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ネイバーワールド・オンライン  作者: レルクス
強者たちの交響曲
23/218

疑問と不自然と予測不可能

 NWOでは、モンスターの出現演出は2つある。


 1つは、ポリゴンみたいなものが集まって構成される。これは、何百と言った数の『塵』が集まってできているように見える。フィールドやダンジョンにおける自動生成はこんな感じである。


 もうひとつは、召喚によるもので、魔力と言う名の『光』みたいなものが集まって構成される。ちなみに、経験値でできていても、MPでできていても、光みたいなものだということに変わりはない。


 どんなことがあっても、その2通りだった。


 襲撃イベントであれば、その演出のために遠くで生成され、一気にこちらに進撃してくる演出で出現するが、その際であっても、出現地点では塵が集まって生成されたことに変わりはない。

 だが、


「空間が……裂けた」


 そう、今目の前では、空間が大きく、横に裂けたのだ。

 奥には、大量のモンスターがいる。


「どういうことだ?」

「分からん。新しいタイプのものなのだということは間違いないだろうが……襲撃イベントだったら、遠くから来るものだと思っていたんだが……」


 この演出は15年間変わらなかった。確かに、頻度はやや少なかったが、今変える理由がない。


「とにかく、倒すか。任されているし、失敗した際のデメリットがひどいからな」

「ああ、3回目くらいに失敗したけど、あの時のデメリットは挽回するのが本当に大変だった」


 ちなみに失敗すると、

『失敗した際の街の機能が全て使用不可能』

『その町にホームがあった場合、そのホームにおいてあった全アイテムが使用不可能(失うわけではない)』

『モンスターは日々増加し、一定以上になると近隣の町や村を襲うようになる』


 と言った感じの無限ループになるのだ。あれは流石にもう嫌である。


「ただ……何か少なくないか?シャリオ、見えているだけで何体くらいだ?」

「裂け目の奥にいる中で、見えている数だけ数えると……982体だ。ほぼ1000体。2年前は、ロミュナスの北門からのみだが、最初から12769体いたから、圧倒的な少なさだな」


 最近シャリオの理不尽なポテンシャルが『圧倒的な記憶能力』に思えてくるのは気のせいではないだろう。


「あと、数も少ないんだが、そもそも数を優先するモンスターの集団にしては大きさがかなりあるな。普通ならプレイヤーより少々身長が高いくらいなんだが、普通に3メートルはありそうだ」


 今回から大きくパターンが変わったということなのだろうか。だが、何故?


「理由は分からんが……することも変わらないか。行くぞ」


 全員に異論はない。近接職は飛び出した。


 出てきたモンスターはほぼすべてが同じ種類で統一されていた。襲撃イベントではよくあることである。


 だが……。


「……見たこともないモンスターだな」


 3メートルの巨人型。15年間も続いてきたNWOだが、こんな形のモンスターは初めてである。

 頭はヤギのようなもので、全身の色は真っ黒。体はムキムキである。

 武器にはいろいろとジャンルはあるが、曲刀や棍棒と言ったいかにも『蛮族』と言うにふさわしいものだった。


「まあいいさ。焼いてやるよ『カタストル・ボルケーノ』!」


 シャリオが右手から魔方陣を出現させて、特大の火炎放射を放つ。

 距離はかなりあるのだが、それをものともせず、巨人たちに直撃した。


 HPの減り具合は……かなりのものではあるな。

 だが、『削り切れなかった』と言うのも、また珍しいものである。

 今現在シャリオはエンチャント効果を受けていないので、INTがブーストされている訳でもないし、先ほどの魔法も、『強化魔法』のスキルで強化されていたわけではない。


 だが、シャリオは『INT極振り』の『レベル100』だ。削り切れないと言う状況は、そうそうなかったのである。


 しかも、大規模な襲撃イベントと言うのは、モンスターのステータスは確かに高くなるが、その分HPは低く設定されるのだ。これは当然であり、HPまで多かったら無理ゲーなのである。


