ゴブリン殲滅後の話しあい。
ゴブリンをおそらく2か月はもう出てこないだろうとされるくらい蹂躙した次の日。
竜一は学校に向かっていた。
さすがに5時間はきつかったが、リアルの体に影響があるわけではないので、普通に通う。これでも朝は強いのだ。
「……」
まあ、精神的な疲労はあるためにやや言葉少ないのだが。
あれからホームに戻ったが、ちょうど襲撃の撃退が終わったところであった。
そりゃ撃退……いや、殲滅と言ってもほとんどがアイテムボックスや各生産器具の守護で、ロイドを含む25人いるすべてのNPCソルジャーにチート級と言っても過言ではないほど全身にアイテムを装備させていたのだから、そもそも負けることはないだろうと思っていた。ロイドに警戒レベルを上げるように言っておいたのは正解であったようである。
補足すると、アイテムボックスとは言うが、正式には『ホームボックス』である。ギルドでも個人でも構わないが、ホームを持っているプレイヤーしか購入できない。大きさは、縦1メートル。横2メートル。高さ80センチだ。まあ、アイコンで操作するので開ける訳ではないのだが、やや大きい。この中に、重量にして5トンが入るのである。……無論。ゼツヤの手作りだからこうなっているのであって、本来なら1トン少々だ。
ホームさえ持っていれば何個でも購入、制作は可能だが(ホームを持っていないプレイヤーが作ったとしても、単にでかいただの箱にしかならない)大きいうえに大量に必要になって来るのでかさばる。因みに、1トン少々の普通に店に売られているホームボックスの値段は『10800レイク』である。税込みと言うことなのだろうか。そのあたりは竜一にもよくわからない。
とまあ、そんなことがあったわけで、ややグロッキーになりながらも教室に入った。
冬香の周りに人だかりができていた。人気者がつらいなぁ。と何となく考えていた。
「冬香さん。昨日のあの短剣。『制作工房 オラシオン』って本当?」
竜一は無表情であったが、内心では宇宙空間までぶっ飛んでもいいほどの衝撃に見舞われていた。
昨日渡した短剣。そうだ、あれを回収しておくのを忘れていた。
「うん。すごい性能だったよ。昨日のあのプレイヤー。強かったなぁ」
「ひょっとしてオラシオンの従業員だったりして」
そうなんです。しかもたった1人の。
「まっさか~。掲示板見るけど、ものすごい性能のアイテムを作っているんだよ?それなら、最難関にダンジョンにこもっていてもおかしくはないじゃない。ひょっとして、あのプレイヤーはダガーを副装備として持っていたのかな?取り出すのに便利だし。でもそうなると、メインで使っていた武器ってどれくらい強いんだろうね」
まあ確かに、あのダガーはメインと言うより、隠しておく予備の武器に向いている。装備時に『AGI強化(極強)』が付くからな。まあその分。やや攻撃力は高くはないのだが、自らの早さが攻撃力にプラスされるアクションスキル(技)の多いダガーは、自らが早くなることに意味がある。
ゼツヤの短剣スキルの熟練度は一応カンストしているが、使用頻度は少ない。
ちなみにメインの剣だが、あれは制作者名にゼツヤの文字がある。基本的に、自らが装備するだろうと予定したものは自らの名前を入れている。どれもこれも、結構なレア性能であるが……。
「そのプレイヤーってどんな格好だったの?」
「顔は中の上って感じかな?白と青で構成されていたよ」
白じゃなくてアイボリーなのだが、言うバカはいない。
「あの軍勢見た時はマジでビビったよ~。もうとんでもない数のモンスターがいたんだからね。いくら一体一体のステータスが低いって言っても、あれは反則だよ。運営何考えてるんだろ」
とは言うが、実質、あのイベントは3年に一度しか発生しないうえ、この広大なマップで、数百程度の場所にしか発生しないレアイベントなのだ。遭遇するだけでもいい経験になるだろう。結果的にどうなるかは別として。
「いいなぁ、俺の会ってみたかったな。『オラシオンシリーズ』を手に入れる方法って、今じゃオークションと、本人から手渡しされるくらいだもんな。あとは本人に無理矢理会うくらいか。まあ難しいだろうけど」
