世間は狭い。
「まさか、あそこまで早く終息するとは思わなかったな」
デュリオはレポートを仕上げながら呟いていた。
ゼツヤからのメールで、これからの行動方針が一気に決定した。
ブリュゲールと関わりがあるギルド『プロミネンスドミニオン』の発見、更に、ゼツヤからの追加メールの『魅了(隠し状態異常)』の解除方法の実行によって目が覚めたことにより、二つのギルドの契約破棄が行われた。現在は、曲がりなりにもトッププレイヤーとして活動している。
無論というかなんというか、連携は酷いものだったが、戦闘のレクチャーを有料で行っているギルド、通称『塾ギルド』もあるので、まあその辺りの問題は解消された。
マジカルストーンの占拠対策は、PKギルドに任せることになった。こちらが一部であっても『占拠』を行っている状況があるのは面倒なことに繋がるだろうという意見があったことでこの案が採用された。
PKギルドが活躍しすぎて、以前反乱を起こした連合ギルドがある意味で面目丸潰れだったのだが、まあそれはこの際いいとしよう。
マジカルメリーの飼育場所は今でも調査が続いているが、優先事項ではないようだ。まあそのくらいでちょうどいいだろうとデュリオも思う。
大小様々な対応がなされ、結果的に、『もとに戻った』と言えるだろう。
だが、レイフォスは、『何か妙な歯車がはまっている気がする』と言っていた。これに関しては、また自分達に降りかかるかもしれないが、そのときはそのときである。
「ん。デュリオ君。お客さんがいるみたいだよ」
「僕宛に?」
どうでもいい情報だが、デュリオは平均以上に『僕』と『俺』が切り替わる。ゲームないでは『俺』だけなのだが。
正門にいってみた。
男子生徒だった。制服は沖野宮高校のものではない。当然だが。
背はデュリオよりちょっと低いくらいで、低くはない。あと、普通にイケメンだ。短い銀髪がよく似合っている。
「君がお客さんかい?」
デュリオのあまりにも流暢な日本語に一瞬戸惑ったようだが、すぐに返答があった。
「まさか、リトルブレイブスのギルマスが外国人だったとはな。かなり予想外だったよ」
「君はいったい……ひょっとして、ゼノンか?」
理論的な理由があるわけではない。勘と雰囲気である。
「一発でよくわかったな」
「君はリアルでも賢そうだね」
「ずいぶんと日本語がうまいな。自動翻訳は使っていないようだが」
ちなみに、ずいぶん昔は外国人に話しかけられること自体、避けようとするものが多くいたようだが、その理由の大きい部分は、お互いに言語がうまく通じない部分があるからだとされている。
だが近年では、瞬間的に英語で発せられた言葉を日本語に翻訳し、日本人に分かるように届ける、またはその逆も可能になり、その意味で避けるものはいなくなっている。
「まあ、便利だからね。日本語を直接理解できると」
「まあ否定はしないさ。まあ、こちらでは初めてあったんだから、自己紹介くらいはするとしよう」
ゼノンは一泊おいて、言った。
「草薙学園。『NWO活動部』部長。無間流星だ。宜しく」
すでに部活になっていた高校もあったか。
「沖野宮高校。『NWO同好会』会長。デュリオ・クレメンティだ。こちらこそ宜しく」
握手した。
「ところで、今日はどんなようできたんだい?」
「自分より強いプレイヤーが近くにいて、しかも、NWOに関するものに所属しているんだ。気になるのは当然だろう」
それもそうだ。
まあ、デュリオの場合、レポートにおわれてそんな場合ではないのだが。
「まあそれなら、場所を変えよう」
「俺もいきなり、部屋にいこうとは思わないしな。反論はない」
「来てもいいけど殺風景だけどね」
「それはこちらも同じだ」
ちなみに、すでにレポートを仕上げていたデュリオである。
どんな歯車が回り始めるのか、そんなことを考えながらも、ふと思う。
ゼツヤは、『実力主義』と言うものを、どういうものだと認識しているのだろうかと。
別に返答がほしいわけではない。デュリオ自信は、『なにかを成し続けることに意味がある』ということだと思っている。
ふと、思っただけだ。
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夏希は校舎内を歩いていた。
あれからブリュゲールによる占領も終了し、レジェンドボックスの横暴なことも格段に少なくなったことから、リレイズの穴蔵に鍛冶プレイヤーが戻ってきた。ゼツヤからもらった資料のこともあり、今はかなり繁盛している。
「なんか、あっという間だった感じがする」
何故か、一年二組の教室のそばにいた。
「ふう、今日の宿題は終わった」
教室から竜一が出てきた。
「ん?夏希さんか」
「あ、うん」
まあ、特に何かを話すような仲でもない。竜一は普通に夏希の横を通過していった。
補足するが、NWOというのは、数あるゲームの中でもっとも珍しく、『リアルの身長が大きくなれば、アバターも大きくなる』という、リアルの身長を反映するシステムがある。
夏希は、自らの横を通過していった竜一の背に、なにか懐かしいものを感じていた。
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「しかし、この作戦が失敗するとはな」
「申し訳ありません。ダマスカス様」
「構わぬ」
レイシャが頭を下げるのを見て、ダマスカスは止めた。
今回の作戦は完璧の近いものだとダマスカス自信は思っていた。
そもそもブリュゲールを強化していた理由のひとつに、戦力の計測がある。
前回の侵攻により、トップクラスのものたちの戦力はある程度判明したのだが、一般的なものたちの情報がほしかったのだ。
そこで、情報収集で紛れ込ませていたグレイアからある計画を進めていることを聞き、ダマスカスは、近いうちにそのギルドにたいする反乱が発生するだろうとして、計画を進めさせていた。続けることができそうであればそのまま戦力計測のために続行する予定だったが、今回はもう終了である。
「だが、戦力計測の方はある程度順調だ。一応、十分だろう」
ダマスカスは意図した失敗以外は基本的に許す方針である。というか、『ロスト・エンド』はダマスカスがトップであるが、8代目のトップなのだ。新入り時代にボロカスだったとき、理不尽をいっては部下は本当の意味で付いてこない。ということをよく知っているため、こういう方針である。
ダマスカスは笑う。何もかも予測不可能な世界。それを発見できたのだから。
そして、現段階の最終目的は『オラシオンの従業員』から、生産情報を盗むことだ。すでに取得している『オラシオンシリーズ』は、イデアに持ち帰って使用してみたが、圧倒的な戦力を発揮してくれた。
「今の、この世界にたいする最終目的は覚えているか?」
「勿論であります。オラシオンの従業員からの情報入手でしょう。あの性能はすさまじいですからな」
発見は難しいだろう。この世界に多数のラシェスタを投入し情報を集めさせているが、いまだに発見できていないのだ。まあ、ダマスカスは気が長いので、ゆっくりするつもりである。
ダマスカスはモニターを一別したあと、部屋を出ていった。
その顔には、ある種の、探求者としての笑みが浮かんでいた。
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なにかが終わる度に、またなにかの歯車が動き出す。
原因は色々あるのだろう。歯車は、誰もが無意識に嵌め込むのだから。
だが、ひとつだけ言えることはある。
世間が狭い。それだけのことだ。
変な終わり方だと自分でも思う。文才ありませんからね。いや本当に。




