真の目的
大勢のプレイヤーがストレスをためているなか、ブリュゲールはというと、
「レイクの収集は順調だな」
ヘリオスは報告書を見て満足そうな笑みを浮かべた。
「すべてお前のいった通りだったな。クセル」
「そうですな。私自身、ここまでうまくいくとは思っておりませんでした」
答えたのは老人だった。だがその容姿は、ダマスカスと共にいたグレイアにとてもよく似ている。
と言うより、本人なのだ。あれからロスト・エンドは、自分がこの世界ではどういったたち位置なのかを独力で発見したのである。
そして、この世界での潜伏、および情報収集のため、ブリュゲールに来たのだ。ダマスカスに次ぐ知識人なので、任せやすいのである。ある程度なら自由に行動してもいいということも言われているので、協力(?)しているだけなのだ。無論。ブリュゲールが強くなれば、潜伏している身としてはメリットもデメリットもあるので、その辺りの調整は必要なのだが。
無論。ヘリオスがそれを知るはずもないので、いい傀儡である。
「ところでヘリオス様。目標金額はどれ程のものなので?」
「上限などない。オラシオンシリーズを手に入れるには、目標金額など考えていたらきりがないからな」
こういうことを言うから、情報が広まるのである。
「もうひとつの金策でも、順調のようですな」
そう、彼らは、金策をもうひとつしている。
そちらはレイシャの方が担当しているのだが、まあ、簡単に言うなら洗脳系である。
まず、イデアにあったジュースの中で、それなりにうまく、さらに『魅了(隠し状態異常)』を付け加え、あるギルド全員、さらに、入団したもの全員に飲ませる。
そうして飲ませたあと、『ギルドへの納金額が多い順に十名。その日に飲ませてあげる』ということを言う。
そうすることで、ギルドには金がたまる。しかも、隠し状態異常なので、滅多なことでは気づかれない。
要は、のみたいと思う欲望を利用したものである。
無論、アイテムを扱う商人にとっては迷惑千万だが。
「ことはうまく進んでいる。まあ新しい案があればいってくれ。可能なら採用しよう」
「じつは、もうひとつ案がありまして」
「何だ?」
「端的に申し上げますと、装備以外を充実させることですな」
ブリュゲールの強さの根本にあるのは『継続力』だ。だが、爆発的な火力を所持しているわけではない。
では、どうするのか。
「手順としては、魔法使いを育成するべきですな」
「どう言うことだ?」
「マジカルスクロールのためですな。ランクが高ければその分、戦力的に有利になりますゆえ」
マジカルスクロールは製作手順が少々めんどくさいが、なれれば機械的にできる。
そして、魔法使いの育成には、かなりの魔法を消費し続けることを可能にするためのMPポーションが大量に必要である。だが、ブリュゲールはそれを突破できる。質ではなく、数で突破可能な分類だからだ。
あと、これはあまり知られていないが、課金アイテムでもトップに君臨する金額のアイテムには、スキル熟練度の上昇速度をあげることができるものがある。無論。消費アイテムだが。
マジカルメリーの飼育や、刈り取る作業が必要になるが、魔法使いを育成している時間で十分に採取可能だろう。
マジカルストーンは、ブリュゲールが占拠状態にある。
マジカルスクロールの占拠はこの伏線。
マジカルメリーの育成、及び刈り取りは、レイシャに任せていたプレイヤーたちを利用すればいい。マジカルメリーの毛皮の採取は課金アイテムでどうにかできることをヘリオス自身がすでに知っている。
問題はマジカルメリーの個体の強さと、育成のためには、フィールドでモンスターを集め、他のモンスターが出るなか作業を行わなければ行けないわけだが、弱いモンスターしか出ない初期フィールドにつれていくことができれば勝手に羊たちがモンスターを倒すだろう。さらに、金額を優先させてきてはいたものの、実質、うまく稼ぐには強くなる必要があるため、必然的にレベルは上がっている。
これによって、マジカルメリーの飼育、刈り取りに必要な最低限のステータスを確保させることに成功している。
プレイヤーの操作に関しては、ジュースにたどり着くための方法を、マジカルメリーの収集、育成、刈り取りに当てればいい。
よって今現在、協力なマジカルスクロールを量産するすべての準備が整っているのだ。確かに、魔法使いの育成んは時間はかかるが、それも時間の問題である。
しかも、商人のなかでは困っているものもいるみたいだが、それは単にひとつのギルドが競いあっているとしか思われず、しかも、ブリュゲールがマジカルストーンを占拠しているという事実が大きすぎて、それ事態は表沙汰にならない。
実際に、プレイヤーたちの不満が、ブリュゲールのマジカルストーンの占拠に集中し、レイシャに任せていたギルド『プロミネンスドミニオン』通称『PD』がほとんど話題に出てきていないのも事実で、それはすでにヘリオス自信も確認している。
そして、洗脳によってPDの強さは本物になっており、戦力の隠蔽に成功しているため、いざというときのための即戦力として利用可能である。
「素晴らしいぞ!クセル!」
「光栄です。ヘリオス様」
確かに、計画事態は素晴らしいといっていいだろう。
『誰も疑問に思っていない事情』を、わざと『一般的に知られている事情』に混ぜることで、『強力な戦力の量産』を成し遂げているのである。
しかも、この方法であるなら、ひとつの原因を突き止めることは可能だが、もうひとつの原因の突き止めるのは困難だ。
ひとつがはっきりとしており、それを前提とした考え方になるため、情報が混乱しやすくなるのである。
強力なマジカルスクロールを大量に用意できることのメリットはすごく大きいのはわかりきっている。
ひとつ問題があるなら、この計画が予測され、マジカルメリーの収集を邪魔されることくらいだが、一般認識としてブリュゲールと大きな繋がりを持っているギルドがレジェンドボックスのため、マジカルスクロールの作成ではなく、魔法武器の作成に重点をおいていると思われるのだ。
さらに言うなら時間稼ぎが必要だが、不満の集中している部分がマジカルストーンなので、一時的に値下げをしたりして、戦力が集まるまで(魔法使いが育つまで)の時間でいいし、PDは、『火属性』が中心ではあるものの、ランク10に届きそうなメンバーもちらほらいるように思う。欲望の力だ。
物事の推測するときに必要なのは『柔軟性』だが、『前提』が大きすぎると、どうしても頭から離れないのである。
前提操作。これが最も重要なのである。
さらに言うなら、レイフォスとゼノンが最後のマジカルストーン産出地帯を知っていたと言う情報もすでにあるが、人数なしでできることは限られているのも事実である。気にするほどではない。
さらに言うなら、オラシオンシリーズの独占よりも、こちらの方が優先順位は高い。
襲撃イベントの際に三幹部がいったことだが、オラシオンシリーズがあるよりも、数で圧倒的な戦力を誇る方が有利なのは身に染みている。さらに、数にたいして魔法が有効なのは、その後のシャリオのあばれっぷりを見れば一目瞭然なのだ。
「これはいい。これはいいぞ。順調だ。今までにないほど戦力の強化が進んでいる」
まだこちらのことを知りはじめて間もないグレイアがここまで考えることができることもかなり異常だが、そんなことはヘリオスが知るはずもない。
ヘリオスの顔に。嗜虐的な笑みが浮かんだ。
ふう。疲れた。考えるの。




