バカなことを考える奴はすごいが、バカなことが出来る奴はもっとすごい
「うーわ……なんだこれ」
ゼツヤは草原……いや、元草原で、今は市場になっている場所に来た。
「すごいことになってるね」
ミズハもきょろきょろと見渡しながらそうつぶやいた。
「ヒトとモノが集まれば、こう言ったものは自然とできるわけだが、明らかにスピードがおかしいな」
サターナも愕然としている。
「既に市場としてもすごい規模ですね」
チアキも唖然とした雰囲気だが、まだ冷静と言えば冷静だった。
「ダムア君って、こういうのって得意なの?」
「基盤さえあれば、後は勝手に出来上がるものだからな。ダムアはそう言った部分は良く知っているんだ。プレハブ構造の建物の設計図くらいなら頭に叩きこんでいるような奴だし、とにかく、『何もないところに何かを作る』のはすごく速い」
人脈と資金と情報。
これらがそろったダムアの『開始速度』は尋常ではないのだ。
ついでに言えば、『安定期間』と『規模拡大』のバランスもいい。
いずれにせよ。最低限のモラルがあるだけなのだ。
ゲームの中なのでそれも当然だが。
「もうすでに百人近いプレイヤーがこの市場にいるね」
「ただ……この広場もモンスター出現エリアだからな。空気読まない『例外的な』プログラムでたまに出てきたりするが……」
「飛んで火にいる夏の虫。だね」
モンスターは出て来るが、それだけだ。
「お、お前たち来たのか」
ダムアが来た。
「ダムア。よくこんなもん作ったな」
「人がたくさんいるからな。こういうところはあった方がいい。とは言え、若干おいついていない部分があるがな……」
「人が多く必要になるからな……」
ダムアは昔、初期投資を多くし過ぎて、結果的にあとあと自分で回しきれなくなって破綻することがよくあった。
計画性がないとも言うが……。
ちょっと何かが集まったら変に貯金が出来たと思うんだよな。
分かりやすく言いかえると、夏休みの課題を、最初の一週間くらいで多少やっておいて、それで大丈夫だと思って夏休みのほとんどを自堕落にすごして、最終日に後悔するタイプだ。
変に貯金を作ったと勘違いするからなかなかやりださないのだ。
ゼツヤにも言えることだが。
「ダムア。コインは集まったのか?」
「いや、あんまり」
「え、そうなの?」
特に不思議そうに即答するダムアに対して、ミズハは驚いた。
「初日だし、モンスターを倒さないと手に入らないものだからな。どこかにいる『ドローンを飛ばしてるバカ』とは違って、こっちはシステムの構築の忙しかったんだ。形になったのも本当についさっきだし」
「なるほど、ていうか、さらっと貶してるよな」
「なんのことだか。で、ゼツヤ、コイン持ってるならこの市場にばらまけ。ぶっちゃけあんまりいらんだろ。お前」
「まあな」
ゼツヤは、アイテムに関していえば、そこまで外部供給に頼らない。
自分で、そのアイテムを複製し、増やす手段を作る。
コインで手に入るアイテムは、一種類につき数個あれば、それで足りるのだ。
変な話だが、それがいつも通りなのだから仕方がない。
仕方がないということにさせてくれ。
「ま、適当にいろいろかいますか」
「あ。ゼツヤ、この市場でのルールだが、レイクで支払うことはできないから、注意しろよ」
「……『コズミック・コイン』の専用市場か……」
「でも、反対意見も出て来るんじゃないの?」
「用心棒もいるからな」
用心棒ねぇ。
「まあいずれにしても、反対するつもりはないさ。この市場は、情報の交換速度も早いだろうし、目を付けられると商売どころの問題じゃないからな……」
ダムアは「分かっているじゃないか」といって笑顔になる。
ゼツヤは溜息を吐いた。
期間限定の市場。
その程度のものなら、ダムアの手の平の上なのである。




