NWO最強
さて、一方をゼツヤに任せたレイフォスである。
「やあ、初めまして、異世界人さん。ちょっとどういうことなのか教えてほしいんだけど……」
かなり友好的に話しかける。レイフォスはいつもこんな感じだ。初対面でも。
「まあ、それに答えてくれそうな連中じゃないか。なんか、情報収集を優先しているように見えるけど」
NPC2人(理由は不明だが両方魔法使い)がピクッと反応した。
「あたりみたいだな。それと、たぶんさっきからあんたらの連れが負けていると思うけど、俺はそいつら全員より強いからな?最初から本気になった方がいいぜ」
大太刀を構える。
いきなり石の巨人を出してきた。2体。
「それが今のところの、『あんたたちに使用できる』最高戦力って訳か。まあいいさ。来ないんならこっちから行くぞ」
レイフォスは突撃する。
石の巨人も拳を振りかぶるが、いかんせん遅い。
レイフォスには、そんな拳は届かない。
いや、言いなおそう。そんな拳は切り落とされる。
レイフォスの大太刀は、巨人の右腕を斬り落とした。
「こんなもんか。ずいぶんともろいんだな」
そもそも、この大太刀で切れなかったら逆にすごいのだがな。なにせ、設定上のATK値は歴代最高の数値である。
巨人が今度は左腕を振りかぶった。
「学習能力がないのかね?」
来るかと思った拳は途中で止まる。フェイントだ。もう一体が仕掛けてくる。
だが、レイフォス相手ではそれは悪手だ。
途中で止まった拳を斬り落とし、その勢いのまま、もう一体の両方の拳を斬り落とす。
「今度は腕ごといくか?」
魔法使い2人に向かって大太刀を向ける。
2人は火属性魔法。それも連射型を使用した。
だが……レイフォスは振り切ることはしない。常人なら、一発迎撃してから次に入るまでタイムラグがあるのだが、そんなものはレイフォスにはない。
文字通り、全て切り落とした。
「さて、もういいか」
太刀を下段に構える。太刀がエフェクトで包まれた。
「『新月』」
次の瞬間。2体の巨人は、両断されていた。
それも、常人なら反応不可能な速度で。
「お、驚愕しているみたいだな。勉強が足りないぞ。まあ、あんたたちが俺達の世界に来たのは初めてなんだろうがな」
アクションスキルはすべてプレイヤーが作成するものであり、作成せずに得ようとすれば、誰かからコピーデータをもらうしかない。それが、NWOにおける『技』と言うものだ。
だが、いろいろ利用法はあるのだ。
仮に、AGI優先で育てていたプレイヤーが、『A』と言うアクションスキルを作成したとしよう。無論。この『A』は、速度優先のアクションスキルだ。
そしてそのデータを、STR優先で育てていたプレイヤーに譲渡したとする。
そうした場合、速度はそのままで、筋力パラメータのみ変更されたアクションスキルが使用できるのだ。
だが、そもそも受け取るためにはその武器カテゴリである必要があり、受け取るアクションスキル。レイフォスの場合大太刀なので、最低でも『太刀』のアクションスキルを誰かが生み出さなければならない。
圧倒的な速度がほしいのであれば、確かにユフィに作成してもらうのが一番いい。だが、ユフィは短剣だ。武器の熟練度が100になれば技は作成可能だが、慣れない武器でやろうとすると、かなりの時間が必要になる。それはある意味当然のことだ。
散々頼んでユフィに刀スキルの上位スキル『太刀』を取得してもらい、さらに刀スキルを消去して、再度速度系のスキルを取得してもらってマスターして、この技『新月』を作成。すぐにレイフォスに譲渡して、ユフィは太刀スキルを消去したのだ。
普通ならこんなことはしない。なぜなら、万全のユフィにやってもらうとすると、その時のユフィのレベルは100だ。もちろん。スキルスロットはすべて埋まっている訳で、刀スキルを得るためにまず一つスキルを消去し、その後、太刀スキルを得るためにもう一つ消去。刀スキルを消去したが、再度速度上昇系スキルをとってもらってマスターしてもらう。そこまでできる仲間なんてそうそういない。スキルと言うのは、プレイヤーとしての自分の形であり、重要な要素だ。よほどのことが無ければ、普通なら消すこと自体あり得ないのである。
ちなみに、こんな過去があるので、レイフォスはユフィに言い負かされるときが多い。ただし、ユフィが『新月』を渡してしまったので、レイフォスの化け物度が増したのも事実なのだが。
「俺のこの技は、何よりも早いぜ」
攻撃力においては『エンプティ・ダイアログ』にはかなわないのだがな。なんでなのか本人にもいまいちわからないらしい。
次の瞬間。2人が転移エフェクトに包まれた。
「帰還か……?」
空間が裂けた。
「新手か……」
こちらに来たのは一人だったが、その雰囲気は、先ほどのNPCとは全く違うものだった。
「ん?俺の相手は、双剣使いと大剣使いのはずだったが……変更されたみたいだな」
普通の声だ。だが、やたら好戦的な雰囲気がある。
全身にフードを羽織っているのでよくわからないが、背に背負っている長剣はかなりの業物のようだ……まあ、『オラシオンシリーズ』に劣っているように思えるが。
