サバイバルが行われるようだ。
「サバイバルが行われるのか……」
竜一は学校で、NWOのページを見ながら言った。
こんな内容だ。
七日間、俺達はとある島に行ってモンスターを倒したり、アイテムを集めたりする。
まあ、参加するだけでも意味があるシステムも用意されているが。
「竜一。この……『コズミック・コイン』というのは何だ?」
道也は、サバイバルに参加する際のその要素を見ていた。
「通常、モンスターを倒した際に貰えるのは『レイク』だが、それと同時に『コズミック・コイン』が出て来る。と言うわけだ」
「意味があるのか?別枠でそんなものを作って」
「サバイバルが終わった後に、NPCに渡せば換金してくれるし、アイテムになることもあるが、それはそれとしても、いろいろ意味はある」
通常のレイクが出てこないのであればなおさら意味が強いのだが、実験も兼ねているのか、そこまでの暴挙には至っていない。
ただ、分かっていないものは多いだろう。
「こう言ったものの場合、上下関係が構築されやすいんだよな……」
「どういうことだ?」
デュリオが話に入って来た。
NWO研究会としていろいろ知りたいこともあるのだろう。
「簡単に言うと、転送先ってランダムだろ?ギルドと化パーティーならそれらでひとくくりにして飛ばされるが、ほとんどの場合はランダムだ。結果として、一つのエリアにおけるプレイヤーのレベルにばらつきが出る」
通常、ゲームと言うのはレベルに寄ってその活動可能なエリアが異なる。
エッセンススキルを持っているものを始め、ゲームが上手いものはあまり失敗しないので、それ相応にレベルを稼いでいるが、他のプレイヤーはHPを散らして、結果的にレベルが下がっていることもある。
実のところ、古参でもレベルが100ではないものはそれなりに多くいるのだ。ゲームと言うのはそう言うものである。
サバイバルという名目で行われる以上、一人で行動することも不可能ではないが、だからと言って本当に一人ですべてを解決できるわけではない。
結果的に、人とつながりが構築される場合があるのだ。まあ、社会勉強の一環でもある。
「いずれにしても、お前に何か要請が来るのは確実か」
「だろうな。リオもそうだと思うぞ。サバイバル中は課金不可能だし」
NWOは課金アイテムも充実している――ただし最強にはなれない。させてたまるか――が、それが猛威を振るうのは普段の話。
プレイヤーが開催するイベントであれば回避はできないが、公式イベントで廃課金プレイヤーが優勝するなど、他の人からすれば全く面白くないので、そういったイベント中は課金が不可能になる。
ちなみに、参加しているかどうかは関係ない。イベント中は全て課金できない。
「こう言った『一時的な通貨』っていうのは出て来るものなのか?」
「出て来るぞ。理由としては『誰もが等しく持っていない』からな」
本体のゼツヤでも作れないものが出て来るのだ。一体どんな奴からデータをもらっているのやら。
まあそれはそれとして、そう言うものがある以上、『誰もが等しく交渉材料を持っている』ということになる。
「ダムアが書き集める可能性もあるだろうな」
「アイツ。そう言うことになると本気出すからな……ほぼ全てが回収されても不思議じゃないぞ」
「あと、襲われる可能性もあるな」
デュリオの言い分に顔をしかめる。
確かに、襲われる可能性もある。
実はプレイヤーがHPを散らした場合、持っていたコインの半分が地面に落ちるのだ。
これがどういうことなのか。
コインを保管する金庫のようなものを持っている集団はある程度安心できるだろうが、それはなかなか面倒なものだ。
そう言った金貨のようなものは、フィールドに存在していても所有者データが継続する。
「そう言えば、NWOの店に、コインを保管するための専用の金庫が売られていたな」
「何レイク?」
「コインの保管量は一万枚で、十万レイクだったな」
「はぁ……」
「竜一、作れるのか?」
「コインは作れないけど金庫は作れるぞ」
「「作れるんかい……」」
二人が呆れるが、そういうものだ。
「まあいい。いずれにせよ、準備期間はそれなりにあるからな。思考加速が行われるから、傍からすれば一瞬だが、それでもいろいろやっておくことはある」
