ゲームならではの実際に効果が出るおみくじというタチの悪い金稼ぎ
大晦日。
……の夜。
もうそろそろ新年だなぁ。と思いながら、家族で自分で作ったそばを食べていた竜一だが、春馬から電話がきた。
あ、お互いに連絡先は好感しておいた。リアルでも連絡取れないとなんか不便なので。
「どうした。こんな年の終わりに」
『竜一。おみくじ作ってくれ』
「……は?」
何言ってんだこのタコ。
『だから、おみくじだよ』
「なぜおみくじ?」
『お正月だからな。神社を作ってほしい。建てる場所は確保してるから、神社とおみくじ作ってくれ』
「え、神社も作るの?」
『当たり前だろ。神社がないのにおみくじだけあったら変だろ』
「いやまあ……」
さて、俺と春馬。どっちはおかしいのだろうか。
……両方だな。間違いない。
「竜ちゃん。どうしたの?」
母さんが聞いてくるので、適当に答えておくか。
「いや、なんか春馬からNWOで土地確保してるから神社とおみくじ作ってくれって」
「NWO、神社あるぞ」
父さんから情報ゲット。
「春馬。NWOの中には神社があるみたいなんだが……」
『何言ってんだ。ご利益のない神社に意味なんてないだろ。創造神が作るおみくじだから意味があるんだ』
「お前、おみくじに何らかの付与をしろってのか?」
『できるだろ』
「できるけど……」
オラシオンがあるから無限複製できるしな。
『あ、竜一のセンスに任せるからな。神社とおみくじ』
「おい!……あ、切りやがった」
次の瞬間にメールが来た。
NWO内の座標データだ。ここに作れと……。
「竜一。まあ、がんばれ」
父親である薫から温かい目で見られる竜一だが、何か納得できないものがある。
「ついでにお守りとかいろいろ作っておくか……」
竜一は今年最後のNWOの仕事ということで重い腰を上げた。
★
「おお!ここがゼツヤ君が作った神社だね」
桜が咲いている(冬です。季節を超越してる)広い土地に大きな神社があった。
素朴な雰囲気が漂うものである。
あと、新築のはずなのになぜか歴史が感じられる。
ミズハが新年早々にはしゃいでいるが……。
「ミズハ。元旦からNWOしてて大丈夫なのか?スケジュール的に」
「大丈夫。ていうか、いま私のリアルの体は現場に向かう車の中だからね」
「あまり時間内感じか……」
「大体四十分くらいだね。というわけで、さっそく引こうよ」
行ってみることにする。
ゼツヤが作ったからなのか、そこそこ客は多い。
春馬も、そんな何万人も来るような規模は想定していないようだが、一応、それなりの付与はあるし、そもそもの話だが、購入可能なオラシオン製のアイテムはオークションでしか普段は流通しないので、それ相応に人気はあるのだろう。
とはいっても、お守りの買い占めはされるとうれしくないので個数制限を設けているが。
「おみくじは一回300レイクだね」
「リアルだと200円くらいだろ?こっちだとこんなもんだ」
さっそく買ってみた。
ゼツヤでもランダムだ。当然だが。
あと、何がどうなっているのかもあまりよくわかっていない。
ランダム設定のシステムがおみくじ箱そのものに設定されているのだ。
「あ、末吉だ。いいのやら悪いのやら……」
「『凶』じゃなかったら大丈夫だろ。状態以上のデメリットが付与されるけどな」
「解除できるの?」
「もちろんだ。あれ」
指差した先には手洗い場がある。
「あれで手を洗えばいいってこと?」
「そうだ」
「ふーん……ゼツヤ君は?」
開いてみる。
『狂』
漢字が違う。
ていうか、こんな物入れたっけ?