「不確定な要素は多いが、とにかく第一陣は殲滅するぞ!」


 レイフォスが叫ぶ。


 ゼツヤも『先天性集中力過剰症』のスイッチを入れる。


 巨人系のモンスターと言うのは、


『物理攻撃力』『物理防御力』がともに高い。

正面からの『攻撃魔法』にも、ある程度耐性はある。

動きは遅く、攻撃そのものは遅いが、当たるとかなりのダメージを受ける。

なお、『魔法』は使用してこないが、『ブレス』を使用するものもいる。


と言う特徴がある。


 今回は大量にいる。しかも、一体一体の体力もかなりある。


 超威力の範囲系を連発するのが一番いいのだが、そう言ったアクションスキルは技後硬直がやや長く、連戦には向かない。


 となると……。


「STR優先で、背後から強烈な一撃を叩きこみ続ける。まあ、巨人系を相手するときのセオリーだな」


 有言実行。というか、他のメンバーは早速している。


 時々後ろに行くモンスターもいるが、それはそれでサーガやシャリオの餌食である。


 無論。後衛たちの魔法によるノックバックでモンスターはなかなか街に進めないし、全員の火力が高いからな。

 あと、時々邪魔にならないように魔法の雨が降って来る。


 エクストリームのメンバーは名前の通り極端なので、うまく戦闘を進めればその分殲滅速度は早い。

 特に、レイフォスとシャリオの2人の殲滅速度は軍を抜いている。

 圧倒的な連続攻撃が可能なレイフォスと、高火力の範囲系魔法が使用可能なシャリオは、こういった戦闘ではかなりチートである。


 だが、モンスターは次々と追加されていく。しかも、出現方法は全てあの裂け目からである。一体あの向こうはどうなっているのか、非常に気になるのだが、それを言っている時間はない。


「数が多いというより、一体一体のポテンシャルが高いな……」


 襲撃イベントと言うのは、HP以外が強化されたモンスターの集団が一気に何の考えもなく突撃してくるのが普通だ。


 だが、この時全員が、何かしらの違和感を感じていた。


 『何かしらの目的を遂行しようとしている』かのような、そんな雰囲気を感じ取れるのだ。


 その時、セルファが叫んだ。


「奴らが狙っているのは町そのものではない!私たちの武器だ!」

「何!?」


 疑問はいろいろある。


 だがまず前提として、理由は不明だがセルファが叫ぶということは、それはほぼ間違いないのだろう。そう考えて話を進める。


 何故武器が必要なのだろうか。そもそも、この巨人たちは、自分の武器を所持している。

 確かに、武器が無くなればこちらの戦力はかなり落ちるだろう。オラシオンシリーズ最高傑作達を使用して今の状況なのだ。少々冷や汗が流れるだろう。


 モンスターたちが装備する。いや、有り得ない。NWOに、『プレイヤーが装備するための武器をモンスターが装備するというシステムそのものが存在しない』のだ。


 たくさんの疑問があるが、とにかく倒さなければならない。


 前衛として前に出ているのは、ゼツヤ。レイフォス。ユフィ。であり、後方に、サーガ。クラリス。シャリオ。セルファは後衛の防御壁だ。


 武器を盗まれるかもしれない状況において、危険なのは無論前衛の3人だが、何も武器を手放すようなことはしない。


「疑問ばっかりだな……そういえば、襲撃イベント時のモンスターと言うのは、あまりプレイヤーにはヘイトがたまらないようになっていた気がする。それなのに、今回のモンスターは、プレイヤーに対して嫌なほど好戦的だな……」


 ヘイトと言うのは、簡単に言えば『プレイヤーに対しての攻撃優先順位を決定するための数値』なのだ。これが多いプレイヤーは良く攻撃対象になる。


 襲撃イベントにおけるモンスターの主とした役目は町にはいることなのだから、確かにヘイトは普通なら貯まりにくいはずである。まあ無論。あまりにもしつこいとさすがにヘイトもたまるのでこちらに向かってくるが……。


「シャリオ!あと何体だ!」


 レイフォスが叫んだ。


「今現在見えている数は728体。10秒ごとに20体の間隔で増えている!」


 相変わらずの眼である。


 しかし、10秒ごとに20体か……。


 仕方がない。前衛を増やすか。


 懐から直方体のカプセルのようなものを取り出す。

 それを砕くと、中から金色の液体が出てきた。


「『コール ゴディアス』!」


 液体が集まると、転移エフェクトが出現し、そこからゴディアスが来た。


「ゴディアス!あらかじめ言っておいた通りに行動しろ」


 言っておいたことは簡単。『殲滅』である。


「御意」


 ゴディアスは、盾と鞘が同化している物から剣を抜き放ち、巨人たちを切り刻んで行く。


 まだ『マスターコールブレス』のデメリット適用中なので、ゴディアスだけしかコールできないが(先ほどの消費アイテム自体。作るの面倒だけどな)、それでも、この戦力にゴディアスが加わるのは非常にありがたい。