「竜一はどう思うんだ?準備に関して」
そうだな。
「必要な供給を間に合わせることだ。空腹ゲージの話もあるから、それなりにそう言ったアイテムはとるべきで、あとは除外すべき部分は容赦なく削って、必要なものを集める環境を作ることを優先する。だが、システムを確立させてはいけないということも重要になる。ただ、狙われることもあるだろうから、薬草関係のアイテムの供給も、植木鉢にするくらいがちょうどいいだろう。俺はプランターを持って行くけど」
素材が実る植物は多数存在する。
それらを持って行けば、いざという時にそれらを売ってコインを手に入れることもできる。
持って行く物は生産道具が基本だが、アタッシュケースにしまえる程度のもので、普通のプレイヤーの生産工房以上のものになるのだ。周りからすれば意味不明だが、ゼツヤと言うのはそう言うものである。
「ただ、こういうときって下手な低レベルプレイヤーが高レベルプレイヤーに洗脳されて行く物なんだよなぁ」
「交渉とか面倒ではないのか?」
デュリオ。それは甘いよ。
「交渉なんて簡単だ。悪いことであろうとなかろうと、一度踏み込んで悩み始めたところに正当化する戯言を吹き込むだけで、人はそれを正しいことだと思い始める。こればかりは防衛本能だからどうにもできん」
「そういうものか?」
「『略奪』といえば聞こえは悪いが、『回収』といえば悪い言葉にはならない。『自分のもののはずだから、勝手に持って行っても問題はない』って思うんだ。残念だが、人間はそういう生き物だ」
ゲームだから、と言うこともあるだろう。
何を禁止するかは運営が決めることだが、それらの部分は全て自分たちに決定権がある。
それは間違っていないが、空気を読まないバカはどこにでもいるのだ。
「研究会としては、いろいろと気を付けておくことも多いからな……」
「最低限の安定を求めるのであれば、『決定権』を確立させることだ」
「決定権?」
「この人が決めた意見を優先的に採用する。という権限がだれにあるのかを明確にするってことだ。ただ、サバイバルを一度脱落するともうそのプレイヤーと連絡をとれる可能性は0になるから、しぶとい奴を選択する必要があるけどな」
デュリオがこめかみを抑えて唸っている。
「短期的に状態が変わり続けることになるだろうから、それに対応できる人材を選ぶことだ」
長期的に見る必要はない。
短期的に発生する細かいものを読み取る才能を持つものに任せるべきだ。
選んでほしいというのなら選んでもいいが……。
「それもそうか」
「ただ、どちらにせよ。『継続的な供給』がなければ何もできない。『どこか』にするというのではなく、『どこでも』ということを優先して考えろ。ただ、絶対に変わらないことは、期間は一週間、言い直せば168時間しか存在しないということだ。それ以上遅くなることもなければ、早くなることもない」
「わかった。仮設供給システムを作ることを優先しよう」
「それは次善策だ。最善策は『現地で作れる移動供給システム』だということを覚えておけ」
「そういうものか。それにしても、詳しいな」
「基本だ」
多分。
デュリオは会議のためだろう。研究会の部屋に行った。
「……とはいえ、どのみちそういうシステムを作ろうとするのはどこでも同じだからなぁ」
塵も積もれば山となる。
確か、春馬のお気に入りの諺ベスト2だ。
なぜなら、いろいろ言い換えたり付け足したりすればいろいろな表現ができるからである。
ついでに言うと3位は『火のないところに煙は立たない』1位は『地獄の沙汰も金次第』である。
雪も積もれば山になる。
という言葉に変換すれば、時期によってたまっていくが、時期によっては減り続けるだけという意味になる。
爆薬も積もれば山になる。
という言葉に変換すれば、つもりはするが、何か事故が起こったとき、努力していればしているほど悲劇が訪れることになる。という意味になる。
「面倒なことになったな」
今回の場合は『塵も積もれば山になる。ならば他人が作った山を奪えばいい』という感じになるのだ。
まあこればかりは、経験しなければわからないものである。




