以外と考えられていた金策
ミシェルはゼツヤの道案内をしていた。
「あの、ゼツヤさん」
「なんだ?」
「さっきのことですけど、あそこまで言う必要なんてなかったと思うんですけど」
「それは俺が決めることだよ。それに、あの三人まだまだ甘い」
それはまあ確かにそうかもしれないが。
「ゼツヤさんは、『リレイズの穴蔵』からメンバーが抜けていったのには、どんな原因があると思いますか?」
「引き抜きが強制であるにせよないにせよ、実力が及ばなかったリレイズが悪い。自分のことを決めることができるのは、NWOであるなら自分だけだ。留まらせる何かがなかったのなら、引き抜かれた方が悪い。少なくとも、黎明期はそうだったよ。俺がNWOを始めたのは十年前だけど、あのときの生産職の奪い合いは凄まじかった」
さらに言うなら、黎明期はプレイヤー全体のレベルも低く、解禁されていたエリアも漠然と広いものでは無かったので、強者となるためには高性能の装備が必要。手に入るレアドロップでもそう強いものではなかったため、特にスミスプレイヤーの雇用金額をとんでもない数字にするところもあったそうだ。
「さらに言うなら、スミスって言うのは完全に実力主義だ。デザインを優先させるならともかく、性能で勝負しようと思ったら生半可な覚悟では生き抜けないよ。まぁ、そう言う部分では、リレイズの生産方法はいいと思うけどな」
自分のことではないが、父親が誉められているのは悪い気分ではない。
「それと、言い過ぎと言うことだけを言いたいわけではないだろう」
「まあそれもそうですけどね。レジェンドボックスにあそこまで言うってことは、間接的にブリュゲールにたいして暴言をはいて言うようなものですから、その辺りが心配です」
「俺の強さは知っているだろう。と言うより、調べたはずだぞ?」
そこまで見透かされていたのか。
「はい、年末のデュエルカップ三位。凄いですよね」
「まあ、簡単ではないな。うん」
そこからはほとんど雑談だった。
今日はその場で別れた。
次の日。
「ゼツヤさんかぁ」
またなんか考えていた。
で、『NWO研究会』の扉を開けた。
「ん?あ、夏希ちゃん。NWOやってたの?」
クラスのアイドル(謎)の三浦冬香がいた。ネットで確認したが、副会長らしい。
「あ、うん。裁縫プレイヤーなんだ。最近は鍛冶にも興味があるけど」
「リトルブレイブスはまだ工房と繋がりがないからね。工房の名前は?」
「『リレイズの穴蔵』っているんだよ。お父さんがやってるんだ」
「親子揃ってなんて珍しいね」
「たまに言われる」
まあ、そう言うものだろう。
「もうちょっとでデュリオ君が来ると思うから、もうちょっと待ってくれないかな?」
「いや、いまきたよ。ん?ああ、成る程」
入ってくるなりデュリオは悟ったようである。
「で、今度は何があったの?」
「あ、はい。それはですね」
夏希は昨日のことを話した。
で、デュリオは頭を抱えていた。
「あの、どうかしましたか?」
「何でもない訳じゃないけど今はいいとさせてくれ」
デュリオが頭を抱えている理由は二つある。
一つは、レジェンドボックスの横暴な現実。もう一つは、マジカルストーンの入手情報が大幅に少なくなっていることだ。
ゼツヤに関しては、性格を知っているので問題ない。むしろ、そのくらいのことは想定内だ。
あと、少々分かりにくいが、ひとつの目的があるようにも思える。
横暴なのはどう対処するのかがかなり問題である。
レジェンドボックス。いや、その後ろにいるブリュゲールは決して弱いギルドではない。総合的な評価で言うなら、確実にリトルブレイブスを上回っている。ちなみに、バスターとしての自分が負けるという意味ではない。
まず何よりも、数が多い。
集団戦闘において数が多いのは、その差から発生する油断を除けば、多い方が有利なのは目に見えている。
仮にリトルブレイブスとブリュゲールが全面戦争を行った場合。最終的に勝つのはこちらだろうが、戦場にバスター以外に誰もたっていない状況もあり得るのだ。ギルマス同士の一騎討ちならどちらが勝つのかは明白だがそれはこの際考えないようにする。
