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ネイバーワールド・オンライン  作者: レルクス
実力主義の意味
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格の差

 ゼツヤがリレイズの穴蔵を訪れた次の日。


 リレイズの娘。『ミシェル』こと『琴宮夏希』は、高校でずっとゼツヤというプレイヤーについて考えていた。


 昨日リレイズが受け取った作成の情報。それらはすべて、閃光石を素材としたものでありながら、リレイズが製作するものを大きく上回る性能を持っていたのだ。


 夏希はNWOを初めて半年の初心者で、裁縫プレイヤーだ。


 まあそれはいいとして、NWO歴七年のリレイズを大きく上回る情報を、良い話ができたからといって渡されたのは、カテゴリは違うが、圧倒的な実力を見せつけられた気分だった。


 しかも、『情報の10や20、盗まれたところで問題ない』というせりふ。普通なら考えられなかった。何度も言うが、情報の管理は生産職にとってはもっとも重要なのである。


「いったい何者?」


 夏希は考えてもわからなかった。


 校舎内を歩いていると、『NWO同好会』の看板が見えた。

 この名前なら、大概の学校にあるとまで言われているらしい。


 夏希がたまに『日本人のプレイ人数が1500万人という情報が嘘なのではないか』と思う原因のひとつである。


「ふう、激務は終了した」


 金髪で青い目の外国人の男子生徒が出てきた。留学してきたクラスメイトである。


「ん?確か、琴宮夏希さんだったかな?」


 よく覚えているものだ。夏希はクラスでは空気なのに。


「あ、うん」


 デュリオ君なら知っているだろうか?


「あの、デュリオさんって、『ゼツヤ』って言うプレイヤーって、知っていますか?」


 デュリオは数秒間硬直したあと、口を開いた。


「何かあったいのかい?」


 行きなり値踏みするかのような視線を混ぜてきた。普通なら気づかれない程度にである。


 技術がなんなのかは話さず、昨日あったことを話した。


「戦闘職ではなく、さらにまだプレイ歴が浅いなら知るはずもないか」


 知っているようである。


「ゼツヤはね。トッププレイヤーの一人だよ。年末のデュエルカップの順位を見てごらん」


 見た。


「さ、3位?」

「そうだ。れっきとしたばけものだよ」


 本人がいれば『お前が言うか!』と叫ばれたことだろう。今はいないが。


 しかし、そこまでのプレイヤーが、なぜあんなところに。

 聞いてみると、


「まあ、気まぐれだろうね」


 と返された。


 しかし、


「ここまですごいのに、戦闘もできるんですか?」

「紛れもなくできるよ。まあ、それでも作るものはすごいんだけどね」


 それでも、ためしに作り上げたものの性能を聞いた感じ、デュリオはそこまで飛び抜けたものは教えていないと思う。


 聞いたものの性能では、『オラシオンシリーズ』は語れない。


「何か異常ですね」

「激しく同意するよ」

「前から思っていたけど、日本語うまいよね」

「VR技術が一番進んでいるのは日本だから、できた方が就職には困らないんだよ。まあ、そんなことは良いんだけどね」


 そりゃそうである。


「彼に生産で勝とうとは思わないことだね。最高傑作を見たらプライド粉砕するよ」


 どこまですごいんだ?ゼツヤって。


 まあ、黎明期なんて、ひとつ生産したものを出す度に伝説を産み出すようなやつである。そもそもだが。


「話を聞いてくれてありがとう」

「どうも、あと、友好的な関係は築いて損はないよ」

「それは言われなくても十分にわかった」


 デュリオと別れ、自室でログインする。


 陳列だながある部屋にはゼツヤがいた。


 何でいるの?


「何してるの?」

「ああ、実は、『マジカルストーン』を探していたんだ。数がとれる産出地帯をブリュゲールに占拠されてしまっているんで、それが理由で昨日はバスタードマーケットにいたんだけど、全く見つからなくてね、ここら一体に友達いないし、ここに来てみたって感じだ」


