NWOにおいて集団とは?
そもそも、NWOはVRMMO。もっと簡単に言うなら、ネットゲームである。
ソロと言うものも確かに存在し、それで今まで戦ってきたものもいる。
実際、バスターはほんの1か月前まで、ソロだったのだ。
だが、本来なら、ソロでは倒せないモンスターも存在するし、また、本来ならそうでなければならない。
ソロでどうにかしてしまう。そんなプレイヤーは、本来はいてはならない。
ネットゲームと言うゲームは、パーティーを組む。これが一番の醍醐味である。
現実では、例えば進学したりすれば、少なからず別れが来るが、ゲームであれば、ゲームをやめない限りその関係が途絶えることはない。
では、ソロの圧倒的な戦力を持たないパーティーやギルドは、一体どうやって強者となったのか。
答えは簡単で、『仲間で力を合わせてどうにかする』と言うものだ。
それに必要なのは、リーダーシップであり、また、信頼だ。
NWOにも、そんなギルドはいくつも存在する。
そのうちの2つが『オブシディアン海賊団』と『旋律騎士団』である。
どちらも、ギルド結成からかなりの年月を重ねている古参ギルドである。
どちらも、本来なら最初は戦闘において本格的に乗り出すことを目的としていたわけではなかった。
オブシディアン海賊団は、時として、圧倒的な移動力を誇る『船』を利用して、『黒曜石』を集めること。いわば『何か一つのカテゴリのものを収集するギルド』であり、旋律騎士団は言わずもがな、『演奏で人々を魅了する』ギルドであった。
だが、年月が経てば、それらには限界が生じる。
オブシディアン海賊団は多種多様な質を持つ黒曜石を集めたが、その結果、何らかの名声を得たわけではなく、また、いくらNWOとは言え、一つの種類には限界がある。
モンスターであれば何種類でもいるだろう。だが、一つのカテゴリ、しかも、『黒曜石』と言う縛りは、永遠の航海には届かないものだったのだ。
旋律騎士団は、数々の音楽を演奏し、日々聞きに来る人達の心を掴んだが、演奏一筋では限界があるのだ。曲は確かに、やろうと思えば自分で作れる。何もリアルで発表するわけじゃないのだから、作曲は自由だ。
しかし、『たまには何か他のことがしたい』と思うのは普通のことである。
双方に言えることだが、『全てができる』と言われているNWOで、一つのことに熱中し続けるというのは、それこそ執念と言えるべきものが必要なのである。
初めは一つのことに熱中していた2つのギルドは、NWOの一番の醍醐味である、『戦闘』にも、本格的に乗り出した。
無論。いきなり本格的に戦闘することと言うのは不可能である。
双方ともに準備が必要だったが、それはどうにかなったのだ。
何度も言うが、ネットゲームなのである。
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オブシディアン海賊団も旋律騎士団も、どちらかと言えば集団戦略系であるが、最も違う部分がある。
それは、『リーダーの位置』だ。
旋律騎士団のリーダーであるアーネストは、基本的にメンバー全体の『中央』にいる。
オブシディアン海賊団の船長のテラリアは、まあ分かっているかもしれないが『一番前』だ。
「オブシディアン海賊団って本当に元気だな……」
アーネストは少々ゲンナリしていた。
いや、アーネストの認識には少々誤りがあるのだが、今はそれはいい。
「まあ、それが彼女のやり方の一つでもありますからね」
サブマスターにしてコンサートマスターのリンセンが来た。
「まあ、確かにそうだね」
オブシディアン海賊団は、『やられる前にやれ』と『倒れるまでやれ』が座右の銘なので、基本的な戦術は『突撃』である。
だが、突撃に関するタイミング、そしてその際の人数調節など、細かい部分をいろいろと決めているのだ。
要は、『突撃』にも、いろいろやり方はあるのである。
それに対して、旋律騎士団は基本的には防戦が基本である。
いや、防戦と言うより、『ノーリスク・ワンリターン』を望んでいるといってもいい。
よく言えば『慎重』であり、悪く言えば『緊張が続きやすい』のだが。
「リンセン。どう思う?今回の襲撃」
「マスターが言っていた通りのことを前提とするなら、『NWO以外の世界で起動していたNPCが乗り込んできた』と言ったところでしょうね」
「そうなるよね……」
まあ、そんなことはおそらく全員が考えていることだ。
「そのあたりは後で考えよう。魔法班は『プラズマレーザー』をすぐに撃てるように待機!アタッカーは、今できる最大数のアクションスキルを放ったのち、後退しろ!その後、プラズマレーザーを放て!」
全くその通りになった。
「向こうにも司令官はいるようだが、機能している部分が薄いな……まあ油断する気もないけど」
いざとなったらアーネストが前衛になる。
というか、旋律騎士団において、最も高性能の武器を所持しているのはアーネストなのだから。
「集団戦闘と言うものにおいてかなりの戦力なのは、旋律騎士団とオブシディアン海賊団と言われているみたいだけど……実質はどうなんだろうね……」
集団戦法と言うもの自体、そう多くのジャンルがあるわけではない。
だが、今自らに見えている2つのものは、まるで別ものである。
前線では無謀なまでに突進して暴風雨のように暴れまくる黒い武器を持った一団を見て、アーネストは大きく息を吐いた。
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一方、その暴れている海賊たちはと言うと……。
「オラオラァ!もっとかかってきやがれ!」
もはや女を捨てたと言わんばかりに女性が大絶叫を満面の笑みでしていた。
まあ、それはいつものことなのだが。
だが、こんな暴風雨のような女性だが、アバターは、まあ、胸を除けば抜群なのである。
そう、胸を除けば。
まあそれにはこれ以上振れないことにして(これ以上振れた団員はいるのだが、あまり予測しない方がいい)、彼女たちの戦法は、第三者から見れば、『誰にでもできそう』だが、実際には、かなり綿密な作戦(超攻撃思考)によって展開されているので、いろんな意味で誰にもできない。
「おいコラそこっ!へばってんじゃねえぞ!」
まあ、団員すらこの作戦(突撃)では休むことが出来ず、また、仮にHPを散らしたとしても、また戻ってこなければならないので(ステータスダウンのデスぺナ関係なし)、いろいろ覚悟しなければならないのも事実なのだが。
団員からすれば、テラリアの精神的な体力や超ポジティブ思考など、突っ込みたいところはいろいろあるのだが、テラリアが聞くわけもないし、そもそも聞いてくれるだろうと予測することすらできないので、黙認(多分)している。
「ふう、いつもより少ねえな。張り合いのない連中だぜ」
剣の峰で肩を叩きながら言った。
団員からすればいくらか助かっているのだが。
ちなみに、こんな荒々しい性格だが、年末のデュエルカップではベスト8である。エクストリームメンバーが全員トーナメントにいれば話は別かもしれないが、本人も強いのだ。
あとまあ、根はやさしいと言うか、そう言う一面もあるので、団員たちも、『今回もこのバカのために頑張ってやるか』と言う気持ちになれるのである。
……その気持ちになったことを毎回後悔するのはお約束であるが。
「NPCはこっちに向かってくる気配がねえな。あくまで指揮に徹する気か?上等だぜ。作戦も、戦略も、力でぶっ壊してやる!」
今日もテラリアは叫ぶ。
眠い!