「で、お前が俺の相手か?」
NPCが聞いて来る。
「ああ、そうだと思うぞ?」
「そうか、最近強いやつとバトっていなくてな。楽しませてくれよ?」
さて、今の言葉からどれほどのことが推測できるのか。
まず、このNPCの当初の相手は、ゼノンとバスターだったと思われる。急遽こちらに変更されたようだが、まあその理由は今は置いておこう。
次に、『最近強いやつらとバトっていなかった』と言う言葉。文字通りなら、『今までどこかで戦っていた』と言うことになる。
やはり、別の世界のNPCか。だが、においとでもいうのか。その部分はNWOに似ている。おそらく。戦闘におけるパラメータに関しては、NWOと全く同じものが使われているのだろう。
「んじゃ、いくぜ!」
NPCが長剣を構えて突っ込んでくる。
「NPCの動きじゃないな。まあ、いいんだがな」
はじいたついでに一発入れる。
「うおっ!な……何だ今の動きは……」
「ちょっとそれは言えないな」
「まあそうだろうな。しかし妙なもんだな。斬撃の軌道が途中でまがったようにしか見えん。それがお前の技術って訳か」
「ま、それに関しては反論できないな」
「おもしれえな」
再度突っ込んでくる。
ただ、やや振りが遅い。ひょっとして……。
振り下ろされた長剣は、途中でわずかに角度を変えた。ただ……ものすごく人工的な雰囲気があった(レイフォスのパターンチェンジだって人工的だが)。
当然。見よう見まねでできるわけがない。はじいて、斬る。
「げっ……こりゃ思った以上に難しいな」
「簡単にできると思っていたのか?」
そうだったらそれはそれで心外である。
「それは思っていなかったがな。しかし、お前強いな」
「この世界では一番強いからな」
「そりゃ光栄だな。しかし、いいのか?そんなに情報を言いまくってよ」
「お前もそうだが、お互いに名乗っていないだろう。お相子だ」
「はっ!まあいいぜ。たのしもうじゃねえか!」
NPCが最後向かって来た。
そもそもだが、何故レイフォスのパターンチェンジに勝つことができないのか。
理由はいろいろあるが、例えばじゃんけんで例えるとしよう。
お互いに出す際、まずどんな手にも変更しやすい形にして(なれていない内はグーでいい)、出す時に、相手が出す手を一瞬で判断して、その形を変更する。そして、勝つ。
もっと簡単に言うなら、『大胆に後出ししている』と言うことなのである。
相手が手を出してからこちらが出したのではなく、見た感じは一緒に出しているため、反則とは思われない。だが、スロービデオで見られたら少々遅いことに気付かれるが、そんなものを持ちだすやつはいない。
戦闘では、相手が何かをして、それに対して万全の手を一瞬で判断して実行する必要がある。
これは反射神経ではどうにもならない部分がある。
まず、相手を『見て』、その次に自分がどんなことをすればいいのかを『理解』し、『実行』すると言うことが必要であり、双方が少しでも外れていたらこれは成功しない。
なお、ゼツヤにはできないのかどうか。これができないのだ。
ゼツヤの『先天性集中力過剰症』は圧倒的なまでの演算速度を実現するが、これは高速戦闘においてはあくまで正面の一点だけだ。目の前のそれに対応することは可能だが、その先に踏み込むためには別の思考が必要になる。
遅い戦闘であっても、圧倒的な演算速度から来る『周りが遅く見える』と言う状況と、自らの速度が違いすぎるため、体が追い付かないのだ。
要するに、『見て』『理解』することは可能だが、『実行』ができないのである。
そして、これらのすべてを、レイフォスはすべてクリアしている。
『状況判断能力』が高いとはそう言うレベルではない。何かが起こった時、もうすでに理解しているのである。
これが、『最強』のギルドマスターであり、さらに、全プレイヤーの中でも『最強』の理由である。
その実力の前には、異世界からの侵略だろうと、乱されることはない。
いつしか、レイフォスの目の前には、NPCが転がっていた。
HPはまだ残っている。
「つ……強ェ」
「そりゃそうさ」
レイフォスは満面の笑みを浮かべた。
「腹立つ野郎だ……ん?へ、どうやら、今回はここで終わりのようだ。この侵攻で、多くの情報が手に入ったわけだ。もう今回は満足なんだろうよ」
「今回はこれで終了か。すまないが、名前を聞いてもいいか?」
「……俺はキリュウだ。お前は?」
「レイフォスだ。また会おう」
「ああ、そうしたいぜ。俺は本来、侵攻とかそんなの興味なかったからな。ただ強いやつを戦いたかっただけだ」
「気持ちが分からないわけじゃない。今度は上司連れて来いよ。まとめて相手してやるから」
「最後まで腹立つやつだ。本来の俺は、仲間要らずで、無差別攻撃みたいなことばかりするような奴だから、覚悟しておくんだな」
キリュウは転移エフェクトともに消えていった。
「向こうにも向こうの事情があるってことか」
見渡してみると、アルベシオン・ジャイアントが転移エフェクトで回収されていくところだった。
「お疲れさん」
レイフォスは戻って行った。
まだまだ続きます。この章。