 ようはしっていたら教えてくれ。と言うことである。


「私、マジカルストーンを専門で扱っている店知っています」

「是非とも教えてほしい。ちょっと今在庫がピンチなんだよ」

「というか、なんで必要なんですか?」

「ありゃ?知らないか。錬金スキルをつかって、鉱石やインゴットとあわせると魔法効果が発生しやすくなるんだ」


 覚えておこう。


「ちょっとお父さんに出ても大丈夫か聞いてきます」


 開店休業みたいなものなので大丈夫だと思っていたが、案の上大丈夫だった。。


 建物が並ぶ商店街のような場所を歩いていく。


「あそこです」

「うん。普通だ。通りかかっただけじゃ普通にわからんな」


 そう言うものだ。


 中に入ると、いくつもの箱が並んでいた。

 一瞬見ただけでは、ただの倉庫である。


「いらっしゃいませ」


 値踏みするかのような視線で店員が挨拶をして来た。


「マジカルストーンを買いに来たんだが、そちらのはこの中にあるのか?」

「はい。お客様は『レジェンドボックス』の方ですかな?そうであるならば、価格を少々安くできるのですが」


 こんな店にまでブリュゲールの魔の手があったか、まあ、産出地帯を占拠しているのだから、ある意味当然だが。


 ただ、この店員の言い分から察するに、まずブリュゲールがマジカルストーンを集め、この店に売り払う。その後、レジェンドボックスが買い取る。といった順序のようである。なぜ直接渡さないのかは少々疑問だが、それはミシェルが考えることではない。


「いや、全く関係ないよ」


 ゼツヤは普通に答えている。


「分かりました。それでは、お好きなものをお選びください」


 ゼツヤは箱に向かって歩いていった。


 ミシェルも中を見るが、特にこれといった違いは、大きさ以外にあるとは思えない。

 鑑定スキルがあればわかるかもしれないが、スキルスロットが空いていないので取得していないのだ。


「あの、どうやって見分けるんですか?ってなんですかその眼鏡」


 ゼツヤはいつのまにか銀縁眼鏡をしていた。


「『アナライザーアクセサー』と言うものだ。目を基準にして、視界に入っている一メートルいないのすべてのアイテムを一発で鑑定して表示できる。因みに、今の俺の視界はほぼウィンドウで埋め尽くされている」

「そんなものがあるんですね。あと、大丈夫なんですか?」

「これは自作だ。あと、なれているから問題ない」


 まあ、眼鏡の正体がわかったところで、ミシェルにわかるわけではない。

 うずうずしていたのがわかったのだろう。ゼツヤが口を開いた。


「掛けてみるか?この眼鏡」

「良いんですか?」

「減るもんでもないし、ちょっと貸すくらいなら問題ない」

「私、鑑定スキルを持っていないんですけど」

「眼鏡が鑑定スキルの熟練度700を再現しているから問題ない。というか、そもそもこの眼鏡は、自分の鑑定スキルが反映されない」


 要するに、自分がマスターしていても、眼鏡の効果で見るのなら熟練度は700で表示されると言うことだ。

 って700!?


「スゴくないですか?それ」

「それはいいとして、見たらどうだ」

「あ、はい」


 ゼツヤから眼鏡を受けとる。かけた瞬間。ゼツヤの普段着の詳細が表示された。


「渡したあとで言うのもなんだが、あまり人は見ない方がいいぞ」

「あ、すみません」


 箱を見た。


 よってもおかしくはない数のウィンドウ表示された。

 だが、どのウィンドウがどれを表示しているのか、それはきっちりとカーソルで示されている。

 なれれば確かに問題なかった。


 一見すると変わらないように見えるマジカルストーンも、ランク別けされているようで、1から5まである。

 ちなみに、ランクに関しては、熟練度550を越えていなければ見えず、重さは700が必要らしい。それ以外なら、マジカルストーンそのものとしての説明だけである。それだけ、マジカルストーンというアイテムそのものが微レアなのだ。


「これは便利ですね」

「というか、とんでもない数の中から目当てのものを見つける作業なんて、これなしだとやってられないしな。真面目な話」


 それはミシェルも納得できる。


「これなしだとどうなるんですか?」

「一個ずつ鑑定するしかないだろ」


 かなり長い沈黙が訪れた。


「あと、もういいか?俺選びたいんだけど」

「あ、はい」


 ゼツヤに返した。


 ただ、あることが疑問だったので、小声で聞いてみた。


「あの、今さらなんですけど、店員がガン見してる前でこんな貴重な眼鏡の効果をいっても大丈夫だったんですか?」


 だが、ゼツヤは普通の声量で話す。


「問題ないよ。あと、そこの店員。推測だけど『聞き耳』スキルを持っているから、小声で言おうと普通にはなそうと全部聞こえてるよ。そもそもだが、店員って言うのは相手が小声でいっていることにもちゃんと反応してオーダーに答えるのが基本中の基本だ」


 店員を見ると苦笑している。


「でも、それって変な目で見られたりしませんか?普通」

「ミシェルみたいに話さなければ問題ない話だ」


 反論できない。


 そうしている間に、何個か選んでいた。

 数的にもうそろそろだと思ったとき、別の客が来た。


「おやじ、マジカルストーンを見せてくれ」

「これはこれは、いつもありがとうございます」


 どうやらレジェンドボックスのメンバーにようだ。

 となりをみると、ゼツヤはすでに選び終わっていた。すでにかごには大量のマジカルストーンがあった。

 ちなみに、眼鏡はすでに片付けている。


 いくつか疑問があった。


「あの、そのかごってどこから出したんですか?あと、そんなに入れて重くないんですか?あと所持金足りているのかどうか不安なんですけど」

「質問多いな。普通にウィンドウから出した。このかごは俺の自作で、これに入っているすべてのアイテムは重量が設定上0になる。で、そもそも払える自信がないなら来ないし、足りなさそうだったら途中で帰ってるよ。まあ、足りないなんてことにはならないと自分でわかりきっているのも事実だが」