当然である。ゼツヤのホームの場所は少々ぶっ飛んでいるからな。
ちなみにどこなのかと言うと、『とてつもなく辺境の山のふもと』である。もっと簡単に言うならフィールドなのだ。誰も使わないダンジョンの安全エリアを拠点にしているプレイヤーはいないわけではないが、もはやそれ以上である。どこの世界に、一般的な普通のフィールドにホームを作るものがいるのか。
まあ、一応安全策はたくさん用意しているのだがな。ある『像』の能力なのだが、これがあると、モンスターが発生しない安全エリアとなるのだ。
しかも場所をうまく地形で隠しているので、トップクラスの盗賊でも発見はほぼ不可能である。なにせ、隠蔽効果の無茶苦茶高いアイテムで偽装しまくったからな。フフフ。
「それでね。昨日町に戻ったら『ブリュゲール』がいたんだよ。多分襲撃イベントのために来たんだと思うけど。帰って来た私たちを見て驚愕してたね」
「うんうん。どれくらいいたのかとかどんなアイテムをドロップしたのかとか。あと短剣のことも聞かれたもんね」
ブリュゲール。トッププレイヤーの中ではかなり野心的なギルドとして有名だ。幹部クラスはレベルに関しては全員トッププレイヤーであり、規模もそれなりにある。あまりいい顔はされない。
「でも、結構偉そうな感じだったね」
「そうそう、あの短剣。5万レイクで売れって言われたよ」
店で普通に売っても軽くその数十倍の金額が手に入るだろう。店でプレイヤー製作のものを売った場合、やや金額が下方修正されるのだ。というか、竜一がオークションに出すのは、単にそうした方が稼げるからである。
「それで、冬香ちゃんはどうしたんだ?」
「それが……無理矢理にとられちゃって。NWOでは救済処置として、所有している全てのアイテムを目の前に出現させるアイコンがあるんだけど、すでに盗賊系のスキルで所有権を上書きされちゃったし、それに、手に入れたアイテムはほとんど持っていかれちゃったし、運営に言ったんだけど、『何をしてもプレイヤー達本人でどうにかすること。NWOの基本原理は、可能なら何でもしていい』なんだってさ」
まあ、そう言うハードさがあるのがNWOのある種の醍醐味なのだが、まあ、こういったステータスの差が漠然としていたり、さらに親バカだったりするプレイヤーにとってはなかなかつらいものがある。
無論。リアル的に犯罪まがいのことをして(基本原理上は問題ない)力を手に入れて、逆にやり返されて力を失っても、その人たちの意見は運営には届かないのだ。
「取り返すの?」
「出来ればそうしたいけどなぁ」
それはそうだろう。中級プレイヤーにとって、あの武器はオーバースペックだ。
戦力の増加。とかそんなレベルではない。まあ、初心者にちょっとばかし毛の生えた程度の子供が超高性能の兵器をいきなり持たされたようなものだから、やや動きにくいだろうが。
「うーん。ギルマスに当たってみるかなぁ」
男子生徒が声を漏らしている。まあ、どこかにギルドに属していても不思議はない。
「でも、ブリュゲールって良い噂がないぜ?乗るやつなんていないんじゃねえの?それに、2年くらい前に、ブリュゲールに反抗した集団を襲撃したって噂もあるし、徹底的に武力でどうにかする連中だからな」
それは竜一も知っている。あれは呆れた。
「となると、その昨日会ったプレイヤーに会うしかないな。どちらにせよ。『オラシオンシリーズ』を手渡しされるようなプレイヤーだし、相当な実力者なんだとおもう。だが……」
「彼が持っていた短剣は今はないしね。ブリュゲール相手に動いてくれるかな……わたし、あんな武器の代金なんて払えないし」
別に金銭を要求しようとは思わない。あと、俺はブリュゲールを殲滅できる。
「まあ、今日も行くしかないか。あとは中で考えようか」
「うん。みんなありがとう」
さて、俺も今回は行くとしよう。プレイヤーと戦うことはめったにないからな。楽しませてもらうぞ。俺は、NPCを総動員して、完全装備で行けば、そんじゃそこらのギルドなんて倒せるのだからな。
わずかに期待する竜一であった。
NWOそのものについての内容が薄いか……。