「なんだったの?」
「『狂』だ」
「あ、『凶』だったんだね」
「違う。『狂』だ」
「え?……『凶』なんだよね」
ゼツヤはらちが明かないとばかりに見せた。
ミズハは何も言えなくなった。
「……『狂』だね」
「ああ。俺、こんなの入れた記憶ないけど……作った後で誰かがいじったか?」
「ゼツヤ君が作ったものを誰かがいじれるの?」
「一応、ある程度の設定権限をダムアに与えたからな。ある程度は可能だぞ」
「……ゼツヤ君。なんかすごく運悪いね」
「個人的には別に普通だと思うんだが」
まあ、いいけど。
「何の話をしているんだ?」
声をかけられたので見るとリオがいた。
「なんかすごく忙しい時期に忙しそうなやつを発見した気分だ……」
「否定はしないが、時間を作るのは得意だからな。神社を作ったといっていたから来てみただけだ」
「おみくじ買った?」
「人の運勢が気になるタイプだったか?君」
「別にいいだろ」
「確かに、別にいいね」
リオはおみくじを買いに行った。
で、戻ってきた。
「なんだったの?」
リオは見せてくる。
『大吉に決まってるだろ』
「「……」」
「ダムアだな。何をしたんだろう」
ゼツヤは謎の風評被害が来るのではないかと思いながらも、とりあえずスルーしておくことにした。
ミズハもとりあえずおいておくことにするようだ。
「それにしても、一日でこの神社を作ったの?」
「いや、十五分くらいだ」
「それにしてはクオリティがすごいな。ただ……狛犬がチワワなんだが、何か理由でも?」
「戌年だからな」
自分で言っておいてなんだがたぶん関係はない。
「そういえば、神社だけど……何を祀っているの?」
「ん?俺の像を適当に作っておいた」
「見に行こう!」
「おいっ、ちょ、待て!」
神社の裏側に回り込んで、裏口から侵入するミズハ。
しまった。撃退システムを作っておくのを忘れていた。
どうせ正月を超えたら放置されるだろうからって完全に甘く見ていた。
「……うん。ゼツヤ君そっくりだね」
「だって自分だもんな」
ゼツヤの像。という感じだ。本当に。
「なんで自分?」
「いや、職業が『創造神』だからな」
「そういえば職業的に言えば神様だったね。ゼツヤ君」
だからどうしたといいたくなるが。
戻ってきた。
「ん?ゼツヤか」
「お。サターナ。あけおめことよろ」
相変わらず病的に白い肌をしたサターナがいた。
鎖っぽいアクセサリーもいつも通りである。
「ああ。で、なんで神社なんて作ったんだ?初めてだろ」
「ダムアが作ってくれっていうからな。十五分で作った」
「それは……建築っていうより模様替えのレベルだと思うがな。で、おみくじ作ったのか」
「ああ。一応お守りとかも作ったが、効果が一番高いものが出る確率がおみくじにはあるからな」
「ふむ……」
サターナも買いに行った。
で、戻ってきた。
「なんだったの?」
「『基地』」
「え、『吉』?」
「違う。『基地』だ」
見せてきた。
「……運勢が『基地』ってどういうことなんだろ」
「自分の家に何らかのご利益があるとか?」
「たぶんそんな感じなのか?まあ、別になにか悪いことがあるわけでもないしな。で、なんで狛犬がチワワなんだ?」
「戌年だろ?」
「たぶん関係はないと思うがな……というかあまり思い入れとかないと思うけどな。作者って寅年だろ?」
「新年早々メタいことを言うな。で、サターナはどうしてここに?」
「お前が珍しく神社を作っていると聞いたからな」
「ていうかお前、チアキは?付き合ってるんだろ?」
「チアキはお前の彼女ほど時間を作るのがうまくはない」
だから出番がなくなるのである。
「で、神社を言い出したのはダムアか」
「ああ」
「ふむ……ん?あの鐘。鳴らすと何かあるのか?」
「あるぞ」
「……あのお賽銭箱は?」
「入れる金額は自由だ」
「ふむ……その入れたお金はどうするんだ?」
「一応土地代ということでダムアの財布に転送されます」
「「「なんて罰当たりな……」」」
三人から突っ込まれてしまった。
「なんていうか、こんな空気で新年が始まるんだな」
「まあそんなもんだ。正月って言われてもな……俺、今年はおせちなんて最低限しか食べてないぞ。お重箱がなかったから即席で作ったし」
買えよ。と突っ込まれそうだが、お重箱程度、ゼツヤの生産力をもってすればリアルでも作れる。
なぜ材料があったのかって?三年前の残りだ。
「私は収録でそれなりに食べる予定だよ」
「俺も最低限だな」
「僕はまず食べる時間がね……この時期はいろいろとイベントが多いから」
さいで。
「まあ、新年もよろしく」
「そうだな。何があるのかは知らんが」
それは……俺も知らん。




