスナイパーライフルだ。威力0だけど」
※今いるのはNWOです。
かなり長い沈黙が訪れた。
「弾は矢的なかんじだよ」
「それはそうですよね」
「実物ってあるんですか?」
「いや、今はないけど。オラシオンのNPCにすら教えていない保管庫にあるよ。素材集めと、剣作成ができたら見せる予定」
「楽しみにしておきます」
「威力0だからな?祭りにしか使えないぞ?」
「はい」
まあとにかく、最も間抜けな鬼ごっこは。これで終了した。
思い返せば、誤字が多い。