実質、数が多いことそれそのものが問題なのではなく、多い人数全員に、無視できない程度の性能の武器が配給されているのだ。これが厄介なのである。
リアルマネーのちからが大きいのはデュリオも認めるしかないし、まあデュリオにも可能だがするきは毛頭ないのでそれはそれで仕方がないのだが、とにかく、ブリュゲールは弱くはないのだ。襲撃イベントの際にひどい結果になったのは、単に向こうの戦力が、一体一体が強力だったためである。
元々その辺りはめんどくさい連中だった。ギルド結成は約一年前だが、ブリュゲールという名の集団があったのは、実は三年も前である。まあ、あの頃から回りの状況に疎いギルドだったが。
その点に結論に関しているなら、首を突っ込むべきではない。
そして二つ目。これはかなり厄介なのである。
マジカルストーンの需要というのは、リアルにおけるレアメタルの様なものなのだ。圧倒的に多い。
魔法武器をうまく作り出すための錬金素材。粉上にすることで様々なギミックを産み出すことができる。さらに、何かしらの効果を持ったマジックアイテム(ゼツヤが店で使った眼鏡やかご)を産み出す際にも必要であり、さらに、今まで説明していなかったが、マジカルスクロールや、ハイレベルなポーションの作成にも必要なのである。
圧倒的に需要があるのだが、今まではちょっと装備を整えれば簡単に入手できることが普通だった物である。それが、店でしか買えなくなったというのはあまりにも理不尽だ。
あと、これは確信しているが、レジェンドボックスが手に入れるほとんどのレイクの管理をしているのはブリュゲールだろう。
これによって発生することは多い。
まず、レイクを用意しなければ得るのがめんどくさくなったと言うことは、必然的にブリュゲールのレイク増加に繋がる。
二つ目。供給量が実質減少することで、マジカルストーンを使用する生産が行いにくくなる。生産される全体数は少なくなるだろう。さらに言うなら、マジカルスクロールを生産。販売することを生業としていたプレイヤーには大きな打撃である。
三つ目。そうした一工夫された製品が減り、ブリュゲールに増加することで、漠然とではないが、戦力がちょっとだけ傾くことになる。
四つ目。他のプレイヤーの攻略速度がやや減少。それによって、狩り場の独占にてこずっていたポイントで長時間行いやすくなる。
と言ったように、ただ強引に思えるものだが、それによって発生することは多い。
そして、この状態が続けば、ある状態が生まれる。
圧倒的な需要を誇るマジカルストーンは多少値上げしても買う人は多いだろう。
そこから生まれるのは、圧倒的なまでの『所持レイクの差』である。
所持レイクで大きく上回ることができれば『オークションで出されるオラシオンシリーズの独占』に繋がると言うことなのだ。
正直な感想を言うなら、頭がいいというより、こざかしい金策である。
「いつの時代もめんどくさいな。ブリュゲールは」
「そうですね」
冬香が反応しているが、たぶん考えていることは違うだろう。
「さて、どうする?ゼツヤ」
リトルブレイブスとリレイズの穴蔵のこれからの関係について色々考えながら、デュリオは窓の外を見た。
生産において、すべてマジカルストーンが必要なわけではない。
だが、全く使わないというのは、それはある意味では無謀なのである。
占領しようと思うことは、NWOでは珍しくはない。
実行しようと思えばできる連中も、知らないだけでいてもおかしくはない。
だが、それと同時に、敵に回してはいけない存在がいるのも事実だ。
準決勝で戦った青とアイボリーの少年。
あのときも戦いは、辛くも自分が勝利を納めた。
だが、それと同時に、
相手が、本気などほとんど出していないことを、バスターだけが知っている。
この伏線は大きすぎますかね。まあ、回収はかなり先になると思いますが。