 結局。第一陣。シャリオによると討伐数は5342体だったらしいが、それでもかなりの時間を使った。


「さすがにつかれるな」

「疲れるというより、疑問しかない」

「そうだね。しかも、モンスター自体見たことないものだったし」

「新しいモンスターが実装される場合は公式ホームページに乗るからな……」

「ま、大暴れできたから俺はいいけどな」

「魔法だと大暴れとは言わないんじゃないか?」

「サーガ……」


 シャリオとサーガは平常運転のようだ。ある意味すごい。

 ちなみにその間、レイフォスはフレンドチャットで各ギルドマスターたちと一斉に通信していた。


「どうだ?」

「出てきたモンスターはどこも同じだ。全ての場所において、違うモンスターは一体も出なかったらしい」

「死に戻りしたプレイヤーはいるのか?」

「ブリュゲールが60人ほど。だそうだ。他はいない」


 予想未満だった。誤字ではない。


「モンスターの強さもほぼ変わらないか」

「ほぼ、と言うより、話を聞く限り全く変わらないな。いや、若干の誤差はあるんだが」

「そうか」


 何か不自然だ。今までとは大きく違う。


「あと……」

「あと?」

「ブリュゲールが所持していた、8本の『オラシオンシリーズ』が奪われたらしい」

「殲滅したのに奪われたままってことは……裂け目に帰って行ったモンスターがいるってことか……」


 しかし、これはまた面倒なことになったな。


 いや、どうつながるのかは全く分からないのだが。


「とにかく、今回のイベントは不自然な点が多いが、武器の強奪に関しては特に注意だな。まあ、俺らではありえないと思うが……」


 そもそもだが、ファンブル(武器落とし)が発生するのは、腕の部位に強烈な打撃属性の武器が叩き込まれた場合がほとんどだ。他にもパターンはあるのだが、それは今は置いておく。


 一体どうなるのか。この時はまだ誰にも分からなかった。


 ……ブリュゲールは今どうなっているんだろうな……と、ふと頭によぎったゼツヤだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その頃、ブリュゲールたちが担当している、南東エリアでは……。


「マスター。申し訳ございません」

「オラシオンシリーズが奪われただと?絶対に取り返せ。あれがなければ、ブリュゲールの危機に陥るのだからな」


 ヘリオスは基本的に自己中心的で何も考えないときが多く、さらに独占欲が強いのだが、レベル制で、さらにキャリアのこともあって、圧倒的なアイテムがなければどうにもならない状況なのだということくらいは分かっている。

 いや、これはソレイユに言われるまでは気づかなかったのだが……。


「しかも……8本か」


 もともと所有していた数は14本。残りは6本ある。そのうち1本はヘリオス自らが所持しており、3本は3幹部がそれぞれ所持している。なお、ソレイユが抜けた際、オラシオンシリーズはギルドの返却させている。

 現在自由に動かせるのは2本。だが現状では、動かすのは得策ではないだろう。


 圧倒的な戦力を少数作るより、小さくても、最低限度の強さを圧倒的な数用意する方がやりやすい。


 無論。それはヘリオスのリアルが金持ちと言うのもあるのだが。


 ランク7までのマジックスクロールなら大量に集めることが可能だが、MPポーションにおけるものと合わせて、2つのクーリングタイムを突破できるわけではない。


 織田信長に習うとしよう……というか、それ以外はブリュゲールの存続に危険である。


 とはいっても、今までも狩場では大体そうだったことは考えないのがヘリオスの価値観である。


 頭を抱えるヘリオスである。


 NWOは、リアルマネーで『どうにかする』ことは可能だが、『どうにかなる』のではない。それを理解していないヘリオスなので、頭を抱える日は多くなるだろう。


 無論。誰かが助けてくれると言うわけでもないが。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 いろんな場所でいろんな疑問が飛び交うが、全ては待ってはくれない。


 運命の歯車は、誰もがひとつずつ、確実にはめ込んでいる。


 どんな運命を動かすきっかけになるのかは、すべて、本人たち次第だ。


 運命は決まってはいない。

ただ、いくつもあるものから、無意識に、無責任に、偶然選んでいるに過ぎないのだ。


 確かなことは一つ。

 あと数個の歯車で、数百の塊の『マップ』が動き出すのは、避けられない。


 何と言いますか……。評価人数が少ないので、おおよそですが1人がどんな評価ポイントを出したのか一発で分かってしまうのですね……。頑張ります。

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