「何て言うか、リアルで主婦が喜びそうなものばかり持っていますね」

「いってほしくなかったな。否定できないし。あ、これよろしく」


 ゼツヤがかごを店員に渡した。

 店員はゼツヤの言い分は半信半疑のようだったが、かごを受け取った瞬間に納得したようだ。

 ものすごい量のマジカルストーンが入っているかごを軽々と運び、カウンターにおこうとした。


「ちょっと待ってくれ。この箱にはもうランク3以上の物がないじゃないか!」

「そのかごには多くのレア物があるんだろう。我々が買い取る!おやじ、幾らだ」

「やれやれ、予測していなかったわけではないんだがな」


 ゼツヤもげんなりしている。当然だ。


「お前が買おうとしているものを、見せてもらってもいいだろうか」


 メンバーのうち一人がゼツヤに聞いた。

 ゼツヤが首をたてに降ると、メンバーが次々と鑑定していく。


「貴様はスミスか?」

「まあ、そうだな。それもやってる」


 この店に入ってから二つの自作のマジックアイテムを出している。そして、眼鏡をいちどかけせてもらったときに、ゼツヤの普段着が自作であることもミシェルは理解している。確かに、専門というのかどうか不明である。いっそのこと、オールラウンダーだと言われても疑問に思わないだろう。


「レジェンドボックスではないし、その娘をつれているところを見ると、『リレイズの穴蔵』の新しいプレイヤーか?」

「いや、俺はソロだよ。友人がいない訳じゃないけどな。リレイズの穴蔵は、ちょっと興味がわいたから昨日今日と立ち寄って入るんだけどな。まあ、流れの職人だと思ってくれ」


 リーダー(多分)は、少々考えたあとにいった。


「それなら、『レジェンドボックス』に来る気はないか?腕相応の待遇はするが」


 実力はどうあれ、多くのスミスを囲いたいのはどこも同じだ。


「遠慮するよ。流れの方があってる」


 ゼツヤは料金を払って受け取りながら答える。

 横から掠め取ろうとした二人は納得いかない感じだった。

 ミシェルからすれば、年末のデュエルカップ三位のゼツヤに勝てるとは思えないのだが、それは言わない方がいいだろう。壁にではなく、目の前に耳があるのだから。


「ふん。たいした実力もないから。流れなどやっているんだろう」

「リレイズの穴蔵なら、情報を盗まれることも無いだろうしな。いや、それとも盗む気ではいったんじゃないのか?」


 この言い分にはミシェルも黙っていられない。

 技術を盗まれる?ゼツヤからは良い話ができたという理由で情報をたくさんもらったのだ。欲を言えばもっとほしいと思う部分もあるのも、現段階でゼツヤの方が知識も経験も上だとわかりきっているので否定はしないが、それでも、いまで十分なほどすでにもらっているのだ。

 情報の盗む?ゼツヤは自らの経験から解明したのだ。まだ不完全であるだろうが、理不尽に得ようとするのとは訳が違う。

 口を開こうとしたとき、ゼツヤがいった。


「問題ないだろう」

「何?」


 全員の視線がゼツヤに集まる。

 そして、リレイズの穴蔵でもいった、あの言葉を口にする。


「情報や技術の10や20。盗まれたところでなんの問題がある」

「!!!!!」


 その言葉は、あのときよりも、深みが増していた。


「そんなことでは、『レジェンドボックス』も大したことはないな」


 店を出ていいこうとするので、ミシェルは慌てて追いかけた。


「おい待て!」


 男たちが叫んだ。


「そこまでいうんならみせてもらおうじゃないか!」

「そうだ!貴様の製作を見せてもらおう!」


 知識や技術はどんなものであっても、完全に役に立たないと言うことはあり得ない。

 得ようとする気持ちは、ミシェルにもわかる。


「バカだな。俺は盗まれてもっていったはずだぞ?教えるなんて一言もいってない。ま、盗むにしても、俺はリレイズの穴蔵で作業することはないし、見る機会なんてないだろうけどな」


 そう言って、ウィンドウを操作して片手剣を出すと、男たちのところに放った。

 男たちは鑑定すると、全員が驚愕した。


「格の差を知った方がいいぞ」


 ゼツヤは堂々と歩き出した。


 角を曲がった瞬間に道案内さえ頼まなければ、本当にかっこよかったのは一応いっておく。

まだ慣れない。

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